「燕雲台-The Legend of Empress-」特集|ティファニー・タンが伝説の皇后への過酷な運命歩む歴史エンタテインメント超大作 時代に合わせて変化する中国ドラマのヒロインを語るライター座談会

身分の違いを超えて愛を貫こうとする(小酒)

──ティファニー・タンが演じる燕燕と韓徳譲、そして韓徳譲の親友である耶律賢 / 景宗(やりつけん / けいそう)の三角関係がこのドラマの前半部の大きな山場でした。

左からジン・チャオ演じる耶律賢 / 景宗、ショーン・ドウ演じる韓徳譲。

小酒 ティファニーはかわいらしいですし、徳譲を演じているショーン・ドウはマンガから出てきたようなさわやかさの持ち主ですよね。「こんな白い歯がキラリと光ったまぶしい笑顔ってある!?」みたいな(笑)。2人が演じる燕燕と徳譲のカップルは身分の違いを超えて愛を貫こうとする。皇位争いを描くこのドラマでは男女の恋愛も結婚も、野心と打算なくして語れないのですが、このカップルだけは本当に純粋。従来の価値観としがらみから逃れられない燕燕の2人の姉たちのロマンスとは対照的ですね。

熊坂 最初は女番長が恋に落ちるみたいなラブコメっぽい入り。徳譲から馬を奪おうとする燕燕の難癖の付け方がひどいというか、なんというか(笑)。

小酒 あはははは。ティファニーだから許されますよね。嫌味がないから何をしてもかわいい(笑)。

──燕燕が成長するにつれてラブストーリーから政治劇、三姉妹の愛憎劇へと比重が移っていった印象です。

左からショーン・ドウ演じる韓徳譲、ティファニー・タン演じる蕭燕燕。

小酒 「燕雲台」は面白いバランスの作品ですよね。前半の燕燕と徳譲のパートでは一緒に転んだら唇が重なってしまうアクシデントキス、ラブラブな雰囲気の手つなぎデートとか(笑)、浮世離れしたラブ史劇あるあるが政治劇と共存している。

熊坂 確かに燕燕は徳譲を好きになってからは、甘々ですよね! 彼はいい意味でも悪い意味でもまっすぐすぎるし、燕燕も同じようなタイプ。一方で徳譲から燕燕を奪っていく耶律賢はちょっと魔性っぽい。自分の体が弱いことすら利用して、徳譲をはじめとする周囲をたぶらかしている感じ。もちろん、それが国を負う者の責任であり、自身の弟妹を守るための苦渋の選択であることも観ていてわかるんですが、使えるものは使うという意志も感じます。王の器だなと。そして、幼い頃からの親友同士でともに国を変えようとする徳譲と耶律賢の関係はブロマンスとして見ても魅力的でした。むしろ最初はそちらメインで観ていたほどで(笑)。

小酒 耶律賢を演じるジン・チャオは2番手男がハマりますよね。「如懿伝(にょいでん)~紫禁城に散る宿命の王妃~」「白華の姫~失われた記憶と3つの愛~」でも、報われない2番手を演じて人気でした。耶律賢は腹黒そうで、打算的な面を持っているのに、ヒロインにはちゃんと恋をしていて、そんなバランスに乙女心をくすぐられる人も少なくないと思います。

熊坂 私は燕燕と耶律賢の組み合わせのほうが好きでした。徳譲と一緒にいるときの燕燕は目がハートですが、耶律賢といるときは恋愛感情がない分(笑)、遠慮なくものが言える。さばさば接していて、国を思う燕燕のよさが出ている気がしましたね。

──私は徳譲派だったので、耶律賢を皇帝にするため命を懸けて尽くしたのに、燕燕を奪われてしまう彼があまりにも不憫で……。

熊坂 ラブ史劇から一転、ぼっこぼこの半殺しにされていましたもんね。そこまでやるか?っていう(苦笑)。

ショーン・ドウ演じる韓徳譲。

小酒 私もどっちかというと耶律賢派なんですが、ショーン・ドウが今まで観てきた作品の中でもダントツで心にグッとくる演技をしていて……感情移入できました。でも、ドラマとして観たら、あんなキラキラした好青年が簡単にヒロインと幸せになるのはつまらないですよね!?

