こがけんが語るAmazon Original映画「HOMESTAY」|大人・子供問わずに観てほしい、心にさわやかな風を送るヒューマンドラマ

Amazon Original映画「HOMESTAY(ホームステイ)」がAmazon Prime Videoで配信中。森絵都の小説「カラフル」をもとにした本作は、死んだ高校生・小林真の体に“ホームステイ”することになった主人公・シロが、真が死んだ原因を100日以内で探る姿が描かれる青春ドラマ。「ジオラマボーイ・パノラマガール」の瀬田なつきが監督を務め、長尾謙杜(なにわ男子)がシロ / 真を演じたほか、山田杏奈が真の幼なじみ・藤枝晶役、八木莉可子が憧れの先輩・高坂美月役で出演した。

映画ナタリーでは、映画好きとして知られるお笑い芸人・こがけんに本作のヒューマンドラマとしての魅力を紹介してもらった。「すべてに意図があるからすごい」と語るこがけん。そして彼が“あるある”で再現したくなる劇中のワンシーンとは?

取材・文 / 小林千絵撮影 / 曽我美芽

すべてに意図があるからすごい

──洋画好きのイメージが強いこがけんさんですが、邦画もご覧になりますか?

もちろん観ますが、確かに圧倒的に洋画のほうが多いですね。洋画も邦画もSFやファンタジーが好きで、邦画だったら大林宣彦監督の作品はよく観ます。中でも「さびしんぼう」はDVDも持っているのですが、Amazon Prime Videoで定期的に観ています(笑)。恋愛ベースなのに思いっきりファンタジーという、あの世界観がいいんですよね。

──その点で言うと「HOMESTAY」は好みに近かったのではないでしょうか?

こがけん

はい、めちゃめちゃ好みでした。冒頭から「はいはいはい、ありがとうございます!」って(笑)。原作も読んでいなくて、過去に映像化されたものも観ていなくて、まったく内容を知らない状態だったので、新鮮に楽しめました。

──特にどんな点を楽しめましたか?

あの……ちょっと感想を一気に話していいですか?

──もちろんです。

まずね、ネタバレしないで感想を話すお仕事なのが地獄だなと思いました(笑)。鑑賞後のトークイベントだったらどれだけよかったか!

──すみません(笑)。

「HOMESTAY」より、濱田岳演じる管理人。

それくらい緻密に作られていて、素晴らしい映画で。あらすじとしては、主人公は“シロ”という、もうすでに死後の世界にいる魂。突如現れた“管理人”と名乗る謎の存在によって、死後の世界から100日間だけ、同時期に死んだ見知らぬ高校生・小林真の体に“ホームステイ”して蘇生することを言い渡されるんです。そして、もしその間に真が死んだ理由を探し出せれば、転生できるという設定。これ「めちゃくちゃ違和感あるな」というのが僕の最初の印象でした。死んだ本人が生き直すんだったらわかるんですよ、そういう映画はこれまでにたくさんありますし。でもこの映画はそうじゃない。当然シロも「課題をクリアしたら転生させてやる」と言われたところで、すぐに「よっしゃ! がんばろう」とはならない。そりゃそうですよね。強制的に“他人”としての100日間の暮らしが始まって、困惑の方が勝つ。ただ、この違和感にはちゃんと意味がありました。だから初っ端で多少疑問が湧いたとしても、必ず最後まで完走してほしい作品ですね。

