映画ナタリー PowerPush -「チャッピー」

愛すべきロボット映画が誕生!ニール・ブロムカンプ監督最新作 「チャッピー」が見つめる未来

ニール・ブロムカンプ監督 インタビュー

「第9地区」で脚光を浴び、「エリジウム」でハリウッド大作に進出して、SFの分野で着実にキャリアを積み上げているニール・ブロムカンプ。「第9地区」に続いて故郷ヨハネスブルグを舞台に設定した彼は、今回もスリリングなSFドラマを作り上げた。

チャッピーの無邪気さ、純真さと対照的な存在は「ロボコップ」

ニール・ブロムカンプ

──2004年の短編映画「Tetra Vaal」で、すでにあなたはチャッピーに似たロボットを登場させていますが、これが「チャッピー」の起源なのでしょうか?

そうとも言えるが、それだけではない。「Tetra Vaal」は僕がVFXアーティストとして仕事をしていた頃、監督業もしたいと思って作った架空のコマーシャルだ。面白半分で作ったもので、「チャッピー」とは別物だよ。「エリジウム」の脚本を書いていた頃、僕は人気ラップ・グループ、ダイ・アントワードの曲をよく聴いていたんだけど、このときに“あるバンドに育てられたロボット”というアイデアが湧いてきた。それがダイ・アントワードをギャングに配役した本作へと発展したんだ。「Tetra Vaal」は本作のロボテック企業の名として残してはいるけれど、起源というわけではないよ。

撮影中のニール・ブロムカンプ。

──「チャッピー」を作るにあたり、影響を受けたほかのロボット映画はありますか?

映画監督は誰でも意識下で影響を受けているはずだが、それについては僕にはわからない。意識している映画として思いつくのは、「ロボコップ」だけだ。チャッピーの無邪気さ、純真さと対照的な存在として、「ロボコップ」の大きく邪悪なロボットというアイデアが気に入っている。ムースのようなロボットは「ロボコップ」に対するオマージュになっている気がするね。でもそれ以外は、特に引き合いに出せる映画は思いつかない。

「これを演じるのは絶対ヒューだ」と思ったよ

──チャッピーを演じたシャールト・コプリーと、どのようにしてチャッピーをスクリーン上に作り上げていったのですか?

技術的には、それほど珍しいことをやっているわけじゃない。シャールトが普通の役者として演じている、普通の映画として撮影したよ。その映像を視覚効果会社に渡し、彼らがシャールトの映像の上をトレースしていった。ロトメーションという技法だ。

──ヒュー・ジャックマンは珍しく悪役を演じていますが、彼との仕事はいかがでした?

ヒュー・ジャックマン

ヴィンセントはこの映画の中で僕が一番気に入っていると言ってもいい。「これを演じるのは絶対ヒューだ」と思ったよ。そして劇中では彼本来のオーストラリア訛りでしゃべらせようと考えた。農民から軍人になった、信仰心に篤いオーストラリア人の悪党というアイデアは面白かったね。ネット上でオーストラリアの農夫たちの写真をたくさん見つけたので、ヒューに「こんな風になってほしい」と送ったら、ヒューは「いいね。やる気満々だ!」って言ってきたよ。彼との仕事は最高だ。できるなら今後作る映画すべてで彼と仕事をしたいね。撮影現場でも素晴らしい存在だし、才能もある。監督にとっては理想の役者だ。

監督が実用性にこだわったチャッピー制作の裏側

本作の“主役”であるチャッピーは、ブロムカンプ監督作品に欠かせない常連俳優シャールト・コプリーが実際に演じている。その後、映像内の彼の演技を下地にして、デジタル技術によってチャッピーの動きを上書きするという手法がとられた。デザイン自体はブロムカンプが無名の頃に撮った短編映画「Tetra Vaal」のロボットをベースにしているが、ブロムカンプはよりリアルな質感にこだわった。ビーム砲のような、いかにもSF的な機能は捨て、政府が予算内で作れる、そんな現実味を追求したという。とりわけ重要なのは、“耳”の部分だ。この耳の位置は、表情というものを持たないチャッピーの感情を表わすうえで大きな役目を担っている。

