「この小さな手」が、4月8日より全国で順次公開される。
原作・郷田マモラ、作画・吉田浩による同名マンガを中田博之が映画化した本作は、娘に関心がなかった父親を主人公とした物語。子育てに関わってこなかったイラストレーターの和真を武田航平、児童養護施設に引き取られる娘・ひなを佐藤恋和、突然事故に遭い入院した妻・小百合を安藤聖が演じた。劇中では、和真が娘との絆を取り戻そうと奮闘する姿が描かれる。
映画ナタリーでは主演を務める武田にインタビューを実施。彼がどのように和真という人間を捉えたか、またこの映画を通して伝えたいことを語ってもらった。
取材・文 / 尾崎南撮影 / 梁瀬玉実
残酷に見えるけど、日常に転がっている
──「この小さな手」出演のお話を聞いた際の心境を教えてください。
父親としてしっかりと子供に向き合う役は初めてでしたし、以前から中田(博之)監督とのご縁があったので、ぜひやらせていただきたいと思い挑戦しました。ただ、和真は“いい父親”なのかというと、そういうわけではない。役を理解することが難しいだろうと思いました。
──原作マンガの印象はいかがでしたか?
僕自身はすごく家族や友達が大切なので、家庭や子供に対して愛情をうまく表現できないという部分がピンと来ないというか……。自分にも姪っ子がいるので、最初は和真の気持ちを理解することが難しかったです。なので原作は「こういう人もいるんだな」と思いながら読みましたね。また、マンガのディテールを再現するよりは、物語のテーマに対して直接向き合おうと思いました。
──共感できない部分がある中で、どのように和真というキャラクターを捉えていったのでしょうか。
和真は絵を描く才能にものすごく長けているけど、子育てや家族と向き合うことが苦手な人。なぜかといったら、絵を描くことは自己表現の1つじゃないですか。僕ら俳優もそうですけど、それでお金をいただくことって、ものすごくハードルが高くて難しいことだと思うんです。和真は一生懸命に仕事をしていたら、家庭が見えなくなってしまった。“育児放棄”という言葉だけを捉えると痛烈ですが、誰にでも起こりうることだと思うんですよね。要は「自分が取り組んでいることが認められない、悔しい」「子育てをする場合じゃないんだ、家族のためにやっているんだ」という和真の気持ちを考えることで、理解ができるようになりました。
──劇中では、和真が家族に背を向けてイラストに没頭するシーンがありましたね。
そうですね。すごくつらいシーンですけど、日常にありがちじゃないですか? 「一生懸命やっているのに、なんでわかってくれないんだ!」という人間のエゴといいますか。残酷に見えるけど、日常に転がっているんじゃないかなって。自分のそばにも意外とそういうことってあるかもしれないと思いました。
──では武田さんにも、和真の心情に共感できる部分があったのでしょうか。
もちろん最初は(和真に)「何やってんだよ」って思いましたけど(笑)。みんな意外と、苦手なことや臭いものにふたをしがちじゃないですか。この物語って、それと向き合うことを描いていると思うんです。だから僕にも共感できる部分があるし、心がチクッとする。和真に対して、観る人がそれぞれ何かを当てはめたら、変わることもあるのではないかと思います。
──和真のように、武田さんにもダメな自分に負けそうになるときはありますか?
たくさんあります。人の才能に嫉妬してしまったり、人の環境をうらやましく思ったり……。でも、自分は自分だし、自分で選んだ道だから自分らしくいようと思ったときは、好きな音楽や言葉を思い出して、立ち上がろうとしますね。いい意味で負けを認めたり、今の自分じゃできないこと、弱い自分を認めるようにしています。
監督からの演出は「イケメンで映らないでくれ」
──児童養護施設についてリサーチするなど、役作りでされたことはありますか?
この映画の話をいただく前ですが、「仮面ライダービルド」で共演した栄信に、「友達が児童養護施設の職員をやっているから子供たちに何かできないかな?」と言われたことがあって。そのときに自分の主役映画の舞台挨拶に子供たちを呼ぼうと思い立ちました。職員さんとお話をしたら「子供たちと遊んで、児童養護施設の現状を見てもらいたい」と言ってくださって、何年か前に一度行かせていただいたんです。それからは、毎年クリスマスカードを送ることくらいしかできていないんですが、今回の映画にあたって、現状を見させていただいた経験や知識がアドバンテージになったと思います。機会を与えてくださった方に感謝していますね。
──和真を演じるうえで、監督の中田博之さんからはどのような演出がありましたか?
「イケメンで映らないでくれ」と言われました(笑)。実際に試写を観たとき「(見た目が)ひどいことになってるな……」と思いましたよ(笑)。でもそれでよくて、決して“かっこいい武田航平”はいらないし、中田監督は背中を押してくれました。もともと自分は、「どう映っているか」を気にしないタイプなんですけど、いつもよりもっと気にしないで演じました。津田(寛治)さんが「全編通して表情がよかったね、すごかったよ」と言ってくださったのがうれしかったです。
──“かっこよく見せない”というのは、とても難しそうです。
僕は姿勢を意識します。例えば自信がある人はスッと(胸を張って)立ちますよね。そういう姿勢でいると、心と体はつながっているからおのずとマインドも自信が出てくる。そういったところは演じるうえで意識していますね。和真も自信がないときは、ひなちゃんをおびえるような目で見ていたり、シーンによって差が出ているので面白いです。
──この映画では、これまでの武田さんと違った印象を受ける観客がいるかもしれませんね。新しい役を演じる際に心がけていることはありますか?
「役作りってなんだろう」と考えると、その人を知ること、寄り添うことだと思うんです。セリフを繰り返すことによって、体に染みついてきたり、その人に寄り添うことができるので、脚本を信じて読み込みます。監督の言葉や自分の感覚を信じて、今回だったら「こういう和真でいてみよう」と考えますね。人物と向き合うことで、その役が作り上げられていくと思います。
──ひな役の佐藤恋和ちゃんとはどのように仲良くなりましたか?
れんちゃん(佐藤)は僕のことを、いとこのお兄ちゃんという感覚で見ていたみたいで、そういう距離感がよかったのかなって思いますね。“こうちゃん!”って言って、懐いてくれました。僕にチョコとかお菓子をくれるんですよね。彼女なりに僕に一生懸命アピールしてくれるところが毎日かわいかったです。現場移動のとき、僕は自分の車で行くんですが、「こうちゃんの車に乗って行く!」って言ってました(笑)。
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目をそらしがちなことに向き合っていく物語