映画「鋼の錬金術師」が12月1日に全国で公開された。全世界でのシリーズ累計発行部数が7000万部を超える荒川弘によるマンガを、「ピンポン」の曽利文彦がVFXを駆使して実写化した本作。山田涼介(Hey! Say! JUMP)が主人公のエドを演じ、本田翼、ディーン・フジオカ、蓮佛美沙子、本郷奏多、大泉洋、佐藤隆太、松雪泰子らがキャストに名を連ねた。
今回の特集では、アルをはじめとする劇中のCGを制作した会社OXYBOTに潜入。同社の取締役を務める曽利が「外にはほとんど見せたことがない」と語る内部を写真で捉えた。また曽利に対するインタビューを通し、キャラクタービジュアルを作り上げた過程や主演を務めた山田の魅力に迫る。
取材・文 / 小澤康平 撮影 / 佐藤友昭
日本の映像技術は「鋼の錬金術師」を実写化できるレベルに到達した
──濃厚な人間ドラマがVFXたっぷりに描かれている本作ですが、まずは実写映画化することになった経緯を教えていただけますか。
15年くらい前の連載開始当初から興味深い内容だなと思っており、読ませていただいてました。アクションが派手だし、当時の技術では実写化は不可能だと感じていたんです。それからテレビアニメ化され一層人気が出て、ハリウッドで映画化されるのかなと思っていた一方で、もし日本でできるならやってみたいという気持ちもありました。
──なるほど。映画化が現実味を帯びてきたのはいつ頃のことですか?
約10年前に企画としてリアリティが出てきて、5年ほど前からスクウェア・エニックスさんにアプローチを開始しました。それで3年くらい前に映画化のGOをいただいて。日本における映像技術の進化のスピードってものすごくて、「鋼の錬金術師」を実写化できるレベルに達しつつあるというのもあったと思います。決まったときは本当にうれしかったですが、人気マンガ作品ということでプレッシャーもありました。
──具体的にどんな不安があったんでしょう。
CGを使用した実写作品という自分の得意分野だけに、絶対に失敗できないなと。「ピンポン」では、人の腕だったりピンポン玉はCGで描いたんですけど、今作ほどCGを全面に打ち出す作品は初めてだったんです。それに、映像表現以上に、人間ドラマをしっかり描くことが重要な作品でしたので。
──映像のクオリティが高いだけの作品では終わらせたくなかったということですね。
そうです。アクションが先行しているとか、ビジュアルだけの企画ってけっこうあるんですよ。でもそういったものにはやっぱり気持ち的に乗れなくて。自分の企画として立ち上げたのは「ピンポン」以来だったので、気合いの入り方が半端じゃなかったです。
核にすべきは人間の強さ。少年マンガなのに、少年に厳しい天罰が下る
──原作マンガのどういったところに惹かれたんでしょうか。
何よりもストーリーが素晴らしいですよね。子供のエドとアルは母親が恋しくて禁忌である人体錬成に挑むわけですけど、それに対しての天罰が容赦ない。少年マンガなのに、少年に対して厳しい天罰が下るのが珍しいと思いました。
──人体錬成の結果、エドは左脚、アルは身体のすべてを代価として失いますもんね。
自然の摂理というか、世の中の真実をオブラートに包んでいないところが衝撃的で。そんな苦境に立たされた2人が、めげずに芯を持って行動しているところもまた魅力ですよね。映画を作るときも、人間の強さというのは物語の核にすべきだと思っていました。
──原作者の荒川(弘)先生の反応はいかがでしたか?
試写が終わって場内から出ていらっしゃったとき、満面の笑顔でした。映画化の話をさせていただいたときはクールな印象だったので、その素敵な笑顔を見て本当にホッとしましたね。もし険しい顔だったら背筋が凍りますよ(笑)。
──それは想像したくないですね(笑)。荒川先生から「ここだけは守ってほしい」というような要望はあったんでしょうか。
まったくなかったです。マンガ原作者の方の中には、ご自身の作品に他人が踏み込んで来ることに拒否反応を示す方もいると思うんですよ。というかそれが当たり前のことだと思うんですけど、荒川先生は本当に心の広い方で。自分の作品に自信があることの裏返しでもあるかもしれないんですが、「自由にやってください」と。先生に満足していただけるようがんばらないといけないという気持ちと、好きにしていい分ひどいことになったとき言い訳ができないなというプレッシャーがありました。
──荒川先生は撮影現場へ遊びにも行ったと聞きました。
一度来ていただきましたね。スタッフ・キャスト一同先生のファンなので、そのときは現場が沸き返って。みんな緊張でそわそわしていて、「ちゃんと仕事しようよ」って感じでした(笑)。
──現場を見た荒川先生の反応はいかがでしたか?
