ドラマ「だが、情熱はある」のBlu-ray & DVD-BOXが12月20日に発売された。
全12話の「だが、情熱はある」は、オードリー・若林正恭と南海キャンディーズ・山里亮太の半生を描く、笑いと涙の青春サバイバルストーリー。髙橋海人(King & Prince)が若林、森本慎太郎(SixTONES)が山里を演じ、戸塚純貴が若林の相方・春日俊彰、富田望生が山里の相方・しずちゃんに扮した。
映画ナタリーでは、監督の狩山俊輔にインタビューを実施。髙橋・森本それぞれが作品に懸けた思いや、もともと予定していなかったという「M-1グランプリ2008」敗者復活戦でのフル尺漫才の裏側、東京・北沢タウンホールでの「たりないふたり」解散ライブの撮影秘話について語ってもらった。
取材・文 / 脇菜々香撮影 / 間庭裕基
ドラマ「だが、情熱はある」Blu-ray / DVD PV予告編公開中
自分たちの“間”としてちゃんと笑えるレベルまで消化してくれた
──まずは、オードリー・若林正恭さんと南海キャンディーズ・山里亮太さんのユニット「たりないふたり」を高校時代から描くドラマが作られた経緯を教えてください。
プロデューサーの河野(英裕)さんがお二人それぞれのエッセイを読み、「たりないふたり」があることを知らない状態で“彼らの半生をドラマにしたら面白いんじゃないか”と企画を出したのがきっかけです。最初にイメージしていたのは、朝ドラ。日本テレビの22時半枠で、芸人の半生を描く朝ドラの雰囲気をやろうと話していました。
──主演2人が髙橋海人さんと森本慎太郎さんだと発表されたときは、驚きもありました。
河野さんがキャスティングしましたけど、僕も聞いたときは驚きましたね。外見は全然違いますが、内に抱えるものにどこか共通の部分はありました。海人くんは自信がなかったりどこか陰な一面があって、慎太郎くんはとにかく明るくて社交性が高い。山里さんほどのねたみ嫉み的な部分は最初はなかったんですけど、慎太郎くんは撮影を進めていく中で「山里さんにむしばまれた」と言っていて(笑)。もともと2人ともご本人と近いものを持ち合わせていたのかなと思います。
──特に憑依していたようにも感じた漫才シーンは、どのように作り上げていったんですか?
漫才は、最初はそんなにがっつりやるつもりじゃなかったんです。「ほとんどカットするよ」って言いながら1分間ぐらいネタをやってもらったのは、(オードリーが改名する前の)ナイスミドルがクレープ屋さんでバイトしながら舞台に立つシーンが最初。台本は1行ぐらいだったんですけど、海人くんと戸塚(純貴)くんが昔のナイスミドルのライブ映像を探してきて、2人で合わせて練習してきたんです。それ以降舞台のシーンのたびに、みんなネタを合わせてきたり、オリジナルネタを作ったり。舞台に立ってお客さんの前で笑いを取る感覚や、それがすごく難しいんだということ、ウケた瞬間はこんなにも気持ちいいんだっていうことを経験してほしいと思ったので、最終的には2組に舞台シーンのたびにネタをやってもらいました。
──逆に、なぜ最初はちょっとしかやらないつもりだったんですか?
やっぱり漫才をやるのはとても難しい。プロの芸人さんたちの“間”やタイミングがあって、素人がやると同じネタでも笑えないんです。でも2組とも、モデルにしている人たちのネタを愛して、練習を重ねて、自分たちの間としてちゃんと笑えるレベルまで消化してくれたんですよね。だから最後のほうは「いや、これはちゃんと見せないと」となりました。2組が同じ舞台に立つ(「M-1グランプリ2008」の)敗者復活戦のシーンも、音なし・スローモーションでダイジェストみたいに見せようかなと考えていたんですけど、あのレベルに到達していたのでフル尺で真正面から見せようと。このドラマ史上一番大人数の前でやったので(キャスト陣は)ものすごく緊張していましたけどね。
──髙橋さんと森本さんは、敗者復活戦のシーンにそれぞれどんなふうに挑まれたんですか?