  • チャッピーの制作風景。
  • チャッピーの制作風景。
  • チャッピーのデザイン画。
  • チャッピーのデザイン画。

チャッピーに命を吹き込んだ シャールト・コプリー コメント

僕に求められたのは、感情を動作で表現すること

シャールト・コプリー

チャッピーは今まで演じてきたキャラクターの中で、一番演じやすかったね。現場では体にぴったりフィットする、トラッキングマーカー付きのグレーのスーツを着ていた。胸部に付ける部品もあったね。これはチャッピーが胸に付けているものと同じで、僕と彼の体の寸法を合うようにするためのものだ。苦労したのは、チャッピーの動きがどう映像になり、そのために自分がどのくらい動けばいいかを理解することだった。僕に求められたのは、動作で表現すること。どんな動きをすればどんな感情を表現できるか、頭部を使ってどんなことができるかということに重点的に取り組んだ。ちょっと難しかったけれど、正直とても愉快で楽しい経験だったよ。

コミックナタリーPowerPush ゆうきまさみが語る映画「チャッピー」
「チャッピー」2015年5月23日公開
「チャッピー」

「第9地区」で鮮烈な監督デビューを飾ったニール・ブロムカンプによる長編第3作。ヒュー・ジャックマン、シガニー・ウィーバー、「スラムドッグ$ミリオネア」のデーヴ・パテルらがキャストに名を連ねている。また、南アフリカの音楽ユニット、ダイ・アントワードのニンジャとヨーランディ・ヴィッサーも参戦。チャッピーの育ての親となるギャングを演じている。

ストーリー

2016年、南アフリカ共和国。犯罪の多発する都市ヨハネスブルグでは、軍事兵器会社テトラバールが開発したロボット警官が治安を守っていた。ロボットの開発者ディオンはそのうち1体に、自分自身で考え、成長するAI(人工知能)を搭載する。だが、上司から開発にストップをかけられたディオンは、ロボットを社外へ持ち出そうと画策。その道中で、ストリートギャングたちに自身もろとも誘拐されてしまう。ギャングの指示のもと起動させたロボットは「チャッピー」と名付けられ、赤ん坊のような状態から急速に成長していく。

スタッフ
  • 監督・脚本・製作:ニール・ブロムカンプ
  • 脚本:テリー・タッチェル
  • 音楽:ハンス・ジマー
キャスト
  • チャッピー:シャールト・コプリー
  • ディオン:デーヴ・パテル
  • ニンジャ:ニンジャ(ダイ・アントワード)
  • ヨーランディ:ヨーランディ・ヴィッサー(ダイ・アントワード)
  • ヤンキー:ホセ・パブロ・カンティージョ
  • ヴィンセント:ヒュー・ジャックマン
  • ミシェル:シガニー・ウィーバー
  • ヒッポ:ブランドン・オーレット
ニール・ブロムカンプ

1979年9月17日生まれ、南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。18歳のときにカナダへ移住し、CMやミュージックビデオの演出を手がける。2009年、ピーター・ジャクソンのプロデュースのもと「第9地区」で長編監督デビュー。地球へ難民としてやってきたエイリアンと人類の対立をドキュメンタリータッチで描き、第82回アカデミー賞で作品賞ほか4部門にノミネートを果たす。ジョディ・フォスター、マット・デイモンを迎えて監督した2作目「エリジウム」は3億ドルの興収を記録した。現在、「エイリアン」シリーズの最新作を準備中。

シャールト・コプリー

1973年11月27日生まれ、南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。ニール・ブロムカンプと同じ制作会社で短編映画やCM、ミュージックビデオなどを共同で監督。俳優としても活動しており、ブロムカンプの長編デビュー作「第9地区」に主演、2作目「エリジウム」ではマット・デイモンと共演を果たした。そのほかの出演作は「マレフィセント」、スパイク・リーの監督作「オールド・ボーイ」など。