小泉今日子と二階堂ふみが共演する「ふきげんな過去」が、6月25日に公開される。この映画は、劇団・五反田団主宰の前田司郎による長編第2作。毎日を死ぬほどつまらないと感じている女子高生・果子と、18年前に死んだはずが突然戻ってきた伯母・未来子の奇妙なひと夏を、ユーモアたっぷりに描いている。
映画ナタリーでは、小泉と二階堂に共通質問をぶつけるインタビュー、そして前田への単独インタビューの2本立て特集を展開。初共演を果たした2人の女優の本音や、演劇・小説・映画と幅広いジャンルで活躍する前田の原点を語ってもらった。最終ページには、作品のフォトギャラリーも掲載している。
取材・文 / 浅見みなほ 撮影 / 依田純子(P1)、佐藤類(P2~3)
Q1. 本作への出演を決めた理由を教えてください。
シナリオをいただいて、「なんか変なことをやろうとしてる人たちがいるな」と思ったんです(笑)。しばらく映画から遠ざかっていた間にも、もちろん企画をいただくことはありましたが、「これは私でなくてもいいんじゃないか」と思うことが多かったんですね。でも今回の役柄は、私に声を掛けていただいた理由がわかる気がしたんです。未来子っていうキャラクターに説得力を持たせられると思ったというか、きちんと役作りをして演じるもの以外に、自分の生き様がリンクしてくるような。小泉今日子っていう人を客観的に見ると未来子とつながるようなところがあるし、それで私の名前を挙げていただけたのかな、と。
Q2. お互い、共演してみていかがでしたか?
ふみちゃんは、最初はしっかりできあがっているような人だと思っていたんです。若いのにさまざまな役柄に挑戦して、女優として結果を出してきた方なので。でも実際にお会いしたら、現場でも「私を見て!」ではなく「いい作品を作りたい!」という感じ。演じるときのプロフェッショナルな顔と歳相応な女の子の顔が共存していて、いろいろなものを出し入れできる空洞が、まだまだ彼女の中にあるんだなと思えてうれしかったです。完成した作品を観たら、最初のアップから最後のシーンまでふみちゃんに惹き付けられました。
小泉さんは本当に素敵な方でした。カッコよかったし、優しかったし、温かかったし、大先輩として見習いたいところがたくさんありましたね。現場ではいろんな話をさせていただきましたが、甘えたいというより、間近でずっと感じていたいと思うような方。できあがった作品を観たら、本当の親子みたいだなって。撮影中、図々しくも小泉さんのことを本当のお母さんだと思う瞬間がたくさんあって、それがよかったのかもしれません。(父親役の)板尾(創路)さんと自分が似てるなと思う瞬間もあったのは驚きでした(笑)。
Q3. ご自分の役柄をどう捉えましたか?
この作品が描くのは、普通の人たちの生活のようだけど、みんな数ミリ宙に浮いてるような不思議な世界ですよね。日常的な風景の中に、非現実感がぽこぽこ浮かび上がるような。未来子はそういった世界観の中でもリアルに存在することのできる不思議な役でした。若い頃から爆弾に魅了されてきた、他人から見るとエキセントリックな人かもしれないけど、未来子の中では爆弾もファンタジーなんじゃないかと思って、意外とおっとりしてるキャラクターにしたつもりです。私が現場に入ったときにはすでに私以外の家族のムードができあがっていたので、その違和感を生かしながら、家族に死んだと思われている未来子を演じました。
「なんかイライラする」という気持ちは、特に果子くらいの年齢だと、誰にでもある感情だと思います。私にもそれほど遠くない昔、こういう時期がありました。大人たちがしでかしたことを馬鹿だなと思ったり、つまらないなと思ったり。だから果子の気持ちはよくわかります。あの複雑な家庭で育ったら、あんなふうにイライラしてもおかしくないですよね。自分も少し大人の側に近付いてきて、見て見ぬふりをするような大人の感覚がわかるようになってきたから、果子を演じながらそこから解放されるような感覚を味わえたのかもしれません。今の自分にはもうあまりない感情だけど、果子という名前通り、自分の過去と向き合うような役柄でした。
Q4. 印象に残っているシーンや現場でのエピソードを教えてください。
果子ちゃん、カナちゃんと森の中に入っていって、硝石を探す一連のシーンが楽しかったです。3人で船に乗って、宝島を目指すようなムードがありましたよね。あと面白かったのは、果子ちゃんとカナちゃんのコンビネーション。本当に、「M-1(グランプリ)」とか出たら受かるんじゃない?(笑)果子ちゃんのツッコミの速さが絶妙なんです。(山田)望叶ちゃんもすごく面白くて、天才だと思いました。
現場で監督が望叶ちゃんに「虫眼鏡のひも食っといて」って言ってたことをすごく覚えてます。それで、ストイックにずっとそのひもを噛んでる望叶ちゃんの姿も(笑)。望叶ちゃんとは「私の男」でも共演しましたが、子役という意識を持たずに接することのできる歳下の役者さんで、大好きです。本当の妹みたいな気持ちでお芝居できるから、手荒に扱ってもいい気がして(笑)。それをちゃんと受け止めてくれる懐の広さを持つ子でした。
Q5. 前田司郎監督の印象はどうでしたか?