熊坂 親友に裏切られて、失恋して、お坊っちゃまだった徳譲が、辺境の地でいろんなことにもまれながら成長する。それもこのドラマの見ものですよね。数年後パッと徳譲が再登場するという方法もあるのに、恋に破れたあとの徳譲も丁寧に語られているのがいい。

小酒 初恋の人とは簡単に結ばれないというパターンもビターでいいですよね。人生なんでもうまくいくわけではないし、挫折もする。最終的に充実した人生を送るかどうかが重要という描かれ方もありかなと。実は歴史的にも燕燕と徳譲にはロマンティックな伝説があって、このドラマはしっかりとそれを踏まえているので、ラストまで観ると徳譲派にはうれしい展開も待っています。

熊坂 20年ぐらい経って、再会して、どうしてあのとき一緒にいられなかったんだろう?って切なく振り返るのも大人ならではの楽しみ方かもしれないですね。

働いている女性は特に燕燕の生き方に共感する部分がある(熊坂)

──三姉妹の愛憎劇という要素もドラマの大きな魅力です。王位を争う3人の男にそれぞれ嫁いだことによって仲の良い姉妹が骨肉の権力闘争に巻き込まれていきます。

左からティファニー・タン演じる蕭燕燕、カーメイン・シェー演じる蕭胡輦、ルー・シャン演じる蕭烏骨里。

小酒 長女の胡輦(これん)は責任感が強くて、末っ子の燕燕は一番自由奔放。真ん中は間に挟まれて親からあまり注目されてきてない。そんな次女の烏骨里(うこつり)の危なっかしい行動に、視聴者は「あー! そうじゃない! ダメだって!」とやきもきすると思います(笑)。

熊坂 旦那ともどもね(笑)。

小酒 次女の夫・耶律喜隠(やりつきいん)を演じたジー・チェンはあんなにハンサムなのに卑屈な役が似合う。視聴者から見たらツッコミどころ満載のバカップルですけど、2人の暴走を見守るのは意外と嫌いじゃなかったですね(笑)。次は何をやるんだろう!って。

熊坂 次女夫婦と比べると長女の夫婦は渋い魅力がありますよね。

小酒 燕燕が主人公のお話ですから、長女の旦那の耶律罨撒葛(やりつえんさつかつ)は立場的には悪役なんですが、見方を変えれば皇帝の弟として、精神的にギリギリの生活を送っている。そんな中、胡輦だったら絶対に絶対に裏切らないと見込んで、彼女に癒やしを求めて、彼女の前では弱いところを見せる。いいですよね。

熊坂 中間管理職としてうまく描かれていますよね。あとは全体的に女性が面白い! 一緒にお酒を飲んで息子を励ます徳譲のお母さんもお気に入りのキャラクターです。徳譲に片思いする李思も、無理に迫らず近付いていく賢い女性でした。

小酒 視聴者に李思だって申し分ない相手と思わせるよう、彼女も魅力的に描かれていますよね。

──人間関係を追いながら、遼の生活様式をのぞくのも楽しかったです。歴史好きな層に刺さるポイントだと思いました。

小酒 遊牧民族が出てくるような中国時代劇は今までもいろいろ観てきましたけど全面的にフィーチャーされた作品を観るのは新鮮でしたね。

「燕雲台-The Legend of Empress-」

熊坂 新しいですよね。季節によって、宮殿の位置が変わったり。

小酒 皇帝も本当に移動してるんだ!って。あまりイメージできてなかったので、観ていて面白かったです。

熊坂 調べてみたんですが、北宋時代のドラマに遼が出てくるって意外にないんです。「岳飛伝-THE LAST HERO-」は最初は遼と戦っていますけど、最終的に戦うのは金ですし。だから契丹族の男性の髪型とか、燕燕の髪飾りは新鮮で観ているだけで楽しめました!

──かっこいいヒロイン、三姉妹のラブストーリー、美しい装飾品など見るべきポイント満載の本作ですが、お二人はどんな方にお薦めしますか?

