アジアの映像コンテンツ見本市として、東京国際映画祭の期間中に毎年併催される「TIFFCOM」。今年10月30日から11月1日にかけて開催された「TIFFCOM 2024」には中国、台湾、韓国、タイ、イタリアなど42の国と地域が参加し、世界各地の業界間の交流が行われた。
本特集では「TIFFCOM 2024」内で大規模に行われた「Hong Kong Films @ Tokyo 2024」を現地取材し、香港貿易発展局の主催により初出展された「香港パビリオン」の概況をレポート。最新の香港映画を紹介するとともに、業界の動向について語られた2つの特別セミナーの模様もお届けする。セミナーに登壇した“レジェンド俳優”サモ・ハン、アクション俳優・倉田保昭、アクション監督・谷垣健治の独占インタビューもお見逃しなく。「カンフー映画だけではない、進化を続けている」という香港映画の現状、そして未来とは?
取材・文 / 岡大(P1・P3インタビュー)、金須晶子(その他)撮影 / 西村満(P3インタビュー)
東京国際映画祭と言えば、ドレスアップした映画スターたちがレッドカーペットを彩り、新作映画が連日上映されるという華やかなイメージだが、別会場で同時開催される国際コンテンツ見本市がTIFFCOMだ。映画、テレビ、アニメなどを中心とした多彩なコンテンツホルダーが一堂に会し、アジア諸国だけでなく、世界各国から有力なバイヤーが来場。近年では完成したコンテンツの売買のみならず、IP(知的財産) / リメイク権、共同制作、ローカライズ、資金調達 / 出資、ロケ地などを扱う出展者も増加し、映像エンタテインメントの商談の場として成果を上げている。
カンフーだけじゃない、どんどん進化している香港映画
TIFFCOM 2024では、香港貿易発展局がスポンサーになり「香港パビリオン」が初めて設立された。香港の映画配給・製作会社が多数集結し、香港ならではの独創性が光る映像作品やクリエイティブサービスを紹介。ここから国際市場でのビジネスチャンスが創出され、新たな交流が生まれていくのだ。
1966年に設立された香港貿易発展局(HKTDC)は、香港の貿易促進、支援、発展を担う公的機関。世界50カ所に事務所を構え(日本は東京と大阪の2カ所)、グローバルな投資やビジネスの拠点となるよう尽力している。クリエイティブ業界の盛り上げにも寄与しており、香港貿易発展局の日本首席代表ベンジャミン・ヤウ氏は「ジャッキー・チェンやブルース・リーで知られる往年のカンフー映画や、ヒット作を多数生み出してきた警察映画だけではなく、近年では社会問題を題材とした作品、友情、愛情、家族の絆をテーマにしたヒューマンドラマ、あるいは香港という都市の時代の潮流を描く作品など、ジャンルが多様化しています。中国本土との合作プロジェクトも増えたり、どんどん進化していると感じます」と香港映画界の現在を前向きに分析する。
香港と日本の相乗効果に期待
今回「香港パビリオン」にブースを出展した企業は、映画配給・製作に携わる卡布影業(Cappu Films Limited)、香港電影發展局(Hong Kong Film Development Council / Cultural and Creative Industries Development Agency)、テクノロジー企業の米特元宇宙有限公司(Metason Limited)など計12社。いずれの企業も日本市場への関心が高く、日本の脚本家やプロデューサーと一緒に仕事をしたいと共同製作に意欲的な企業もあれば、香港の特色を全面に出したコンテンツを日本市場に広めたい企業もある。
