「BLACKFOX: Age of the Ninja」坂本浩一×山本千尋インタビュー|特撮界のキーマンが手がける初の時代劇、新世代アクション女優が見せた圧倒的熱量

世界で一番緊張する男(坂本)

──山本さんは「BLACKFOX: Age of the Ninja」のために特別なトレーニングはされたのでしょうか。

山本 普段から運動は欠かさずやっているんですが、本作では事前にアクション稽古を坂本監督がつけてくださいました。そのときは、共演者の方々のレベルと意識の高さに「ちゃんとしないと本当にヤバい!」という感覚になりましたね。

「BLACKFOX: Age of the Ninja」より、根来衆の面々。左から中村浩二演じる黒龍 、藤岡麻美演じる白、宮原華音演じるウト、出合正幸演じるジン。それぞれ相撲、中国武術、琉球拳法、朝鮮武術で律花と戦う。

坂本 千尋ちゃんはもちろんのこと、今回は “アクションができる”という条件で俳優をキャスティングしてます。そうした理由は、かつての香港のカンフー映画や日本のアクション時代劇には、それぞれ達人レベルの役者さんが出演していたから。撮影や編集でごまかさない、本物の迫力があったんです。今は武術に長けた人ばかりを集めるのはなかなか難しい。でも今回は千尋ちゃんが主演を張るということで、彼女に対抗できるようなキャストをそろえないといけない、という気持ちがありました。

──山本さん、特に影響を受けた共演者の方はいらっしゃいますか?

山本 それぞれ私と1対1で戦うシーンがあるんですが、そのたびに皆さんの個性を身に染みて感じました。何より律花のおじい様役で……。

坂本 僕の師匠の倉田保昭が出ていますからね! 僕が世界一緊張する男です。先生の前に出ると、16歳の頃の自分に戻って「はい! はい! はい!」という感じになってしまうので(笑)。

「BLACKFOX: Age of the Ninja」より、倉田保昭演じる石動兵衛と根来衆の立ち回り。

山本 坂本監督がアタフタするぐらいなので(笑)、私も撮影中はちゃんとしたコミュニケーションを取ることができませんでした。ただ、倉田さんの「俺の背中を見て学べ」というオーラはドシッと受け止めましたし、立ち回りも生で見させていただき、その姿だけで勉強になりました。アクション部の人のあるあるなんですけど、撮影が終わったらとっても優しくて。倉田さんも「お疲れ、がんばって」と声を掛けてくださいました。

坂本 今回のアクションシーンは、僕の先輩や同期、後輩とか倉田先生の門下生が多数参加しています。香港流派で育ってきた方なので、僕らもアクションは実際に当てて迫力を出すという教えをたたき込まれてます。倉田保昭直伝の「当てなきゃ駄目だ」というのがあるので、現場でも倉田先生の前で緊張しながら「すべて当てろ! もっと当てろ!」と叫んでましたね(笑)。

──今回、現場に入るに当たって倉田さんから監督へ何かお言葉はあったんですか?

坂本 本作に限ってというわけではないですが、倉田先生からは「監督になったとはいえ、お前らが実践してアクションを見せなければ説得力が生まれない」と教えられています。動きを口で説明するだけではなく、監督が現場で実際に体を使って説明しないと、アクションは本物にならない。口だけでは伝わらない、キレとか、間、タイミングがあるんです。だから体を使ってフルスピードで見せて理想を示してますね。

左から坂本浩一、山本千尋。

山本 そういうとき、坂本監督はやっぱりすごい!と思います。動いて見せてくださると、私が驚くのは当然ですけど、アクション部の人も「わー!」と驚いてますからね。やっぱりみんなが憧れる方なんだと実感します。

坂本 できる限り一生懸命やってますが、もう49歳なので、毎回モニタの前から「よいしょッ!」と立ち上がって、演出が終わったら「ああ、痛い痛い」と監督席に帰っていきます(笑)。門下生は基本そのスタンスが多いですね。倉田先生の教えをみんな守ってます。

異色の世界観と熱量を肌で感じてほしい(山本)

──特撮にも怪獣やヒーローものなど、さまざまなジャンルがありますが「忍者」モチーフならではの魅力や特徴はなんだと思いますか?

