1954年に誕生し、世界中で愛されている「ゴジラ」シリーズ。その70周年を記念した作品で、シリーズとしては2016年公開の「シン・ゴジラ」以来7年ぶりとなる新作映画「ゴジラ-1.0(ゴジラマイナスワン)」が、11月3日に封切られる。
本作は、1940年代後半の戦後、焼け野原になった日本が舞台の物語。復興にいそしむ人々のもとに、すべてをリセットするかのように現れたゴジラの脅威が圧倒的なスケールで描かれる。「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズや「海賊とよばれた男」「アルキメデスの大戦」などで知られる山崎貴が監督・脚本・VFXを担当。神木隆之介が戦争から生還するも両親を失った敷島浩一、浜辺美波が焼け野原を単身で強く生きて敷島と出会う大石典子を演じ、山田裕貴、青木崇高、吉岡秀隆、安藤サクラ、佐々木蔵之介もキャストに名を連ねる。
このたび、映画の公開を記念して神木、浜辺、山崎の鼎談を実施した。公開を目前に控えた今でもストーリーの詳細が明らかになっておらず、謎めいた要素の多い同作。3人にはその撮影エピソードや、70年の歴史を持つ「ゴジラ」シリーズの新作に携わることへの思いを語ってもらった。
取材・文 / よしひろまさみち撮影 / 梁瀬玉実
映画「ゴジラ-1.0」予告編公開中
長ゼリフは瞬発力!(神木)
──神木さんは「ゴーストブック おばけずかん」、浜辺さんは「アルキメデスの大戦」で山崎監督の現場を経験していらっしゃいます。お二人とも当時と「ゴジラ-1.0」の現場・撮影を比べて、どう感じましたか?
神木隆之介 「ゴーストブック おばけずかん」のときは撮影期間がすごく短かったので、「山崎組にいる」という実感がそれほどないまま終わってしまった、というのが正直なところなんですよね。「ゴジラ-1.0」では、ようやく監督がどういう人かわかってきた、というのが具体的な違いかな。
浜辺美波 「アルキメデスの大戦」のときは、あそこまでVFXが大掛かりな作品は初めてで、見えないものに対してお芝居をすることへの戸惑いがありました。それに、山崎監督の現場って緊張するんですよ。スタジオが広かったり、お金が掛かっていることが目で見てすぐにわかるので(笑)。そこで一度(現場の雰囲気に)のまれちゃうんです。「ゴジラ-1.0」はそれまで経験した作品との規模感の違いに驚きました。スタジオやセットが大掛かりでしたし、人も多いですし。私は人が多いと緊張しちゃうので……。
──え、浜辺さん、まだ緊張することがあるんですか?
浜辺 ありますよ! 特にたくさんの人の前で長ゼリフを言うときは、めちゃくちゃ緊張します。
神木 それは僕もわかる……。
山崎貴 僕としてはそれが驚きだったんですよね。役者は長ゼリフの見せ場を披露したいだろう、と思い込んでいて。以前、別の作品である俳優さんにすっごく長いセリフを用意したとき、「やっぱり、こういう長ゼリフを決めると気持ちいいんですか?」って聞いたら「気持ちいいんだけど、本当につらい」と返されて(笑)。申し訳ないことをしたな、と思ってます。だから、神木くんや浜辺さんが長ゼリフが苦手だというのもわかるんだけど、彼らはできちゃうんですよ。
神木 いやいや! もうね、長ゼリフは瞬発力です! 覚えても2回くらいしか言えないし、一瞬で忘れますから。冷静になると「こんなに長いセリフをなんで言えたんだ」って思うくらい。「ゴジラ-1.0」は僕のワンカットや浜辺さんとの2ショットでの長ゼリフが多かったので、間違えないようにがんばりましたけど。
山崎 でもすごいんですよ! だいたい長ゼリフの撮り直しがあったら、芝居のテンションを保つためにも、最初からやり直すことが多いんですが、神木くんはなんと途中からでもできちゃう!