香港側から見て、日本と組むことで得られるメリットとは? ベンジャミン・ヤウ氏は「まず香港人は日本が大好きです」と切り出した。事実、人口約750万人の香港において、2024年1月から9月の訪日香港人は197万人を超える。日本の食文化も大衆に好まれ、2023年の日本から香港への農水産物の輸出額は2365億円にも上る。エンタテインメント全般においても同様で、多くの人が子供の頃から日本のアニメ、ドラマ、映画を観て育つため、日本のカルチャーになじみ深い土壌があるという。そのような背景を踏まえ、ベンジャミン・ヤウ氏は「ぜひ香港と日本の文化を融合させた合作の機会を増やしたい。香港はロケーションが魅力的な都市ですし、日本には春夏秋冬という特別な景色がありますね。映画製作者たちはそういった相乗効果を求めていると思います。香港と日本の役者のケミストリーにも期待したいです」と説明。「昔の香港映画はカンフーしかありませんでしたが(笑)、今の進化した香港映画も日本の観客の皆さんに再認識していただきたい。そしてこの場限りではなく、香港と日本の映画業界の交流を続けていきたい」と「香港パビリオン」の意義を強調した。
アジア最大級のコンテンツマーケットも開催
香港貿易発展局は、アジア最大級の映像コンテンツ見本市・香港フィルマートを毎年3月に開催している。今年は50の国と地域から7500名以上が来場し、約760社・団体が出展。日本からも東宝、松竹、東映、KADOKAWAといった映画会社、TBS、日本テレビ、テレビ朝日といったテレビ局などが参加した。世界50カ所の拠点を持つ同局が主催するからこそ、国際色豊かな企業を誘致でき、世界中にコネクションを広げていける。ベンジャミン・ヤウ氏は「香港政府は物流や金融といった業界にとどまらず、クリエイティブにおいても人材育成に力を入れています。こういったコンテンツマーケットに参加するのが初めての人にとって、香港フィルマートは参加しやすく、デビューの場にふさわしいのでは。ぜひ日本の企業や自治体の皆様にも、香港フィルマートを活用していただきたいです」と呼びかけた。
「トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦」(原題:九龍城寨之圍城)
製作会社:寰亞電影(Media Asia Film Distribution (HK) Ltd.)
2024年5月に香港で封切られ、広東語映画の歴代動員数1位を塗り替える大ヒット作に。製作費の1/6とも言われる5000万香港ドルを掛けて制作された九龍城砦のセットも、その再現度の高さが大きな話題を呼んでいる。舞台は1980年代香港。マフィアとのトラブルにより、治外法権であった九龍城砦へ流れてきた不法移民のチャンは、そこで3人の男たちと兄弟の契りを交わす。生まれて初めて居場所を見つけたチャンだったが、やがて九龍城砦をめぐる激しい戦いに巻き込まれていく。ソイ・チェン(鄭保瑞)が監督を務め、ルイス・クー(古天樂)、サモ・ハン(洪金寶)、レイモンド・ラム(林峯)、リッチー・レン(任賢齊)らが出演した。日本では2025年1月17日に東京・新宿バルト9ほか全国で公開。
「ラスト・ダンス」(原題:破.地獄)
製作会社:英皇電影(Emperor Motion Pictures)
香港の映画・テレビ業界で脚本家として名を馳せるアンセルム・チャン・ムー・イン(陳茂賢)による3作目の監督作品。パンデミックの影響で仕事が立ち行かなくなり、借金を抱えたウェディングプランナーのドミニクは、不本意ながら葬儀社に転職する。最初は厳格で伝統的な道教の僧侶マスター・マンとしばしば衝突するが、やがて仕事を通して生と死の意味を理解するようになる。2023年に香港で大ヒットした「毒舌弁護人~正義への戦い~」のダヨ・ウォン(黃子華)が主演し、「Mr.Boo!」シリーズのマイケル・ホイ(許冠文)がマンに扮した。
ほかにも……
アンソニー・ウォン(黄秋生)やルイーザ・ソー(蘇玉華)が出演し、人の本性の奥底にある善と悪について探求する「赦されぬ罪」、新世代の監督オリバー・チャン・シウ・クエン(陳小娟)が現代女性の育児の難しさを描いた「母性のモンタージュ」、実際に起きた社会事件を題材としたラウ・チンワン(劉青雲)とジョー・コク(谷祖琳)の共演作「お父さん」も東京国際映画祭で披露された。