──違和感はすべて意図的であったと。

はい。この作品はすべてに意図があるからすごいんですよ。最初のうち、主人公のシロと観客の視点はほぼ重なっていると思うんです。シロは小林真の人生を急遽途中から生きることになるけれど、真がどんな人間かをまったく知らない。その点は観客も同じ。だからこそ、真として生きるシロ(以下“シロ in 真”)に観客は自分を重ね、感情移入できるんです。ただ何者かの魂であったシロにはやはりシロなりの自我があって、真として生きていく中でシロ自身の感情が表に出てくるわけですよ。しかしそうなると、急に感情移入が難しくなってしまうんです。例えば“シロ in 真”が真の身に起こったつらい出来事を知り、真に感情移入するあまりに真として家族に怒りの感情を向けても、「いやいや、そこはシロが怒るところじゃないし。しかも真本人が怒ったことになっちゃってるし……」と、どこか“シロ in 真”の感情に乗りきれなくなるんです。そりゃそうです。観客である僕らは、そもそも小林真という人物以前にシロ自身のことを何も知らないんです。“シロ in 真”が自らの感情に正直になればなるほど、「いや、あなたそもそも誰?」と疑問が湧いてきて、観客との心の距離が離れてしまうんですね。ここまで言うとマイナスプロモーションに聞こえるかもしれないんですけど、安心してください。この作品が素晴らしいのは、それすらも意図された演出ということなんです。それに気付いた瞬間、マジでこの作品すごいな、と……。一度観客と乖離させるって、なかなかない演出ですよ。

──だからこそ、たくさん映画を観ているこがけんさんをもワクワクさせるんでしょうね。

とにかく緻密な演出が貫徹されていて、すべてがつながるラストは爽快です。そして主演の長尾(謙杜)くんの演技がめちゃくちゃよくて。シロという名の通り、まっさらで汚れのない“白”を全身で表現できているなと。観ている僕らは生前のシロのことをまったく知らないけれど、「確かに無垢な魂が急に学生生活に飛び込むと人ってこんなふうになるかもな……」と思わせる何かを演じきれていることは単純にすごいなと思いましたね。あと、何よりも言いたいのは……僕はこの映画でもっとも大事なことは“気付き”だと思っていて。

──“気付き”ですか。

個人的な話になってしまうのですが、僕、小学校2年生のときに親が離婚して。そういうヘビーな内容って友達と共有できないから、子供の頃から孤独を感じることが多かったんです。そんなときに映画「スタンド・バイ・ミー」を観て、「いい話だけど、僕にはこんなに素晴らしい友人がいない」と思って余計に孤独が深まったんです(笑)。真に受けちゃったんですね。今思えば、リヴァー・フェニックスが演じたクリス・チェンバーズみたいな存在を心の中に住まわせるぐらいの気持ちで生きていけばよかったなあと思いますが、当時はそんな気持ちの余裕がなかった。そういう意味で、映画作品との距離感って大事だな、という気持ちは常にあって。「HOMESTAY」も人の生き死にを扱うという意味ではヘビーな側面があって、観る側の作品との距離の取り方は重要になってくる気がします。本作のワクワクするようなファンタジーな不思議設定は、そうした重くなりがちなテーマをエンタメに昇華するための仕掛けとしての一面もあると思うんですね。物語が進むにつれ、真と家族の関係性がうまくいってなかったことが明らかになります。リアルの世界で、家族とうまくいっていない人はたくさんいるし、中には家族に愛されていない人もいます。僕自身、現実は映画の中のようにはキレイにまとまらないことのほうが圧倒的に多いことも知っています。だからこそ本作では、わかりやすくまとめられたメッセージというよりも、作品全体で表現されている核の部分──先入観やしがらみを捨て視点を変えて世界を見渡せば、意外とカラフルな世界が広がっているかもしれないという“気付き”の部分が伝わるといいなと思っています。老婆心ながら……(笑)。

──学生時代のこがけんさんは、いつ“気付き”を得たのでしょうか?

こがけん

僕、“中学デビュー”したんです。小学生のときはかなりおとなしい少年だったのに、それが嫌で中学生になったときに急にキャラ変にトライしました。でも一応受験はあるもののエスカレーター式の学校に通っていたので、周りの環境はほとんど変わらないという点では悪条件。思いきった一か八かの賭けでしたね。結果的に変な目で見られてイジメられる最悪の未来も想像していた。けれど実際は……誰もキャラ変したことに気が付かなかった(笑)。そのときにこう思ったんです。「だったら、これからは人にどう思われるかを気にせずに、好きなことをやろう」って。それが僕の“気付き”でした。“そもそも人って他人のことにさほど関心がない”という事実に救われたんです。「キャラ変したら、きっと変な目で見られる」という心配は、実際に飛び込んでみたら単なる取り越し苦労でしかなかったんですね。本作の真のように、自分が背負っているもの、もしくは周囲から背負わされているものに悩まされている人も多いと思います。そして思い悩んで不安や心配が募るほど、解決するための行動力が鈍するのも事実です。ただ“背負っている・背負わされている”と思うものの中には、あなた自身がそう思い込んでいるだけのものもあるかもしれない。そうやって視点をズラすことで得られる“気付き”を斬新な方法で描いた「HOMESTAY」は、塞ぎ込んだ心にさわやかな風を送り込んで換気してくれるような作品だと思います。

