「王女未央-BIOU-」などで知られるティファニー・タンが、“鉄血紅顔”と呼ばれる伝説の皇后を演じた「燕雲台-The Legend of Empress-」のDVD / Blu-rayセットが11月3日より順次リリースされる。総製作費67億円を投じて作られた本作では、中国史上初の征服王朝・遼を舞台に、ヒロイン・蕭燕燕(しょうえんえん)が婚約者との愛を引き裂かれながらも伝説の皇后への過酷な運命を歩んでいくさまが描かれる。
映画ナタリーでは、本作の魅力に迫る特集を展開。中国ドラマに造詣の深いライター・熊坂多恵と小酒真由子の座談会をセッティングし、作品の見どころや、ヒロインの魅力を語ってもらった。
取材・文 / 金子恭未子
遼の北府宰相の三女・蕭燕燕(しょうえんえん)は2人の姉に愛されてまっすぐに育ち、愛する韓徳譲(かんとくじょう)とも生涯を誓い合う。しかし、遼の権力を握る切り札と見なされた三姉妹は、暴君として恐れられている第4代皇帝・穆宗(ぼくそう)からその座を奪うため、王位をめぐる3人の男たちにそれぞれ嫁ぐことに。燕燕は韓徳譲の親友であり、前皇帝の息子・耶律賢 / 景宗(やりつけん / けいそう)、長女の蕭胡輦(しょうこれん)は穆宗の弟・耶律罨撒葛(やりつえんさつかつ)、次女・蕭烏骨里(しょううこつり)は、初代皇帝の孫・耶律喜隠(やりつきいん)の妻となる。こうして、骨肉の権力闘争に巻き込まれ、婚約者との愛を引き裂かれた燕燕は、困難を乗り越えながら皇后への過酷な運命を歩んでいく。
プロフィール
- 熊坂多恵
- 「中国時代劇で学ぶ中国の歴史 2022年版」(2021年10月26日発売・キネマ旬報社)ほか編集。映画雑誌の編集を経て、アジアのエンタメを紹介するムック本の編集や執筆に参加。
- 小酒真由子
- フリーライター。アジアから欧米までドラマについて執筆。「韓国TVドラマガイド」(双葉社)にて「熱烈推薦!! 中華ドラマはこうハマる!」を、Cinem@rtにて「アジドラ処方箋」を連載中。
女性が憧れるガールクラッシュなヒロイン(熊坂)
──2021年屈指の中国歴史エンタテインメント超大作「燕雲台-The Legend of Empress-」のソフトが11月3日より順次発売されます。武侠ドラマやラブ史劇、ブロマンスなどさまざまな中国ドラマが人気を集めていますが、本作のように実在の皇后や女帝の生涯を描いた“女の一代記”は不動の人気ジャンルです。
熊坂多恵 皇后・女帝ものは“後宮ドロドロもの”と“政治もの”両方を兼ね備えたジャンルです。日本に最初に登場した頃は、「宮廷の諍い女」のように女のドロドロした争いにフォーカスが当てられていて、その中に少し政治パートが入っていました。ただ最近は「大明皇妃 -Empress of the Ming-」のように、優秀な女性が国づくりを担っていく姿を描くというのが大きなテーマになってきているように思います。
小酒真由子 確かに。政治的なセンスがある女性を現代的な価値観から描くものが増えたと思います。
熊坂 ドロドロした女の戦いだけでは終わらせないですよね。
小酒 ファン・ビンビン主演の「武則天-The Empress-」が出てきたときは、すごく新しい感じがしました。今までいろんなパターンで映像化されてきましたが「女のくせに皇帝になったとんでもないやつ」という従来の悪女のイメージで描かれる作品が多かったですよね。でも、ファン・ビンビン版は武則天の生き方が肯定されていたように思います。
──「燕雲台」も「武則天」もそうですが、ヒロインのかっこいい姿に惚れ惚れしてしまう描写が多々ありました。女性の生き方の多様化が進む今の世の中を反映しつつ“皇后・女帝もの”は変化していっているということですかね。
小酒 そういう面はあると思います。昔ならファン・ビンビン版の「武則天」は検閲を通らなかったかもしれない。今の中国は日本より女性管理職が多いですし、男女共働きの意識も強い。現代劇の恋愛ものでも、女性がリードするパターンが増えてきました。今のヒロインは王子様を待っているだけじゃないんです。
