「ブルーサーマル」をモグライダーが鑑賞 人生を楽しめるきっかけになる青春アニメ

アニメーション映画「ブルーサーマル」が公開された。小沢かなのマンガ「ブルーサーマル-青凪大学体育会航空部-」を原作とする本作は、サークル活動や恋愛などでキラキラと充実した大学生生活を夢見て上京するも、グライダーで空を飛ぶ体育会航空部に入部したことがきっかけで“空”に恋をした主人公・都留たまきの成長を描く青春物語。“つるたま”ことたまきに堀田真由が声を当て、彼女の才能に気付く主将・倉持潤役で島﨑信長、つるたまといがみ合いながらも成長を見守る先輩・空知大介役で榎木淳弥が参加した。「ばらかもん」の橘正紀が監督を務め、美術描写に定評のあるテレコム・アニメーションフィルムが制作となる。

映画ナタリーでは、人気急上昇中のお笑いコンビ・モグライダーに本作を鑑賞してもらい、その感想を聞いた。アメリカンフットボールに打ち込んでいたともしげ、なんとなくバレーボールをやっていた芝、それぞれの視点から見た“空飛ぶ”青春物語の魅力とは。また、昨年の「M-1グランプリ」以降メディア出演が増えている2人に、上昇気流に乗っている現状の楽しさと怖さを聞いているので、お笑いファンもぜひ目を通してほしい。さらにコミックナタリーでは、原作者の小沢かなと、「ブルーピリオド」の山口つばさによる対談を掲載中だ。

取材・文 / 松本真一撮影 / 菊池茂夫

僕にも倉持さんみたいな先輩がいたら、部活に対する考えも違ったのかも(芝)

芝大輔 僕ら、映画を観てコメントするこういうお仕事って初めてなんですよ。

──「ブルーサーマル」はグライダー(航空機)が出てくる映画なので、モグライダーさんに……という、完全にコンビ名由来でのオファーを受けていただいてありがとうございます。

ともしげ 「モグライダー」は僕が付けた名前なんですけど、「あんまりかっこよくない名前を付けちゃったから売れないのかな?」と思ってたこともあったんですよ。でもこの名前にしてよかったと思いました。

左から芝大輔、ともしげ。

左から芝大輔、ともしげ。

──お二人が昨年の「M-1グランプリ」のファイナリストになって、人気・知名度が上がる前だったら通らなかった企画かもしれないです(笑)。

 ラッキーですね(笑)。そもそも空を飛ぶものとモグラって逆だし。

──まずは映画を観た最初の感想としてはいかがでしたか?

 「青春!」っていう感じでめちゃめちゃさわやかでしたね。それに「航空部」っていう部活があることを知らなかったので、普通に勉強になりました。

──「ブルーサーマル」は大学の航空部が舞台ですが、部活の描写に関してはいかがでしたか?

 航空部、思ってたより運動部のノリでしたね。意外とほかのスポーツと同じなんだなと。

ともしげ 高校のとき所属していたアメフト部はこういうのに近かったなーと、いろいろ思い出しました。先輩後輩の上下関係が厳しかったなーとか、OBの人が急に来るの嫌だったなー、でも差し入れをくれたなーとか。あとアメフト部にも、僕にとっての倉持さんみたいな、なんでもできるポジションの先輩がいましたね。

──「ブルーサーマル」の倉持潤は、主将にしてエースというキャラです。

「ブルーサーマル」より、主人公の“つるたま”こと都留たまき。

「ブルーサーマル」より、主人公の“つるたま”こと都留たまき。

「ブルーサーマル」より、倉持潤。グライダー操縦の天才で、青凪大学航空部の絶対的エース。つるたまを航空部に迎え入れ、目をかける。選手の羨望の的であるが、誰にも言えない悩みを抱えている。

「ブルーサーマル」より、倉持潤。グライダー操縦の天才で、青凪大学航空部の絶対的エース。つるたまを航空部に迎え入れ、目をかける。選手の羨望の的であるが、誰にも言えない悩みを抱えている。