神木 そうそう。気持ちを少しずつ高ぶらせながら、すごく専門的で難しいセリフにつないでいくシーンがあったんですが、監督は「そこは一息で言うイメージで」とおっしゃるんです。何度かやってみたんですが、全部ダメで。それで、専門的なセリフの前から続けてやるか、それともそこだけ撮るか?と聞かれて、「もうそこだけでお願いします」と答えました。敷島の気持ちの流れは経験しているから、そのシーンはどこから始めてもらっても大丈夫だと思ったんです。むしろ専門用語のセリフが大丈夫じゃない!(笑)
山崎 いやー、こういうのは神木くんが初めてでした。やりやすいほうを聞いてよかった。
浜辺 私も長ゼリフだったら、神木さんと同じかも。「ゴジラ-1.0」の撮影のときはまだその境地には至っていなかったのですが、「らんまん」で鍛えられたので、今は感情の流れさえつかめたら、そのほうが楽かもしれません。あ、でも……いざやってみたらダメっていうのも恥ずかしいですね(笑)。
全フォーマットをコンプリートしてもらいたい(山崎)
──監督はお二人と2度目のタッグはいかがでした?
山崎 神木くんは「ゴーストブック おばけずかん」と「ゴジラ-1.0」の撮影の間がそれほど空いてなかったんですよ。だから、あまり久しぶりな感じもなかった。
神木 そうなんですよね。僕も作品の規模が違うことくらいしか感じていなかったんです。それよりも、「ゴジラ-1.0」に出演することが決まっていたのに、「ゴーストブック おばけずかん」のプロモーションの頃はまだ言えなかったのがつらかった(笑)。
山崎 そうそう! 「今後、また組んでみたいですか?」みたいな質問をされたときは、隠さないといけなかったんです。あれはきつかったね。
神木 もう決まってるんだけどなーって内心では思っていましたから。「今後どういう役で山崎さんの作品に出てみたいですか?」と聞かれて、うわ、どうしよう!ってなっていましたもん(笑)。
山崎 浜辺さんは「アルキメデスの大戦」からちょっと間が空いていたので、まざまざと成長ぶりを見せていただきました。その間に出演されていたテレビドラマも拝見していたので。ほら、「ウチの娘は、彼氏が出来ない!!」(2021年放送のドラマ)で、黒柳徹子さんのモノマネをしていたことがあったでしょ。
浜辺 ありましたね!
山崎 あのとき「あ、何か吹っ切れたんだ。すごい」って思ったんですよ。これなら「ゴジラ-1.0」どころか、なんでもできちゃうな、って。
浜辺 ありがとうございます(笑)。ちなみに「らんまん」は……?
山崎 もちろん! 毎回観ていましたよ。なにせ2人を見るのが面白くて。ついこの間まで一緒に仕事をしていた人たちが、同じ組み合わせで毎日テレビに出ているのって本当に不思議な気分だし、いつも「うちのほうが先ですから」と思っていましたね(笑)。おまけに作品も素晴らしい。もし、いやそんなことはあるはずないんだけど、万が一ドラマがダメだったら僕らの作品に影響が出る可能性だってあったけど、まったくそんな心配はいらなかった。それどころか最高じゃないか、と。
浜辺 ずっと言われていました。「ドラマをちゃんとがんばって、ファンの方をゴジラに連れてきてね」って(笑)。
神木 もう(Xの)ハッシュタグで“ゴジらんまん”って出ていますもんね。
山崎 え、本当に? ありがたいなー。震災のシーンが始まったときは「なんだ、『-1.0』じゃないか!」と思ったくらい。瓦礫の中を走っているシーンとか、見覚えがありすぎて(笑)。
神木 それ、僕らも「なんでこんなに慣れているんだろう」って思いましたよ。
浜辺 2人で走っているときですよね。妙な安定感があって不思議だったのですが、一度やっているからか!と思い出しました(笑)。
山崎 それこそ「ここもうちょっとVFX足したい!」とも思いながら観てました(笑)。
神木 監督、そんなことを言って……。そういえば「ゴジラ-1.0」はVFXにすごく時間を掛けていたし、大変だということもめちゃくちゃ話していたのに、メイキングドキュメンタリーのカメラを入れてないそうじゃないですか。
山崎 撮ってません! 嫌です(笑)。
浜辺 もったいない……。CGに興味がある人やプロを目指してる人は、絶対にメイキングを観たいと思います。
──12月には全米公開が決まっていますし、アメリカのVFXチームが本編を観たらメイキングを欲しがると思いますよ。日本のVFXは「早い・安い・うまい」ですから。
