映画ナタリー Power Push - 「シン・ゴジラ」公開記念特集
鈴木敏夫、庵野秀明を語る
気に入った、好きだという感情はいまだに変わらない
──鈴木さんご自身が最初に庵野監督の才能を感じたのはいつですか?
処女作にその才能は垣間見えると言うけど、(「風の谷のナウシカ」の)巨神兵を見たときじゃないですかね。粘り強くてすごいシーンになってたんで。その後公表していると思いますけど、実は「ナウシカ」の中に幻の絵コンテがあったんです。何かというと、巨神兵と王蟲(オーム)の戦い。これをやっぱりやりたかったといまだに言ってますからね。ついでだから言っちゃうと、彼はある時期、「ナウシカ」を自分で映像化したいとも言ってました。僕は面白いなと思ったんですよ。宮さんの作った「ナウシカ」はあるけど、庵野の作る「ナウシカ」ってどうなるんだろうと。「エヴァンゲリオン」の最初のテレビシリーズがすごく面白かったですけど、注目したのが、その(エヴァンゲリオンの)デザインですよね。巨神兵じゃんって(笑)。要するにトラウマになっていて、結局彼が何をやってるかっていうとね、「ナウシカ」のその後って感じでしょ?(笑) 僕はそう思いました。
──庵野監督の作る「ナウシカ」、すごく観てみたいです。
彼、「ナウシカ」好きなんですよね。さっきも言いましたけれど「エヴァ」って実は「ナウシカ」の続きを自分でやってるつもりだと思うんです。その本家本元をやりたいってことじゃないかなと僕は理解してるんですけどね。僕としては「やったら?」ですよ。真剣に宮さんに話して、宮さんからも「庵野がやるというならいいよ」って許可もらったのにあいつなかなか動かないの。
──鈴木さんは「ナウシカ」を3部作にして、2を庵野監督に、3を宮崎監督にという話をされていましたよね。
それは昔考えました。庵野とまだそういう話をしてないときに。「ナウシカ」という話は、映画のあとは殺戮に次ぐ殺戮なんです。そういうものを作ってもいいかなと思って、でもそれをまた宮さんがひっくり返すという。殺戮のほうに庵野がいいんじゃないかと思ったということです。
──宮崎監督の庵野監督評というのは、どのように変化していってるのでしょうか。
それは僕にはわからないけど、基本的に宮崎駿という人は、出会いから今日に至るまで庵野のことが好きですよね。だから本人が弟子と公言しているけれど、それ以前に宮崎駿は出会いのときから彼のことを気に入り、その好きだという感情はいまだに変わらない。それは実は僕の中にもあるんですけど。
ここまで赤裸々に語るかっていうぐらい、自分をさらけ出してる
──今回の特集放送は庵野監督の実写映画に限定したものになっていて、先ほど話に出た「式日」も放映されるんですが、鈴木さんは庵野監督の実写映画をどのように見られていますか?
あんまりちゃんとは観てないんですよね。でも、その中で自分が関わった「式日」はやっぱり強烈に覚えています。自伝映画だなと。映画を作って、「これは自伝です」とか「これは自分のことです」とか言う人多いでしょ? でも嘘ばっかり書いてる。ところが「式日」は本当にリアルなんですよね。
──庵野監督の故郷である山口県宇部市がロケ地になっていますね。
岩井俊二さんに出演を願ったでしょ。あれって話題性じゃない。僕は、監督をやってる人がいいなと思ったんです。そうすると庵野の気持ちがわかるんじゃないかなと思ったんですよね。だから記者会見のときにさっきの話をしたんです。「世の中の自伝のほとんどが嘘ばっかり。ところがこの作品は、自分でここまで赤裸々に語るかっていうぐらい本当の自分をさらけ出してる。それがこの映画の最大の売りです」と。ロケ地にある宇部興産というところを庵野が案内してくれたんですよ。そしたら市の半分ぐらいが宇部興産。その中を歩いていると、いろんな大きな建物が見えてくるんですけど、これが「エヴァ」に出てくる風景なんですよ(笑)。
──そうなんですね。
思わず庵野に「エヴァじゃん!」って言ったら、「そうなんですよ」って。本当にそのままなんですよ、驚きました。こういうものをヒントに描いていたのかと。だから「式日」をやっているときに庵野の映画の作り方もよくわかりました。
──現場での庵野監督はいかがでしたか?
