「チャーリーとチョコレート工場」「アリス・イン・ワンダーランド」のティム・バートンが、ディズニー・アニメーションの名作「ダンボ」を新たな物語として実写映画化。本作は、大きすぎる耳のせいで笑い者にされる、サーカス団の子象ダンボの姿を描くファンタジーアドベンチャーだ。個性の素晴らしさを描き続けてきたバートンが、以前から思い入れの深い「ダンボ」を独自の世界観でエンタテインメント大作として新たに生み出した。
ナタリーでは本作が3月29日より全国公開されることを記念し、ジャンルを横断して全3回にわたる特集を実施。第1弾となる映画ナタリーでは、バートンと彼の作品をこよなく愛するピース・又吉直樹の対談を掲載する。ダンボに託されたメッセージや、又吉から見たバートン作品の魅力を語ってもらった。
取材・文 / 山川奈帆子 撮影 / 笹井タカマサ
みんなの飛びたい気持ちがダンボに託されている(又吉)
又吉直樹 ティム・バートン監督の大ファンなので今日はお話できて光栄です。アニメーションの「ダンボ」で描かれるのは、大きな耳を持って生まれた象が、それをどうやって自分の力にしていくかという物語。監督の今までの作品テーマと共通する部分があるので観る前から期待していました。
──又吉さんが作品をご覧になって一番印象に残ったのは、どの場面でしたか。
又吉 やはりダンボが飛ぶシーンですね。ほかの象よりも耳が大きいというだけでひどい扱いを受けていたダンボが、みんなを驚かせてとんでもない可能性を示した。痛快でもあり、よかったなというホッとした気持ちもありました。ダンボの母・ジャンボが、檻の中から外の鳥を見る場面がありますよね。ジャンボ自身が感じている外の世界に行きたい、翼が欲しいという思いがダンボに託されたという気持ちで観ると、ダンボが飛ぶ瞬間に毎回感動がありました。
ティム・バートン 飛ぶシーンにはそれぞれ意味がある。とにかく解放感を表現したかったけれど、あまり飛びすぎないようにというのも注意したよ(笑)。ダンボが、マイナスをプラスに変えていく姿が魅力的なんだ。実際に、象が飛ぶのは不可能だけどね。
──中でも心に残った“飛ぶシーン”について教えてください。
又吉 ジャンボに会いたいという気持ち以外で、ダンボが人のために飛ぶ場面はむちゃくちゃ感動的でした。ダンボを世話しているホルト一家の娘・ミリーが「お父さんも私たちもどこにも行けない」というセリフを言いますが、みんなの飛びたい気持ちがダンボに託されている(又吉)と感じました。例えばサーカスの人々は、自分たちの個性を生かしてダンボを逃がそうとする。ずっとサーカスで生きてきて、悪いやつにだまされて解雇された人々の思いも、ダンボは背負って飛んでいるんです。
ダンボとジャンボの関係が人間の家族にも重なる(バートン)
──監督は実写化した「ダンボ」は家族の話だと語っていましたが。
バートン ジャンボとダンボの親子や、家族のような関係性を築くサーカスの人々。家族にはいろいろな形があるからね。映画に関わったスタッフやキャストも家族のような存在だと言える。
──メインで描かれるホルト一家はいかがでしたか。
又吉 ミリーとジョーのお母さんは亡くなっているので出てきませんが、劇中ではお母さんの存在が大きかったです。ジャンボが売られていくときに、ミリーが父親に「お母さんなら止めてた」と言うじゃないですか。姉弟がダンボに共感するのは、彼らもお母さんと会えないことが影響している。そこにも、ダンボとジャンボの関係が重なりました。
バートン その通りだよ。母親を愛していても愛していなかったとしても、親子の間には強い絆があると思う。それは原始的なもので、意識していなくても出てくるんだ。
誰かの隠された魅力に気付きたい(又吉)
──又吉さんが一番印象に残ったのは、どのキャラクターですか。
又吉 エヴァ・グリーン演じる空中ブランコの女王・コレットですね。
バートン 彼女は高所恐怖症だったんだけど、練習を重ねて、実際に空中ブランコに乗れるようになった。素晴らしい役者で、彼女自身も自分は他人と違うという気持ちを抱いていた経験があるので、ダンボの立場を深く理解してくれたよ。
又吉 最初コレットがどういう存在かわからなくて怖い人かなと思ったら、印象が変わっていって。最終的にすごく好きになっていたんです。
バートン ダンボも最初は周囲から奇妙と言われるけど、実際はとても美しい存在。怖そうに見えるキャラクターも実は優しかったりする。見た目だけでは判断できないこともあるんだよ。
