沖縄出身のバンド・MONGOL800の同名楽曲をモチーフとした「小さな恋のうた」が、5月24日に公開される。本作は、沖縄の小さな町で結成された高校生バンドと、米軍基地に住む1人の少女の交流を描く感動の物語。バンドメンバーを演じた佐野勇斗、森永悠希、山田杏奈、眞栄田郷敦、鈴木仁は半年にわたって楽器練習に打ち込み、“小さな恋のうたバンド”として実際にメジャーデビューも果たした。
映画ナタリーでは、平成を代表する1曲「小さな恋のうた」の生みの親であるMONGOL800のキヨサク、脚本を手がけた平田研也、企画プロデューサーでありMONGOL800を学生時代から見てきた山城竹識の鼎談を実施。みずみずしい青春だけでなく、沖縄をとりまく問題にまっすぐ向き合った本作は、完成に至るまで8年の年月を要した。作り手たちが映画を通して感じてほしいメッセージとは?
取材・文 / 金須晶子 撮影 / 草場雄介
MONGOL800の言わずと知れた代表曲「小さな恋のうた」。2001年に発表したセカンドアルバム「MESSAGE」の収録曲で、シングルとしてはリリースされていない。これまでに新垣結衣、JUJU、天月-あまつき-ら総勢60名 / 組以上のアーティストにカバーされ、DAM「平成でもっとも歌われたカラオケランキング」の男性アーティストによる楽曲第1位に輝いた(※女性アーティスト1位は一青窈「ハナミズキ」)。発表から約20年経つ現在まで応援歌やラブソングとして歌い継がれ、年代や性別問わず多くの人々の心を支えてきた1曲だ。
インタビュー
漁師役のオファーが増えたらどうしてくれるんですか?(キヨサク)
──先日行われた沖縄プレミアには、キャストや橋本光二郎監督と一緒にキヨサクさんも“出演者”として登壇されていましたね。
キヨサク 変な緊張がありましたよ。ミュージシャンとしてじゃなく、役者としての登壇でしたから……(笑)。映画のCMとかで観たことある(舞台挨拶の)風景に自分がいたので、ちょっとうれしかったです。
──MONGOL800のお三方ともそれぞれ違うシーンでカメオ出演されていますが、脚本の段階で決まっていたんですか?
平田研也 いえ。完成した脚本の中から、監督がどこに出てもらおうか考えていました。
キヨサク 「セリフないので安心して来てください」って言われてたんですけど、当日現場に行ったらセリフが用意されていて。もう大変ですよ。衣装のTシャツも自分で何枚か持って行って。
平田 役作りですね!
キヨサク そんなたいそうなものでは(笑)。最初の試写を知り合いと観に行ったんですけど、吹き出しましたからね。俺のシーンで。なかなか出てこないなーって、わりとシリアスなシーンが続くけどどうなるんだ?って思いながら観てたら、いい感じの余韻を引っ張ってる中で俺が出てきて……。
──詳しくは言えませんが、心温まるシーンだと思いました。
山城竹識 漁師役に定評がありますもんね(※キヨサクは、はごろもフーズ「シーチキン食堂」60周年CMに漁師役で出演している)。今回も漁師の格好で。
キヨサク 俺の中の設定では、(沖縄の)伊是名(村)とか伊平屋(村)にいそうな漁師のイメージ。漁師役のオファーが今後増えたらどうしてくれるんですかね? でもライブで「僕たちも出演してます」と発表したらお客さんも喜んでくださったので、ついに観てもらえるなと。探してください。
「ずいぶん基地のことに踏み込みましたね」と言われました(平田)
──完成披露やプレミアに来場した方々の感想で、気になる言葉はありましたか?
