ストップモーションアニメ「ぼくの名前はズッキーニ」峯田和伸×麻生久美子インタビュー|浪川大輔のコメントや制作過程に迫るコラムも

メイキング映像で紹介!人形に命を与える舞台裏

「ハイジ」や「大人は判ってくれない」で覚えた心のときめきを現在に

子供時代に高畑勲と宮崎駿が手がけたテレビアニメ「アルプスの少女ハイジ」やフランソワ・トリュフォーの自伝的作品「大人は判ってくれない」などを観て心のときめきを覚えたという監督のクロード・バラス。そんな彼が、自身が感じた心のときめきを観客と共有したいと願い制作したのが「ぼくの名前はズッキーニ」だ。「水の中のつぼみ」や「トムボーイ」のセリーヌ・シアマが脚本を担当し、笑って泣けるエンタテインメントに仕上げた。孤児院を舞台とした作品の中では、子供の虐待の問題にも正面切って向き合っており、現在の多様な家族像を肯定しようとするバラスやシアマの強い思いが感じられる。シアマは「おとぎ話は残酷ですが、『ぼくの名前はズッキーニ』は違います。このプロジェクトには成長物語の力強さと優しさがあり、すでに存在する世界、私たちの世界、この映画で語りかけたい子供たちの世界が映し出されています」と思いを語っている。

動き回っても大丈夫!?アマチュアの子供たちを集めた収録

アニメーションの音声収録は静かなスタジオの中で雑音を出さずに行われるのが一般的だ。そんな中で本作は、アマチュアの子供たちを集め、実際に体を使って演技をしてもらいながら音声を捉えるという独創的な方法が選択された。アラン・レネの「風にそよぐ草」「愛して飲んで歌って」に出演しているミシェル・ヴュイエルモーズらプロの俳優が子供たちを支え、6週間にわたるレコーディングを実施。子供たちの自然な演技が、ズッキーニたちの友情を見事に表現しているだけでなく、心地よい会話のテンポや心の傷を浮かび上がらせる沈黙を生み出した。バラスは収録について「子供たちの自然な言葉を取り入れることで、会話はより豊かに、珍しいほどに幅広い感情のある、詩的でナチュラルなものになっていきました」と振り返っている。

観客を物語の世界へと誘い込むキャラクターの大きな目

「マンガ家のエルジェは、顔のグラフィックがシンプルであればあるほど観客は自分自身の感情をキャラクターに投影させることができると言っています。これは、私の考えでもあり、実際に人形を動かすときに実践していることでもあります」と語っているバラス。本作では3Dプリンタを活用しながら高さ約25cmの人形が54体制作された。髪の毛にはラテックス製の発泡体、腕にはシリコン、顔には樹脂を使用。バラスは人形の造形について「この作品完成の鍵はキャラクターたちの目です。世界を見ようと大きく見開いた彼らの大きな目は、感情移入を可能にし観客を物語の世界へと誘います」と述懐している。また54体の人形それぞれに何種類か用意されている布や手編みで作られた衣装、教室や雪山、遊園地など60近く組み立てられたセットにも注目してほしい。

片渕須直も称賛!長回しを中心に練られた繊細な演出プラン

「この世界の片隅に」の片渕須直から「演技が抑制的。小さく小さく動かしている。それが感情を伝えてくる」と高く評価された本作。バラスは「典型的なアニメーションでは短いショットを重ねることが多いですが、本作では長回しのショットで表情や感情をしっかりと映すようにしました」と自身の演出プランを語る。音声収録時の子供たちの表情や動きなどを参考に構築されたアニメーションは、小さな身振りや瞬き、間など繊細な部分も徹底的にこだわられており、ズッキーニたちの心の機微を見事にすくい上げている。協働したスタッフたちに対してバラスは「本作の制作は、結果的に2年間、50人以上の職人の絶え間ない努力が必要となりましたが、素晴らしいチームのおかげで、常に適切な制作環境で撮影を進めることができました」と感謝の気持ちを明かす。

2017年5月から8月にかけてスイスのジュネーヴで行われた「ぼくの名前はズッキーニ」の展覧会「MA VIE DE COURGETTE. ON VOUS DIT TOUT!」の様子を紹介。

「ぼくの名前はズッキーニ」
2018年2月10日(土)公開
「ぼくの名前はズッキーニ」
ストーリー

ママが付けた“ズッキーニ”という愛称を大切にしているイカールは、いつも屋根裏部屋で1人絵を描いて遊んでいた。そんなある日、ビールを飲んでは怒ってばかりだったママが不慮の事故で帰らぬ人になってしまう。事故を担当した警察官のレイモンは、ズッキーニを不憫に思いながらも、孤児院・フォンテーヌ園に連れていく。入園初日からクラスメイトでリーダー格のシモンによる手痛い洗礼を受けるズッキーニ。しかし、ズッキーニの心の傷を知ったシモンは、自分もほかの子供たちもそれぞれに複雑な事情を抱えながら園生活を送っていることを明かす。ズッキーニはシモンと心の痛みを共有する友人となり、ほかの仲間たちとも楽しい日々を過ごしていく。そんな中、園にどこか大人びた少女カミーユが入園。ズッキーニと意気投合したカミーユは、園を照らす太陽のような存在になっていく。だが、カミーユの叔母が扶養手当欲しさに姪を引き取ると言い出し、園に乗り込んできて……。

スタッフ
  • 監督:クロード・バラス
  • 脚本:セリーヌ・シアマ
キャスト
  • 声:ガスパード・シュラター、シクスティーヌ・ミュラ、ポーラン・ジャクー、ミシェル・ヴュイエルモーズほか
  • 日本語吹替:峯田和伸、麻生久美子、浪川大輔、リリー・フランキーほか