「美人が婚活してみたら」大九明子×じろう(シソンヌ)インタビュー|土下座したら霧が晴れた!美人の“ラクじゃない”婚活道で初タッグ 辛酸なめ子のコラムも

とあるアラ子による連載中のマンガ「美人が婚活してみたら」が映画化! 3月23日より全国で公開される。

「勝手にふるえてろ」の大九明子が監督、お笑いコンビ・シソンヌのじろうが脚本を担当した本作では、不倫の恋ばかりしてきた32歳のタカコが、婚活でさまざまな男性と出会い自分を見つめ直す姿がコミカルかつシビアに描かれる。主演を黒川芽以が務めたほか、臼田あさ美、中村倫也、田中圭という旬な俳優陣が顔をそろえた。

本特集では、大九とじろうの2人に話を聞くことに。しかし集合時間を過ぎてもじろうは現れず。大九もスタッフも心配していたところ、ようやく本人と連絡がついて……。無事行われた対談インタビューの途中には、じろうボイスで劇中のモテ男ゼリフを聴ける仕掛けが!? さらにエッセイスト・辛酸なめ子によるコラムも掲載。最後までお見逃しなく!

取材 / 狩野有理 文 / 金須晶子 撮影 / TOWA

シソンヌは顔がちょうどいい(大九)

──本日は大九監督とじろうさんの対談を予定していたのですが、先ほどようやく寝起きのじろうさんと連絡がつきました。今こちらに急いで向かっているそうなので、まずは大九監督にお話を伺っていきたいと思います。

大九明子 はい、よろしくお願いします(笑)。

大九明子

──監督はもともとシソンヌのファンだったと聞きました。どんなところがお好きなんですか?

大九 お笑いは好きでいろんな方のネタはよく拝見していて、シソンヌのコントは単純に面白いと思っています。日常からちょっとだけ離れている程度でファンタジーまで行かないところがいい。それと2人(じろうと長谷川忍)それぞれ顔がちょうどいいところです。チャラっぽいのも真面目なキャラクターもできるし。魅力はいっぱいあると思います。

──では、じろうさんの第一印象はいかがでしたか? 今回の作品で初めて会われたそうですが。

大九 「じろうだ!」でした(笑)。初対面はどこかのカフェで、「じろうが入ってきた!」と思いました。

──じろうさん、大きいですもんね。

大九 そうなんですよ。もっと小顔でスッとしてたらカッコよくなっちゃうけど、じろうさんって頭が冗談のように大きいから(笑)。とにかくちょうどいいんです。もちろんカッコいいし、「キングオブコント」で優勝までしてる尊敬すべき人なので最初はドキドキしました。でもしゃべってみると思った通りの印象。テレビでお見かけするときも無理してる感じがない人だなと思っていたんですが、普段から頭のいい人なんだなと。あ!

じろう (申し訳なさそうにドアを開けながら)すみません……!

大九 来ましたね(笑)。

スタッフ じろうさん何か飲まれますか?

コーヒーと熱湯を用意され、「贖罪です」と言いながら迷わず湯を飲むじろう(撮影:狩野有理)。

じろう お湯でいいです……。熱々の、口に運べないぐらいのお湯をください。罰として。40歳にもなって本当にどうしようもない……。

大九 (笑)。「バイクを停める場所がない」か「タクシーがつかまらない」のどっちかなと思ってたら、まさか寝坊とは(笑)。

じろう 本当にすみません……。

土下座して楽になった(じろう)

──それでは改めてお二人の対談を始めたいと思います。ちょうど今、監督にじろうさんの印象を聞いていたんですよ。じろうさんから見た監督の第一印象も教えてください。

じろう 気の強そうな女の人だなと思いました。芯の通った。

大九 え、嘘! 本当に? ニコニコしてたのになあ。

じろう 1本の太い棒が見えましたもん。うわ、なんか怖そうだと思ったんですけど、僕けっこう高圧的な女性は好きなんで。

大九 あはははは!(笑)

──じろうさんは今回初めて映画脚本に挑戦されました。完成作を観て、どのような感想を抱きましたか?

じろう 自分で書いといてあれですけど、面白かったです。あと皆さん、こんなにセリフを一言一句ちゃんと正確に言うのかとびっくりしちゃいました。自分が演じるときはそこまで台本通りにセリフを言わないので。

「美人が婚活してみたら」より、黒川芽以演じるタカコ。

──私も試写で拝見して、原作マンガとは異なる印象を持ちました。原作では婚活のつらいエピソードをテンポよく連発している一方、映画ではタカコへの愛や叱咤激励があふれていて。作り手次第でタカコをすごく不幸にもできたわけですが、どのようなプランで描いたんですか?

