1954年に誕生し、世界中で愛されている「ゴジラ」シリーズ。その70周年を記念した作品で、シリーズとしては2016年公開の「シン・ゴジラ」以来7年ぶりとなる新作映画「ゴジラ-1.0(ゴジラマイナスワン)」が、全国で上映中。同作は封切りから10日間で観客動員135万人、興行収入は21億円を突破した。
1940年代後半の戦後日本を舞台に、復興にいそしむ人々のもとに、すべてをリセットするかのように現れたゴジラの脅威が圧倒的なスケールで描かれる同作。「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズや「海賊とよばれた男」で知られる山崎貴が監督・脚本・VFXを担当。神木隆之介が戦争から生還するも両親を失った敷島浩一、浜辺美波が焼け野原を単身で強く生きて敷島と出会う大石典子を演じ、山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介もキャストに名を連ねた。
このたび映画ナタリーでは「ゴジラ」シリーズのファンによる座談会を、公開に先駆けて10月末にセッティング。「【推しの子】」で知られるマンガ原作者の赤坂アカ、お笑いコンビ・ニューヨークの嶋佐和也と屋敷裕政、ロックバンドBase Ball Bearの小出祐介の4名に、ネタバレを交えながら素直な感想を語ってもらった。
なお、映画ナタリーでは特設サイト「ゴジラナタリー」を展開中。「ゴジラ-1.0」やシリーズにまつわる特集、コラム、ニュースを掲載しているので、あわせて楽しんでほしい。
取材・文 / よしひろまさみち撮影 / 曽我美芽
映画「ゴジラ-1.0」予告編公開中
ゴジラが出てこない時間も引き込まれる(屋敷)
──まずは「ゴジラ-1.0」初見での率直なご感想を。
赤坂アカ 面白かったの一言です。歴代ゴジラの映画は、「ゴジラ」というとてつもない大枠があるうえで、人間ドラマが繰り広げられますよね。その人間ドラマのパートが素晴らしかった。正直、素で泣いてしまったシーンもあったほどです。「俺の戦争はまだ終わってないんです」というシーンとか、登場人物の人たちがそれぞれ抱えているものの重みや、神木隆之介さんが演じた敷島が“闇堕ち”していくところとか。闇堕ちキャラの主人公、個人的には大好きなので(笑)、あの手のキャラクターが内心を吐き出す瞬間にはポロっときましたね。
嶋佐和也 僕は4DXScreenで拝見したんですけど、本当にとんでもない迫力でした。まだあのスクリーンを導入している劇場は多くないんでしょうけど、「ゴジラ-1.0」はこのフォーマットで観るべきだ、って思いましたね。もはやアトラクション。ガンガン動きますし、水も出るし、ちょっと焦げたにおいまで出る。
屋敷裕政 え、においも出るの!?
嶋佐 そうそう。煙が出るシーンだったかな。びっくりしましたよ。今回のゴジラはビジュアルに特徴がありますよね。(目の前にあるゴジラフィギュアを手にしながら)こいつの見た目、めちゃくちゃかっこいいと思う。
小出祐介 今回のゴジラは、山崎貴さんが監督された西武園ゆうえんちのアトラクション「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」版のデザインをブラッシュアップしたそうですが、ちょっとレジェンダリー版(ハリウッドのレジェンダリー・エンターテインメント製作による「モンスター・バース」フランチャイズにおけるゴジラ)にも近くなっていますよね。肉厚なボディになってると思います。
嶋佐 あ! ハリウッドの“GODZILLA”ですね。言われてみれば、肩から胸板、腰回りがすごい筋肉質に見える。確かに!
屋敷 そうかー。4Dだとそんなすごいんや! そのバージョンも観ないと。僕は通常版で観ましたが、それでもめちゃくちゃ面白かったから。子供の頃から観てきたけど、それほど詳しくないゴジラファンの僕でも、シンプルに面白いし見応えがある。ゴジラが出てこない時間もめちゃくちゃ引き込まれるし、そこで描かれたドラマがあるから、ゴジラが出てきてからの絶望感や恐怖感すごっ!と思った。
嶋佐 こんなん無理やん、って状況だもんな。
屋敷 そうそう。実際に「無理やん」って何度言ったか。銀座の街が一気に崩壊していくところなんて、圧倒されましたね。
小出 ……皆さん大絶賛だったんですね……。
映像へのチャレンジ精神はしっかり受け止めた(小出)
──お気遣いなくどうぞ! 映画が1つの意見に染まるのはいいことではありませんし、合わない人は合わないのが当たり前ですから、むしろ別の意見を伺わせてください。
小出 実はこの座談会の直前に観たばかりで、まだ感想がまとまりきっていないのですが、まずはよかったところから。名作シリーズである「ゴジラ」を、今の解釈、今の最高のVFX技術で映画にするとこうなる、ということに関してはすごいことをやっていると思いました。スーツとスーツアクターによる演技ではないですし、ゴジラが破壊する街もジオラマではない。それでも、初代から続く映像へのチャレンジ精神みたいなものはしっかり受け止めました。
赤坂 では、気になったのはどこでした?
