映画ナタリー Power Push - マンガ家・桂正和が語る「ファンタスティック・フォー」

スーパーヒーロー映画の原点と王道

INTERVIEW

パワーと葛藤する若者を描くのがうまい

──まず「ファンタスティック・フォー」を観終わった感想からお願いします。

桂正和

ありきたりな表現だけど、「素直に面白かった」っていうのが本音ですね。ところで、なんでこの映画のインタビューに自分が呼ばれたのか気になってるんだけど。

──桂さんといえば「ウイングマン」や「ZETMAN」を描かれてきたわけで。スーパーパワーを身に付けたヒーロー映画はお気に入りのジャンルですよね?

ヒーローものっていうか、アクション映画が好きなんだけどね。でも最近は「アベンジャーズ」を中心にマーベルのヒーロー映画の勢いがあるのは間違いない。この「ファンタスティック・フォー」もマーベルだし。大作じゃないけど、主人公が突如としてパワーを身に付ける「クロニクル」なんかも好きだな。

左からスー・ストームとリード・リチャーズ。

──「ファンタスティック・フォー」の監督は、まさにその「クロニクル」を撮ったジョシュ・トランクですよ!

なるほど。そうだったか! パワーと葛藤する若者を描くのがうまいわけだ。ということは、この路線は監督のカラーなんだね。

──「ファンタスティック・フォー」は、主人公4人がパワーを得るまでのドラマがじっくり描かれています。

たしかにそう。ドラマの第1話のように「これからどうなるんだろう?」なんて考えながら、腰を据えて観ちゃいましたよ。そういう意味では、この展開はヒーローものの王道中の王道だよね。いい意味でわかりやすいので、誰でも主人公たちに共感し、物語に入り込めるんじゃないかな。

左からビクター、ストーム博士、リード、スー。

──主人公たちは、もともと周りからちょっと浮いた存在です。

そこもヒーロー映画の王道っぽいよね。周囲から無視されたり、白い目で見られている人間が、実は独自の才能があって、それを認める人が現れ……というのは、パターンや流れがスムーズなので観ていて快感も味わえる。この映画はそこに現代っぽい演出を細かく入れてある。

少年時代のリード・リチャーズ(右)とベン・グリム(左)。

──主人公に屈折感があったり、科学オタクだったりすると、変身の物語にハマるというわけですね。

アニメの「くもりときどきミートボール」なんかもそう。けっこう好きなんだよね。主人公は発明が好きで、やっぱり周りに変な目で見られていて。こういう設定がアメリカ映画はうまい。

スーパーヒーローものとして感情に嘘がない

──パワーを身に付けたあとの展開はどうですか?

予期せぬパワーをすぐに受け入れるんじゃなく、葛藤してしまう主人公たちの気持ちは伝わってきた。スーパーパワーを持った人間がどういう心境になるのか? そう考えると、この展開しかないでしょう。スーパーヒーローものとして感情に嘘がない感じだね。

──4人のうちヒューマン・トーチは、自分のパワーを受け入れて楽しんでいる描写もありました。

異次元空間プラネット・ゼロに降り立った“ファンタスティック・フォー”の面々。

そこが面白い! 彼のキャラなら自然だし、全員が暗くなってしまうと、それはそれで救いようがなくなってしまう。

──桂さんもヒーローものを描くときは、そういった「嘘のなさ」を大切にしているのでしょうか?

そうだね。「ここで、それは言わないだろ」とか、「それはやらないだろ」という描写は、できるだけ避けようとしてる。そのあとの展開をスムーズにするためにありえない言動が出てくる作品もあると思いますけど、今回の「ファンタスティック・フォー」には、そういったツッコミどころはなかったね。

「ファンタスティック・フォー」2015年10月9日より全国公開

「ファンタスティック・フォー」

発明好きのリードは、同級生のベンとともに物質転送装置を科学コンテストに出展。バクスター財団のストーム博士にスカウトされ、博士の養女スー、息子のジョニー、スーにしか心を開かない変わり者のビクターと研究を重ねる。やがて物質転送に成功したリードは、ジョニー、ビクター、そしてベンと装置に乗り込み、異次元空間のプラネット・ゼロにたどり着くが、アクシデントに見舞われ、ビクターを残して地球に帰還することになる。地球に戻った3人、そして管制室で物質転送の影響を受けてしまったスーの体に異変が起こり……。

スタッフ

監督・脚本:ジョシュ・トランク
製作:マシュー・ヴォーン
製作総指揮:スタン・リー

キャスト

リード・リチャーズ:マイルズ・テラー
スー・ストーム:ケイト・マーラ
ジョニー・ストーム:マイケル・B・ジョーダン
ベン・グリム:ジェイミー・ベル
ビクター・フォン・ドゥーム:トビー・ケベル
Dr.ストーム:レグ・E・キャシー

桂正和(カツラマサカズ)

1962年福井県生まれ。1980年に「ツバサ」で第19回手塚賞佳作受賞。1983年に週刊少年ジャンプで変身ヒーローものである「ウイングマン」の連載を開始する。翌年にはテレビアニメ化もされた。その後、「電影少女」「I"s」など青春恋愛ものも手がけ人気を博す。2002年より週刊ヤングジャンプにて「ZETMAN」の連載がスタート。特殊能力を持つ少年ジンを主人公にしたヒーローもので、2012年にはテレビアニメ化もされた。アニメの分野でも、「TIGER & BUNNY」のキャラクター原案、「牙狼 -紅蓮ノ月-」のメインキャラクターデザインなどを手がけている。

「ZETMAN(20)」

桂正和「ZETMAN(20)」
2014年10月17日発売
700円 / 集英社

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