熊坂 女性が憧れる“ガールクラッシュ”なヒロインが増えていますよね。
──今回お二人に観ていただいた「燕雲台」もそんな“同性が憧れるかっこいいヒロイン”の流れを汲んだ作品と言えるのではないかと思います。遼の第5代皇帝・景宗(けいそう)の皇后である睿智蕭(えいちしょう)皇后の半生を描いた歴史大作です。ティファニー・タンが婚約者・韓徳譲(かんとくじょう)との愛を引き裂かれながらも、国のために過酷な運命を歩み伝説の皇后になっていく蕭燕燕(しょうえんえん)を演じています。
熊坂 このドラマは人の描き方が素晴らしいですよね。悪役もただ悪いだけじゃなく、なぜそうなったのか?を想起させるようにすごく細かく描かれていて、群像劇としてとてもよくできている。ヒロインの燕燕は女性が好きな竹を割ったようなキャラクター。「こんな皇帝じゃダメだ! 述律皇后みたいに国をよくしたい」と国の将来を思う姿は魅力的でした。
小酒 シンプルに女性が活躍する姿を見るのは楽しいですよね。私は意志が強くて、行動力のあるヒロインが好きなんですが、ともすればそういう女性って独りよがりになってしまう。やっぱり人に優しいというのも大事なポイントなんです。燕燕はまさにそういうものも兼ね備えたヒロインでした。
視聴者はみんな好きになっちゃいます(小酒)
──ティファニー・タンが演じる蕭燕燕は2020騰訊視頻星光大賞でドラマキャラクター・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。
熊坂 草原で馬を走らせていた少女が国を動かす皇后になっていく過程をきっちりティファニーが演じ切っています。キャラクターも立っているし、成長ストーリーを見守る楽しさがある。決して順風満帆なわけじゃなく、悲恋を経験しているというのも視聴者の心をつかんだ理由かもしれないです。
小酒 燕燕が成長するに従って、まわりの環境も変わって、人間関係にも変化がある。見どころが盛りだくさんですよね。ここまできっちり1人の女性の晩年まで演じ切ったのはティファニーにとってもおそらく初めてのことだったと思います。本格的な歴史劇ですし、本人も演技力の見せどころだと思ったはず。スター性のある彼女がこういうヒロインをやると、視聴者はみんな好きになっちゃいますよね(笑)。
──「王女未央-BIOU-」などで主演を務めたティファニー・タンは日本でも人気です。
熊坂 中国ドラマに出ている女優さんの中で、日本で人気のある人を挙げるなら確実に彼女は入っていますね。
小酒 中国史劇にばんばん出ているほかの女優さんに比べれば、日本での露出がさほどあるわけじゃないのに、人気が高い。スタイル抜群でものすごく美人だけれど、かわいくて親近感が湧く稀有なタイプだからかもしれないです。名前を出せばレンタルの回転数が上がる女優さんの1人だと思います。
熊坂 日本で言うと綾瀬はるかさんみたいなポジションかも。
小酒 インタビューを読んでいても、気取った感じがなく、飾らず自然体。中国でも好感度は最高ですし、幅広い年齢層に愛されている。同性からも支持されています。探せばアンチもいるのかもしれないですけど(笑)、嫌われる要素が見当たらない。
熊坂 彼女はチャン・イーモウに抜擢されて、2004年にアテネオリンピックの閉会式に出ているんです。2009年には人気スターの登竜門になったリー・クォックリーの監督作「仙剣奇侠伝三(原題)」にも参加していますし、ジェイ・チョウが手がけた「パンダマン~近未来熊猫ライダー~」にも出ている。大物クリエイターが放っておかないイメージがあります。
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身分の違いを超えて愛を貫こうとする(小酒)