「愛しのアイリーン」特集 安田顕×吉田恵輔 対談 / 木野花 インタビュー|不器用な愛が過激にスパーク!ノンストップで疾走するラブ&バイオレンス

ツルの無償の愛は、母性の爆走とでも言うのかな

──ツルの岩男に対する偏愛ぶりは、息子がどんな状況のときでも晩ごはんを作って待っている姿に象徴されていますよね。

木野花

母親ってごはんが大事なんですよ。お母さんは普通、子供にお弁当を作るじゃないですか。とにかく、3食ちゃんと食べさせて、丈夫で健康な子に育てるというのが基本でしょ。ツルの場合は、特にそのごはんが大事な愛情表現なんだと思いました。何があろうとごはんを作っているし、どんなことがあってもお弁当を持たせますからね。まあ、いつ作っているんだ?とも思うんだけど、ちゃんと作っているんですよ(笑)。

──とんでもないことが次々に起きますが、全編を通して観ると、本当にピュアな愛の映画だと思いました。

そうですね。不器用な人たちが命懸けで愛したなと思えるから、最後にジワッとくるんじゃないかな。ツルの愛情は極端だと思いますけど、それだけ愛情が強いということなのかな。すごく切ない片思いですね。

──そんな木野花さんが考える“愛”とはどんなものでしょうか。

木野花

この映画を観て、普通の人はみんな、自分を愛してほしくて恋愛をしているんだろうなと思いました。岩男やツルのように、自分のことは置いて、相手のために愛情を注ぎ込むのはつらいし、すごく覚悟がいることだと思うんですよね。そういう意味では、私も相手のことだけを考えて突っ走る愛をまだ体験したことがないよう気がします。唯一あるとしたら、子供の頃に感じた母親の私に対する愛かな。ツルと岩男の関係性においても、母性というものを考えました。ツルの無償の愛は、母性の爆走とでも言うのでしょうかね。

木野花

宍戸岩男(安田顕)
宍戸岩男(安田顕)
年老いた母と認知症の父と地方の山村で暮らす、42歳まで恋愛を知らずに生きてきた男性。パチンコ店で働き、AVやエロ雑誌を見ながら自慰行為にふける日常を送っている。
アイリーン・ゴンザレス(ナッツ・シトイ)
アイリーン・ゴンザレス(ナッツ・シトイ)
貧しい漁村に生まれた18歳のフィリピーナ。家族に仕送りをするため、フィリピンのお見合いツアーに参加した岩男と結婚する。
宍戸ツル(木野花)
宍戸ツル(木野花)
頭の手ぬぐいとキセルがトレードマークの岩男の母。岩男を溺愛するあまり、自慰行為をのぞき見することも。岩男の幸せを願い、結婚相手探しに奔走中。
塩崎裕次郎(伊勢谷友介)
塩崎裕次郎(伊勢谷友介)
フィリピンの母親と日本人の父親のもとに生まれ、人身売買に手を染めているやくざ。
吉岡愛子(河井青葉)
吉岡愛子(河井青葉)
岩男が働くパチンコ店の同僚で、シングルマザー。岩男の誕生日にゴリラのキーホルダーをプレゼントする。※吉岡愛子の吉はつちよしが正式表記
マリーン(ディオンヌ・モンサント)
マリーン(ディオンヌ・モンサント)
フィリピンパブで勤務する関西弁のフィリピーナで、アイリーンのよき話し相手。
正宗(福士誠治)
正宗(福士誠治)
龍昇寺の坊主。真面目で穏やかな性格で、アイリーンのよき話し相手。
宍戸源造(品川徹)
宍戸源造(品川徹)
認知症が進行している岩男の父。1日に何度も新聞を催促したり、ツルとの新婚旅行の思い出を度々口にする。
竜野(写真左 / 田中要次)
竜野(田中要次)
国際結婚の斡旋業者。フィリピンでのお見合い結婚ツアーで岩男をアテンドする。
「愛しのアイリーン」公開記念インタビュー 新井英樹の怒りの炎は、今も燃えているか? コミックナタリーにて公開中
「愛しのアイリーン」
2018年9月14日(金)公開
「愛しのアイリーン」
ストーリー

年老いた母と認知症の父と地方の山村で暮らす、42歳まで恋愛を知らずに生きてきた男・宍戸岩男は、コツコツ貯めた300万円を手にフィリピンへ花嫁探しに旅立つ。現地で半ばヤケ気味に決めた相手は、貧しい漁村生まれの少女・アイリーン。岩男は彼女を連れて久方ぶりに帰省するが、岩男の母・ツルは、息子が見ず知らずのフィリピーナと結婚したという事実に激昂する。

スタッフ / キャスト

監督・脚本:吉田恵輔

原作:新井英樹「愛しのアイリーン」(太田出版刊)

主題歌:奇妙礼太郎「水面の輪舞曲」(ワーナーミュージック・ジャパン / HIP LAND MUSIC CORPORATION)

出演:安田顕、ナッツ・シトイ、木野花、伊勢谷友介、河井青葉、ディオンヌ・モンサント、福士誠治、品川徹、田中要次ほか

※吉田恵輔の吉はつちよしが正式表記
※R15+指定作品

木野花(キノハナ)
1948年1月8日生まれ、青森県出身。弘前大学教育学部美術学科を卒業後、中学校の美術教師となるが、1年で退職、上京して演劇の世界に入る。1974年に東京演劇アンサンブル養成所時代の仲間5人と、女性だけの劇団「青い鳥」を結成。翌年に旗揚げ公演を行い、1980年代の小劇場ブームの旗手的な存在になる。1986年、同劇団を退団。現在は、女優としてテレビ、映画、舞台で活躍中のほか、演出家としても活動を再開。現在、ドラマ「この世界の片隅に」が放送中。「十年 Ten Years Japan」「母さんがどんなに僕を嫌いでも」の公開を控える。

2018年9月13日更新