「小さな恋のうた」MONGOL800 キヨサク×脚本 平田研也×プロデューサー 山城竹識|モンパチの名曲に乗せて沖縄のリアルを描く、キラキラだけじゃない青春映画

「今年中にはできるんじゃない?」ってずっと言ってました(山城)

──山城さんは高校時代の後輩ということで、MONGOL800のメンバーを昔からご存知なんですよね。MONGOL800の映像作品もほぼすべて山城さんが手がけられていますが、「あなたに」と「小さな恋のうた」はミュージックビデオでは表現できないと思ったところがこのプロジェクトの始まりだったと伺いました。

山城竹識

山城 そうですね。映像を作るんだったら沖縄発の地方ドラマっていう形が一番しっくりくるかもと思って、当初はモンパチのセカンドアルバム「MESSAGE」に収録されている楽曲を1曲1話の形でドラマ化して、1つの短編集みたいにするイメージだったんです。先輩(キヨサク)にも相談させてもらったら「いいんじゃない」と言ってくださったので。

──そこから紆余曲折あって映画の完成まで約8年の月日を要するわけですが、当時そこまで時間がかかるとは……?

一同 思ってないですよ!!

山城 「今年中にはできるんじゃない?」ってずっと言ってました(笑)。でもいろいろな事情があって、結局毎回完成には至らずで。

「小さな恋のうた」

──プロジェクトが停滞している間も、平田さんと山城さんは沖縄の取材を続けていたとか。基地の関係者に話を聞くなどされていたのですか?

平田 取材というより、山城さんの“見てほしいところ”に僕が連れ回されるという感じで。通われていた高校とか、いわゆる観光地じゃない沖縄の風景をたくさん見せてもらいました。

「小さな恋のうた」

山城 当時僕が見ていたモンパチを感じてほしくて、母校の高校や、先輩たちとたむろしていたところを見に行ったり。だから沖縄で取材と言っても「基地の見学に行きましょう」みたいなものではなかったです。まあ街を歩いていれば普通に基地があるから、「基地も見てみましょう」なんてこともありましたが。

お世辞抜きでみんな演奏がうまい!(キヨサク)

──山城さんたちが取材を続ける一方で、プロジェクトが進んでは中断して……という状況を繰り返していたんですよね。キヨサクさんはどのような思いで見ていたんでしょう。

キヨサク

キヨサク なかなか形にならないものなんだなと、時間が経てば経つほど感じました。大人の人、誰も手挙げてくれんなーって(笑)。でも8年経って結局こんなに大規模になるとは思ってなかったし、作品にとって一番いい形で皆さんの目に触れることになったので。そのための時間だったのかなと。

山城 先輩からはたまに「あれどうなったの?」とか聞かれたりしてましたね。でも企画が中断しているときは「がんばるぞ!」というより「絶対できる」という感覚でした。沖縄を巡る情勢がいろいろ変わっていく中で、平田さんと話し合いながらストーリーの構築を変えていって。あとはタイミングだけだと思って、焦ってもいなければあきらめてもなくて、いい感じに温められたなと思ってます。

「小さな恋のうた」

──ここまで時間はかかったものの、佐野勇斗さんをはじめ素晴らしいキャストの皆さんがそろったのも今のタイミングだったからこそですよね。キヨサクさんが「作品にとって一番いい形」とおっしゃっていましたが、まさにそうだと思います。メインキャストの5人は「小さな恋のうたバンド」として実際にCDデビューも果たしましたね。

キヨサク 身内に甘いと怒られそうだけど、お世辞抜きでみんな演奏がうまい! めちゃくちゃいいバンドです。森永悠希くんは別の映画でドラムの経験があったから上手だったけど、ほかのみんなはゼロから楽器を触って。よくあれだけやったなと思いますよ。(鈴木)仁くんなんて「音楽は一番苦手意識があった」って言ってたもんね(笑)。でもリアルに見せることにスタッフの人たちが重きを置いていたから、観ている人にはすごく伝わるんじゃないかな。あのライブ感がバンドの成長している姿をより伝えていたなと思います。

“音楽”と“バンド”だけは貫きました(山城)

──沖縄を取り巻く状況の変化に合わせて脚本を書き換えていく中で、ここだけは変わらなかった、譲れなかったという要素はありましたか?

