海野つなみが語る映画「ダウントン・アビー」|まずは映画を入り口に!シリーズ初心者も夢中になれる劇場版が日本公開 / 描き下ろしイラスト&レビューも

ゴールデングローブ賞やエミー賞など数々の賞を獲得したイギリスのテレビシリーズ「ダウントン・アビー」。20世紀初頭の大邸宅を舞台に、貴族と使用人たちが繰り広げる愛憎劇が世界中で人気を博した。シリーズ初の劇場版が1月10日に日本公開されることを記念し、映画ナタリーでは2回にわたって特集を展開。第1弾では、熱狂的ファン“ダウントニアン”な著名人たちから期待あふれるコメントを寄せてもらった。

この第2弾では、その中から「逃げるは恥だが役に立つ」で知られるマンガ家・海野つなみにインタビュー。誰もが夢中になれる「ダウントン・アビー」の魅力を「英国貴族、主従関係、歴史もの……1つでも引っかかるキーワードがあれば大丈夫!」と力強く語ってくれた。さらに海野が映画「ダウントン・アビー」の世界を描いたイラストも紹介! 筋金入りの“ダウントニアン”な映画評論家・よしひろまさみちによるレビューもお見逃しなく。

取材・文 / 金須晶子 文 / よしひろまさみち(P3レビュー)

Illustration

海野つなみが映画「ダウントン・アビー」の世界を描き下ろし!

海野つなみが描き下ろした映画「ダウントン・アビー」イラスト。

Interview

映画単体でも楽しめる

──海野さんは、テレビシリーズから「ダウントン・アビー」のファンだったんですよね。映画化されることはご存知でしたか?

「ダウントン・アビー」

はい、楽しみでした! 映画のあらすじを読んで、英国王ジョージ5世ってどんな人だったかしら?と検索してみたんです。そうしたら王妃のメアリー・オブ・テックによくない評判や噂があったみたいで。私がマンガで描くならおいしいネタなんですけど、王室の品位に関わるエピソードだから、どんなふうに扱うのか気になっていました。

──イギリスではエリザベス女王をはじめ、本物の貴族や王族も「ダウントン・アビー」を観ていますからね。

実際に映画を観たら「さすが!」という描き方でした。イギリス人は史実を知っているだろうから、ニヤッとしながら観たんでしょうね。テレビシリーズの劇場版ということで「私たちの屋敷に国王がやって来た!」というわかりやすいドタバタ劇だけでも楽しい作品になるはずなんです。でも、さすが「ダウントン・アビー」。時代の移り変わりとともに、登場人物たちの生き方もきちんと描かれていて、歴史ドラマとしても見応えがありました。本当に面白かったです!

──シーズン6まで続いたテレビシリーズの劇場版ということで、集大成的な作品でもありますね。逆に映画を観るのを躊躇する人もいるかもしれません。

「ダウントン・アビー」

英国貴族、主従関係、歴史もの、王室、お嬢様、執事、ウィットに富んだ笑い、日々の生活、群像劇……1つでも引っかかるキーワードがあれば、テレビシリーズのストーリーを知らなくても乗っかれると言いますか。映画単体でも楽しめるはずです。とにかく作品として出来がいいので、“うわさになってる「ダウントン・アビー」”をチェックする気持ちで映画館に行って、それからテレビシリーズに入るのもありだと思います。「長いシリーズだし」と躊躇している人こそ、まずは映画が入り口になるんじゃないでしょうか。

トーマスの“いけず”もちゃんとありました

──映画公開を記念して“ダウントニアン”の方々からコメントを寄稿していただいた企画(参照:映画「ダウントン・アビー」特集)にも、海野さんに参加していただきました。その中で「一番好きなキャラクターは?」という質問に、海野さんは「みんな大好きバイオレット様」と答えていました。

「ダウントン・アビー」より、マギー・スミス演じる先代伯爵夫人バイオレット(中央)。

いけずキャラが好きで(笑)。スーッと現れて、ちょっとキツいことを言ってまた去っていくさまが面白いんです。いろいろ苦労しているキャラも応援してあげたくなりますが、かわいらしくおいしいところを持っていくバイオレット様が好きです。今回の映画では“バトン”を受け渡す流れもあって……そこはジーンとなりました。

──「トーマス&オブライエンのワルワルコンビも好き」ともコメントされていました。この従者2人は悪巧みばかりしているのに人気ですよね。

テレビシリーズ初期の頃は、みんなそれをニヤニヤしながら楽しんでいた部分があるんじゃないでしょうか。また2人して悪巧みしてるー!って。今回、執事に昇格したトーマスが“トーマス・バローさん”みたいな風格になっていて、もう彼はいけずしないのか……と寂しく感じたんです。でもちゃんとやってくれました。よし、いけず来た! よしよし!みたいな(笑)。

──シリーズを通して、トーマスは特に内面の変化が大きかったキャラクターだと思います。

ロブ・ジェームズ=コリアー演じるトーマス・バロー(右)。

一番わかりやすく出世したキャラクターでもありますよね。執事にまで成り上がりましたし。そういえば、戦時中に病院で偉そうにしていた時期もありましたね(笑)。彼はゲイであることに後ろめたさを持つ部分もありましたが、映画では、今を耐えればその先があるというか……時代が変わるにつれて状況も変わっていくんだという光が見えたようで、素直に「よかったね」と思えました。彼も悪い人なりに苦労してきましたから。

──海野さんの作品には、いわゆる悪役キャラはあまり登場しませんよね?

私、すべてのキャラクターを「自分だったらどうするか」という視点で描くんです。だから悪いことするキャラでも、実は……みたいな要素をつい入れてしまって。完全な悪役というより、悪い人でも「気持ちはわかる」と思えるキャラになってしまうんです。誰から見ても憎々しいサイコパスとかも描いてみたいんですけど、担当さんに「いや、海野さんは描かなくていいです。望まれてないです」と言われました(笑)。誰しも自分の中に悪さやずるさはあるもので。トーマスやオブライエンは、そこをぐっとフィーチャーしたキャラなので、ある意味自分の分身として楽しめたのかなと思います。