前田監督は自分で「僕は映画をたくさん観ていない」って言うんです。昔からの映画界の人の考え方では、そんなこと言っちゃ駄目じゃないですか(笑)。それを言っちゃうこの人は、映画やエンタテインメントの世界にちっちゃい穴を開けられるんじゃないかなって気がしました。私は、そういう何かに挑戦しようとか、喧嘩売るような勢いに乗るのが好きなんです。だからその中の駒になってやろうじゃないか、と思ってこの役を引き受けた部分もあります。現場では、前田監督にいろいろ言われた記憶はあまりないです。不思議な人で、自分でシナリオを書いて演出しているのに、ところどころ他人事みたいな瞬間があるんですよね(笑)。若いスタッフや役者さんたちがみんな楽しいと言っている、すごく平和な現場。そういう意味では、私からすると次世代の監督なのかもしれません。私たちの世代の映画界ってみんなクセが強すぎて、打ち上げで普通に殴り合ってましたから(笑)。
一番不思議だったのが前田監督です(笑)。どこかユーモアのある方だったから、現場がピリピリすることは一度もなくて、重くなりそうなシーンも重くならない。重いもののほうが芸術的で、哲学的で、文学的だって考える人が多い気がしますが、軽さの中に人間関係の複雑な部分を見せることのほうが難しい気がするんです。前田監督はそういった部分を見せるのがうまい方なのかなと思いました。初めてお会いしたときは、すごく真面目な方だという印象を受けました。映画のように自分が無知であると思っている分野に対しても、それを隠さないというか。「へえ、そうなんですね」って聞いてくださるところが面白いな、素敵だなと感じました。
Q6. 果子のように日常を退屈に感じたことはありますか?
そんな日常を変えようとした経験があれば教えてください。
この仕事を始めたときがそうですね。果子ちゃんより少し若い15歳でこの世界に飛び込みました。そのちょっと前に家庭が崩壊したので、「うかうかしてたら私だけ食いそびれちゃう!」と思ってオーディションを受けました。それまでは親戚の中でもおとなしい子だったんですけど、「理想の人物像を作って、自分で演じてやる!」と思ったんです。その理想の自分というのが、果子が日常を変えてくれると信じている存在の“ワニ”に近いのかもしれません。
20歳になると、夜遊びに行けるようになるじゃないですか。それで明け方くらいに帰ってきて、昼過ぎまで寝て自己嫌悪になることはあります(笑)。「空っぽな時間はなんだったんだろう、変わらなきゃ」って、つい3カ月くらい前に思って。それで漢方やヨガを始めました(笑)。たいして悪いことをしてるわけじゃないのに、何か失ってる気がしちゃって。12歳からこの仕事を始めたんですが、中高生のときに遊べなかったぶんを取り戻そうとする必要はないんだな、結局“大好きな映画に携わりたい”っていう自分のやりたいことは明確だから、寄り道する必要はないんだなって思いました。
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