「緊急事態宣言」が、Amazon Prime Videoで独占配信中だ。本作は、世界中で新型コロナウイルス感染症が猛威を振るう中、感染拡大防止を徹底した状況で撮影・制作されたオムニバス映画。中野量太、園子温、三木聡、真利子哲也のほか、ムロツヨシ、真鍋大度、上田誠によるユニット・非同期テック部が参加し、「緊急事態」をテーマにそれぞれが映画を撮り下ろした。
映画ナタリーでは、5編の中の1本「ボトルメール」でメガホンを取った三木とキャストの夏帆にインタビューを実施。初タッグを組んだ手応えや、コロナ禍での映画制作、今この作品を撮ったことの意義について語ってもらった。
2020年4月7日、政府によって緊急事態宣言が発出された日。いったい2人は何を思っていたのだろうか。
取材・文 / 金子恭未子 撮影 / 谷俊政
ヘアメイク / 石川奈緒記 スタイリング / NAOMI SHIMIZU
自由な発想で紡いだそれぞれの“緊急事態”
- 「デリバリー2020」
-
監督:中野量太
出演:渡辺真起子、岸井ゆきの、青木柚自粛生活が続く中、離ればなれに暮らす家族が、娘の誕生日を祝うためにオンラインで集合。画面越しに食卓を囲む母、娘、そして息子。父は予定通り19時に帰宅するというが……。
- 中野量太 コメント
-
コロナ禍の制限された条件の中で、いったい何を撮れるのか? 考え抜いた僕の結論は、やっぱり家族でした。
今、日本中のどの家族にも起こり得る食卓の話です。でもきっと、今まで誰も観たことが無い食卓の物語です。
- 「孤独な19時」
-
監督:園子温
出演:斎藤工、田口主将、中條サエ子、関幸治、輝有子ほか新型コロナウイルス収束後に生まれたさらなる狂暴なウイルスにより、自粛生活が続く日本。ある日、生まれてから一度も外に出たことのない音巳は、奇妙な音が気になり、初めて家の外へ足を踏み出す。
- 斎藤工 コメント
-
この混沌とした時代を生き抜く先に光はあるのだろうか。列島が未曾有の疫病や災害に苦しむ中、暗闇にもがく中、映画に出来る事は何なのだろうか。その一つの答えを園子温監督は本作により出してくれたと思っています。この作品を届けたい人、届けたかった人に届く事を心から願います。
- 「DEEPMURO」
-
監督:非同期テック部(ムロツヨシ、真鍋大度、上田誠)
出演:ムロツヨシ、柴咲コウ、きたろう、阿佐ヶ谷姉妹ほか念願だった柴咲コウとの恋愛ドラマの撮影に挑むムロツヨシ。しかし、ムロの様子がいつもとは違い……。
- ムロツヨシ コメント
-
こういう事態だからこそ、何かできることはないかと真鍋(大度)さんと相談し、物語を作れる上田(誠)さんにもお声を掛けて非同期テック部は誕生しました。「緊急事態宣言」に参加するにあたって、柴咲コウさんに半ば冗談でオファーをしたら受けていただけたんです! 部活じゃなくなった瞬間です。ちゃんとした映像作品としてご覧いただけることをうれしく思っています。
- 「ボトルメール」
-
監督:三木聡
出演:夏帆、ふせえり、松浦祐也、長野克弘、麻生久美子ほか新型コロナウイルス第2波が来る少し前。不倫で仕事を干された女優・鈴音のもとに謎のメールが届く。その指示に従い新作映画の主演オーディションを受けた鈴音は、見事合格。監督からリモートで演技指導を受けることになる。
- ふせえり コメント
-
この「ボトルメール」は、三木作品の中でも特にぶっ飛んだ内容なので、真面目に観ないで頂きたい。制限のある中で作品を作るのは大変だが、バカパワーは出る。出演してる私も、バカパワーで演じた。
- 「MAYDAY」
-
監督:真利子哲也
出演:各国の人々、岩瀬亮、内田慈2020年5月。新型コロナウイルスの影響により、世界中で自粛生活が続いていた。北米、アジア、アフリカ、ヨーロッパ……風景は違っていても、地球はつながっている。日本時間の19時ちょうど、世界はそれぞれの表情で過ごしていた。
- 真利子哲也 コメント
-
緊急事態宣言中に完全リモート撮影の依頼を受けて、エジソンとリュミエールを見直して映画のはじまりから考えました。それから世界中の友人たちに声をかけて、コロナ禍にある2020年5月のビデオレターをもらったら、いろんな思いが浮かび上がってきました。それぞれは些細なことかもしれないけど、それがひとつに繋ぎ合わさった「MAYDAY」には、はじめて映画をみた人たちが味わったような驚きと発見があるように思います。
オープニングテーマは石野卓球が書き下ろした
「Emergency Frequency」
「ボトルメール」
監督三木聡×キャスト夏帆
インタビュー
インタビュー
時代の節目に立ち会っているという感覚(夏帆)
──本作のテーマは「緊急事態」です。2020年4月7日に、新型コロナウイルス感染拡大防止のために政府が緊急事態宣言を発出しました。
三木聡 当時、みんなが避難しなければいけないという設定の映画を撮影していたんですよ。まさに政府が緊急事態宣言を出すような世界観の映画です。なんでこのタイミングでこういうことになるんだろう?と思っていましたね。
夏帆 映画と現実がリンクしたってことですよね。
三木 嫌なリンクの仕方だよね(笑)。3月の末に撮影がストップして、まだ再開していないんです。厄介なことになったなと。
夏帆 私は、ちょうど長いお休みをいただいていて、お仕事をしていなかったんです。3月に入って、世界各国でロックダウンしているというニュースを目にして、日本はどうなるんだろうな?と思っていたら緊急事態宣言が出されて。でも、自粛ってなんだろう?って疑問に思っていました。
三木 そうだよね。
夏帆 「強制的に出ちゃいけません」ということではなく、自粛ってすごくあいまい。初めてのことなので、何が起こっているんだろう?という戸惑いもありました。コロナ前とコロナ後で、何かが大きく変わるような気がしていて、時代の節目に立ち会っているという感覚がありましたね。
三木 おっさん世代だと、昭和天皇の崩御を経験しているんですよ。その当時は自粛ムードで、普段は明るい六本木も真っ暗になっていた。もちろん今の状況とは違うけれど、当時を追体験している感覚はちょっとありました。夏帆さんは若いから知らないと思うけど。
夏帆 生まれる前ですね。
三木 テレビの生放送の現場をバリバリやっている頃だったんで、急遽次の日の放送の内容を変更したり、いろいろありましたね。時代の節目には、人間の目線が大きく変わる。だからどういうふうにメディアが変わっていくのか。変わり目は面白くもあるんですよ。
危機感は一切ない(三木)
──映画やドラマ制作は人との接触が必要になります。今まで通り作品を作るのが難しい状況ですが、危機感は抱きましたか?