山崎 「ダンケルク」の公開時にクリストファー・ノーラン監督と対談をしたんですが、彼は「永遠の0」を観てくれていたんです。それで「ちなみに、このVFXはいくらでできたんだ」と聞いてきたので、正直に答えたら「は!? それはない。おかしいだろ?」と驚いていました。
──(笑)。ラージフォーマット上映も本作の魅力ですよね。すでに神木さんと監督はIMAXで体験されたそうで。
山崎 浜辺さんも絶対にIMAXで見直してほしい。まったく違う迫力だから。
神木 本当にすごかったです。もちろんスタンダードスクリーンでも十分迫力を楽しめますが、IMAXは映画以上の臨場感。ゴジラが本当に目の前にいるんじゃないかっていうくらいの恐怖が味わえます。
山崎 IMAX GTだとゴジラは実寸大になります。
神木 だからか! めちゃくちゃ怖かったんですよ。そもそも僕は特撮作品やIMAX映画をあまり観たことがなかった初心者なんですけど、そんな僕でもめちゃくちゃ楽しめたってことは、誰が観ても絶対に圧倒されるはず。
浜辺 えー、うらやましい! 通常のスクリーンサイズの試写は拝見しているのですが、それでもゴジラのサイズ感とか尻尾の破壊力にびっくりしたので、IMAXはもっと臨場感があるってことですよね。観られるチャンスは公開されてからかな……。
山崎 お忍びで行って、上映後に突然舞台挨拶しちゃうとか。
神木 なんだ、あの人?って言われますよね、きっと(笑)。
──皆さんは撮影前に西武園ゆうえんちの「ゴジラ・ザ・ライド 大怪獣頂上決戦」に行かれたと伺っていますが、アトラクションムービーは4Dフォーマットですよね。それを経験したうえでも、「ゴジラ-1.0」のラージフォーマット版はお薦めですか?
神木 お薦めですよ! どのバージョンで観ても楽しめるけど、一度はIMAXを……。(本作のチラシを手に取り)あれ? 4Dって書いてある。
浜辺 ほんとだ。やるんですか?
山崎 実はラージフォーマットはさまざまなバージョンをやることになりまして。IMAXは巨大スクリーンで実寸大のゴジラと焼け野原の東京を体感していただけますし、Dolby Cinemaではものすごく暗い闇から巨大なゴジラが現れるところなど、画のダイナミクスレンジが広いメリットを感じていただきたいです。4Dはゴジラが迫ってくるときの地響きや振動を体感していただけるようにデザインしています。映画館の4Dでできうる限りの機能を使い尽くしているので。もしご覧になって気に入っていただいたら、全フォーマットをコンプリートしてもらいたいんですよね。スタンプカードを作ってもらって(笑)。
神木 スタンプが貯まると僕らのチェキがもらえます、とか?
山崎 え、それだと僕のだけ応募がなさそうな……。
浜辺 その企画以前に、私がまずはラージフォーマットを体験しないとですね!
ゴジラは“日比谷のお父さん”(浜辺)
──山崎監督は本作で初めて「ゴジラ」シリーズの監督を務めました。レジェンドモンスターの新作を撮ることに対して、喜びはありました?
山崎 「シン・ゴジラ」の公開時にコメントを求められたときに、「次にゴジラの新作を撮る監督は大変」なんて言ったことが壮大なブーメランになってしまった感はあるんですが、なんとかそのブーメランをつかまえて乗り切ったとは思います。ふっ飛ばされないでよかった……。
神木 現場でもすごかったですよ。山崎監督はとにかくゴジラが好きだから、シリアスなシーンであってもワクワク感を隠しきれていないんですよ。そこが僕らにとってはすごく救いだった。重いシーンを重い雰囲気のままやっちゃうと、僕ら役者は、気力が1日すら持たないんですよね。例えば、監督は真剣に僕らに指示を出したあと、ちょっとルンルンしながら持ち場に戻るんです(笑)。
山崎 そんなにルンルンで戻った覚えはないんですけど(笑)。でも、やっぱりふと我に返ると「あ、今ゴジラを作っているじゃん」と燃えるものがありましたね。全世界が知っているほど有名なコンテンツであるゴジラに携わるプレッシャーは本当に大きかったですが、縁があって携わることができて本当に幸せです。
浜辺 私は芸能界デビューしたときから、ずっとゴジラ像がそばにいる環境でしたし、“日比谷のお父さん”みたいな感じで、私を見守ってくれている存在だったので、いつかは出たいと感じていたシリーズでした。けれど、めったにそんな機会はないですし、出られるとは思っていなかったので、本当にうれしかったです。
──またこの座組みで特撮シリーズとかないですかね?