ともしげ そういえば主人公のつるたま(都留たまき)ちゃんたちのチームは、大会で「33」っていうゼッケンを付けてましたよね。僕、アメフト部のときは背番号が33だったんです。

──そんな偶然が。ともしげさんは芸人としての衣装も、今の赤ジャケット以前は「33」と書かれたTシャツでしたよね。

モグライダーが過去に使用していた宣材写真。

モグライダーが過去に使用していた宣材写真。

ともしげ そうなんです。そのなんでもできる先輩に「アメフトの選手で、33番を付けてるカッコいい選手がいるんだよ」って言われて選んだ番号なので、そんなことも思い出しました。

 つるたまちゃんが、大会中に他校の選手のゼッケンを拾って大会本部に届けてあげて、落とした子がめっちゃ喜ぶ場面がありましたよね。でもつるたまちゃんは「私が拾いました」とは言わないで、1人でうれしさを噛み締めて布団に入るみたいな。僕はあの感じがたまらなかったんですよ。

──ストーリー的にはそこまで重要ではない細かい部分ですが、何がそんなに響いたんでしょう。

 僕がちゃんと部活をやってたのは中学時代のバレーボールぐらいなんですけど、真剣に打ち込んでこなかったんですよ。強くもなかったし、上が厳しかったとかもなくて、でも楽しんでいたのかなとは思うんですよね。だからその場面は、他校の生徒と距離はそこまで詰まってないしライバルだけど、そういうことをすんなりやれるっていう気持ちよさが印象に残りました。僕も部活やってたときはこのぐらいの感じだったかもな、みたいな。

──敵なのに関係がピリピリしてないと。

 楽しいまんまやれるっていうのが理想だし、いいよなと思いました。僕は「バレーボールやりたい!」って気持ちで部活に入ったわけでもなくて、それしかなくてやってただけなんです。向上心とか欲もなくて。厳しい学校に行って、倉持さんみたいな人がいたらまた部活に対する考えも違ったのかな、とか考えましたね。

ともしげ 僕もアメフト部じゃなくてもよかったんですよ。つるたまちゃんもそうですけど、成り行きで入ったのに、結局部活を好きになっちゃうのはわかるなと思いましたね。やっていたらのめり込んでいくというか。

 まあ負けりゃあ悔しいしね。

──つるたまは、過去のある経験から体育会系にトラウマがある設定でしたが、徐々に航空部にもなじんでいきました。

 楽しみを1個見つけたら、それも苦じゃなくなるっていうのも、たまきちゃんの性格なのかな。スーッとトラウマが溶けていくような雰囲気でしたね。

花形のプレーをしてる人より、地味なポジションのほうが偉い(ともしげ)

──作中で気になったキャラクターはいますか?

ともしげ 僕は主人公のつるたまちゃんに感情移入できました。自分もトラブルメーカーなので……。

「ブルーサーマル」より、全日本学生グライダー競技会に出場した、青凪大学航空部。

「ブルーサーマル」より、全日本学生グライダー競技会に出場した、青凪大学航空部。

「ブルーサーマル」

「ブルーサーマル」

──「ブルーサーマル」は、大学に入ったつるたまが、航空部とトラブルになったことがきっかけで入部することから始まる物語です。

ともしげ つるたまちゃんが部活中にドライバーをなくしてみんなに探してもらうシーンもありましたよね。

──つるたまは「弁償します」と言うけど、「小さなことでもちゃんと原因を突き止めないことが事故につながって簡単に人が死ぬ」という理由で連帯責任になるという、航空部の厳しさがわかるシーンです。

ともしげ 僕もバイトの現場でハサミをなくして現場で探してもらったことがあるんです。そうやっていろんな人に迷惑かけちゃうことがあるんですよね、よかれと思ってやったことでも。