三木 率直に言うと……一切ないですね(笑)。俺がやりたいことが変わるわけでもないし、何が起こっても人間は意外とたくましいから、それぞれのところで適合して進んでいくと思うんです。逆に「演劇ができない、映画ができない、大変だ! 大変だ!」と大げさに言うこと、不安を煽ることに対して疑問を持っていますね。日頃から体制的なところで活動をしている方々は別ですが、今までアナーキーなところでやっていた人間が、困ったからって、政府に金くれって言い出すのも果たしてどうなのよ?って。
夏帆 私もお休みをいただいていて現場から離れていたからか、あまり危機感は感じなかったですね。今回の作品もそうですが、今までとはまた違った目線、違った体制で何かを作れたらいいなと思っていました。今だからできること、役者として訴えられるものが必ずあると思うんです。
三木 例えば昔の映画には携帯は出てこないじゃないですか。それを観ていると不思議な感じがする。ちょっと前の映画やドラマを観ていてもみんなマスクをしていない。あれに対して違和感を感じるようになっている。それも面白いんですよね。
夏帆 時代によって、作品の中で描くものが変わっていきますよね。
三木 映画は普遍的なものと言う人もいますけど、目の前で起こっていることに対して反応する部分がどうしてもある。2020年の夏帆さんが演じているものしかカメラには映らない。CGやアニメーションじゃないから、そこになんらかの現実が投影されて然るべきだと思うし、夏帆さんの中にあるものが前に出てきて当然なんですよ。でもありのままの自分が映ることに抵抗する人もいる。監督が女優さんを追い詰めて泣かすというアプローチがあるけれど、それって現実に乗っかっている何か不純なものをひっぺがそうとする作業だと思うんです。園さんがどう追い詰めているか知らないけどね(笑)。
夏帆 あははははは(笑)。
──夏帆さんが「ボトルメール」で演じているのは、不倫で仕事を干された女優の鈴音です。謎のメールを受け取った鈴音が、その指示に従って受けた映画のオーディションに合格し、リモートで演技指導を受けることになります。監督が夏帆さんをキャスティングした理由が「追い詰めてもいいランキング1位か、2位だったから」と伺いました。
三木 失礼だよね(笑)。
夏帆 光栄ですよ! よく追い詰められていますもん(笑)。
──どのように現場で夏帆さんを追い詰めたんでしょうか?
三木 次から次へとカットを撮っていくんです。
夏帆 楽しかったですけどね。
三木 (驚きながら)楽しかった? 本当ですか!?(笑)
夏帆 楽しかったですよ。半年ぶりぐらいの現場だったので、ふわふわしていましたけど。本来なら「ボトルメール」を撮っていた期間は、旅行に行こうと思っていたんです。でもコロナでダメになってしまって。声を掛けていただけてよかったです。
三木 休み明けの現場がいきなり三木組ってまあまあ役者さんにとってはきついですよ(笑)。
夏帆 特に1日目は1人だったので「いやー、難しいなあ」と思って。三木さんが書く台本ってすごく面白いんですよ。この本を壊しちゃいけないなっていう気持ちが大きかったですね。だから、セリフをどう言ったらちゃんと面白さが表現できるんだろう?って、ずっと自分の中で悩んでいました。
三木 でも大したもんだなって思ったよ。きちんとそれを考えたうえで現場に来てくれているのが伝わってくるんです。手ぶらで来てないなって。俺がこういうことを望んでいるかもしれないっていうことを、ちゃんと準備して来てくれたんで、びっくりしました。
夏帆 ニュアンスとかトーン、テンポでお芝居の面白さがかなり変わるじゃないですか。だから現場に入る前に三木さんの作品をずっと観ていましたね。
三木 本当によくやってくれたなって。役者は本の読解力をすごく求められるんですよ。どういうふうに読んでくれるか。変な話、そういうところにお金を払っているところもあるんです(笑)。
夏帆 お金もらってますからね(笑)。
三木 お金もらってこれかよ?みたいなこともあるわけですよ(笑)。でも夏帆さんの場合は、いろんなことを考えてきたうえで、カメラの前で答えを出してくれているのが撮っていてわかった。
次のページ »
役者同士の感覚でわかるもの(夏帆)