中国ドラマ「祈今朝<ききんちょう>~失われた記憶、共鳴する愛~」の魅力を解剖!シュー・カイとユー・シューシンが愛される理由は?ファンタジー時代劇とニチアサは親和性が高い?ライターがトーク (2/2)

シュー・カイはかわいい少年も成熟した大人も表現できる(小酒)

──恋愛描写がかなり盛り上がる本作の大きな注目ポイントは、やんちゃで明るい少年・越今朝とミステリアスな公子・扁絡桓という2人のキャラクターをシュー・カイが演じ分けていることです。

小酒 シュー・カイは「雪華の炎~揺るぎない誓い~」のように、少年マンガに出てくるようなさわやかな熱血青年役も似合うし、「瓔珞エイラク~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~」のような不憫男子役も似合う。「祈今朝」ではその両方を楽しめるのがポイントですよね。

沢井 越今朝はとにかくかわいい! 越祈のことをとても大切に思っているのが伝わってくるので本当にいい子だなあと思って観ていました。

小酒 記憶がない分、本当にまっさらな青年なんですよね。最近、中国ドラマでは腹黒キャラをいっぱい観ていたので、まっすぐで優しい越今朝には心洗われました。序盤は越祈のお兄さんみたいな存在なんですが、そこから恋心に気付いていく様子がとにかくさわやか。お兄さんポジションから恋愛モードに移行していくのって、ちょっと抵抗感を抱いてしまう場合もあると思うんですが、ほほえましく観ていられました。

沢井 わかります。越今朝はもうそこにいるだけでいいよって思う存在ですよね(笑)。

シュー・カイ演じる越今朝(えつきんちょう)。

シュー・カイ演じる越今朝(えつきんちょう)。

小酒 一方の扁絡桓は不憫男子の枠であり、病弱男子でもある。いつも遠くからヒロインを見守っているのに、彼女はまったく気付いていない。越今朝と越祈がイチャイチャしている姿も見守らなければならなくて、そんな彼を見ていると「私は、ちゃんとわかっているからね」という気持ちになっていく(笑)。

沢井 視聴者の心をつかむタイプの2番手ですよね。

小酒 私は黙って献身的な愛を捧げる男性に弱いんですけど、まさに扁絡桓はそのパターン。彼はある理由から自分で日陰の道を選んだけれど、考えていたより、実際にそれを体験するのは相当な苦しみだったと思うんです。どんな罰ゲームだよ?と。後半は扁絡桓がかわいそうで泣けてくるポイントがいくつもありました。

越祈を抱き抱える扁絡桓(へんらっかん)。

越祈を抱き抱える扁絡桓(へんらっかん)。

沢井 私は越今朝の正体が明らかになってからは断然、越今朝派でしたね。越祈が越今朝を失いかけて、誰よりも大切な存在だと気付くシーンは三角関係の描写の中で一番盛り上がりました。

小酒 扁絡桓派は、あそこで「あ、負けた……かも」と(笑)。ただ、過去を持たない越今朝はずっと自分は誰なんだろう? ヒロインにとって自分はいったいどういう存在なんだろう?と悩み続けるじゃないですか。だから、三角関係の行方も最後までどうなるか読めない。そういうミステリー展開もこの作品の魅力でした。

沢井 そうなんですよね。もしかしたら越今朝と扁絡桓が融合しちゃったりすることもあるのかな?とか、いろいろ想像しながら観ていました。最後までどうなるかわからなかったです。

──お二人はこれまで何本もシュー・カイの作品に触れてきたと思いますが、彼が中国はもちろん海外の視聴者を魅了する理由ってどこにあると分析していますか?

シュー・カイ演じる扁絡桓(へんらっかん)。

シュー・カイ演じる扁絡桓(へんらっかん)。

小酒 未成熟でかわいい少年っぽさと、成熟した大人のかっこよさ、両方をしっかり表現できるところがシュー・カイの魅力だと私は思っているんです。例えば越今朝が越祈とアクシデントでキスするシーンだったり、それを思い出して越今朝がにっこりするシーンがありますけど、ああいう場面をどう演じるかって役者さんそれぞれのセンスが出るところだと思うんです。シュー・カイの場合は、絶妙にかわいいしかっこいいんですよ。ウブな男の子だからってただかわいいだけだと子供っぽく見えちゃう。かわいさだけでは終わらせず、かっこよく魅せてくれるのがシュー・カイ。あと、海外で人気があるのは、一度見たら忘れない個性のある顔だからなのかなと思っているんです。誰かと混同することがない。「瓔珞」って、中国ドラマに詳しくない人にも観られているドラマだと思うんですが、あの作品を観た人は「あ、『瓔珞』の俳優さんだ」とちゃんとわかると思うんです。

