映画ナタリー Power Push - 「シン・ゴジラ」公開記念特集
塚本晋也、ゴジラを語る
7月29日に全国ロードショーとなる「シン・ゴジラ」。本作の公開を記念し、7月28日から29日にかけて日本映画専門チャンネルで特集放送が行われる。この特集では、著名人がゴジラシリーズの思い出を語る番組「ゴジラ ファーストインパクト」やゴジラシリーズ8作品、そして「シン・ゴジラ」の総監督・庵野秀明が手がけた実写映画がオンエアされる。
映画ナタリーでは、「シン・ゴジラ」で生物学者・間邦夫准教授役を務めた映画監督・塚本晋也にインタビューを実施。「シン・ゴジラ」本編を観終えた直後の塚本に、同作やゴジラシリーズの原体験を語ってもらった。
取材・文 / 秋葉萌実 撮影 / 佐藤友昭
怪獣や特撮作品は自分にとってかけがえのないもの
──子供の頃から特撮ものがお好きだったそうですが、ゴジラ作品とはいつ頃出会ったんでしょうか。
怪獣ものや特撮作品は、好きというのを超えて自分にとってかけがえのないものというか原体験に近いんです。実は子供の頃はゴジラよりもガメラシリーズを観ていたことのほうが多くて……。小学生の頃、通学路にガメラのポスターが貼られていたんですよ。渋谷小学校に原宿のほうから通っていたんですけど、渋谷の繁華街から登校する子たちの通学路にはゴジラのポスターが貼ってあって。ゴジラは黒いしちょっと大人なイメージがありましたね。
──実際にゴジラ作品をご覧になったときは、どのように感じました?
お正月にテレビで初代「ゴジラ」を観たときは、とてもリアルで怖かったです。黒い怪獣には核爆発の黒雲のようなイメージがあるんですが、その恐ろしさがにじみ出ていているような気がして。中学生になってから8mmフィルムで映画を撮り始めると、怪獣映画をどうしても作りたいという思いが生まれて、そうなるとやはり参考にすべきはゴジラになります。池袋の新文芸坐へ特集を観に行ったりしてゴジラシリーズを勉強し始めました。大がかりなものはもちろんすごいダイナミズムがありますし、少し低予算風だったものも、手が届くような気がしてワクワクしました。当時は「ゴジラ対メカゴジラ」が映画館でかかっていたのかな? 怪獣が沖縄に突然出てくるんですが、自分の進路を妨害する建物を倒すんじゃなくて1つだけ建ってるビルをわざわざ壊すんですよね。それを観て「1つだけか……」と思った記憶があります(笑)。ほかにもゴジラの写真集や特撮のタネ本を研究したりして、毎日ドキドキしながら8mm映画作りのことを考えていました。
怪獣への思いはいまだに強いものがある
──学生時代の作品といえば、中学2年生の頃に怪獣映画の脚本を200枚書いたそうですが……。
原稿用紙に200枚書いてみたはいいけれど、お話が多くて面白くない。怪獣も父親のパジャマをもらって改造しようとしましたが、うまくいかなくてあきらめました。結局水木しげるさんの「原始さん」という原始人が東京の街を壊していって原始時代に戻すという設定のマンガを映画にしたものが僕の処女作になりました。これですと裸ん坊の原始人がいればできますから。でも怪獣への思いはいまだに強いものがありますね。
──なるほど。「日常の中に怪物がいる感覚が好き」というお話も聞いたことがあります。
「エイリアン」みたいに非日常の空間に怪獣がいるっていうのもいいですけど、普通の日常空間に異物がいるという感覚が大好きだったんです。今、誠に遅ればせながら庵野秀明さんの「新世紀エヴァンゲリオン」を観ているんですけど、あの作品もそういうところがありますよね。人々が生活している空間に巨大な異物(使徒)とエヴァンゲリオンが出現して、ぶつかり合うという。あと画面に字幕が出たり、ドキュメンタリーみたいな臨場感たっぷりの演出が面白いなと思っています。
初代ゴジラの陰影はトラウマ
──これまでのゴジラシリーズでお気に入りの作品は?
やっぱり最初の「ゴジラ」の衝撃が強いですね。ゴジラのように黒い怪獣が都市に現れるのは、僕の世代の人はこたえられないものがあるんじゃないかな。もっとあとの作品になると、だんだん映像に工夫が凝らされていって。ゴジラが動く様子がビルのガラスに映ったりとか、そういうディテールに喜びを覚えました。あとは「ゴジラ対ヘドラ」も映画小僧だったときのお気に入りですね。ヘドラだったら、ほら、自分で作れそうじゃないですか。シーツを被せて、周りに何か垂らせばできそうだから、夢と希望を与えられるんですよ。「ヘドラが飛ぶところは小さいものを作って飛ばせばいいな、そうするといろんな姿のものを4個くらい作ればいいのかな」とか考えるのが楽しくて。中学生くらいの頃は公害が問題になっていましたし自分が作っていた8mm映画も公害怪獣ものだったので、ヘドラには強く共感しました。
──「ゴジラ対ヘドラ」はトラウマ映画として挙げる人も多いようですよ。
そうなんですか? トラウマという意味では、やはり初代ゴジラがそれにあたりますけどね。田舎って夜になると、山は空よりももっと暗く見えるじゃないですか。あの山の黒さに恐怖を感じるんですが、ゴジラはそういう見え方に近くて、陰影が非常に怖かったです。そういえば僕の「ヒルコ/妖怪ハンター」という作品は、松竹の映画なんですけど東宝のスタジオで撮っていたんです。だからゴジラシリーズのスタッフの方もけっこう参加してくださっていまして。今はなくなっちゃったけど、ゴジラが暴れていた大きなプールにヒルコを浮かべたり、ゴジラの息吹を感じながら撮影していた思い出がありますね。
ゴジラはある時期からフォルムが洗練されてきた
──では、ゴジラの造形についてもお話を伺えればと思います。作品によって形がかなり違いますよね。
最初のゴジラは体の内部から核エネルギーが噴き出して、それが形になったような雰囲気がありましたが、ある時期からフォルムが洗練されてきて頭が小さくてみんなに愛されるような造形になっていきましたね。僕も大好きです。昔、助監督からゴジラのフィギュアをもらったことがあって、大事に取っておきましたが、パーツが取れちゃったんですよ。なぜ!?って思うような部分が、あるときスパーン!と切れちゃってびっくりしました。
──ゴジラシリーズはご自身の作品に何か影響を与えましたか?