芝大輔

芝大輔

ともしげ

ともしげ

──とはいえつるたまは、倉持にパイロットとしての才能を見出されます。ともしげさんもバイトはともかく(笑)、芸人としては結果を残してますよね。芝さんは、ともしげさんに対して「こういうところが天才だ」と思う部分はありますか。

 お笑い芸人の脳みそではないんですよね。ともしげをマネしようとしても絶対に無理。こういう、いわゆる天然タイプの芸人って何人かいますけど、ともしげは天然の域じゃないんです。だって、けっこう人も乗ってる大都会の電車の中で、こいつのデコに小さいカマキリが乗ってたことがあるんですよ(笑)。もう天然とかじゃないじゃん、こいつ自体が大自然じゃん!って。

──才能を見出すエピソードとしてはかなり強いですね(笑)。

 そうですよね。「ブルーサーマル」なら、倉持さんがつるたまちゃんに「ちょっと操縦してみろ」って言うきっかけになる部分ですから。そういう理屈じゃない部分がともしげにはあるんです。

──ともしげさん、今日も取材場所を一度間違えて来られたあと、いきなりトイレに入られたのでびっくりしました。

 ねえ(笑)。来てすぐ個室に行ったから「さすがだな」って。トイレットペーパーの「ガラガラガラ!」っていう音もなんかゴリラが暴れてる音みたいでしたよ。「本当にこれ、ケツ拭いてるだけ?」って。そういうのって、僕とか普通の芸人では無理ですから。会ってすぐそういうことを思ったから組んだんでしょうね。

──あはは。話を戻しますが、ほかに印象に残っているキャラクターはいましたか。

ともしげ 主務(部の統括的な役割)の南葉さんも気になりましたね。この部はいろんな人がいろんなことをやるから、振り回されちゃって。あれぐらいのポジションが一番大変だなっていう(笑)。

「ブルーサーマル」より、青凪大学航空部の面々。

「ブルーサーマル」より、青凪大学航空部の面々。

 一番大人だよね。

ともしげ 3年生の望田さんとか相原くんみたいな、サブポジションの人も気になっちゃうんですよね。「僕が部活やってたときも、こういう人たちが支えてくれてたんだろうな」って、優しい先輩たちを重ね合わせて観てました。スターとか目立つルーキーみたいな人もいいんだけど、「SLAM DUNK」でいう木暮くんみたいなポジションの人がいないと。お笑いもそうですけどね。ボケて笑いを取るという花形のプレーをしてる人より、地味なことをしてる人のほうが偉いと思ってるんですよ。

 青凪大学の監督も、ほぼ口数がゼロに近かったですけど、それでもかなりの存在感、安心感がありましたね。この人が監督だからそれぞれ好き勝手やれるんだろうなっていう。

──意外とサブキャラクターに注目されるんですね。

 僕はあと、つるたまのお姉ちゃんが相当当たりがきついなと思いましたね。

──異母姉妹のちづるですね。阪南館大学という、つるたまとは別の大学の航空部の4年で、偶然つるたまと再会して。でもある理由でつるたまを嫌っているというキャラです。

「ブルーサーマル」より、矢野ちづる。阪南館大学航空部の主将で、たまきとは異母姉妹。

「ブルーサーマル」より、矢野ちづる。阪南館大学航空部の主将で、たまきとは異母姉妹。

 お姉ちゃんは才能もあるんでしょうけど、つるたまには自分にないものを感じて、コンプレックスがあって。近場で見てると余計に厳しくなっちゃうんでしょうね。この感じもわからんではないというか、あるあるだろうなっていうのは思いました。

──姉と妹、両方がお互いにコンプレックスを感じているようでしたね。

 俺も自分の姉ちゃんがなんでもできる人だったんですよ。勉強もスポーツもできて、わりとみんなにかわいがられる印象で。僕は周囲に甘えるのは苦手だったし、自分は暗いなーぐらいに思ってたんですけど、大人になって姉ちゃんが言うには、むしろ逆みたいな印象を持っていたらしくて。ないものねだりというか、兄弟や姉妹ってどこもそんなもんなんだなーって。