熊坂 働いている女性は特に燕燕の生き方に共感する部分があると思うのでお薦めですね。最初はメロドラマとしても楽しめますし、群像劇としてもよくできているので、ドラマ通は楽しんで観られると思います。

小酒 ティファニー・タンが主演なので「王女未央-BIOU-」が好きな人には観てほしいです。ラブ史劇的な要素も盛り込まれているので序盤はドラマティックなラブストーリーも魅力的。さらに群像劇としての側面もあって、ラブ史劇よりも本格的な歴史ドラマを観たいという人の期待にも応える作りになっています。あとはイギリスのエリザベス2世を主人公とした「ザ・クラウン」とか、ロシアのエカチェリーナ2世を描く「THE GREAT ~エカチェリーナの時々真実の物語~」といった女帝ものが好きな人にもおすすめです。

「燕雲台-The Legend of Empress-」

──お二人は今まで、多くの中国ドラマを観てきたと思いますが、日本の作品との違いを感じる部分はありますか?

熊坂 それでも人生は続いていく、という物語が多いですよね。「燕雲台」の場合も徳譲は燕燕と引き離されますけれど、ダメなものはダメで、そのあとの人生をどう生きていくかが描かれている。日本だと悲壮感漂う描写になりがちですけど、中国ドラマの場合はいつかどこかで逆転できるかもしれないという人間の強さを感じます。

小酒 生き抜くことが大事! 自ら死を選ぶような滅びの美学とは違う感覚ですね。

熊坂 あれだけ広い国土だと、別の土地に行けばまた新しい人生が送れるという感覚があるのかもしれないです。生きていればなんとかなる! 敗者復活戦があるっていうたくましさを感じます。

──ヒロインの描かれ方だけでなく、失敗が許されない風潮のある社会の中で見るべきところが多い作品かもしれないですね。

歴史劇は敷居が高い!? 実は、予備知識は一切不要 皇后・女帝の一代記はこんなふうに楽しもう

「燕雲台-The Legend of Empress-」
1
ヒロインの姿にスカッとすればよし!

実在の皇后や女帝を描いた歴史劇で描かれるのは、過酷な運命に翻弄されながらも力強く時代を駆け抜けるヒロインの姿。ときに愛のため、ときに国のため、ときに野望のため戦う彼女たちの姿にスカッとすること間違いなし。同性からも歴史好きからも支持を集める不動の人気ジャンルだ。「燕雲台-The Legend of Empress-」でも、韓徳譲の危機を知り、戦場に駆け付ける蕭燕燕の凛々しい姿が描かれている。

2
中国を代表する女優の演技をたっぷり堪能

初々しい少女時代から、貫禄たっぷりの晩年までを1人の女優が演じ切る皇后・女帝の一代記。カリスマ性を持ち、高い演技力を兼ね備えた女優しか挑戦できないジャンルとも言える。「燕雲台-The Legend of Empress-」ではティファニー・タン、「如懿伝(にょいでん) ~紫禁城に散る宿命の王妃~」ではジョウ・シュン、「武則天-The Empress-」ではファン・ビンビン、「ミーユエ 王朝を照らす月」ではスン・リー、「大明皇妃 -Empress of the Ming-」ではタン・ウェイとそうそうたる面々が主演。中国を代表する女優の美しさに酔いしれながら、一生をともにたどったあとの満足感はすさまじい。

3
きらびやかな美術や衣装を愛でる

皇后・女帝の一代記ではその年代や立場に応じて女優たちが身に着ける色鮮やかな衣装が変化。総製作費67億円が投じられた「燕雲台-The Legend of Empress-」でも、燕燕の髪飾りや耳飾りは見ものだ。また本作では刺繍をあしらった豪華な衣装をメインキャストだけで800着以上用意。24金をぜいたくに使った冠、腰ベルトなどの装飾品、礼儀作法・婚儀など、中国の正史・二十四史の1つ「遼史」にもとづいて遼の文化を再現している。ギャラリーでは、そんなこだわりを確認しながら、睿智蕭皇后の生きた世界に触れてほしい。