沢井 みんな辮髪べんぱつ(頭髪を剃り、中央の髪を後ろに長く垂らしたもの)で同じような服装なのに光っていましたよね。

小酒 そうそう! 恵まれた何かを持っていますよね。

沢井 シュー・カイって師匠、軍人、ツンデレ貴公子、少年マンガから飛び出してきたような主人公、どんな役をやってもこれちょっと似合ってないな……って感じることがないんです。ものすごいイケメンでも、カツラが全然似合ってないことあるじゃないですか(笑)。そうなると気になっちゃって、物語に没入できなくなってしまう。でもシュー・カイはそれがない。

小酒 確かに、どんな衣装も着こなしていますよね。

沢井 モデル出身ということもあるんですかね? 越今朝のカラフルな衣装も、扁絡桓のきれいな衣装も全部似合っていました。

報われない男子も随所に!(沢井)

──主人公と恋物語を繰り広げる越祈を演じているのは「蒼蘭訣~エターナル・ラブ~」などで知られるユー・シューシンです。彼女も日本でじわじわ人気を集めています。

ユー・シューシン演じる越祈(えつき)。

ユー・シューシン演じる越祈(えつき)。

小酒 ユー・シューシンが演じてきた役の中でも、越祈は純真無垢さではトップクラス。こういう役を演じるのはなかなか大変だと思うんですが、彼女はすごく上手に演じてくれる。アクシデントでキスをしてしまうシーンも、越祈はキスの意味を知らないから、唇って柔らかいと驚いてみせたり、すごく無邪気じゃないですか? 普通だったら、「かわいい子ぶってる! あざとい!」ってツッコまれてしまうと思うんですが、ユー・シューシンは全然ありにしてしまう。あとから湯呑みにちょっとキスして感触を試してみるなんて、どうしてあんなにかわいく演じられるの!?みたいな(笑)。

沢井 (笑)

小酒 越祈は記憶がないまっさらな状態から、成長して、過酷な出来事にも逃げずに立ち向かっていく。かわいらしくてピュアなんだけど、その反対側には強さがある。そういうピュアさと強さ、表裏一体な役を演じさせたらユー・シューシンは本当にうまいなと思いました。

沢井 序盤は、頭を空っぽにして「本当にかわいい! とにかくかわいい!」と越祈のキャラクターを楽しんでいたんです。そこから彼女が覚醒していく姿は本当によかった。ああいう変化を自然に演じられるのはユー・シューシンならではだなと思いました。私はユー・シューシンが出てきたときに、中国ドラマのヒロイン像の変化、多様化を感じたんです。それまでは美人で凛々しくて、かわいらしさもあるけれど、内面の強さを隠し切れないというか隠そうともしない女優さんが多かった。だからこういう甘くてかわいらしい子がヒロインをやるようになったんだというのは衝撃的で。この作品でもユー・シューシンのかわいらしさが存分に生かされていました。唯一無二というか独特な魅力のある女優さんだと思います。

小酒 ユー・シューシン本人は意外とさっぱりしている。かわいらしいですが、自己主張もしっかりできるのでウケてるのかなと。あと彼女は本物のセレブって言われているんです。「コネで役を取れるくせに!」とか絶対言われたくないから、すごく努力しているんだろうなという印象があって。セレブなのにガッツがあるところが中国の人も応援したくなるんじゃないかと思います。

──主人公たちはもちろん、彼らを取り巻く登場人物も強烈な存在感がありました。お気に入りのキャラクターはいましたか?

