「風起花抄(ふうきかしょう)~宮廷に咲く琉璃色の恋~」特集 | グーリー・ナーザー×ティミー・シュー共演で贈る宮廷ラブ史劇の魅力を大解剖 (2/2)

ティミー・シューが好きな人には絶対絶対観てほしい(沢井)

ヤンチャン キャスティングもすごく考え抜かれていますよね。琉璃のお母さん・安四娘(あんしじょう)は高昌出身という設定で、今で言う新疆ウイグル自治区のある場所。安四娘役のマイディーナも、グーリー・ナーザーも子供時代の琉璃を演じた女の子も新疆ウイグル自治区出身の方で、しっかり考えられている。

マイディーナ演じる安四娘。

マイディーナ演じる安四娘。

沢井 単に美人で話題性のある人を選んだわけじゃなく、役柄の背景にきっちりマッチした方を選んでいますよね。グーリー・ナーザーのための役って思えるぐらい、ハマり役だと思います。

ヤンチャン 琉璃は聡明で、強い心を持っていて、優しい女性。グーリー・ナーザーは強い女性のイメージもありつつ、ファンにとっても優しい人なのでぴったりですね。

沢井 琉璃は何度もピンチに見舞われるんですが、それをハラハラ見守りながら、応援したくなるようなヒロインですよね。母親の汚名をそそぐというしっかりとした目的があるので、恋に突っ走らないところもよかったです(笑)。すごい美人ということもあって、「三国志~趙雲伝~」では貂蝉を演じたり、「擇天記」でも仙女のような役を演じてきたグーリー・ナーザーが、今回男装ヒロインを演じているというのも新鮮で楽しめるポイントでした。

グーリー・ナーザー演じる琉璃。

グーリー・ナーザー演じる琉璃。

──グーリー・ナーザーはやはり、中国でとっても人気ですか?

ヤンチャン トップクラスの人気女優ですね。中国では「360度死角がない」と言われる、大美人。芸術系の名門大学・北京電影学院の出身なんですけど、「美しすぎる受験生」ということで入学前からニュースになっていたほどで。私はそこで彼女の存在を知ったんです。北京電影学院に入る人はほとんどが俳優になるので、美男美女ばっかり。そんな中でも飛び抜けた美貌の持ち主ってことですよね。

沢井 私が彼女を知ったのは2012年なんですが、中国のネット掲示板で「めちゃくちゃ美人がいるぞ!」とすごい話題になっていまして。それを日本のメディアに紹介したんです。ご両親は平凡な人生を望んでいたらしいんですが、これだけ美人だと世の中は放っておかないですよね(笑)。

ヤンチャン 憧れの顔ですね(笑)。とても好きな女優さんです。

──そんなグーリー・ナーザー演じる琉璃と恋に落ちるのは、ティミー・シュー演じる裴行倹です。唐の時代に多くの実績を残した実在の人物がモデルとなっています。

ティミー・シュー演じる裴行倹。

ティミー・シュー演じる裴行倹。

ヤンチャン このドラマを観るまで裴行倹の存在は知らなかったんです。中国の唐代には、すごい軍人がいたんだなと思いました。教養もあって、書道や詩にも通じていて、文人として優れているだけじゃなくて、武術もすごい。

沢井 アクションシーンもすごかったですよね。唐代の礼儀作法もしっかり押さえていて、しぐさ1つひとつが素敵で、ティミーが時代劇初出演というのを知ってびっくりしました。現代劇では見られない彼の姿が見られるので、ティミーが好きな人には絶対絶対観てほしいです。

ヤンチャン 愛する琉璃を見守る裴行倹の姿は素敵でしたね。

沢井 話が進むにつれて、魅力があふれてくるキャラですよね。最初はむちゃくちゃ堅物。でも文武両道で非の打ちどころがない真面目一辺倒の彼が、琉璃への恋心を自覚したあたりから、変化していって。役人として見せる顔と、琉璃の前だけで見せる顔にギャップがある。「風起花抄」のティミーは大人っぽくて落ち着いていて、しみじみと素敵だなと。

──主演の2人はもちろんですが、彼らを取り巻く、キャラクターもくせ者ぞろいで魅力的でした。

ヤンチャン 私は、曹王が好きですね。中国の時代劇って悪役はみんな嫌われるんですけど(笑)、なぜか曹王はWeiboとかbilibiliでめちゃくちゃ人気があるんです。