又吉 そこがすごく面白かったですね。監督の作品に出てくるキャラクターは、都合よく内面が変わるのではなく、欠点も含めて愛すべき人物になっているのが魅力的だと思うんです。
バートン 「ダンボ」にも、サーカスに食べ過ぎのマーメイドがいたりね。誰にでも何かしら問題があると思うよ(笑)。
──最後に、又吉さんがこの映画から感じたメッセージをお話しください。
又吉 ダンボが耳を翼に変えたように、普通の生活をしている人にも日常で感じているネガティブな要素をプラスに転じられる力があると思います。1人ではそれに気付けないかもしれないので、周りに自分の魅力に気付いてくれる人がいるといいですね。僕も誰かの隠された魅力に気付いていけたらいいなと思いました。
バートン マイナスなことも肯定的なことに変えていくのがダンボというキャラクターなんだ。私たちは空を飛ぶことはできないけれど、人生の中でうまくいかないことに直面したときには、それぞれなんとか乗り越えていく必要がある。自分の場所は自分で探さなくちゃいけないんだ。
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又吉直樹が語るティム・バートン&「ダンボ」の魅力
- 「ダンボ」
- 2019年3月29日(金)全国公開
- ストーリー
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アメリカ各地で興行の旅を続ける落ちぶれたサーカス団で生まれた象のダンボ。ダンボは、サーカスの新たな看板スターとしてショーに出るが、大きすぎる耳のせいで観客の笑い者にされてしまう。ある日、サーカスの元看板スターだったホルトの子供たちが、ダンボと遊んでいると、大きな耳でダンボが飛べることを発見する。その“空飛ぶ子象”の噂を聞き付けた大興行師のヴァンデヴァーは、サーカス団をだましてダンボを手に入れようとたくらみ、愛する母と引き離してしまう。ダンボの姿に勇気付けられたサーカス団の仲間たちは、母象の救出に挑む。大空を舞うダンボが、世界中に“勇気”を運ぶファンタジーアドベンチャー。
- スタッフ
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監督:ティム・バートン
脚本:アーレン・クルーガー
音楽:ダニー・エルフマン
音楽監修:マイク・ハイアム
- キャスト
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ホルト:コリン・ファレル
ヴァンデヴァー:マイケル・キートン
メディチ:ダニー・デヴィート
コレット:エヴァ・グリーン
- 日本語吹替版キャスト
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ホルト:西島秀俊
ヴァンデヴァー:井上和彦
メディチ:浦山迅
コレット:沢城みゆき
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- ティム・バートン
- 1958年8月25日生まれ、アメリカ・カリフォルニア州出身。幼少期からアニメや映画に没頭し、高校卒業後にディズニーの奨学金を受け、カリフォルニア芸術大学でアニメーションを専攻したのち、ウォルト・ディズニー・スタジオに実習生として入社。ディズニーのアニメーターとして「きつねと猟犬」や「トロン」などに参加。1985年にデビュー作「ピーウィーの大冒険」で長編デビューを果たす。1989年に「バットマン」が大ヒット。2007年には史上最年少の49歳で、第64回ヴェネツィア国際映画祭の特別金獅子生涯功労賞を受賞した。主な監督作は「シザーハンズ」「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」「ビッグ・フィッシュ」「チャーリーとチョコレート工場」「アリス・イン・ワンダーランド」など。
- 又吉直樹(マタヨシナオキ)
- 1980年6月2日生まれ、大阪府出身。吉本興業が運営する芸人養成所・NSCの東京校5期生で、綾部祐二とともに2003年にお笑いコンビのピースを結成。芸人として活躍する傍ら、作家としても活動し、2015年「火花」で第153回芥川龍之介賞を受賞。著書に「第2図書係補佐」「東京百景」「夜を乗り越える」「劇場」などがある。俳優として映画「舟を編む」やNHK大河ドラマ「西郷どん」などに出演。また2007年に舞台脚本として書き下ろした「凜」が映画化され、2019年2月に公開。映画版には脚本監修としても参加している。