映画ナタリー Power Push - 「極道大戦争」
三池崇史インタビュー 常識とジャンルの壁を超えた原点回帰作
感動作から時代劇、サバイバルホラーまでジャンルを問わず日本映画界の第一線を走り続け、国内外から熱い視線を集める三池崇史。監督デビューを果たしてから約四半世紀が経った2015年、「ヤクザ映画×ヴァンパイア映画」という奇想天外なオリジナル企画をもとに作り上げたエンタテインメント大作が「極道大戦争」だ。
映画ナタリーでは本作のBlu-ray / DVD発売を記念し、三池崇史にインタビューを実施。「自分たちが作りたいと思うものを作った」という「極道大戦争」に込めた思いや、“共犯者”と称する主演の市原隼人、意外な映画原体験などについて語ってもらった。
取材・文 / 平野彰 撮影 / 小原泰広
「これ誰も観ねえだろ」と思うようなものを撮る快感
──今回、ご自身の原点に戻られるという意図があったそうですが、具体的には映画監督・三池崇史の原点というのはどういうものだと思われますか?
最初から原点に帰ろうと思っていたわけじゃなくて、作っているうちにいつの間にかそうなっていたんです。何が原点かというと、観客のニーズにあわせるのではなく、自分たちが作りたいものを作っていくっていうことですね。今回は、提示された予算の中で好き勝手にやることができたんですよ。今、なかなかそういう機会がないんですよね。
──確かに、三池監督も原作ものを手がけられることが多いですね。
そうですね。「この企画はヒットしそうだからやる」っていう前提で、当たり障りなくできるだけ幅広い層に喜んでもらえるもの。つまりテレビで人気のある人たちと書店で人気のある原作をくっつけて、それぞれの個性をリスペクトして作っていく。例えばマンガなら、原作者が「ああ、描いてよかったな」って思うようなものにしたいなとやっぱり思うわけです。それはそれで面白いんですけど、そればかりやってると息が詰まるんですよね。でもオリジナル作品には、「これ誰も観ねえだろ」と思うようなものを撮れる快感があるというか(笑)。
──「極道大戦争」はヤクザ×ヴァンパイアという設定が基本にあるんですが、コメディでもありますし、最終的にはジャンルの壁を破壊するような作品になっています。これは最初から意図されていたんでしょうか?
脚本の段階からエスカレートしていって、現場でさらに加速したという感じですね。何本も作品を作っていくと、「映画とはこういうものなんじゃないか」とか、「いくらなんでもこの画はこのぐらいのクオリティで上げないと」とか、いつの間にかそういう常識みたいなものに縛られるようになっていく。自由を手に入れるために撮り始めたのに、いつのまにか映画そのものにぎゅっと閉じ込められてる気がして、窮屈なんですよね。
──本作で、そういう常識の縛りから自由になろうとされていたんでしょうか?
要は、解放するっていうことだと思うんですよ。この映画の登場人物にしたって、みんな仕方なくヤクザになっていくんだけど、どうもそのほうが生き生きしてるように見える。で、解放された結果どうなっていくんだっていう怖い話なんですよ。その中で主人公は自分が倒したいと思う人間と戦っていくんだけど、彼がアウトローであることと同じように、映画もどんどんありきたりのストーリーから外れていく。普段アニメを観てる小学生が観たら、「なんだこれ」と思いますよ。「大人って何やってもいいの? 理不尽だ、理屈にあわない」って。でも、映画って本来そういうものなんじゃないかな。
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「極道大戦争」
ストーリー
敏感肌を持つ半端者のヤクザ・影山亜喜良は、カタギの人々からも慕われる組長・神浦玄洋に憧れて神浦組に入った。だがある日、神浦は突如街に現れた2人組・狂犬と伴天連の襲撃に遭遇し、駆け付けた影山とともに倒される。最期の力を振り絞り、影山の首に噛み付いて「我が血を受け継いで、ヤクザ・ヴァンパイアの道を行け!」と叫ぶ神浦。影山は超人的な力を身に付けて覚醒するが、噛んだ人間をヤクザ化させてしまう能力も継承してしまう。自身の変貌に苦悩しながらも、神浦の敵討ちを果たすため激闘を繰り広げる影山。しかし彼の敵は狂犬たちだけではなかった。世界最強の殺し屋・KAERUくんがやってきたのだ……。
監督:三池崇史
脚本:山口義高
主題歌:KNOCK OUT MONKEY「Bite」
出演:市原隼人、成海璃子、青柳翔、渋川清彦、ヤヤン・ルヒアン、ピエール瀧、でんでん、リリー・フランキー、高島礼子ほか
©2015 「極道大戦争」製作委員会
Blu-ray / DVD
- 「極道大戦争」2015年11月3日発売 / 発売元:日活 販売元:ハピネット
- プレミアム・エディション [Blu-ray Disc 2枚組] 5616円 / BIXJ-0211
- プレミアム・エディション [DVD 2枚組] 4536円 / BIBJ-2870
初回限定特典
オリジナルスリーブケース
音声特典
コメンタリー:三池崇史監督×市原隼人×でんでん×モルモット吉田(進行役)
映像特典
極道の現場~メイキング&インタビュー~ / イベント映像(三池崇史Presents大人だけの空間、ヒット祈願イベント、初日舞台挨拶、MX4Dイベント) / アニメ「極道酒場でんでん」 / 特報、劇場予告、TVスポット
三池崇史(ミイケタカシ)
1960年8月24日、大阪府八尾市出身。今村昌平、恩地日出夫に師事し、1991年にオリジナルビデオ「突風!ミニパト隊」で監督デビュー。1995年の「新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争」で劇場公開映画の初監督を務め、以来ジャンルを問わず多種多様な作品を次々に手がける。ヴェネツィア国際映画祭、カンヌ国際映画祭、ローマ国際映画祭のコンペティション部門に監督作が出品されるなど、その手腕を評価する声は日本国内にとどまらない。2016年のゴールデンウイークには伊藤英明、山下智久らが出演する「テラフォーマーズ」、2017年には木村拓哉が主演を務める「無限の住人」が公開される。