「美人が婚活してみたら」大九明子×じろう(シソンヌ)インタビュー|土下座したら霧が晴れた!美人の“ラクじゃない”婚活道で初タッグ 辛酸なめ子のコラムも

田中圭くんのイケメンなセリフも全部じろうさんから出てきてる(大九)

──男性キャストは田中圭さんと中村倫也さんという、2018年に大ブレイクされたお二人でした。

大九 そうですね。女2人の物語はもちろん大事に撮りたかったんですけど、タカコが恋に揺れ動くところも欲しかった。だから魅力的な方々に出てほしいなと思いつつ、私にオファーが来たのはクランクイン2カ月前ぐらいだったので。もう知り合いから当たっていく感じだったんですけど、「2日間だけ来てください!」って言ったら忙しいお二人ですが(スケジュールが)ハマったんです。

「美人が婚活してみたら」より、中村倫也演じる園木。

──中村さん演じる商社マンの園木はかわいらしい男性でしたね。

大九 中村くんはどうしたってカッコいいんで、どの程度抜けた方向に作っていくかは事前に話しました。放っておくとイケメンなんだけど、それをグッと控えてもらって。繊細なお芝居ができる方なので、かわいい部分を出していただくようにしました。園木が歩きながらタカコと足を出すタイミングが合っちゃって、「合わせるとよくないです」って言いながらそれをずらそうとするシーンの“じろう節”もかわいい。じろうさんと中村くんのかわいい部分が合ってるんだなと思いました。

じろう 僕も中村くんぐらい人気出ないですかね?

大九 あはは(笑)。

──田中さん演じる歯医者の矢田部がタカコに言う「俺のこと好きになっちゃった?」には、予告編の時点でファンが沸いてました。

大九 あのセリフを脚本で読んだときは「じろう!!」ってなりましたもん。「これ言う? じろう!!」って。どうしてもじろうさんが頭に浮かんじゃうんだけど、田中くんが本当に素晴らしく演じてくれたのでさすがでした。イケメンなセリフをいっぱい言わされてますけど、例えば「一番帰りたそうにしてるので声をかけてみました」とかも全部じろうさんから出てきちゃっているわけで。そういうセリフをコントじゃない形でさらりと書けるということは、じろうさんの中には園木も矢田部もいるんでしょうね。

じろう ということはモテ男の要素があるのかも?

大九 ありますよ。そこそこモテてるから。たぶん。

じろう そんなモテてねえんだよなあ。

セリフの生み親、じろうにも言ってもらいました!「俺のこと好きになっちゃった?」3連発

「美人が婚活してみたら」より、田中圭演じる矢田部。

セクシーver.

低音ver.

前のめりver.

──じろうさんは撮影現場には行かれましたか?

じろう 1回だけ、タカコとケイコが大喧嘩するシーンにひょっこり現れてしまって。「一度来てほしい」と言われてたんで、地方帰りのタイミングで行ってみたんですよ。でも行ったら行ったで「なんでこのシーンに来るの?」みたいな空気ですげえ居場所なかったのを覚えてます。

大九 でも皆さん喜んでましたよ。

じろう 監督も「来てくれたんだ!」とは言ってくれたけど「大事なシーンだから今はちょっと……みんな役に入ってるから」みたいな。

大九 タカコのセリフを変えるか悩んでたのもあって、もしかしたら上の空だったかも(笑)。

じろう また監督の声がでけえんすよ。「よーい!」っていう声がすごいでかくて、こんな腹から声出す人なんだっていう発見がありました。そのうち女性監督のキャラクターをコントに登場させるかもしれない(笑)。

お客さんがどこで笑うか知りたい(じろう)

──大九監督はスクールJCA(プロダクション人力舎の養成所)出身ということで、お笑い芸人の立場も理解されているかと思います。

大九 20代のときにお笑いを死に物狂いでやっていたのは事実で、スクールJCAの1期生だったんですけど、もうとにかく面白い人っていっぱいいるなとズタズタに挫折して終わったということなので。ライブでウケるときはそりゃあ気持ちがいいんですけど、スベるときの地獄は……。いまだに明日ライブなのにネタができてないっていう夢を見るんです。

じろう 恐ろしい(笑)。

左からじろう、大九明子。

──監督と脚本家という立場で芸人のじろうさんと組んでみていかがでしたか?

大九 僭越ながら「合う」というか、ご一緒してやりやすいなと思いました。嫌なことは1つもなかったです。

──笑いのエッセンスがちりばめられていて、思わず吹き出しそうになるシーンがたくさんありました。

じろう それでもけっこう削がれているんです。今回で僕、学びましたもん。映画での笑いの描き方っていうのを。監督に「私はこういう表現嫌い」って切り捨てられて……。

大九 どうもじろうさんの脳内で私がデフォルメされていますね(笑)。「嫌い」とは言っていないですが、映像にするとどうしても難しいところはあるんですよねとはお話しさせていただきました。コントの笑いと映画の笑いは違うので、面白いんだけどこれを映像で撮ってスクリーンで観るとちょっと……ということもあるので。

──じろうさんは、自分が脚本を書いた映画ということで感動があったのでは?

