「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」綾野剛×北川景子|凸凹じゃない、言葉もいらない関係性

ドクター・デスは救いの神か猟奇殺人犯か──。130人を安楽死させた実在の医師をモデルに描かれたクライムサスペンス「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」が、11月13日に全国公開される。

映画ナタリーでは、ドクター・デスを追う警視庁捜査一課No.1コンビの犬養と高千穂を演じた綾野剛と北川景子の対談をセッティング。同じ2003年に芸能界デビューを果たし、取材中も「景子ちゃん」「剛くん」と呼び合うほどの信頼関係にある2人が、本作で一心同体と言えるバディ関係を築いた。相棒を務めたからこそ気付いた互いの魅力と映画の見どころとは。綾野が「この役をやって本当によかった」と反応した北川の感想にも注目を。また予告で垣間見える強烈なビンタシーンの裏側も語ってくれた。

取材・文 / 奥富敏晴 撮影 / 向後真孝
綾野剛:ヘアメイク / 石邑麻由 スタイリング / 申谷弘美
北川景子:ヘアメイク / 板倉タクマ スタイリング / 林峻之

言葉はいらないバディ(北川)

──お二人は2018年公開「パンク侍、斬られて候」に続く共演かと思います。前回は主人公とヒロインという関係でしたが、今回はバディ。刑事としてタッグを組んだ感想を教えてください。

左から北川景子、綾野剛。

綾野剛 よくバディって凸凹コンビって言うじゃないですか。凸凹がセオリーになってる。でも今回は完全にシンクロバディ。一心同体です。脚本を読んだときも、現場にいたときも、完成したものを観たときも、その気持ちは変わらなかった。

──現場で「こういうバディにしよう」といった話し合いは?

北川景子 そこに言葉はなかったですね(笑)。

綾野 そうだね。

北川 会話はするんですよ。今日何食べた?とか。コミュニケーションは取ってますけど、「こういう関係にしようよ」とかは……。

綾野 1回もないね。そういう相談って芝居をするうえで年々減ってくのかな? それとも景子ちゃんとの相性なんだろうか。

北川 話しておかないと不安かな?と思う人とは話すけど、剛くんとは大丈夫だろうなと思ってましたね。高千穂を演じるうえでは言葉で「今、何考えてるんですか?」と聞かなくても、犬養さんが何を考えてるか、何を感じたか、これからどこに向かおうとしてるかがわかる人でありたいと思っていて。犬養さんがきっと胸騒ぎしてるんだろうなっていう不吉な感じとかも瞬時に察知してるんです。

──綾野さんが直情型の敏腕刑事・犬養隼人、北川さんが冷静沈着な相棒・高千穂明日香を演じられました。

綾野 景子ちゃんに対する信頼はもちろんですけど、役者としても尊敬してる。だからこそシンクロがちゃんとできる。今作ではそこまで描かれてないですが、高千穂の直感を犬養が計画的に支えることもある。ちゃんと一体化して、足りないものを完璧に補い合う。それを現場で発見できたのは大きかった。

北川 高千穂は犬養さんとずっと一緒にいるし、常に目線で追ってる。だから、そこに言葉はいらない関係。お互いにセリフがないときも、それを感じてもらえるような芝居をしたいと思ってましたね。

最高に芝居のスイッチが入ったビンタ(綾野)

「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」

──あの高千穂による強烈なビンタのシーンもお二人の信頼関係があってこそ生まれたものなんでしょうか。

北川 最初の台本にはビンタはなかったんですよ。高千穂と犬養さんの“熱い拳と拳”のぶつかり合いじゃないですけど、高千穂からも何かしたほうがいいとなって流れから生まれたアクションだったんです。とは言え、アングルとかを探って当てなくてもいいようにするんだろうなとは思ってました(笑)。

綾野 カメラの位置関係で、実際にたたかないと(当ててないことが)バレるという思いが監督の中にあったんだと思います。横から平手打ちを撮ると、100%バレますから。

北川 長回しで撮ってしまうシーンだったので、確かに当てないとバレる。当日撮影現場に行ったら「当ててちょうだい」という感じでした(笑)。

綾野剛

綾野 そもそも平手打ちをした、された感覚はお互いに持ち得たかったので、当てたほうがいいとは感覚的に思っていて。でも景子ちゃんは優しい人なので、やっぱり実際に人の顔を平手打ちすることに抵抗があるわけですよ、当然のように。

北川 役者さんの顔は、できれば殴りたくないという思いはあります。私が殴って赤くなったりしたら午後の撮影にも響く。演技で熱くなって変なところに指が入って失明させてしまったり、唇が切れてしまったり、相手にけがをさせてしまうと思うと怖い。いろいろ考えてしまいますよね。

綾野 「当たっても綾野剛は大丈夫です」って安心感を与えられるように、僕も監督も「全然、大丈夫」「たたいて」と伝えました。景子ちゃんは「わかった、じゃあ、本番一発で決めるために思い切りいくね」って。

北川 すごく緊張してたんですけど、本番ではけっこういいところに入っちゃって(笑)。

綾野 パン!って思い切りきたので、最高に芝居のスイッチが入りましたね。スイッチを入れてもらったという感じ。目を覚まさせてもらった。

北川景子

──劇中でも高千穂が犬養を落ち着かせる、目を覚まさせるという意味合いのシーンでした。

綾野 そうなんです。信頼から生まれるアクションは大切にしたい。

北川 やり慣れてる人に見えてないかちょっと心配してます。「この人、張り手慣れてるな」って。

綾野 普段からビンタしてるんじゃねえか?みたいな(笑)。

北川 それが一番心配です……!(笑)