「1秒先の彼女」|バレンタインが消えた? ワンテンポ早い彼女と遅い彼の“時差”から生まれるファンタジックラブストーリー 宇垣美里のレビューをお届け!

人より常にワンテンポ早い郵便局員シャオチーと常にワンテンポ遅いバス運転手グアタイの“時差”から生まれるラブストーリー「1秒先の彼女」が6月25日に全国で公開される。

消えたバレンタインを巡る恋物語を生み出したのは「熱帯魚」「ラブ ゴーゴー」などで知られ、台湾新世代の異端児として出現したチェン・ユーシュン。シャオチーをリー・ペイユー、グアタイをリウ・グァンティンが演じ、第57回金馬奨で作品賞、監督賞、脚本賞など最多5冠を達成した。

映画ナタリーでは本作の公開を記念し、ひと足早く映画を鑑賞した宇垣美里のレビューをお届けする。

取材・文 / 金子恭未子

宇垣美里 Review

あなたのままで、あなたを愛してくれる人がいるかもしれない

「1秒先の彼女」はかわいくて、ポップでノスタルジックな世界観の中で、チリッとした痛みも感じつつ、観たあとにすごく癒やされる映画。ケラケラ笑えて、ちょっとホラーで、謎解き要素があるのも魅力です。

登場人物で魅力的だと思ったのはやっぱりシャオチーとグアタイ。この2人、愛おしすぎます! シャオチーはお茶目で、コミカルな表情満載ですが、写真の中でほほえむ彼女の美しさにはハッとしました。グアタイはおどおどしているし、決してスマートではないけれど優しさがにじみ出ている。演じるリー・ペイユーさん、リウ・グァンティンさんともに味のある俳優さんだと思いました。

私はきっと、私のままで大丈夫。「1秒先の彼女」を観て、そんなふうに肯定されている気持ちになりました。人より常にワンテンポ早いシャオチーと、ワンテンポ遅いグアタイは“普通”でいることがなかなか難しい2人。でも物語の中で、人生の帳尻がしっかり合っていくんです。早く生きている人はエネルギッシュに生きてきた分、遅い人は丁寧に生きてきた分のご褒美が与えられる。

「1秒先の彼女」

私は自分のリズムで生きていますが、それは決して人に合わせたくないわけじゃなく合わせられないんです。準備をするのは遅い、一方で話は1から10にいきなり飛躍することもある。そばにいる人は大変だろうなと思います。でも、それを受け入れてくれる人が私の周りには残りました。私も友人のリズムは尊重します。

私もそうですが、がんばってもがんばっても他の人の“速度”に合わせられない人が世の中にはいると思うんです。周りのスピードに追いつけない、もしくは追い越してしまう人。この映画はそんな人を肯定してくれる作品だと思います。もちろん合わせすぎて疲れてしまう人も。生きていてちょっとしんどいなと思っている人にぜひ観てほしい作品です。あなたのリズムでいいんだよと寄り添ってくれます。

また、年齢を重ねていくとなぜ独り身なのか?と問い詰められる場面や場所が増えてしまうと思いますが、別に1人でもいいし、いつか見つけてくれる人がいるかもしれないということも教えてくれます。あなたのままで、あなたを愛してくれる人がいるかもしれないというメッセージが映画に込められているように思いました。

宇垣美里(ウガキミサト)
1991年4月16日生まれ、兵庫県出身。2014年4月にTBSに入社。アナウンサーとして数々の番組に出演し、2019年3月に同社を退社。現在はフリーアナウンサーとしてテレビ、ラジオ、雑誌、CM出演のほか執筆業も行うなど幅広く活動している。TBSラジオの「アフター6ジャンクション」にレギュラー出演しているほか、6月2日にはチョコレートがテーマのフォトエッセイ「愛しのショコラ」(KADOKAWA)を発売。7月6日スタートのドラマ「彼女はキレイだった」(カンテレ・フジテレビ系)に出演する。
台湾トリビア1
「1秒先の彼女」

台湾のバレンタインは2度ある?