ジャン・ワンイー演じる曹王。

ジャン・ワンイー演じる曹王。

──ジャン・ワンイー演じる曹王は皇帝・李世民の息子で、本作では皇太子・李治の弟でありライバルとして描かれています。

ヤンチャン 陰険なキャラクターで、手口もけっこう悪どい(笑)。なんでそこまで人気なのかな? 美形で演技もうまくて魅力のあるキャラクターだから、悪役でもファンがつくのかもしれないですね。

沢井 二次創作かいわいで盛り上がりそうなタイプのキャラクターですよね。逃れられない運命を背負っていて、ちょっと人間臭くて。もし何か1つでも違っていたら、彼の人生はこんなふうじゃなかったのかもという想像力がかき立てられる。

──沢井さんは誰がお気に入りでしたか?

沢井 私は順子(じゅんし)が好きですね。「陳情令」の温寧役で知られるユー・ビンが演じているんですが、不禄院で琉璃と一緒に育った家族のような存在。過酷な人生を歩みながらも琉璃が、明るく曲がらず育ったのは近くに順子たちがいたからだと思うんです。順子は彼女の秘密を知る数少ない1人なので、災難に巻き込まれて拷問されてしまって……。琉璃を憎んで闇堕ちしちゃうんじゃないか?と心配になりました。

ユー・ビン演じる順子。

ユー・ビン演じる順子。

──私はのちの武則天となる武媚娘(ぶびじょう)が賢くて好きでした。シー・シー演じる武媚娘が機転を利かせて琉璃のピンチを救ってくれる姿が頼もしくて。ジャオ・シュンランが皇太子の李治、タン・カイが皇帝・李世民を演じていたり、多彩なキャストが脇を固めているので、お気に入りのキャラクターが複数見つかるかもしれないです。

シー・シー演じる武媚娘。

シー・シー演じる武媚娘。

ジャオ・シュンラン演じる李治。

ジャオ・シュンラン演じる李治。

ヤンチャン そうですね。でもやっぱり私は曹王が一番!(笑)

一同 あはははは。

ストレスを発散したいときは宮廷ドラマを観たい(ヤンチャン)

──中国ラブ史劇と言えば美男美女の恋愛描写も見どころの1つですが、この作品ももれなく魅力的でした。

ヤンチャン 幼い琉璃を少年時代の裴行倹が助けるドラマティックな展開は“中国ラブ史劇あるある”を押さえていて、キュンとする出会い方ですよね。成長して再会したあと、いつになったら “あのときの人だ”と気付くんだろう?という面白さもあって。

沢井 初恋を見ているような甘酸っぱさがありましたよね。最初はこの2人ってくっつくんだろうか?という距離感から始まって、だんだん恋心に発展していく。でも、琉璃にはお母さんの名誉を回復するという果たさなければいけない使命があって。正直ラブ100%だと、観ていて気恥ずかしくなってしまうので、1本筋が通った物語に恋愛が絡む構成は好きですね。もちろん少女マンガのような世界観もあわせ持っていて、琉璃が女の子と男の子の人形で1人芝居をするシーンはめちゃくちゃかわいくて(笑)。

──後半は琉璃と裴行倹だけでなく、武媚娘、李治の恋心も描かれていきます。

沢井 視聴者は全員の心情がわかるので、三角関係、四角関係をそれぞれの視点で楽しめますよね。唐の時代の話なので恋愛描写も現代劇とは違う。どうやって報われない思いと折り合いをつけるかというところにグッときましたね。心を律して義理を大事にする姿はちょっと見習いたい(笑)。

一同 (笑)

シー・シー演じる武媚娘。

シー・シー演じる武媚娘。

ジャオ・シュンラン演じる李治。

ジャオ・シュンラン演じる李治。

──武侠ドラマ、ファンタジーなどジャンルごとにそれぞれ魅力がありますが、“宮廷もの”が人気を集める理由をお二人はどのように捉えていますか?