大九 原作マンガの“婚活あるある”はやりたいなと思っていました。でも“婚活あるある”だけだったら映画にする意味がないので。1人の女性を丁寧に描く映画にしたいとは、打ち合わせのときからずっと言っていました。この原作で、じろうさん脚本で、と私のところに話が来たのは12月。じろうさんと私に同時期に話が来たと聞いています。

じろう 僕はこの映画の話をもらったとき、一度断ったんです。

大九 ショック! 私はすぐ引き受けたのに!

じろう ちょうど「モテリーマン」(舞台「『スマートモテリーマン講座』2017」)の最中で、スケジュールがキツキツだから今は何も書けないって。でもプロデューサーに「もう1回考えてほしい」と言われたら断れなくなって……(笑)。原作マンガをなぞればいいんだろうなと思って引き受けたんです。

──それで原作マンガをなぞった脚本を書いて提出したら……?

じろう 「全然違うよ!」と。30ページぐらい書いて一度見せたんですけど「こういうことじゃないの」と言われて、えー!って。本当にまずい仕事を引き受けたなと把握しました。

じろう

──じろうさんが「書けません」と土下座して降りようとしたそうですね。

じろう はい。2018年1月6日は土下座記念日です。2月にはクランクインしなきゃいけないから、本当は年内に書き終わってなきゃいけない状況だったんです。でも自分の中でずっとモヤモヤしていて。引き受けなきゃよかったとか、どうして正月に地元の青森まで帰ってきてパソコン持って喫茶店探してんだろうとか。

大九 じろうさんが「面白いものしか書けないんです」ってカッコいいこと言うんですよ。なんだそれ、根っからの芸人じゃないか!って(笑)。だから芸人であるじろうさんじゃなくて、じろうさんという“多彩な人”が書くという認識でやってもらおうと。私の過去作も観てくださっていたので、ほかの映画も四六時中笑ってるわけじゃないでしょ? 笑うシーンがなくても大丈夫なんですよと説明したら「書き直してみます」と言って翌日に仕上げてくれました。

じろう 1つわかったのは、自分の弱さをさらけ出すことって大事なんですね。土下座してすげえ楽になったんです。普段自分から「やりたくない」とは言わないタイプだけど、辞めさせてくださいって土下座したらプロデューサーに「駄目です。書いてください」と言われて。辞める方向が断たれたら、やるしかないんだなと思って、そこからは早かったです。

大九 私、土下座されたときじろうさんが脚本を降りたいと言っていることに気付かなくて。「ちゃんと書けてなくてごめんなさい」程度の土下座だと思ってた。プロデューサーがクレバーな人で、私には「じろうさんが辞めたがってる」といっさい伝えていなかったんです。だからのんきに、はいはい、そういう面白いやつはもういいから!って感じで(笑)。

じろうさんの中には完全に女性がいます(大九)

──原作マンガも映画も、シチュエーションは違えど「死にたい」というタカコのセリフから始まります。美人が「死にたい」と思う気持ちは理解できましたか?

大九 原作を読んだとき、タイトルからして意地悪だなと思ったんです。女性が女性に向ける意地悪なまなざしが面白いなと。でも意地悪でありつつ愛もある。美人か美人じゃないかって生きていくうえで実はそんなに変わらないのに、庶民は勝手に「美人なのに死にたいの?」という目で見ますよね。この原作者にもそういう視点がある。だから「美人なのに」みたいなことは気にしなかったです。

「美人が婚活してみたら」原作マンガより。©とあるアラ子/Vコミ

──原作マンガでは満員電車でタカコがふと「死にたい」と思って婚活に走り出しますが、映画では予告編にもあるように公園での「死にたい」でした。

大九 あれは私が浪人中に図書館で勉強して、いつも公園でお昼ごはんを食べていたときの話なんです。鳩に毎日お菓子をやっていたら、あるとき子供が走ってきてバンッと驚かせたんですよ。

「美人が婚活してみたら」より、うつろな目で「死にたい」とつぶやくタカコ。

──実体験だったんですね(笑)。

大九 そのときは「死にたい」じゃなくて「殺してやる」と思って。死を思う衝撃って意外と日常の中にあるんですよね。でも女性がふいに「死にたい」と思うシーンを書いてくれって、じろうさんに対して無理なお願いをしていたわけで。だからオープニングは自分に全部任せてもらっていいですか?と相談したんです。

じろう 僕はもう「好きにしてください」と(笑)。

大九 自分の書いたものにこだわりがあるのが当然なので、こっちからしたらドキドキだったんです。でもじろうさんは「どうぞ」と快諾してくださいました。面白いものを作ることが全員の目的だから、じろうさんは素晴らしいです。

──じろうさんはタカコを描くにあたって、どのように女心を理解していったんですか?