温かいメッセージがある作品

──ちなみに、“ハリウッド映画あるある”でおなじみのこがけんさんですが、この映画の中で再現するとしたらどのシーンにしますか?

それは1つしかありません。本作の“管理人”という謎のキャラクターはあらゆる人間の体を借りることができるのですが、その管理人に体を借りられた人が、管理人が去ったあと元の人物に戻る瞬間。あれはやりたくなりますね。

──“あるある”などで再現したくなるシーンというのはどういう場面なのでしょうか?

映画、映像作品ならではの表現ですね。あの人物の中身だけが入れ替わる“境目”の演技の感じはゾクゾクします。文字で読んでいたら別にスルーしちゃうシーンだと思うんです。しかも現実には絶対にないシチュエーションなのもいい。たぶん、あの場面だけをひたすら何度もやると思います(笑)。

──劇中では、シロが真の体に“ホームステイ”しましたが、こがけんさんがもし自分以外の誰かの体に“ホームステイ”できるなら、誰のところに行きますか?

うーん……まず、自分はあんなふうにはなれないなあと思うほど憧れている人のところだと大変ですよね。例えば僕が高田純次さんにホームステイしたら、乗りこなせないと思うんですよ。身体的に高田純次さんのポテンシャルを持ってはいるから“高田ダンス”とかは踊りやすいんでしょうけど。実際にあんないい加減なことを言い続けられるか?っていうと無理ですよね……。だから、ホームステイするなら猫とかですかね。でもできればホームステイしたくない……(笑)。

──本作は日本初のAmazon Original映画です。洋画好きのこがけんさんから見て、海外の映画ファンに本作はどのように観られると思いますか?

日本初!? そうなんですか! すげー! ヒットしてほしいですね。入り口の設定で違和感があると言いましたけど、その独特の飛び方こそが本作ならではの魅力でもありますから。あと、映画のビジュアルや「HOMESTAY」というタイトルから、中身がこんな話だとは想像が付かないから、つかみもめっちゃいいですしね。

──「HOMESTAY」の魅力をたっぷりと語っていただきましたが、特にこの映画をお薦めしたいのはどんな方でしょうか?

もちろん大人・子供問わずどの世代の方にも観てもらいたいです。ただ、子供といっても中学生以上ですかね。特に学生さんがいいのかもしれません。僕もそうでしたけど、学生のときって目の前に広がる世界がすべてなんです。つらいことがあったら「それがずっと続くかもしれない」と思ってしまう。でも、そうじゃないんだよという温かいメッセージがこの作品にはあります。あ、あと、観るときは友達と観るのもいいけど、1人で観るのもいいと思いましたね。観る人のパーソナルな部分に訴える側面が強い作品だと思うので。そういう点で、この映画がAmazon Prime Videoで配信されるというのもすごくいいと思っています。2回、3回と何度も観ることで、ちりばめられた伏線を探すのも楽しいですね。

こがけん

※記事初出時より本文の一部表現を修正しました。お詫びして訂正いたします。

こがけん
1979年2月14日生まれ、福岡県出身。コンビでの活動を経てピン芸人となり、バラエティ番組で披露した“細かすぎて伝わらないモノマネ”で話題に。2019年に「R-1ぐらんぷり」の決勝に進出した。同年、おいでやす小田とのピン芸人ユニット・おいでやすこがを結成し「M-1グランプリ」に出場。2020年には決勝進出を果たし、準優勝を飾った。映画出演作は「イソップの思うツボ」「劇場版ほんとうにあった怖い話~事故物件芸人2~」。

2022年2月15日更新