彼がそれまでやってきたのはあくまでアニメーション映画であって、実写は素人時代とその後の数本しか経験がない。そうすると、実写のスタッフを率いていくのが大変なんですよ。長年やってきた自分のスタッフとは違う、急遽集められた人たちでしょ。みんなその道のプロだから言うこと聞かないだろうし(笑)。庵野に確認は取ってませんけど、なんで「式日」の舞台が宇部だったのかと考えると、「宇部のことは俺しか知らない」というのが武器になるからだったんじゃないかなと。ベテランのスタッフたちも宇部のことは庵野に聞くしかないわけです。そう画策していたんだとしたら、やっぱり監督ですよね。すごいなと思いました。
──ゴジラ自体はCGですが、「シン・ゴジラ」も実写映画です。
アニメーションはともかく、彼の実写はいわゆるエンタテインメント性は薄かったでしょう。でも「シン・ゴジラ」はそうはいかない。そこがいったいどうなるかっていうのが楽しみですよね。総監督って言ってるけど、全部現場に出てたみたいだし(笑)。
庵野秀明と樋口真嗣は特撮のためにがんばってる
──展覧会(2012年から全国を巡回した「館長庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技」)でも鈴木さんは庵野監督とご一緒されてますね。
庵野から持ち込まれたんですよ。でも初めはイベントをやりたいという話じゃなかったんです。要するに特撮のいろんなものが、放っておくと雲散霧消しちゃう。どこかに博物館のようなものを作りたいんだけど、(三鷹の森)ジブリ美術館を作った鈴木なら意見があるだろうと言われてるうちに、「じゃあ1回さ、(東京都)現代美術館で美術展としてやってみるのはどう?」ということになって。それによってリストができるので、集めたものをどうするか考えていこうと話したら、彼が賛成してくれました。これが思いのほか大成功のイベントになっちゃって。
──3年かけて5会場を回るという大規模な展覧会になりました。
そのときの副産物としてできたのが「巨神兵東京に現わる」。僕が作るって言い出したって庵野は話してるんですけど、僕は覚えてない(笑)。わかんないですけどね。「式日」と「巨神兵東京に現わる」の間に実はもう1つ、「天空の城ラピュタと空想科学の機械達展」というジブリ美術館の展示で作ってもらった短編があります。本当に短いんですけど「空想の機械達の中の破壊の発明」という作品。こうしてみると、僕いろいろ庵野と付き合ってますね(笑)。
──展覧会、「巨神兵東京に現わる」はともに、特撮の技術を守り、継続させるという目的で企画されています。鈴木さんはその日本が培ってきた特撮技術について思うところはありますか?
映画ってね、技術革新とともにいろんな作品が作られてきたと思う。アニメーションで言えば手描きがCGになった。そういうことは世の流れ。でも、手描きにこだわるのもいいじゃないですか。だから、特撮にこだわるのもいいんじゃないかと僕なんか思ってますけどね。庵野と樋口真嗣がいなきゃもう特撮は駄目なんじゃないかと思うから、あの2人ががんばってやるっていうのはよくわかりますよね。でも同時に新しい技術にもチャレンジ、それでいいんじゃないですかね。そう思ってます。
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「24時間まるごと 祝!シン・ゴジラ」
日本映画専門チャンネル
7月28日(木)19:00~29日(金)22:00
庵野秀明が総監督を務める「シン・ゴジラ」が7月29日に封切られる。その公開を記念し、庵野がこれまでに手がけた実写5作品を連続放送。また「シン・ゴジラ」主演の長谷川博己、石原さとみ、芸能界屈指のゴジラファンとして知られる佐野史郎らゲスト10名が初めて鑑賞したゴジラ作品と、当時の思い出やエピソードを語る特別トーク番組「ゴジラ ファーストインパクト」全8回も一挙放送する。さらにゴジラ作品8本も放映され、その中にはシリーズで初めて全編4Kデジタルリマスターで送る「『キングコング対ゴジラ』<完全版>4Kデジタルリマスター」も含まれる。
庵野秀明実写映画 放送作品
「巨神兵東京に現わる 劇場版」
「式日」
「ラブ&ポップ<R-15>」
「キューティーハニー」
「流星課長」
©2012 Studio Ghibli
「ゴジラ ファーストインパクト」
日本映画専門チャンネル 毎週木曜 21:00~
8月までオンエアされる特別番組。ゴジラシリーズへの出演経験を持つ宇崎竜童、お笑いコンビ・ドランクドラゴンの塚地武雅ら計10名のゲストが初めて鑑賞したゴジラ作品と、鑑賞当時の思い出を語る。7月のゲストには「新世紀エヴァンゲリオン」のプロデューサーで庵野秀明との親交も深い大月俊倫、「シン・ゴジラ」主演の長谷川博己、石原さとみらが並ぶ。
なお、抽選で555名に特製ゴジラTシャツが当たる「ゴジラ初体験記」投稿キャンペーンが7月31日まで特設サイトにて開催中だ。
鈴木敏夫(スズキトシオ)
1948年、愛知県生まれ。慶応義塾大学卒業後、徳間書店に入社。週刊アサヒ芸能などを経て、1978年、アニメ雑誌・月刊アニメージュの創刊に携わる。同誌の編集を行いながら、高畑勲らとともに1984年公開の劇場版アニメ「風の谷のナウシカ」を製作。1985年、スタジオジブリの設立に参加し、以後「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「火垂るの墓」「魔女の宅急便」を製作する。1989年からはスタジオジブリ専従となり、「平成狸合戦ぽんぽこ」「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」「風立ちぬ」などをプロデュース。アニメ作品のほかに庵野秀明の監督作「式日」、樋口真嗣の監督作「巨神兵東京に現わる」といった実写作品も手がけている。6月17日、著書「ジブリの仲間たち」が発売。プロデューサーを務めたスタジオジブリ最新作「レッドタートル ある島の物語」が、9月17日に封切られる。
2016年7月28日更新