じろう どうだろう、わかんないな……。なんとなくで書いてました。

左からじろう、大九明子。

──じろうさんはコントで女性役をやることも多いですよね。女性キャラのセリフを書いて、それをすんなり演じられるということは、じろうさんの中に女性がいるのでしょうか。

じろう いますね、たぶん。

大九 完全にいますよ。

じろう この質問をされると、いつも「いる」としか答えられない(笑)。いつからこうなったかもわからないんですけど。

「美人が婚活してみたら」より、臼田あさ美演じるケイコ(左)と黒川芽以演じるタカコ(右)。

大九 映画を「女の人が自分を獲得していく物語」にするにあたって、ケイコ(タカコの友人)のキャラクターを原作よりも膨らませたいとは、じろうさんにお伝えした気がします。原作で描かれている女同士のまなざしが面白いなと思ったので、タカコとケイコが謎のノリで話しているシーンはいっぱい入れたかったですし、2人に喧嘩させたいこともお願いしました。私にとって(ケイコ役の)臼田あさ美さんはドリームキャストだったんです。いつもキャスティングのときに「LIFE!~人生に捧げるコント~」を参考にしているんですが、「LIFE!」にレギュラー出演なさっていた臼田さんは笑いの間をちゃんと持っている女優さんだと思っていたので、なんの心配もなくケイコをお任せすることができました。

「美人が婚活してみたら」
2019年3月23日(土)全国公開
ストーリー

Webデザイナーのタカコは、道行く誰もが振り返る美女。しかし長く付き合った相手が既婚者だと発覚する不運な恋愛が続き、気付けば32歳になっていた。不毛な恋愛に疲れ果てたタカコは、公園でうつろな目をしながら「死にたい」とつぶやく。そして結婚を決意し、親友ケイコの勧めで婚活サイトに登録。しかし彼女を待っていたのは、ひと癖もふた癖もある男たちだった。

スタッフ / キャスト

監督:大九明子

脚本:じろう(シソンヌ)

原作:とあるアラ子(連載:まんがアプリVコミ / 刊行:小学館クリエイティブ)

出演:黒川芽以、臼田あさ美、中村倫也、田中圭、村杉蝉之介、レイザーラモンRG、市川しんぺー、萩原利久、矢部太郎(カラテカ)、平田敦子、成河ほか

大九明子(オオクアキコ)
1968年10月8日生まれ、神奈川県出身。大学在学中からコント集団に所属。お笑いタレントとして活動後、制作者を目指して1997年に映画美学校第1期生に。1999年、「意外と死なない」で映画監督デビュー。以降「恋するマドリ」「ただいま、ジャクリーン」「でーれーガールズ」などを手がける。2017年公開作「勝手にふるえてろ」は東京・新宿シネマカリテにおいて当時の歴代興行収入1位を記録したほか、第30回東京国際映画祭の観客賞など数多くの映画賞で高い評価を得た。
じろう
1978年7月14日生まれ、青森県出身。2005年、NSC東京校に11期生として入学。2006年に長谷川忍とシソンヌを結成し、2014年に「キングオブコント」で優勝を果たす。俳優としての活躍も多く、ドラマ「カンナさーん!」「今日から俺は!!」やNHK大河ドラマ「西郷どん」、舞台「『スマートモテリーマン講座』2017」などに出演。ドラマ「卒業バカメンタリー」や映像配信サービス・テレビバのオリジナルドラマ「寝ないの?小山内三兄弟」の脚本も手がけた。シソンヌが47都道府県を回るライブツアー「シソンヌライブ[モノクロ]2019」は2019年3月にスタート。「シソンヌライブ[huit]」は東京公演が6月27日から7月7日まで本多劇場にて、7月13日から7月15日まで大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールにて開催される。