山戸結希が監督を務めた映画「ホットギミック ガールミーツボーイ」が6月28日に公開となる。相原実貴の少女マンガをもとにした本作は、平凡な女子高生が3人の男性に振り回される中で自己を確立していく青春ストーリー。キャストには堀未央奈(乃木坂46)、清水尋也、板垣瑞生、間宮祥太朗が名を連ねる。
映画ナタリーでは、映画ライターとして活躍する梅原加奈、柴崎里絵子、髙山亜紀、細谷美香の座談会をセッティングした。山戸が「たったひとりの十代の女の子」を思いながら、彼女ならではの感性で撮り上げた本作。観終わったあと語り合わずにはいられない本作を“映画を観るプロ”たちがナビゲートする。
なお座談会では映画の内容に一部触れているので、鑑賞前にネタバレを見たくない方はご注意を。
取材・文 / 金須晶子 撮影 / 佐藤類
「ボーイミーツガール」じゃなくて「ガールミーツボーイ」(細谷)
──まずは「ホットギミック ガールミーツボーイ」を観た感想を教えてください。
梅原加奈 いわゆるティーン向けの胸キュン満載な恋愛青春映画だと思って観ると、衝撃を受けるんじゃないかな。恋って何か、人を好きになるって何か、そして自分自身とはなんなのかを突き付けられるから。序盤から主人公は「お前は俺の奴隷だ」とか露悪的なセリフを言われ続け、この映画はどういう着地を迎えるんだ?と心配になるんですけど、でも、最終的に女の子が「自分で選ぶ」という感覚を見事に獲得する。さすが、山戸監督と思いました。女の子のための全力の自己肯定映画ですよね。
柴﨑里絵子 ティーン向けというより大人っぽさがある映画ですよね。10代のヒリヒリやモヤモヤが監督の言語力で集約されていて。大人が観ても、主人公たちの会話から改めてわかってくることもありました。監督の力量だと思います。
髙山亜紀 少女マンガ原作の映画って“キュンキュン”な表現が多い中、この作品はわりと生々しい感じ。こんな感情まで見せちゃっていいの?というところまで描いてますし。恋ってきれいごとだけじゃないよね、という部分に観客は共感を覚えるのかなと思います。
細谷美香 原作にはないサブタイトルを「ボーイミーツガール」じゃなくて「ガールミーツボーイ」にした意味が、映画を観たあとはよくわかる。3人の男性が主人公の合わせ鏡になっていて、彼らと恋することで自分を発見していく。彼女の冒険物語が軸になっているのが山戸監督らしいなと思いました。こういうウジウジした子っているし、あと1歩を踏み出せない子もたくさんいる。その背中をちょっとだけ押してあげたいんだろうなと、監督の優しい気持ちやエールみたいなものが感じられました。
柴﨑 ウジウジしたキャラクターって本来女性も好きじゃないですよね。でも主人公の初(はつみ)が嫌われキャラになってないのは、みんな自分の中にどこか同じような部分を持っているから。後ろ向きであることを否定せず、汲み取っているのがこの作品のいいところだと思いました。
板垣くんは甘く優しくて、ちょっと危険な男の子を演じ切っていた(梅原)
──初を囲む男性キャラに、清水尋也さん、板垣瑞生さん、間宮祥太朗さんが扮しました。口は悪いけれど初には優しい亮輝(りょうき)、今やモデルとして活躍する幼なじみの梓(あずさ)、ずっと自分を守ってきてくれた兄の凌(しのぐ)。この3人の男性キャラを皆さんはどう見ましたか?
細谷 まず前提として、全人類はギャップに弱い。亮輝くんはドSだけど、本当は初のことを一番に思っているでしょ? だからキュンとせざるを得ないところはありますよね。それに彼は、初が自分でも知らなかった部分を引っ張り出しちゃう語り手みたいなポジションでもあったのかな。
梅原 梓はキング感がすごい。あの、“キング”っていうのはドラマ「池袋ウエストゲートパーク」でタカシ役を演じていた頃の窪塚洋介っぽさです(笑)。それを板垣くんから感じて。すべての女子を惹き付けてしまう、甘く優しくて、でもちょっと危険なメロウな男の子を演じ切っていてすさまじくかっこいいなと思いました!
髙山 板垣くんは電話のシーンの生々しさがすごかった。あの自撮りはキャストがそれぞれ自分で撮ったみたいで。あんなにドキドキするようなシーンを別々に自撮りしながら演じてるって考えられない。でも男の子として皆さんが好きなのは亮輝……?
──原作ファンの間では兄の凌も人気の高いキャラクターでした。主演の堀未央奈さんも、好きな男性キャラに凌を挙げています。
柴﨑 お兄ちゃん、いいですよね。あの狂気も含めて(笑)。
細谷 そうですね。お兄ちゃんと言えば「ココア」。
一同 (笑)
柴﨑 映画を観た人にはわかるキーワード、「ココア」。
梅原 やっぱりあのシーンは衝撃でしたよね。お客さんの反応が気になります!
堀さんの生々しさで入り込みやすくなった(髙山)
──初役の堀さんは本作で映画初出演・初主演を果たしました。劇中では、堀さんと初が同化するように覚醒していく印象を抱きました。
柴﨑 堀さんは絶妙でしたね。初って「私はかわいくない」とか「私ってバカだから」みたいに、イライラするくらい自分を卑下するじゃないですか。でもきっと普通の女の子は、よほどの美人でもない限り日常の中でいつの間にかそう刷り込まれているんですよね。そういう気持ちをセリフとして発する役がぴったりでした。
髙山 少女マンガ原作っていつも女の子が嘘みたいにかわいく撮られていますが、今回は堀さんの顔が角度によっては「これ大丈夫なの?」っていう瞬間もあったりして斬新でした。もちろんかわいいシーンもいっぱいあるけど。男の子たちはどのシーンもかっこよく切り取られているのに対して、堀さんが生々しく映されていたおかげで、観る側も初に入り込みやすくなったのかな。
柴﨑 初はあまりかわいくないシーンのときに周りから「かわいいよ」と言われて、それってすごくいいことだと思いました。どんなときでも「かわいい」と言ってもらえるのは、女の子からしたらうれしいことだろうなって。
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今回も“ワールド・イズ・マイン”を表現(柴﨑)
2019年7月3日更新
私バカだよね、
どうしても空っぽになっちゃう