じろう ありましたね。今まで脚本をやった作品とはまた違って、こういう楽しみ方もあるんだなと。勉強になったし、新しい快楽を見つけました。とにかく今は早くお客さんがどこで笑うか知りたいです。データ取りがしたいです。

──それでは最後に一言ずつお願いします。

大九 なんというか、ラクな生き方ってないんですよね。美人だからどうこうじゃなく、1人の女性の物語を紡いでみましたので、観た人にほっこりしていただければなと思います。もちろんヒリッとする部分もあります。あと登場人物4人が全員じろうさんだなと思って観てほしいです(笑)。

じろう ははは(笑)。僕は男性にもぜひ観てほしいです。あとタカコと同世代の30代ちょいぐらいで「結婚どうしよう」って思ってる女性たちにも、ちょっと笑ってすっきりしてほしい。あ、でも「じろうは遅刻で終始無言」にしてもらっていいので!

主人公・タカコが歩むいばらの婚活道!辛酸なめ子が観た「美人が婚活してみたら」

文 / 辛酸なめ子

人気マンガが原作の「美人が婚活してみたら」。直球でキャッチーなタイトルに惹かれつつ、「美人が婚活したら楽勝なのでは?」という感想を抱いてしまったのは、私が世間知らずだったかもしれません。現実はもっとシビアで複雑でした。

「美人が婚活してみたら」

ヒロインのタカコが公園のベンチに座り、ダウナー感漂わせるシーンから始まり、美人は遠目に見てもやはり美人だというのが明らかです。美人とホメられても否定しない、自然体すぎるタカコに、観客は感情移入できるのでしょうか? 屈折した美人を描かせたら右に出る人はいない大九監督なので、ここは期待したいです。

アラサーになり、モテてはいるものの声をかけてくるのは既婚者ばかりというヒロインのタカコ。むなしく、死にたいという思いに駆られ、突如婚活することを決心します。婚活サイトに登録した途端、次々と男性たちからメッセージが届き、テンションが高まります。しかしよく見たらおじさんばかり……。何人かと会ってみるものの、様子がおかしいおじさんだらけで早くも不穏な気配が。タカコはどちらかというと量産型美人に入るのでしょうか。内面は普通でそこまで面白いキャラではありません。美人でもチャレンジャーだったら、奇人キャラのおじさんの中に合う人を見つけられたかもしれませんが……。

「美人が婚活してみたら」

結局、婚活サイトや婚活イベントで見つけたのは、若めの商社マンと歯科医。歯科医に至っては競争率が高く、婚活イベントでは女子力の高い美女たちがひしめいています。「驚きますよね。美人ばっかりで。これが現実です」と、妙な余裕を漂わせる歯科医男子。私も婚活イベントを見学したことがありますが、驚かされるのは女性のレベルの高さ。男性はモッサリして身だしなみに気を使っていない感じの人が多いですが、女性はヘアメイクもファッションもスキがなく、多くは好感度が高い白い服を着用していました。なぜこんなに美人が余っているのかと不思議でしたが、この映画を観て少し理由が判明しました。

「美人が婚活してみたら」

まず、タカコのように美人は引く手数多なので、自分がその気になればいつでも結婚できる、と余裕をかましていたら、気付いたら10年くらい経っていた、というケースが考えられます。見た目が普通の女子たちが、本命の彼を射止めるために渾身の女子力を駆使していたときに、ただ男子にチヤホヤされてモテを享受していたのです。いつの間にか取り巻き男子が既婚者ばかりになっていることに気付かずに……。そして、婚活サイトやイベントに参加する男子は(中には歯医者さんのように遊びの女を求めてきた人もいますが)、基本的に恋愛に不慣れで不器用です。タカコのような美人が来ると、経験値高そうとか、性格がキツそうとか思って及び腰になってしまうのです。たぶん婚活イベントで一番モテるのは、中の上くらいのややポッチャリ系の癒し系美人なのではないでしょうか。タカコくらいのレベルになると、逆に奴隷願望を持つM男が寄ってきそうです(商社マンの男性に若干その気配が……)。ちなみに婚活イベント以上に美人が多かったのが、前に取材した都内のSMイベントでした。ずっとモテてきて性に対する探究心も旺盛な都会の美女が集っている印象でした。もしかしたらタカコはそっちに行ったほうが、結果的に地位が高い男性と知り合えて、スリリングな恋愛も楽しめるかもしれません。