BLACKFOXの装束を身に付けた律花。

山本 えー! なんだろ、難しいな……。

坂本 自分的にはギミックの面白さが魅力の1つですね。今作の律花が着ているスーツにも仕込みがたくさんあります。スーツを着ると跳躍力が上がるとか、マントをバサッとなびかせると鉛玉が飛び出したり、刀からカチャってワイヤーで出てきたり。あとは……爆弾をぴょいって投げたり(笑)。

山本 ちょっと! 思い出し笑いしないでください!

坂本 (笑)

山本 敵のアジトに忍び込むシーンで勢いよく戦ってるのに、爆弾を投げるときだけ、(手首が)ぴょいってなっちゃったんです(笑)。どう投げてもかっこがつかなくて、みんなに笑われました……池ポチャもして……。

坂本 格闘技とかアクションをやってる人のあるあるで、球技が苦手な人が多いんですよ。僕もそうだし、千尋ちゃんもそう(笑)。でも忍者アクションの一番の魅力は、顔が出るからこそ演じている本人が実際に動いて見せる部分だと思います。僕らが子供の頃、真田広之さんの忍者ものがすごく流行っていて、真田さん本人が落っこちも立ち回りも自分で全部やることに、すごく感動していました。本作は千尋ちゃんだからこそ吹替なしでやってもらえた。山本千尋の魅力=忍者の魅力。それがこの映画の魅力になっていると思います。

山本 (恐縮して)変な汗をかいてきました(笑)。私、悪役では1回あるんですが、ヒーローとして変身するのが初めてだったんです。憧れのヒーローコスチュームだったので、テンションも上がりました。この映画の現場では、特撮だけでも、時代劇だけでも味わうことができない感覚を経験することができました。

──律花がBLACKFOXに変身するときも、目の周りに赤いメイクをしていたり、くノ一ならではの描写があって、女性目線からもかっこいいと思えるヒーローでした。

「BLACKFOX: Age of the Ninja」より。律花の目元には赤いアイラインが施された。

坂本 よかったです! 実はそれが一番の狙いでした。男性が見て「千尋ちゃん、かわいい!」と思うのは当然かもしれませんが、女性が見ても「律花かっこいい」「BLACKFOXかっこいい」と思ってもらえるのが目標だったんです。うれしいですね。

──まさにそんな気持ちになりました。「ジード」の劇場版では、お二人が現場で「ジャッキー・チェンのあの映画のあのシーン」のように打ち合わせをされていたと伺ったんですが、今回の映画では何か過去の作品を参考にされたりしたんでしょうか?

坂本 千尋ちゃんに「この映画を観てくれ」とお願いしたのは「ジョン・ウィック」ですね。あれは拳銃と関節技、投げ技を組み合わせて接近戦を描いたもの。監督のチャド・スタエルスキとは、僕がアメリカにいた頃にスタントを一緒にやっていた仲で、10代後半から20代の頃に何本も共演していました。チャド自身もブルース・リーのJKD(ジークンドー)のエキスパートで、選手として日本へ試合しに来たこともあるんですよ。「ジョン・ウィック」はJKDではないけれど、銃と接近戦を組み合わせた面白いアクションをしていて、彼の長所が生きていた。今回、僕も時代劇で刀と接近戦の組み合わせをやりたい!と思って、千尋ちゃんに薦めましたね。