ヤンチャン 服装もセットも豪華できれいで、現実逃避できる。現代人ってめちゃくちゃストレスたまるじゃないですか。発散したいときは宮廷ドラマを観たいんですよ(笑)。現代ドラマの場合は、観ていると逆にもっとストレスたまっちゃうこともあって。

沢井 わかります(笑)。いい意味でストーリーと距離が取れて、物語を神視点で観られるよさがありますよね。

──だから、ツッコんだりしながら楽しめるのかもしれないですね。

ヤンチャン 現代劇の場合は、登場人物が若いのにすごく成功していたりすると、なんで私はダメなの?って比べちゃったり(笑)。宮廷ドラマはそういうのが一切ないから、楽しめます。

──宮廷の陰謀、スカッとする展開、甘酸っぱいロマンスからの複雑な四角関係など見どころたっぷりで、「風起花抄」は幅広い視聴者が楽しめる作品という印象を受けました。

ヤンチャン 周りの中国ドラマ好きにはぜひお薦めしたいですよね。この作品で古代中国の雰囲気を味わってほしい。映像がきれいで、美男美女キャストが出演しているので、特に女性の方が楽しめる作品だなと。目の保養になります(笑)。

沢井 男装女子が好きな方にもお薦めしたいですね。女性であることがバレるかバレないかというスリルを楽しめます!

グーリー・ナーザー演じる琉璃。

グーリー・ナーザー演じる琉璃。

「風起花抄」は少女マンガ好きに刺さる要素が満載(沢井)

──作品の魅力をたっぷり伺いましたが、せっかくお二人の対談をセッティングしたので、中国ドラマの魅力、日本のドラマとどんな違いを感じるかもお聞きしたいです。ヤンチャンさんは幼少期にどんなドラマを観ていましたか?

ヤンチャン 子供の頃から時代劇はたくさん観ていましたね。セリフを暗記するぐらい何度も繰り返し観たのは、「還珠姫~プリンセスのつくりかた~」。金庸さんの武侠小説をドラマ化した作品も全部観ています。

──日本にも時代劇というジャンルはありますが、子供がたくさん観るものというイメージはないですよね。

沢井 そうですね。私も時代ものに触れるようになったのは中学生になってからでしたね。

ヤンチャン え!? 日本では、子供はあまり観ないものなんですか?

沢井 小さい子には難しくてわからないものが多いかもしれないですね。

ヤンチャン 中国の時代劇は空を飛んだりするので(笑)、エンタメ性があって子供も楽しめる作りになっていますね。

──老若男女楽しめるというのが中国時代劇の魅力かもしれないですね。

ヤンチャン 中国の時代劇は2つのジャンルに分けられるんです。1つは正史劇、もう1つは古装劇と呼びます。正史劇は7割から8割ぐらい史実にもとづいて作られていて、古装劇は史実をモデルにしている場合でもフィクション要素が多い。

沢井 正史劇を観る人の年齢層は高めなんですか?

ヤンチャン そうでもなくて、小学生でも楽しんでいます。ただどちらかというと、正史劇は30代、40代ぐらいの人が観ていて、古装劇は若い人、特に女性が好んで観ているイメージがありますね。「風起花抄」は古装劇に分類されるので中国人からすると、気軽に楽しく観られて、女性にお薦めのドラマなんです。

沢井 中国は、史実をベースにしつつ、そこにフィクションを大胆に織り交ぜた時代劇が日本より多いイメージがありますよね。日本ではそういう世界観のものがなじまないのかといったら、そんなことはなくて、「るろうに剣心」とか「ゴールデンカムイ」「ベルサイユのばら」のようにマンガの世界にはたくさんある。ただそれがドラマという形で再現されていないだけで。だから中国時代劇は難しそうとか思っていても、観てみるとハマる人って多いと思うんです。「風起花抄」も少女マンガ好きには刺さる要素が満載。琉璃と裴行倹の恋模様はもちろんですが、琉璃の義理の母親や、腹違いの妹がせこい嫌がらせをしてくるのも、少女マンガを読んでいるようで面白く楽しめる(笑)。

ドラマ「風起花抄(ふうきかしょう)~宮廷に咲く琉璃色の恋~」

ドラマ「風起花抄(ふうきかしょう)~宮廷に咲く琉璃色の恋~」

──中国ドラマは本人の声のものもありますが、ほとんどが吹替です。日本のファンの中には本人の声が聞きたいという人もいると思うんですが、中国のファンからはそういう要望って出ないんでしょうか?

沢井 私もそれ聞いてみたかった!

ヤンチャン そういう声は聞いたことがないですね。中国は国土が広いので、みんながみんなきれいな標準語をしゃべっているわけじゃないんです。香港や台湾出身の俳優さんもいる。時代劇の場合は特に、俳優さんのなまりが強いと、全然集中できないんですよね。だからプロの声優さんが吹替したほうがよりその作品がよくなります。

沢井 なるほど。今はこのドラマの声優さんとこのドラマの声優さんが一緒みたいなまとめ動画がbilibiliに投稿されていたり、そういうのも面白いなと思って観ています。

ヤンチャン セリフに強い俳優さんの場合は本人の声を使うことも多いんですよ。でもセリフに弱い場合は、プロの声優さんが声を当てたほうが、視聴者が楽しめますね。

──中国で大ヒットしても日本では流行るとは限らないものもあると思うんですが、日本でウケる中国ドラマにはどんな傾向があると感じますか?