「美人が婚活してみたら」

この作品は、婚活以外に、女の友情という重要な裏テーマがあります。タカコがよく会うのは友人(既婚で子なし)のケイコ。既婚と未婚で境遇が変わると、女の友情は疎遠になってしまいがちですが、2人は本音で話せる関係なのか頻繁に会っています。ただ、ケイコは「美人だから」とタカコを持ち上げているように見せて、美人と言われても謙遜しないタカコを責めたりして、2人の緊張感あふれる牽制のし合いからも目が離せません。応援しているようで、タカコが会っている男性のネガティブ情報を仕入れて教えてきたり、ケイコの暗躍ぶりは油断できないです。原作マンガでは、友人女子は「年収に惹かれてるだけでしょ」とか「結婚生活って好き合っててもすごく難しいことなんだよ」などと、さらに上から目線で、応援というより呪いのようなセリフを放っていました。女友達には自分より幸せになってほしくない、というのが本音なのでしょうか。そういえば、友人が東大出身のセレブな男子と会うということになったとき、何かとネガティブなことを言ってくる女子たちが周りにいたことを思い出しました。本気で婚活したいときは、もしかしたら女友達の意見は聞かず、自分の直感を信じたほうがいいかもしれません。幸せ感を出しすぎるのは禁物。ケイコのように結婚していても、ときどき夫の愚痴を言って幸せアピールしすぎないのが、女の友情を保つ秘訣です。

とはいえ「婚活」とは1つの通過点……。周りの女性たちが結婚して離婚して若い恋人と遊んだり、新たなステージに進んでいる姿を見ているとそう思います。女の人生、まだ先は長いです。タカコは婚活で達観できたのでしょうか。彼女のように最終的に自分の魂に正直に生きられたなら、一般的な幸不幸の価値観には影響されないのかもしれません。

辛酸なめ子(シンサンナメコ)
1974年8月29日、東京都生まれ。マンガ家、コラムニストとして雑誌、新聞、Webメディア、テレビ、ラジオなどで幅広く活躍する。著書に「女子校育ち」「サバイバル女道」「辛酸なめ子の現代社会学」「絶対霊度」「おしゃ修行」「魂活道場」など多数。2018年10月に書き下ろし小説「ヌルラン」を上梓した。
「美人が婚活してみたら」
2019年3月23日(土)全国公開
ストーリー

Webデザイナーのタカコは、道行く誰もが振り返る美女。しかし長く付き合った相手が既婚者だと発覚する不運な恋愛が続き、気付けば32歳になっていた。不毛な恋愛に疲れ果てたタカコは、公園でうつろな目をしながら「死にたい」とつぶやく。そして結婚を決意し、親友ケイコの勧めで婚活サイトに登録。しかし彼女を待っていたのは、ひと癖もふた癖もある男たちだった。

スタッフ / キャスト

監督:大九明子

脚本:じろう(シソンヌ)

原作:とあるアラ子(連載:まんがアプリVコミ / 刊行:小学館クリエイティブ)

出演:黒川芽以、臼田あさ美、中村倫也、田中圭、村杉蝉之介、レイザーラモンRG、市川しんぺー、萩原利久、矢部太郎(カラテカ)、平田敦子、成河ほか

大九明子(オオクアキコ)
1968年10月8日生まれ、神奈川県出身。大学在学中からコント集団に所属。お笑いタレントとして活動後、制作者を目指して1997年に映画美学校第1期生に。1999年、「意外と死なない」で映画監督デビュー。以降「恋するマドリ」「ただいま、ジャクリーン」「でーれーガールズ」などを手がける。2017年公開作「勝手にふるえてろ」は東京・新宿シネマカリテにおいて当時の歴代興行収入1位を記録したほか、第30回東京国際映画祭の観客賞など数多くの映画賞で高い評価を得た。
じろう
1978年7月14日生まれ、青森県出身。2005年、NSC東京校に11期生として入学。2006年に長谷川忍とシソンヌを結成し、2014年に「キングオブコント」で優勝を果たす。俳優としての活躍も多く、ドラマ「カンナさーん!」「今日から俺は!!」やNHK大河ドラマ「西郷どん」、舞台「『スマートモテリーマン講座』2017」などに出演。ドラマ「卒業バカメンタリー」や映像配信サービス・テレビバのオリジナルドラマ「寝ないの?小山内三兄弟」の脚本も手がけた。シソンヌが47都道府県を回るライブツアー「シソンヌライブ[モノクロ]2019」は2019年3月にスタート。「シソンヌライブ[huit]」は東京公演が6月27日から7月7日まで本多劇場にて、7月13日から7月15日まで大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールにて開催される。