沢井 洛昭言らくしょうげんは登場シーンから「好きっ!」って思いました(笑)。ある事情で男性のふりをして生きている女性ですが、自分の運命を恨むことなく、義を重んじるまっすぐなキャラクター。でも自分では気付かないけど無理しているようなところもあると私は思っていて、そういう彼女の気持ちを狼妖ろうよう閑卿かんけいは見抜いて、優しく包み込んでいく。あとは、明繍めいしゅう顧寒江こかんこうの師弟ロマンスは切なかったです……。

小酒 私もすごく好きです。

沢井 師匠の寒江はたびたび若者に「思っている人がいるならちゃんと伝えたほうがいい」みたいに言うじゃないですか。そのたびに「お前が言うなよ!」と思いながら観ていたんです(笑)。でも、物語が進んでいくにつれて、後悔しないようにと口酸っぱく言っていた意味、そしてそんな寒江が自分では思いを伝えなかった理由が明かされて……本当に切なかったです。

小酒 寒江もひそかに献身的な愛を捧げるパターンですよね。ストイックな師匠というキャラクターもとても好きでした。あとは、洛昭言と双子の兄・洛埋名らくまいめいの関係は切ないし、どう解釈したらいいの?と。複雑な関係で、ほかのドラマでは観たことのないような描き方でした。

沢井 埋名のあまりの愛の重さに妹を殺してしまうんじゃないか?とハラハラしました。

小酒 さわやかなキャラクターが多い中で、埋名はダークで異質な存在でしたよね。だから好きな人はすごくハマると思います。

シュエ・バーイー演じる洛埋名(らくまいめい)。

シュエ・バーイー演じる洛埋名(らくまいめい)。

ワン・ポン演じる洛昭言(らくしょうげん)。

ワン・ポン演じる洛昭言(らくしょうげん)。

──主人公たちと対峙することになるキャラクターたちも、それぞれ重い事情を抱えているのでサイドストーリーにもぐいぐい引き込まれました。

小酒 中国のファンタジー時代劇って主人公が悪と戦っていて、クライマックスでラスボスと対決へ、といったパターンが多いですけど、この作品は最後まで観るとそういう話ではないところもポイントでした。

沢井 だからこそいろんなキャラクターへの思い入れが深くなりますよね。勧善懲悪ってスカッとするので、それはそれで好きなんですけど、「祈今朝」のように、それぞれが複雑な事情を抱えていて、善と悪に分けない描き方は、今どきだなと思います。世の中の現実を少し投影しているようなところがいいです。

──お二人には見どころをたっぷり語っていただきましたが、本作はどんな人にお薦めだと思いますか?

沢井 ラブ史劇が大好きな方には特にお薦めです。「桃花シリーズ」のような切なさがあって、くっつきそうでくっつかない、あーもどかしいみたいないわゆる虐(nüè / ニュェ)の感じを楽しめます。小酒さんがお好きな報われない男子も随所に!

小酒 あはははは!

沢井 普段からめちゃくちゃ中国ドラマを観ている方は、きっと自分の好きなジャンルがあると思うんですが、「祈今朝」はラブロマンスものでもあるし、冒険譚でもあるし、若者の偶像劇や青春ものでもある。だからどこか自分のツボにハマる要素を見つけられるのではないかなと思っています。少女マンガの要素もあり、少年マンガの要素もあるので、中国ドラマを観たことのない方も観ていただきたいですね。

小酒 古代神話の要素だったり、仙侠ドラマの要素だったり、SF的な要素も入っていて、私は中国ファンタジー時代劇の集大成と言ってもいいような作品だと思うんです。だからそういった部分はこれまでに中国ドラマを何本も観てきている方にはアピールしたいところです。あとは基本的にはポジティブな作品なので観ていてつらくはならないのもこの作品の魅力だと思っています。切ない恋愛描写はつらいですけど、それって足ツボマッサージみたいなもので、痛みを感じつつも気持ちいいじゃないですか?

一同 (笑)

小酒 ドラマティックだけど気軽に楽しめる作品です。

祈今朝ききんちょう~失われた記憶、共鳴する愛~」第1話特別公開中

プロフィール

小酒真由子(コサカマユコ)

映画界・出版界での会社勤めを経てフリーライターに。雑誌「月刊スカパー!」「見るべき中国時代劇ドラマ」「中国時代劇で学ぶ中国の歴史」などのムック本、Cinem@rtなどのWeb媒体でアジアから欧米までドラマについて執筆している。

沢井メグ(サワイメグ)

大学時代に中国近代文学と出会い上海・同済大学に留学。2010年上海万博日本館での勤務を経てライター / 編集者となる。中国・台湾エンタメや文化、時事ニュースなどを中心に記事を執筆、翻訳。主な訳書にルアン・グアンミン「用九商店」シリーズ、毎日青菜「DAY OFF」がある。