弱さを知っている人は強い(チッチ)
──では、クルエラの運命を変えるカリスマデザイナーのバロネスはどうでしたか? クルエラの才能を見抜きますが、目的のためには手段を選ばない冷酷な面もありました。
チッチ こういう人っているよねって思いながら観てました。いるよね!?
リンリン (うなずく)
チッチ 誰かを自分よりもすごい人だと思えないバロネスは、逆にかわいそうだなと思いました。人を認めることができたらもっと豊かな人生になるのに、もったいないなって。
リンリン 怖かったです。本当の自分を忘れてしまったら、ああいう悪い人間にもなりかねないと思ってしまって。最近けっこう「自分ってなんだろう?」って考えることが多いので、こうなりたくないと思って観てました。
──「自分ってなんだろう?」という問いは、エステラとクルエラの間で葛藤するクルエラも抱えていましたよね。クルエラが最後に下す決断についてはどう解釈されましたか?
チッチ たくさんのことで悩んだときって、その自分を捨て去りたいっていう瞬間があるじゃないですか。だからクルエラの取る行動は、過去の自分と決別するために絶対必要だった。自分の弱さと向き合って“クルエラ”になっていったから、弱さを知っている人は強いんだなと感じました。
リンリン 今チッチの話を聞いて確かにって思いました(笑)。クルエラは周りが求めているから悪役になるって言ってましたよね。だから自分のあるべき姿を探して、ああなったんだなって。どうしよう、あんまりわかってないかもしれない……。
チッチ (笑)。ずっとエステラとクルエラという白と黒がはっきり分かれていたけど、それが混合した形でいられるようになったんじゃないかな。ダルメシアンって白と黒が混ざってるから、それが象徴するように善と悪が混ざった存在がクルエラなのかなって。
リンリン おおー……!
ずっと“普通”を避けたかった(リンリン)
──BiSHとして活動されているお二人も、クルエラのようにかっこいい憧れの存在だと思います。お二人はかつてそうなりたいと思ったことはありますか?
チッチ 自分が弱いとわかったときに強くなりたいと思ったんです。中学生くらいのときに、自分を信じる強さや負けたくない根性は、自ら作り出さないと生まれないものなんだなと気付きまして。そこからいろんな作品を観たり歴史を知るうちに、強い女性に憧れるようになりました。
リンリン 私はBiSHに入ってからですかね。入ったばかりの頃は、ずっと“普通”ということを避けたい気持ちがあって。髪型を好き勝手にコロコロ変えたり、今見たらヤバいかっこうをしたりしていたんです。でもありがたいことにWACKというチームが自由でしたし、女の子のファンもたくさんいてくれて「かっこいい」と言ってもらえるのがすごくうれしかったです。
──そうだったんですね。クルエラは自分の感性やセンスが周囲に受け入れられないことで葛藤していきますが、そういった経験はおありですか?
チッチ BiSHの活動初期にはあったんですが、自分の好きなものを好きと言うほうがやっぱり生きやすいし、それを肯定してくれる人のために届ければいいと思うようになりました。むしろ「気持ち悪い、変だなこの人たち」と思われたら勝ちだなと。“普通”ということも素晴らしいですけど、BiSHはその違和感が持ち味のグループなので。
──劇中でも「普通と言われるのが一番嫌」というセリフがありますね。リンリンさんはいかがでしょう。
リンリン ずっと葛藤してます。今はこういう髪型でやってるんですけど、しぐさとかが見合ってないというか、へなへなしちゃう(笑)。いろいろ気にしてはいるんですけど直せなくて……。
チッチ あはは(笑)。
リンリン でもやりたいことは貫き通そうと思っています。
──葛藤は今も続いてるんですね。お二人がお互いを見て、クルエラのような強さを感じる瞬間はありますか?
チッチ リンリンはかなり独創的な感性を持っているので、そういうところはクルエラと似てる。本人は悩んだこともあったかもしれないけど、私から見たらとても輝いていてうらやましいです。その中でへなへなってなったり、心配性な部分が見えてギャップ萌えがあるのがリンリンのよさで(笑)。どっちもあるのが自分のいいところだと思って生きていってほしいです!
リンリン (照れながら)はい、ありがとうございます……。チッチはBiSHのドンなのでクルエラみたいです。
チッチ (笑)
リンリン BiSHのためにどうしたらいいとか、どうするべきだとかを全部考えてくれて。みんなに「えっ」って思われることでも注意してくれるところがかっこいいなと思ってます。
自分もがんばれるかもって勇気をもらえる映画(チッチ)
──映画館だけではなくディズニープラスでも配信される本作ですが、それぞれどのような楽しみ方ができそうですか?
チッチ 試写室で観て、映画館だからこそ楽しめる画の美しさや音楽の体感の仕方はやっぱり違うと思ったんです。映画を観ていて「これリンリンと話したい!」と思う瞬間があったんですけど、そうやって自由に話しながら観ることができるのはディズニープラスならではのよさかなって。
リンリン そうですね。私は今日大きな画面で観て、衣装のシーンで「おおー!」って興奮したので。今度はディズニープラスで一時停止しながらじっくり観てみたいです。
──では、この作品をお薦めしたいBiSHのメンバーはいますか?
チッチ ハシヤスメ(・アツコ)ですかね。自分と葛藤している部分がありそうなので、それを乗り越えて仲間と歩んで行った先にはこういう道があるんだよって思ってほしい。あとあんまりファッションに興味がなさそうだから(笑)、逆に刺激を受けてかっこいいって感じてくれたらうれしいな。
リンリン 確かに。あ、モモコ(グミカンパニー)さんは今日の取材をすごくうらやましがってました。
チッチ モモコはディズニー好きだしね。ハシヤスメも好きだし。
リンリン モモコさんは心が優しいので、いろんなキャラクターに寄り添いながら観そうです。
──メンバーの皆さんディズニー作品がお好きなんですね。最後に、本作をこれからご覧になる方へメッセージをお願いします。
チッチ 音楽と映画の表現はできることが別なので、自分たちの活動で伝えきれないものもあると思っていて。この作品で女性の強さや、男性と女性が仲間になることの素晴らしさを伝えてくれてすごくうれしかったですし、性別を超えていろんな人に観てほしいです。みんないろんな人生を生きているけど、クルエラのように這い上がってきた人がいるなら、自分もがんばれるかもって勇気をもらえる映画だと思います。
リンリン 私自身も自分ってなんなんだろうとずっと問い続けているので、そのヒントになる映画だと思いました。「男性だから」「女性だから」っていまだに言われる時代だと思うんですけど、そういうところで一歩踏み出せない人にも観てもらえたらうれしいです。