「小さな恋のうた」

山城 まさに“音楽”と“バンド”です。世の中の何が変わっても、そこだけは貫きました。

──キャストの皆さんが演奏を通してメッセージを伝えようと奮闘する姿には、ドキュメンタリーのような味わいも感じられました。高校生バンドが登場する映画は多々あれど、本作ではプロデビュー決定や仲間の喪失といった、いわゆる“バンド映画”に欠かせないエピソードが序盤で一気に展開されますよね。そのスピード感に少し驚きがありました。

「小さな恋のうた」

キヨサク 「こういう映画だろうな」とイメージを持って観ると、ものの20分ぐらいで「あれ、想像してたストーリー全部出てきちゃった!」ってびっくりするかも。「このあとどうするの?」って(笑)。いい裏切られ方だと思いましたよ。いわゆる“バンド映画”してますけど、メンバー同士のいざこざみたいな“あるある”より、実際はもっと違う問題のほうが大きい。バンドが主軸にありながら、全体を通してさまざまな視点で切り取られた「沖縄」が描かれています。キャストやスタッフ陣が真摯に沖縄に向き合う姿勢とその熱量を感じました。

平田 米軍基地で暮らす子とフェンス越しに偶然知り合って「ハーイ」って交流するようになるのは、実話なんですよ。沖縄で聞いた話で、そういう経験をした人がいたらしくて。それは面白いなと思ってストーリーに取り入れたんです。ちなみに途中でメンバーが4人から3人になるのはノンフィクションで、実際のモンパチさんにならっています。

キヨサク そういうことだったんですね(笑)。今回主軸になった楽曲は「あなたに」と「小さな恋のうた」じゃないですか。もともとドラマとして練っていた脚本なので、ほかの楽曲の物語もいっぱいあるんですよね? 今回と同じボリュームの映画をもう3本ぐらい作れちゃうんじゃないですか? まだまだ引き出しがあるんじゃないかなって。

平田研也

平田 ありますよ。沖縄が抱えてるものはまだまだありますので。今回できなかったけど、いまだに描きたいと思っているのは離島のこと。離島出身の人とかにも取材したんです。

キヨサク なるほど。沖縄の中でも、本島と離島の感覚は別物なところがありますからね。視点も違うし。沖縄の現状、そして若い世代の子たちが見ている沖縄というものを、その都度発信していきたいとは思います。それでちょっとでも沖縄に関心を持ってもらえたら。よくも悪くも、いかに変わった島かというのを。そういうところが魅力になるかもしれないですし。

「小さな恋のうた」
2019年5月24日(金)全国公開
ストーリー

日本とアメリカ、フェンスで隔てられた2つの“国”が存在する沖縄の小さな町で、ある高校生バンドが人気を集めていた。自作の曲で観客を熱狂させていた彼らは、東京のレーベルからスカウトを受けプロデビューが決定。真栄城亮多をはじめメンバーが喜びに沸いていた矢先、悲劇の事故が起こる。メンバーが散り散りになりバンドとしての行き先を見失う中、亮多たちは1曲のデモテープと米軍基地に住む1人の少女の存在を知ることに。フェンスの向こう側に仲間の思いを届けるため、彼らは再び楽器を手にする。

スタッフ / キャスト

監督:橋本光二郎

脚本:平田研也

音楽・劇中曲アレンジ・楽器指導:宮内陽輔(ヨースケ@HOME)

企画プロデュース:山城竹識

出演:佐野勇斗、森永悠希、山田杏奈、眞栄田郷敦、鈴木仁、トミコクレア、世良公則ほか

キヨサク / 上江洌清作(ウエズキヨサク)
1981年2月15日生まれ、沖縄県出身。ロックバンド・MONGOL800のVo & Bを担当。1998年、高校の同級生であった儀間崇(G & Vo)、髙里悟(Dr & Vo)とともにMONGOL800を結成する。2001年に発表したアルバム「MESSAGE」は収録曲がCMソングに使用されるなど話題を呼び、インディーズレーベルからの発売にかかわらずヒットを記録。2018年に結成20周年を迎え、2019年2月27日に日本武道館公演「MONGOL800 20th ANNIVERSARY FINAL!! “モンパチハタチ at 日本武道館”」を成功させた。
平田研也(ヒラタケンヤ)
1972年7月4日生まれ、奈良県出身。大学卒業後、制作プロダクション・ロボットに入社。2002年に「Returner(リターナー)」に共同脚本として参加し、映画脚本デビューを果たす。脚本を担当した「つみきのいえ」はアメリカの第81回アカデミー賞短編アニメーション賞でオスカーを獲得した。そのほか主な脚本作に「SHINOBI」「ボクは坊さん。」、共同脚本作に「22年目の告白ー私が殺人犯ですー」など。マルコメ「料亭の味」シリーズのアニメCMでは、脚本だけでなく演出も手がける。
山城竹識(ヤマシロタケシ)
1982年5月4日生まれ、沖縄県出身。バンタンデザイン研究所の映画 / 映像学部卒業後、制作プロダクション・ロボットで勤務する。29歳で沖縄に戻り、制作会社・45どを立ち上げ。MONGOL800の映像作品をはじめ、音楽映像を中心にCM、ドラマ、映画、イベントなどの企画・演出として活動している。主な監督作に「沖縄美ら海水族館~海からのメッセージ~」や、ユニコーン「KEEP ON ROCK'N ROLL」のミュージックビデオなど。