台湾では2月14日よりも、旧暦の7月7日にあたる七夕バレンタインデー(七夕情人節)が重要なイベント。男性から女性にプレゼントを贈るのが一般的。

あの名作ラブストーリーが好きなら、愛さずにはいられない!?ときめく要素がたっぷり詰まった「1秒先の彼女」

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時間をめぐるラブストーリー

「1秒先の彼女」

七夕バレンタインデーの日。ハンサムなダンス講師と甘い1日を過ごすはずが、目覚めるとなぜか翌日に。あんなに期待したバレンタインはいったいどこに消えてしまったの!? なぜか日焼けで体は真っ赤だし、撮ったはずのない自分の写真と街でばったり遭遇。

そんな“ありえない”事態に直面するのが本作のヒロインであり、人より常にワンテンポ早い郵便局員シャオチーだ。そして消えた1日の鍵を握るのは、常にワンテンポ遅いバスの運転手グアタイ。

2人の“時差”の秘密が明かされるとき、観客の前に消えたバレンタインデーが現れる。シャオチーは果たしてどんな1日を過ごしていたのか? 劇場で確認してほしい。

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2度観たくなる!巧妙な伏線回収

ワンテンポ遅いグアタイはかけっこではいつも出遅れ、じゃんけんは後出し、蚊には刺され放題。いつも1人、カメラで遊んでいた。大人になった彼の日課はとある人に宛てた手紙を出すこと。シャオチーの窓口に呼ばれるため、毎日、整理券を何枚も手に取るグアタイ。彼のちょっと変わった行動にはある理由がある。

物語の中に編み込まれた巧妙な伏線の数々と遊び心。1度目はシャオチー目線で、2度目はグアタイ目線で物語を追いたくなるはず。そこには、新しい発見が必ずある。

「アメリ」が好きな人にオススメ

ヒロインの愛らしい魅力が炸裂

タイミングが合わず写真撮影で目を閉じ続けて30年。合唱では誰よりも早く歌い出し、映画館ではワンテンポ早く爆笑──今まで出会ったことがない唯一無二の魅力を持つのが本作のヒロイン・シャオチーだ。なくしたバレンタインデーを探して、慌てて警察署に駆け込むキュートな姿に冒頭からノックアウトされる人も少なくないだろう。

そんな彼女の魅力を引き立たせるのは、シャオチーの妄想を映し出すファンタジックでレトロな映像の数々。ラジオDJが窓辺に現れたり、タンスを開けるとなくし物を持ったヤモリが出現する。小さな部屋の中で繰り広げられる日常からちょっと浮いた世界観に注目だ。

台湾トリビア2

タピオカに続くブームの予感? 台湾スイーツ豆花

台湾スイーツ豆花

本作にも登場する豆花は、台湾で国民的人気を誇る伝統的なスイーツ。豆乳を固めたものの上に、甘いシロップ、フルーツやピーナッツ、小豆などさまざまなものをトッピングして楽しむ。プルプルした食感がクセになる注目のスイーツだ。

リズムの違う男女の間で、恋がどのように現れ、成立するのか

監督 / チェン・ユーシュン(陳玉勲)の思い

本作の監督を務めたのは台湾新世代の異端児として出現した1961年生まれのチェン・ユーシュン。誘拐犯一家と人質少年の奇妙な共同生活を描いた「熱帯魚」、都会に生きる若者たちのほろ苦い恋模様をつづった「ラブ ゴーゴー」などで、日本でも高い人気を誇る人物だ。「1秒先の彼女」はそんな彼がおよそ20年前から温めてきた作品だという。着想のきっかけはまったくリズムの違う男女の間で、恋がどのように現れ、成立するのかを考えたことだった。

彼は本作の日本公開を受け、「誠心誠意を込めて映画を撮りました。私自身、とても好きな作品です。きっと日本の観客の皆さんにも気に入っていただけると思います」とメッセージを送っている。

「1秒先の彼女」
台湾トリビア3

嘉義ってどんなところ?

消えた1日の謎を解くためシャオチーが訪れたのは美しい海辺の町・嘉義県の東石村。牡蠣の養殖が盛んな地域であり、「熱帯魚」の舞台にもなった場所だ。再び嘉義にスポットを当てた理由をチェン・ユーシュンは「不思議な雰囲気を出したかったから」と語っている。