社会に対して問題提起している
──「攻殻機動隊 S.A.C.」シリーズもそうですが、「攻殻機動隊」はその歴史の中で、常に進化してきた印象があります。だからこそ、リアルタイム世代だけでなく、どんどん下の世代の新規ファンが生まれてきたのかなと。
マンガの面白さやアクションシーンの描き込み、演出の素晴らしさなど、さまざまな要因があると思います。どれだけ画がきれいでも、ストーリーが面白くなければ視聴者は付いて来ないですしね。1つひとつのストーリーが緻密に紡がれていて、かつ全身義体のサイボーグ・草薙素子をはじめとするキャラクターに魅力がある。ヒーロー然としたキャラクターがいるわけではないけど、人間味が感じられるんですよね。家族を背負っていたり、過去にトラウマを抱えていたり……そういった人物描写が、先ほど話した「物語の奥行き」を形作っていると思います。
「攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争」だと、サスティナブル・ウォーという設定が出てきますよね。「サスティナブル(持続可能な)」という言葉って、SDGsもそうですがポジティブなイメージがあったと思うんです。それを「戦争」という言葉と組み合わせる巧みさ。実際、世界の治安を守る国が、一番の武器生産国だったりするじゃないですか。欧米とアジア諸国の関係はここ50年くらいで大きく変わりつつあるし、5Gが出てきて次はもう6Gと言われていて、そういった世界の裏腹な真実や、近い将来起こり得るであろう事象を想定して盛り込んでいるのがすごいですよね。
──サスティナブル・ウォーは、経済災害“全世界同時デフォルト”とAIの爆発的な進化が引き起こしたもので、SFではありつつも、社会情勢含め現実とリンクする点があると思います。
それは原作者の士郎正宗さんの手腕でもありますし、そこからさらに発展させてオリジナルのストーリーを紡ぎ上げたアニメスタッフの皆さんの功績でもあると思います。先ほど「刑事ドラマ」と言いましたが、「攻殻機動隊 S.A.C.」シリーズは“泥臭さ”を非常に感じるんです。アニメになることでつるっとした形にマスキングされてよさが失われてしまう作品もありますが、本作はより泥臭くなっている。“におい”みたいなものまで画面から感じられるんですよね。
だからこそ、Netflixで配信されている「攻殻機動隊 SAC_2045」はフル3DCGアニメーションになった分、僕の好きな泥臭さが失われてしまうんじゃないかと危惧していたのですが、実際に観てみたら違った角度の魅力に変えてくれていました。確かに画としては整形されたものになっているのですが、扱っている題材は相反してかなりきわどいものになっている。各地で起きている紛争で使われている武器の供給元をたどっていくと、武器を輸出するために紛争を起こしていたことがわかる、といったような話もあるし、社会に対して問題提起していると感じます。
──なるほど。描かれる内容が、よりシビアになってきたのですね。
そう思います。より生々しさや、“地べた”を感じますね。その部分と画的なギャップも、「ULTRAMAN」などから神山健治監督と荒牧伸志監督が試行し続けたものだと思います。
「攻殻機動隊SAC_2045 持続可能戦争」を観てから、
「攻殻機動隊 SAC_2045」で細部を楽しむ
──「攻殻機動隊SAC_2045 持続可能戦争」では、「新聞記者」や「ヤクザと家族 The Family」、現在放送中のドラマ「アバランチ」で知られる藤井道人さんが監督、神山さん・荒牧さんは総監督を務めています。驚きのスタッフィングですが、西川さんはどう感じましたか?
僕の勝手な解釈ではありますが、やっぱり、全12話ある「攻殻機動隊 SAC_2045」をご自身たちで切り貼りして再構成するのは、非常に難しいと思うんです。例えば、映画本編とは別に白組(※編集部注:アニメーション、実写映画、VFXなどを制作している企業)さんがティザームービーを作るような感覚で、別の方に委ねることが最善だと判断されたのかな、と感じました。実際に作った方だと愛着があるシーンが多すぎて全部残したくなってしまうかもしれないし、そうすると細かいカット割りの連続になってしまう。今回は、およそ2時間に収めるにあたってひとつの大きな流れを目立たせて、枝葉となるシーンを大胆にカットしています。そうしたある種、大鉈を振るわざるを得ない状況できちんとまとめることができるのは、やっぱり藤井監督のような新しい方だよなと思いました。
──個人的には、1話完結のシリーズを藤井監督が再構成したことで、起承転結の魅せ方だったり、映画的なテンポ感が生まれたように感じました。そのあたりはいかがでしょう?
なるほど。個人的には「攻殻機動隊 SAC_2045」が大好きで何周もしてしまっているので、ファン目線で「あそこも入れてほしい!」という思いは正直ありますね(笑)。ただ、まだ「攻殻機動隊 SAC_2045」をご覧になっていない方は、まず入りやすい「攻殻機動隊SAC_2045 持続可能戦争」を観てから、「攻殻機動隊 SAC_2045」で細部を楽しむ、といった観方ができると思います。
──藤井監督も「『攻殻機動隊』シリーズを観たことがない人でも楽しめる、濃密で見応えのある映画が出来ました」とコメントを寄せています。西川さんのおっしゃる通り、本作を観てよりディープに入り込みたくなった方は、11月26日発売のシーズン1全12話を収録した「攻殻機動隊 SAC_2045 Blu-ray BOX」に歩を進める、といった楽しみ方もできますね。
できればそこから、さらに過去のシリーズにもさかのぼって観てほしいですね。そうすると、もっともっと楽しさが増していくと思います。「スター・ウォーズ」をどこから観るか、といったような感じで、どこから入るにせよ、1回ハマったらさかのぼって観たりしますよね。全部観ることで理解度が増していきますし、例えばトグサ(CV:山寺宏一)の描かれ方ひとつ取っても、作品ごとの違いを楽しめるようになる。「攻殻機動隊 SAC_2045」であれば、制作が決定しているシーズン2につながるであろうヒントもたくさん入っていますし、新作が楽しみになると思いますよ。
- 西川貴教(ニシカワタカノリ)
- 1996年5月、ソロプロジェクト「T.M.Revolution」としてシングル「独裁 -monopolize-」でデビュー。キャッチーな楽曲、観る者を魅了する完成されたステージ、圧倒的なライブパフォーマンスに定評があり、「HIGH PRESSURE」「HOT LIMIT」「WHITE BREATH」「INVOKE」など大ヒット曲を連発する。2018年からは西川貴教名義での音楽活動を本格的に開始。2019年にはNHK連続テレビ小説「スカーレット」に俳優として出演。俳優、声優、地上波TV番組MCなど多岐に渡り新しい挑戦を続けている。2021年5月にT.M.Revolutionデビュー25周年を迎え、ツアー「VOTE」(滋賀県内25公演 / 東京 / 大阪 / 宮城)を開催中。故郷である滋賀県から2008年「滋賀ふるさと観光大使」に任命され、翌2009年より県初の大型野外音楽イベント「イナズマロック フェス」を主催。以降地元自治体の協力のもと毎年滋賀県にて開催している。令和二(2020)年度滋賀県文化功労賞受賞。