どうしても初代「ゴジラ」の話になっちゃうんですけど、リアルな場所に恐ろしい怪獣が現れる様子がモノクロで描かれているというのは、自分の根っこに植え付けられていますね。劇映画デビューした「鉄男」は日常空間に鉄が噴き出してくるという作品ですが、ゴジラシリーズや「ウルトラQ」で目にしたシュルレアリスムの要素がかなり入っている気がします。
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「24時間まるごと 祝!シン・ゴジラ」
日本映画専門チャンネル
7月28日(木)19:00~29日(金)22:00
庵野秀明が総監督を務める「シン・ゴジラ」が7月29日に封切られる。その公開を記念し、庵野がこれまでに手がけた実写5作品を連続放送。また「シン・ゴジラ」主演の長谷川博己、石原さとみ、芸能界屈指のゴジラファンとして知られる佐野史郎らゲスト10名が初めて鑑賞したゴジラ作品と、当時の思い出やエピソードを語る特別トーク番組「ゴジラ ファーストインパクト」全8回も一挙放送する。さらにゴジラ作品8本も放映され、その中にはシリーズで初めて全編4Kデジタルリマスターで送る「『キングコング対ゴジラ』<完全版>4Kデジタルリマスター」も含まれる。
庵野秀明実写映画 放送作品
「巨神兵東京に現わる 劇場版」
「式日」
「ラブ&ポップ<R-15>」
「キューティーハニー」
「流星課長」
©2012 Studio Ghibli
「ゴジラ ファーストインパクト」
日本映画専門チャンネル 毎週木曜 21:00~
8月までオンエアされる特別番組。ゴジラシリーズへの出演経験を持つ宇崎竜童、お笑いコンビ・ドランクドラゴンの塚地武雅ら計10名のゲストが初めて鑑賞したゴジラ作品と、鑑賞当時の思い出を語る。7月のゲストには篠原信一、山田五郎、ドランクドラゴン塚地武雅、「シン・ゴジラ」主演の長谷川博己、石原さとみらが並ぶ。
なお、抽選で555名に特製ゴジラTシャツが当たる「ゴジラ初体験記」投稿キャンペーンが7月31日まで特設サイトにて開催中だ。
「シン・ゴジラ」2016年7月29日より全国東宝系にて公開
東京湾アクアトンネルが、巨大な轟音とともに崩落する原因不明の事故が発生。首相官邸では閣僚たちによる緊急会議が開かれ「原因は地震や海底火山」という意見が多数を占める中、内閣官房副長官・矢口蘭堂(長谷川博己)だけが海中に棲む巨大生物による可能性を指摘する。内閣総理大臣補佐官の赤坂(竹野内豊)ら周囲の人間は矢口の意見を否定するも、その直後、海上に巨大不明生物の姿が露わになった。そして政府関係者が情報収集に追われる中、謎の巨大生物は鎌倉に上陸し、建造物を次々と破壊しながら街を進んでいく。この事態を受けて、政府は緊急対策本部を設置し自衛隊に防衛出動命令を発動し、米国国務省からは女性エージェントのカヨコ・アン・パタースン(石原さとみ)が派遣された。そして川崎市街にて、“ゴジラ”と名付けられたこの巨大生物と自衛隊との一大決戦の火蓋が切られた。果たして、日本人はゴジラにどう立ち向かっていくのか……。
スタッフ
総監督・脚本:庵野秀明
監督・特技監督:樋口真嗣
キャスト
矢口蘭堂:長谷川博己
赤坂秀樹:竹野内豊
カヨコ・アン・パタースン:石原さとみ
©2016 TOHO CO., LTD.
塚本晋也(ツカモトシンヤ)
1960年1月1日生まれ、東京都出身。1989年「鉄男」で劇場映画デビューし、以降は「東京フィスト」「BULLET BALLET/バレット・バレエ」「KOTOKO」など数々の監督作を発表。2015年には監督、主演、脚本、編集、撮影、製作の6役を務めた「野火」が公開され、第70回毎日映画コンクールの監督賞や男優主演賞などさまざまな映画賞を獲得した。8月3日には、監督作7本をBlu-ray化するシリーズ「SHINYA TSUKAMOTO Blu-ray SOLID COLLECTION」の最新作「六月の蛇」「ヴィタール」「HAZE(ヘイズ)/ 電柱小僧の冒険」がリリースされる。