小出 作品全体のコンセプトやメンタリティです。これまでの日本の実写ゴジラ作品は、1954年の初代「ゴジラ」が基点となっていまして。1984年版「ゴジラ」以降の、いわゆる平成ゴジラの「VSシリーズ」は昭和ゴジラの流れを一度リセットしているものの、初代は存在したことにはなっていますし、「ミレニアムシリーズ」では解釈のバリエーションも増え、初代が死んでいないパターンや、「ゴジラ×メカゴジラ」では初代ゴジラの骨を使ってメカゴジラを建造したりしました。どの作品も初代ゴジラに対してのアプローチ、ゴジラをどういう位置付けにするかを考えているんだと思います。そういう意味で「シン・ゴジラ」は、現代に初めてゴジラが出現するという内容だったので驚きがありました。それが“あり”になったのなら、「ゴジラ-1.0」はどういう設定にしてくるんだろうと構えていたんですね。
──戦後高度成長期が近付く、東西冷戦時代に日本に襲来したことで始まったのが初代ゴジラ。今回の舞台はそれよりも前の時代です。
小出 そうなんです。わざわざそういう時代設定をしたという点、70周年記念作品である点からして、山崎監督もそうですが、東宝さんもさぞかし気合いを入れているんだろう、初代に挑戦するような気概なのだろうと想像しました。実際、初代へのリスペクトはあるとは思いましたし、初めてのゴジラ出現を描くというのも引き続きよかった。ただ、当時の日本がそういう時期だったにしても国が一切介入せず、戦争を経験した民間人が「戦争を生き残っちまった」「だから今度こそは」「自分たちの戦争を終わらせる」という精神性でゴジラに立ち向かう。民の力を合わせてといえば聞こえはいいですが、目の前の危機を脱しただけで根本的な問題解決にはなっていないというか。責任者が不在で下ががんばる。これは本当に「自分たちの戦争を終わらせた」と言えるのだろうかとか、こういう構造の物語を2023年にゴジラでやる意味ってなんなんだろうとか、もしかしてすべて逆説的に語っているのかとか……。初代ゴジラが持つ、特撮とドラマのバランスとメッセージを思うと複雑な気持ちになりました。また、男性が物語の中心にいて不能から立ち直る一方で、女性は男性の引き立て役でしかないというのも気になりました。時代背景がそうだったから再現しただけというならそれまでですが、この時代の作品として作られた以上は気になります。
──ごもっともだと思います。絶賛する方が多い中だからこそ、議論の余白があることを示していただくのは非常によいことですよね。
小出 戦後復興の時期を映像の中で再現しようという試みはすごいとは思うんですけどね。
嶋佐 あ、確かに。役者さんたちもみんな、戦後の日本にいそうな雰囲気でしたね。
小出 「シン・ゴジラ」以上にエンタメに振り切っているという感じでしょうか。
赤坂 そうそう。「シン・ゴジラ」はすごく面白い映画だったけど、ややオタク寄りなんですよね。ミリタリーや政治的なシステムなど、その手の教養がある人に向けて投げ掛けられている描写が非常に多かった。もちろんそこもわかりやすくしてはあるんですが、ちょっと子供たちが置いてけぼりになってしまった気がするんです。「ゴジラ」シリーズって本来は子供に向けた娯楽シリーズでもあるわけですから。ゴジラの背びれがトリガーになるシーンとか、子供たちはワクワクするはず。
小出 海外には社会問題をシナリオに組み込みながらも超エンタメしている「バービー」みたいな作品もありますから、メッセージとエンタメは両立しないことだとも思わないんですけどね。娯楽として子供たちがどう受け止めるか、っていうこともこのシリーズにおいて重要なことだとは思っています。
赤坂 とすると、「ゴジラ-1.0」は子供たちにも楽しんでもらえるように作られている、と感じたんですよ。その点では非常にバランスが取れている。
嶋佐 ゴジラの歴史を全然知らない子供は、これを単品として観て楽しめればいいですし、むしろ知らない人ほど楽しめるように作られているんじゃないかな。
屋敷 戦争は二度と起こしちゃいけない、っていうメッセージはもちろんあるんだけど、これはやっぱりエンタメの超大作でもある。
「シン・ゴジラ」とは対照的な作品(赤坂)
赤坂 日本史の授業で、第2次世界大戦末期から終戦後のところを学んだときって、皆さんちょっとアメリカに対して複雑な感情を持ちませんでしたか?
嶋佐 あー。
赤坂 あれって、歴史として学んだものの、当事者の子孫としての感情にどうケリをつけるのか、ということに惑ったんだと思うんですよ。政治的なことではなくて、民間で戦争をどう処理するのか、ということ。今もあちこちで戦争が始まってしまい、それを終わらせることの難しさは、毎日ニュースを観て感じているじゃないですか。その意味で「ゴジラ-1.0」は、わかりやすい形で戦争にケリをつける、という映画なんだろう、って思うんです。ゴジラが戦争の象徴として登場し、それを倒すことでやっと未来への一歩を踏み出せる、という構成。それが上手に描かれていると思うんですよね。思い切り政治的な人間ドラマに振り切った「シン・ゴジラ」とは対照的な作品だと思います。
嶋佐 そうか、「ゴジラ-1.0」はまったくの無政府状態の時期。
赤坂 歴史上でも珍しい、国が自衛する手段がまったく存在しない時期です。
屋敷 GHQの占領下ですもんね。だからゴジラが現れても、民衆が動くしかない、っていう流れがめちゃくちゃ自然。
赤坂 そこには政府におんぶに抱っこしてもらわずに、民間で動けるところは動こうよ、というメッセージを感じましたね。
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歴代で一番何を考えているかわからないゴジラ(嶋佐)