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いとうせいこうが語る「素敵なダイナマイトスキャンダル」|末井昭は台風の目!エロも政治も詰め込んだ雑誌が教えてくれたこと

何を考えているかわからない、台風の目のような人

末井を演じた柄本佑(左)と、末井昭本人(右)。

──この映画で描かれている末井昭という人は、いとうさんが捉えておられる末井昭と近かったですか?

映画はクールに、あんまり心理状態をのぞき込まないように描いてるから、観てる人が「どういう気持ちなんだろう?」「この人はなんでこっちのほうへ行っちゃうんだろう?」と思うはず。末井さんが何を考えてるのか、全然わからないところが面白いんですよ。それを追っていくと、どうしても時代や街が見えちゃう人なんだよね。やっぱり末井さん自体がメディアなんですよ。「俺がこういう時代を作ってやる!」って言ったりする人じゃなくて、「いや、だって面白いでしょ?」とか言いながら、いつの間にか台風の目になってる……台風の目って何もないじゃない? 僕にとってはそういう不思議な、割り切れない人ですよね。割り切れないって大事なことだと思うんで。

いとうせいこう

──いとうさんは表現のアウトプットの種類をたくさん持っている方ですよね。そこも、末井さんと共通するものを感じたりします?

うーん、いや、僕はわりと、物事をシンプルに収めがちなところがあるんですよね。ミニマルにして、わかりやすくして打ち出すというか。でも末井さんは、煩雑に煩雑に、決定せず決定せず、「まあまあ、結論はあとでいいよ」という感じを受ける。だから、僕がもし当時、写真時代を任されていたら「写真時代っていうのはこういう雑誌なんだ!」っていうのをぶち上げて、統一感のあるオシャレ雑誌を作っちゃってたと思う。それは嫌でしょ、末井さんは。

仕事を依頼されたとき、末井昭に編集されている感覚があった

いとうせいこう

──初めてお会いになって以降の、末井さんとの関係性というのは?

何かのパーティで会ったことがあるぐらいじゃないかな。そんな程度だから、「自殺」(※2013年に刊行された末井の著書)の帯の推薦コメントも、なんで俺に頼んでくれたんだろう?って。でも僕を起用するということ自体が、末井さんの割り切れない編集センスみたいなものかもしれない。「え、末井昭といとうせいこう、関係あったのか?」っていう。僕は普段編集する側の人間だと思っているんだけど、あのコメントを依頼されたときは、なんだか末井昭に編集されている感覚があった。人からそういう感じを受けたのは、初めてだったかもしれない。

──「自殺」の帯には、西原理恵子さんも「優しい末井さんが優しく語る自殺の本」というコメントを出されています。いとうさんも末井さんは優しいと思われます?

「素敵なダイナマイトスキャンダル」より、グラビア撮影をする末井昭(柄本佑)と写真家の“荒木さん”(菊地成孔)。

末井さんは……差別がないんだよね。差別をしない。こういうエロ本みたいなので、例えば男が女の人をバカにして、物みたいに扱っていたりとか、パワハラ、セクハラみたいなところがあるとうんざりしちゃうんだけど、写真時代にはそういうところがなくて、もっと「人間のドス黒いところを引き出してやろう」というか。今で言うと体の線がきれいじゃない人たちも全然出て来るでしょ。男色だろうが女色だろうが関係ない、年齢も関係ない、容姿の問題じゃねえんだ、エロはもっと違うところにあるんだ、という面白さ。そのこととラジカルなアナーキズムと、それから哲学と美術と全部が毎ページおんなじ価値で出てくる。だから僕らからすると「なんだこりゃ!?」っていう。

「素敵なダイナマイトスキャンダル」
2018年3月17日(土)公開
「素敵なダイナマイトスキャンダル」
ストーリー

岡山の田舎町に生まれ育った末井昭は、7歳のときに母・富子が隣家の息子とダイナマイトで心中し、衝撃的な死に触れる。18歳で田舎を飛び出した末井は、工場勤務、キャバレーの看板描きやイラストレーターを経験し、エロ雑誌の世界へと足を踏み入れる。末井はさまざまな表現者や仲間たちに囲まれ編集者として日々奮闘し、妻や愛人の間を揺れ動きながら一時代を築いていく。

スタッフ / キャスト
  • 監督・脚本:冨永昌敬
  • 原作:末井昭「素敵なダイナマイトスキャンダル」(ちくま文庫刊)
  • 出演:柄本佑、前田敦子、三浦透子、峯田和伸、松重豊、村上淳、尾野真千子ほか
  • 音楽:菊地成孔、小田朋美
  • 主題歌:尾野真千子と末井昭「山の音」

※R15+指定作品

いとうせいこう
1961年3月19日生まれ、東京都出身。早稲田大学在学中からピン芸人としての活動を始動し、ホットドッグ・プレスなどの編集を経て、1985年に宮沢章夫、シティボーイズ、竹中直人、中村有志らと演劇ユニット「ラジカル・ガジベリビンバ・システム」を結成。1988年に小説「ノーライフキング」を発表し、その後も「想像ラジオ」「鼻に挟み撃ち」などが芥川賞候補となった。ジャパニーズヒップホップの先駆者としても知られており、2009年には□□□に正式メンバーとして加入。テレビ番組への出演や、したまちコメディ映画祭in台東の実行委員など、その活動は多岐にわたる。2018年6月から7月にかけて東京・CBGKシブゲキ!!、大阪・ABCホールにて上演する舞台「ニューレッスン」に出演。