ヤンチャン やっぱりマンガ的要素が入ったものが強い印象があります。弱かった主人公が強い人に成長していく、サクセスストーリーが日本では好まれているイメージです。逆に難しいと感じるのは、言葉の壁を越えられないタイプの作品。中国ドラマにはセリフに漢詩を使ったり、言葉遊びをする作品がすごく多いんです。でもそういう作品のよさは、日本の視聴者にそのまま伝わらないと感じます。あとは、日本の女子は弁髪がちょっと苦手という人も多いみたですよね(笑)。中国だと弁髪は嫌だという話は聞いたことがないので、カルチャーギャップを感じる部分です。

──ヤンチャンさんが幼少期に観ていた作品と比べて、今の作品はどんなところに違いがありますか?

ヤンチャン 昔は漢服のような服を着ていても、その時代のものじゃなかったり、髪型も勝手な想像で作っていたりしたんです。でも「風起花抄」もそうですが、今は歴史を忠実に再現した作品が増えました。映像、美術、衣装、セットのクオリティが全然昔と違います(笑)。中国のエンタメ産業は2010年代に入ってからすごく競争が激しくなったんですが、ターニングポイントになったのは「宮廷の諍い女」。衣装やメイクが美しくてすごく話題になったんです。だからそれ以降は「宮廷の諍い女」を基準にして、どんどんセットや美術が豪華になっていきましたね。

沢井 どんどん自国で面白いものを生み出している中で、海外コンテンツの受け取られ方って変化しているんですか?

ヤンチャン 私は1991年生まれで、日本のアニメをたくさん観て育った世代。当時は今とは違って国営テレビでも日本のアニメやドラマがたくさん放送されていたんです。その後は韓国ドラマが流行った時期もあったんですが、2015年以降は中国のエンタメ産業が発展したということもあって、中国人は中国の作品を多く観る傾向が強くなったと思います。今はインターネットが発達したので、どこか特定の国の作品がよく観られているということではなく、Douban(豆瓣)で評価の高い海外の作品が人気を得ているイメージですね。

沢井 なるほど。シンプルに面白いものを探しているということですよね。

ヤンチャン そうですね。日本や韓国ドラマ、アメリカドラマ、最近はタイのドラマも人気がありますね。

沢井 いろんな国の作品を観て目が肥えているユーザーに応えるために、どんどん中国作品のクオリティも上がっているのかもしれないですよね。

ヤンチャン そうですね。Douban(豆瓣)のコメントってみんな、めちゃくちゃ辛口ですから(笑)。

一同 あはははは。

沢井 日本でも、例えば中国アニメの「羅小黒戦記」がすごくヒットして、吹替版が作られたりしましたけど、とにかく面白くてコンテンツ力があるから口コミで広がっていきましたよね。最近だと「あなたがここにいてほしい」に豪華な吹替キャストが参加していたり。もともと好きな層にリーチするだけでなく、面白いものを求めている層に広く届けようという流れを感じます。

ヤンチャン 中国ドラマも今後ますます面白いものを求めている人に届いたらいいなと思いますね!

「風起花抄(ふうきかしょう)~宮廷に咲く琉璃色の恋~」第1回特別公開中

プロフィール

ヤンチャン(楊小溪)

中国四川出身で、大学3年生のときに交換留学にて来日。現在はYouTuber、通訳、MCとして活動しており、YouTubeチャンネル・ヤンチャンCHの登録者数は15万人以上。中華グルメ情報や中国トレンド情報を紹介している。

沢井メグ(サワイメグ)

大学時代に上海・同済大学に留学。2010年上海万博日本館での勤務を経てライター / 編集者となる。現在はCinem@rt Twitter内コンテンツ #たのしいアジアドラマ の担当ほか台湾経済誌の翻訳、中国・台湾エンタメや文化、時事ニュースなどを中心に記事を執筆、翻訳。主な訳書にルアン・グアンミン「用九商店」シリーズ、毎日青菜「DAY OFF」(ともにトゥーヴァージンズ刊)がある。TOKYO MX「日曜はカラフル!!!」、日本テレビ「スッキリ」の中国ドラマの特集コーナーにも出演した。