アシスタントの方たちと一緒にいらしていたんですが、セットの細かい部分を見て「ここの塗りいいですね!」みたいなことをおっしゃっていて。やっぱり絵を描く方なんだなと思いました。
原作の名場面を再現するだけの映画は面白くない
──それでは映画化にあたっての具体的なエピソードを伺っていければと思います。映画を観た荒川先生は「原作への寄り添い方とずらし方が絶妙で原作ファンの皆さんにも『こう来たか! こう来たか!』って、全編飽きることなく、楽しんで頂けると思います」とコメントしていますが(参照:「鋼の錬金術師」会見で山田涼介「エドは今までで一番難しい役」)、全27巻という原作マンガをどのように映画化しようと考えたのでしょう。
まず当然のことながらすべてを1本の映画にするのは無理だと思いました。しかしながら、最初から3部作にしようなど考えたわけではなくて、単純に2時間に詰め込むのが不可能だから、全体の1/3くらいを消化する形で1本にまとめようと。原作の物語が濃い分、それでも1本の映画としてカタルシスのあるものに仕上げられると考えました。
──確かに登場人物も原作より少なめになっています。
泣く泣く絞った感じです。素晴らしいキャラクターが多いので本当はもっと出したかったんですが、実写化したときに違和感が多いであろうキャラクターもいて。まずはリアルに近いキャラクターに出てもらうことにしました。
──ストーリーも原作とは異なっている部分がありますね。これは何か意図があったのでしょうか?
原作を踏襲することはもちろん大事なんですが、マンガをそのまま再現するだけではなかなか面白い映画にならないと思います。だから名場面を再現するだけの映画にはしたくなかった。原作ファンの方も全部知っている展開の映画を観るより、「なるほど。こう来たか」と新しさを感じるものを観るほうが楽しいと思います。
──なるほど。ただ原作マンガのファンを納得させると同時に、原作を知らない人にも楽しんでもらう必要がありますよね。
そう、それが大変でした。ストーリーを構築するときに、原作ファンと知らない人たちの2つを分けて考えたんです。別々に構築したストーリーをシンクロさせるように紡いでいったと言えるかもしれません。
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山田くんは原作ファンだからこそエドをどう作るべきかわかっていた
- 「鋼の錬金術師」
- 2017年12月1日(金)全国公開
- あらすじ
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幼い頃に最愛の母親を亡くした兄エドと弟アル。彼らは母親を生き返らせるため、錬金術における最大の禁忌(タブー)・人体錬成に挑んだ。しかし錬成は失敗に終わり、エドは左脚を、アルは身体のすべてを代価として失ってしまう。瀕死のエドはとっさに再錬成を行い、自分の右腕と引き換えにアルの魂を鎧に定着させることに成功した。それから数年後、鋼鉄の義肢を装着し国家錬金術師となったエドは、奪われたすべてを取り戻すためにアルと旅を続けている。
- スタッフ
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- 監督:曽利文彦
- 原作:荒川弘「鋼の錬金術師」(「ガンガンコミックス」スクウェア・エニックス刊)
- キャスト
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- エド:山田涼介
- ウィンリィ:本田翼
- マスタング:ディーン・フジオカ
- ホークアイ:蓮佛美沙子
- エンヴィー:本郷奏多
- マルコー:國村隼
- コーネロ:石丸謙二郎
- グレイシア・ヒューズ:原田夏希
- グラトニー:内山信二
- ロス:夏菜
- タッカー:大泉洋(特別出演)
- マース・ヒューズ:佐藤隆太
- ハクロ:小日向文世
- ラスト:松雪泰子
原作第1話の試し読みはこちらから
©2017 荒川弘/SQUARE ENIX ©2017映画「鋼の錬金術師」製作委員会
映画「鋼の錬金術師」公開記念
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プレゼント
映画オリジナル・クラッチバック 10名様
期間
11/27(月)~12/11(月)
- 曽利文彦(ソリフミヒコ)
- 1964年5月17日生まれ、大阪府出身。USC(南カリフォルニア大学)映画学科在学中、1997年公開作「タイタニック」にCGアニメーターとして参加する。2002年に松本大洋のマンガを実写映画化した「ピンポン」で監督デビュー。その他の監督作品に、「座頭市」の主人公を女性に置き換えた「ICHI」、山下智久と伊勢谷友介の共演作「あしたのジョー」などがある。