慎太郎くんのほうが瞬発的で、ある程度できたら「あとはもう本番でやる!」みたいな感じ。裏ではものすごく練習していたのかもしれないですけど、僕らにはそれを見せない。海人くんは緊張して裏でずっと戸塚くんと練習していて、“噛んだらその瞬間に笑えなくなる”っていう恐怖心で押しつぶされそうでしたね。
──ドラマの現場であまり聞いたことのない緊張感ですね。
そんなに緊張感を出そうとも思ってなかったんですけど、自然と本当のM-1のピリピリした空気に近いものになりました。キャストたちもそんな気持ちで出てたんじゃないかなと思います。
春日役ができる人って、日本中を探してもほとんどいない
──髙橋さんの相方はずっと戸塚さんであるのに対して、森本さんは何度も相方が変わっていきました。森本さんは、NSC時代の相方を演じた芸人の九条ジョーさんと実際にネタを書いたり、しずちゃんとのネタをオリジナルで作ったりもしていたそうですね。
お笑い芸人の役だから自分で書いていたことは不思議ではなかったですけど、今考えると変ですよね(笑)。森本くんは漫才のシーンにすごく懸けていて。お芝居の部分は少し力を抜いて演じてもらいつつ、ぐっと緊張する瞬間がある役はとてもいいなと思いました。
──主演2人の相方である戸塚さんと富田さんの芝居・漫才も話題になりました。お二人の印象についてもお聞きしたいです。
富田さんは、しずちゃん本人との身長差をどうしようと思ってたんです。最初のほうはちょっと抵抗して高いブーツを履いていたんですけど、そこじゃないなと。しずちゃんの醸し出す雰囲気みたいなものは富田望生にしか出せないし、本当に本人に見えていた。すごいなと思いました。
──戸塚さんはいかがですか?
春日(俊彰)役ができる人って、日本中を探してもほとんどいないんじゃないかと思います。「戸塚くんでいけそうだ」と聞いたときはよかった!と思いました。でも、テレビに映っているピンクベストの春日さんは、のちに若林さんが作り出す“春日というキャラクター”を演じている設定。高校時代の春日さんは誰もわからないんですよね。どんな感じで演じればいいのか、のちにピンクベストを着るためにどう変化を付けていけばいいのか、計算がうまく立たなくて、とにかく戸塚くんにいろんなことをやってもらいました。「もうちょっと胸張ってみよう」「やりすぎだな、やめよう」とか(笑)。
──みんなが知っている春日さんまでの道のりを調整しながら作っていったんですね! ほかのキャストでいうと、坂井真紀さん演じる南海キャンディーズのマネージャー・高山三希や、藤井隆さん扮する谷勝太がたびたび若林に問う「幸せ?」というセリフも印象的でした。
坂井さん、素晴らしい女優さんですよね。9話の敗者復活戦後、負けた南海キャンディーズ2人の肩を引き寄せるシーンの撮影は本当に時間がなかったので、あらかじめ絵コンテを描いたんです。坂井さんは絵コンテ通りに芝居をしてくれているんですけど、描いた僕からすると全然違って、実際の芝居のほうがめちゃくちゃよかった。自分が想像していたシーンよりも1段階も2段階も上の表現をしてくれたのは新鮮で、すごく感動した覚えがあります。
谷の「幸せ?」は、ある種決めゼリフというか一発ギャグに近いもの。僕は藤井さんに直接話してないですが、あまり言い方にバリエーションを作らないほうがいいんじゃないかと思っていたんです。それを受ける若林の心情やシチュエーションで感じることが違うというのが、このセリフを多用することにおいてはいいのかなと。実際に撮り始めると、藤井さんも特に言い方を変えることなく、同じようなテンションでやってくれました。
──藤井さん含め、ヒコロヒーさん、トンツカタンの森本晋太郎さんなど本物の芸人さんも多く出演していました。
九条ジョーくんやパンプキンポテトフライさんもそうですけど、本物のお笑い芸人さんが現場にいると、「漫才がうまくいかないときってどういう気持ちなんですか?」「どれぐらい練習するんですか?」みたいなことを直接聞けて、慎太郎くんや海人くんにとってすごく刺激になるんです。僕らスタッフも、「NSCって実際どんな感じなんですか?」「先生はどういうふうに振る舞うんですか?」みたいなことを現場で聞いて取り入れることができた。なので、定期的にお笑い芸人の方に入ってもらいました。
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解散ライブに懸ける思いをみんなで追体験しているような感覚