──「ガン・フー」ではなく、「ケン・フー」みたいなことですよね(笑)。

坂本 まさにそうです。予算は負けてるかもしれませんが、気持ちは負けてないです(笑)。

──では最後にお二人のファンや作品を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

左から山本千尋、坂本浩一。

山本 特撮アクション時代劇という新しいジャンルの作品です。坂本監督はもちろん、倉田さんや京都・太秦の剣会の先生たちなど、アクション界をずっと支えてこられた方々も出演されています。「アクションをがんばりたい」という熱意を持った方たちと、本気で臨みました。異色の世界観と熱量を肌で感じてほしい、と心の底から願っています。

坂本 最近は「スター・ウォーズ」やDC、マーベルの作品など、女性が主役のアクション映画が世界的に見ても圧倒的に支持されています。しかもそれがヒットを飛ばしている。でも、なぜか日本からは志穂美悦子さん以来、女性のアクションスターは出ていない。そんな中で、千尋ちゃんを筆頭に世界レベルで見ても「すごい!」と思わせる女優たちが出演しているアクション映画ができました。この作品が新しい刺激になって「山本千尋の作品をもっと観たい」「特撮アクション時代劇面白い」と思ってもらえたら、この作品を作った意味がある。「BLACKFOX: Age of the Ninja」から新しいジャンルを築いていくのが、この映画が担っている運命でありミッションです。続編もそうですし、この作品を機に世界展開できるような日本の娯楽エンタテインメント作品を増やしていければいいいなと思います。

山本 続編やりたいですね……!

坂本 そこは赤文字で強調しておいてください(笑)。

「BLACKFOX: Age of the Ninja」
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ストーリー

侍、そして忍者がいた時代、人里離れて暮らす忍者の一族に生まれ育った石動律花は、不思議な能力を持つ少女・宮と出会う。彼女の身を案じる律花に反し、宮は石動家当主・石動兵衛に父の仇討ちを申し出る。“狐”と呼ばれる石動家は金次第で暗殺を請け負う暗殺者集団だった。その矢先、宮の父を殺した根来衆が襲来。次期当主である律花は、宮を守るため戦いに身を投じていく。

スタッフ / キャスト

監督・アクション監督:坂本浩一

脚本:ハヤシナオキ

音楽:中村康隆

出演:山本千尋、矢島舞美、大久保桜子、藤岡麻美、久保田悠来、石黒英雄、宮原華音、出合正幸、中村浩二、島津健太郎、七瀬彩夏、福本清三、升毅、倉田保昭ほか

坂本浩一(サカモトコウイチ)
1970年9月29日生まれ、東京都出身。倉田アクションクラブを経て、1989年に渡米。「サイボーグ2」「リーサル・ウェポン4」などにスタントマンやアクション俳優として参加する。アメリカの特撮ドラマ「パワーレンジャー」のアクション監督に抜擢され、その後監督やプロデューサー、製作総指揮を歴任。特撮ドラマの監督作には「仮面ライダーフォーゼ」「獣電戦隊キョウリュウジャー」「ウルトラマンジード」、監督した劇場公開作には「大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE」「仮面ライダー平成ジェネレーションズ Dr.パックマン対エグゼイド&ゴースト with レジェンドライダー」「破裏拳ポリマー」、OVA「スペース・スクワッド」シリーズなどがある。2019年に「BLACKFOX: Age of the Ninja」で自身初となる時代劇を手がけた。
山本千尋(ヤマモトチヒロ)
1996年8月29日生まれ、兵庫県出身。3歳から武術太極拳を始め、世界ジュニア武術選手権大会の槍術部門で2度、JOCジュニアオリンピックカップの長拳、剣術、槍術部門で3年連続の優勝を果たす。2014年に「太秦ライムライト」で俳優デビューし、翌年には「新選組オブ・ザ・デッド」に出演。2017年には特撮ドラマ「ウルトラマンジード」のヒロイン・鳥羽ライハに起用された。そのほか出演作に「BRAVE STORM ブレイブストーム」「多十郎殉愛記」「チア男子!!」などがある。