山崎 あはは。チャンスがあればこの組み合わせでやりたいですよね。しかも、浜辺さんは「仮面ライダー」と「ゴジラ」に出たから、あとは「ウルトラマン」で昭和三大特撮コンプリート。
神木 あ、そうか!
浜辺 でも、私ができる役はないんじゃないですか?
神木 ピグモンとか?
山崎 エンドロールで初めて浜辺さんだったとわかるとかね。でも、ここで「次はウルトラマンをやりたい」なんて言っちゃうと、また「やるぞ!」ってなっちゃうから、この話はここまでで(笑)。
神木 「シン・らんまん」とか……植物の怪獣と戦う(笑)。
山崎 植物怪獣はビオランテっていう有名なのがいるから!
神木 いけるじゃないですか!(笑)
プロフィール
神木隆之介(カミキリュウノスケ)
1993年5月19日生まれ、埼玉県出身。2歳で芸能界デビューし、ドラマ「ムコ殿」「あいくるしい」などで注目を集める。2005年公開の主演作「妖怪大戦争」では第29回日本アカデミー賞の新人俳優賞に輝いた。出演映画は「桐島、部活やめるってよ」「バクマン。」「太陽」「TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ」「3月のライオン」「フォルトゥナの瞳」「屍人荘の殺人」「ラストレター」「ホリック xxxHOLiC」「ゴーストブック おばけずかん」「大名倒産」ほか多数。「千と千尋の神隠し」「借りぐらしのアリエッティ」「天気の子」「メアリと魔女の花」「100日間生きたワニ」「すずめの戸締まり」などアニメ作品に声の出演もしており、「君の名は。」で第11回声優アワードの主演男優賞に選ばれた。2023年度前期の連続テレビ小説「らんまん」では主人公・槙野万太郎を演じた。
ヘアメイク / MIZUHO(VITAMINS)
スタイリング / 吉本知嗣
浜辺美波(ハマベミナミ)
2000年8月29日生まれ、石川県出身。2011年に第7回「東宝シンデレラ」オーディションニュージェネレーション賞を受賞。実写ドラマ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」での本間芽衣子役や、連続テレビ小説「まれ」への出演で話題になり、2017年公開作「君の膵臓をたべたい」では日本アカデミー賞新人賞などに輝いた。主な出演作にドラマ・映画「賭ケグルイ」シリーズ、映画「思い、思われ、ふり、ふられ」「約束のネバーランド」「やがて海へと届く」、ドラマ「アリバイ崩し承ります」「私たちはどうかしている」「ドクターホワイト」などがある。2023年公開の「シン・仮面ライダー」でヒロイン・緑川ルリ子役を務め、アニメーション映画「金の国 水の国」にも参加。2023年度前期の連続テレビ小説「らんまん」にはヒロイン・槙野寿恵子役で出演した。
ヘアメイク / George
スタイリング / 瀬川結美子(sharey)
山崎貴(ヤマザキタカシ)
1964年6月12日生まれ、長野県出身。幼少期に「スターウォーズ」「未知との遭遇」と出会い強く影響を受け、特撮の道に進むことを決意。阿佐ヶ谷美術専門学校卒業後、1986年に総合映像制作プロダクション・白組に入社。伊丹十三監督作「大病人」「静かな生活」などでSFXやデジタル合成などを担当した。2000年に「ジュブナイル」で映画監督デビュー。2005年公開「ALWAYS 三丁目の夕日」では第29回アカデミー賞の最優秀作品賞、監督賞など12部門に輝いた。「永遠の0」「STAND BY ME ドラえもん」では、第38回アカデミー賞最優秀作品賞ほか8部門、最優秀アニメーション作品賞を受賞。そのほか主な監督作に「寄生獣」シリーズ、「海賊とよばれた男」「DESTINY 鎌倉ものがたり」「アルキメデスの大戦」「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」「ルパン三世 THE FIRST」「ゴーストブック おばけずかん」などがある。
2024年4月17日更新