山城 「いい意味でだまされた」みたいに言われるのはうれしいです。「キラキラ映画だと思ってたけど違った」という部分が伝わるのが大事かなと思いますので。東京沖縄県人会の方たちも観てくださって、70歳のおじいちゃんが「100点満点中150点」と褒めてくれたりもしました(笑)。
平田 僕は、沖縄でこの映画の取材を受けたときに「ずいぶん米軍基地のことに踏み込みましたね」と言われて。自分としてはそこまで踏み込んだつもりはないんですけど、ああそう見えるんだなと、むしろこちらがびっくりしました。
キヨサク それは沖縄県人と県外の人の感覚の違いかもしれないですね。自分も沖縄の日常描写がそのまますぎて、大丈夫なのかな?って逆に心配になっちゃったので。固有名詞で基地が出てきたりしますし。誇張されてるわけでもなく、これが沖縄のリアルだなと。
平田 なるほど。僕は沖縄出身ではないんですけど、沖縄で取材する中で「基地問題を家族で話題にすることはほぼない」と聞いて驚いたんです。生活の中に基地が存在しているんだけど、家族の中で誰かが話題にし始めたらくすぐったさを感じるのが現状としてあるみたいで。
キヨサク それぞれに考えや接し方はあるんですけど、いざテーブルで議題に出して「話し合いましょう」みたいな機会は少ないんじゃないかなと思います。だから、自分も映画を観たときは「おお」と思いましたよ。
次のページ »
「今年中にはできるんじゃない?」ってずっと言ってました(山城)
- 「小さな恋のうた」
- 2019年5月24日(金)全国公開
- ストーリー
-
日本とアメリカ、フェンスで隔てられた2つの“国”が存在する沖縄の小さな町で、ある高校生バンドが人気を集めていた。自作の曲で観客を熱狂させていた彼らは、東京のレーベルからスカウトを受けプロデビューが決定。真栄城亮多をはじめメンバーが喜びに沸いていた矢先、悲劇の事故が起こる。メンバーが散り散りになりバンドとしての行き先を見失う中、亮多たちは1曲のデモテープと米軍基地に住む1人の少女の存在を知ることに。フェンスの向こう側に仲間の思いを届けるため、彼らは再び楽器を手にする。
- スタッフ / キャスト
-
監督:橋本光二郎
脚本:平田研也
音楽・劇中曲アレンジ・楽器指導:宮内陽輔(ヨースケ@HOME)
企画プロデュース:山城竹識
出演:佐野勇斗、森永悠希、山田杏奈、眞栄田郷敦、鈴木仁、トミコクレア、世良公則ほか
- 「小さな恋のうた」公式サイト
- 映画「小さな恋のうた」 (@chiisanakoi2019) | Twitter
- 映画「小さな恋のうた」 (@chiisanakoinouta.movie) | Instagram
- 映画「小さな恋のうた」 | Facebook
- 「小さな恋のうた」作品情報
©2019「小さな恋のうた」製作委員会
- キヨサク / 上江洌清作(ウエズキヨサク)
- 1981年2月15日生まれ、沖縄県出身。ロックバンド・MONGOL800のVo & Bを担当。1998年、高校の同級生であった儀間崇(G & Vo)、髙里悟(Dr & Vo)とともにMONGOL800を結成する。2001年に発表したアルバム「MESSAGE」は収録曲がCMソングに使用されるなど話題を呼び、インディーズレーベルからの発売にかかわらずヒットを記録。2018年に結成20周年を迎え、2019年2月27日に日本武道館公演「MONGOL800 20th ANNIVERSARY FINAL!! “モンパチハタチ at 日本武道館”」を成功させた。
- 平田研也(ヒラタケンヤ)
- 1972年7月4日生まれ、奈良県出身。大学卒業後、制作プロダクション・ロボットに入社。2002年に「Returner(リターナー)」に共同脚本として参加し、映画脚本デビューを果たす。脚本を担当した「つみきのいえ」はアメリカの第81回アカデミー賞短編アニメーション賞でオスカーを獲得した。そのほか主な脚本作に「SHINOBI」「ボクは坊さん。」、共同脚本作に「22年目の告白ー私が殺人犯ですー」など。マルコメ「料亭の味」シリーズのアニメCMでは、脚本だけでなく演出も手がける。
- 山城竹識(ヤマシロタケシ)
- 1982年5月4日生まれ、沖縄県出身。バンタンデザイン研究所の映画 / 映像学部卒業後、制作プロダクション・ロボットで勤務する。29歳で沖縄に戻り、制作会社・45どを立ち上げ。MONGOL800の映像作品をはじめ、音楽映像を中心にCM、ドラマ、映画、イベントなどの企画・演出として活動している。主な監督作に「沖縄美ら海水族館~海からのメッセージ~」や、ユニコーン「KEEP ON ROCK'N ROLL」のミュージックビデオなど。