映画ナタリー Power Push - マンガ家・桂正和が語る「ファンタスティック・フォー」
スーパーヒーロー映画の原点と王道
80年代の映画には多大な影響を受けた
──スーパーパワーを持った主人公の映画では、これまでどんな作品に影響を受けましたか?
個人的に、スーパーパワーと現実とのギャップを最初に感じた映画は、1986年の「ザ・フライ」。着るものに興味がない主人公が同じスーツをいっぱい持っていたり、変身して肉体が朽ちていく過程だったり、あちこちにリアリティがあった。その次が、さっき話にも出てきたティム・バートン監督の「バットマン」だな。現実世界にSF的な人間が現れたら周りはどう感じるのか。その描き方に感動した。我々の世代で、今ハリウッドのヒーローアクション映画を撮ってる監督たちも、このあたりの作品に影響を受けてるんじゃない? 「スパイダーマン」や「キャプテン・アメリカ」なんかに、その傾向が顕著でしょう。
──桂さんも、そのあたりの作品をヒントにマンガを描いてきたのでしょうか?
以前はその意識もあったよ。さっき挙げた「ザ・フライ」もそうだし、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」なんかを観たときは、「こんな面白い物語、どうやったら書けるんだ?」って、あれこれ考えを巡らせた記憶がある。80年代の映画の影響は強いよ。
──ただ、映画とマンガでは、スーパーパワーを描くポイントも違ってきますよね。
それはあるね。マンガだとパワーをギャグにしたほうが描きやすい。初期の「ウイングマン」の頃は、「透明になったらどんなことができるか」「東映のヒーローが現実にいたらどうなるか」とか、一生懸命考えた。リアルに突き詰めると悲劇になっちゃうから。
正々堂々と真っ向勝負している作りが潔かった
──ご自身の作品が実写化されたらと考えることはありますか?
そこは難しいところ。実写になって原作から変わりすぎてもファンががっかりするし。マンガで満足している人がどれだけ映画版を観たいと思うか、未知数だからね。
──では究極のヒーロー映画の条件とは?
それがわかったら、自分で描きますよ!(笑) なんだろう……誰も観たことのない設定やキャラクターなのかな。ヒーローものって、善と悪が変身して戦うという定型が求められるから、あまり大枠を踏み外せない。その限界の中で違うものを見せていくのが挑戦だね。でも映画はエンタテインメントだから、観て楽しければいいわけで、あまり深く考えなくていいのかも(笑)。
──では最後に、改めて桂さんが感じられた「ファンタスティック・フォー」の魅力を読者の皆さんに教えていただけますか。
「アベンジャーズ」や「X-MEN」など、数あるヒーロー映画の原点を感じられるうえ、正々堂々と真っ向勝負している作りが潔かった。だから感情移入しやすいんでしょう。欲を言えば、もうちょっと長く観ていたかったかな。ドラマシリーズになるほどのキャラクター造形の要素があるわけだから。
──そのあたりは続編に期待ですね。
そうだね。そのうち「アベンジャーズ」のニック・フューリー長官が出てきそうな気もするし(笑)。
- 「ファンタスティック・フォー」2015年10月9日より全国公開
発明好きのリードは、同級生のベンとともに物質転送装置を科学コンテストに出展。バクスター財団のストーム博士にスカウトされ、博士の養女スー、息子のジョニー、スーにしか心を開かない変わり者のビクターと研究を重ねる。やがて物質転送に成功したリードは、ジョニー、ビクター、そしてベンと装置に乗り込み、異次元空間のプラネット・ゼロにたどり着くが、アクシデントに見舞われ、ビクターを残して地球に帰還することになる。地球に戻った3人、そして管制室で物質転送の影響を受けてしまったスーの体に異変が起こり……。
スタッフ
監督・脚本:ジョシュ・トランク
製作:マシュー・ヴォーン
製作総指揮:スタン・リー
キャスト
リード・リチャーズ:マイルズ・テラー
スー・ストーム:ケイト・マーラ
ジョニー・ストーム:マイケル・B・ジョーダン
ベン・グリム:ジェイミー・ベル
ビクター・フォン・ドゥーム:トビー・ケベル
Dr.ストーム:レグ・E・キャシー
桂正和(カツラマサカズ)
1962年福井県生まれ。1980年に「ツバサ」で第19回手塚賞佳作受賞。1983年に週刊少年ジャンプで変身ヒーローものである「ウイングマン」の連載を開始する。翌年にはテレビアニメ化もされた。その後、「電影少女」「I"s」など青春恋愛ものも手がけ人気を博す。2002年より週刊ヤングジャンプにて「ZETMAN」の連載がスタート。特殊能力を持つ少年ジンを主人公にしたヒーローもので、2012年にはテレビアニメ化もされた。アニメの分野でも、「TIGER & BUNNY」のキャラクター原案、「牙狼 -紅蓮ノ月-」のメインキャラクターデザインなどを手がけている。