「強いぞ、ガストン」の撮影だけで4カ月……勝てるわけない!
──この実写版では“プレミアム吹替版”として、昆夏美さんや山崎育三郎さんといった、ミュージカルや舞台で活躍されている豪華な役者陣が日本語吹替を務めました。
吹替版はまだ観れていないんですよ。昆夏美さん、どんな方なのか気になっているんですよね。あとル・フウの吹替は僕がやりたかった(笑)。
──ル・フウの吹替は藤井隆さんが担当されていました。実写版で演じるならどのキャラクターがいいですか?
実際に演じるとしたら……ベルのお父さんかなあ。モーリスいいですよね。最近、けっこうシリアスな役もやってるんで(笑)。
──印象に残っているモーリスのシーンはありますか?
野獣の城から村に戻ってきて、酒場でみんなを説得しようとしていたところ、袋叩きにされる場面は……本当にかわいそう(笑)。自分の言っていることが全否定されるという。あれは怖いですよ、日常でもありそうなことだし。特典映像にはメイキングも収録されているんですか?
──メイキング映像もたくさん収録されています。例えば「強いぞ、ガストン」のシーンのリハーサルだったり。あのシーンは約4カ月かけて完成したそうです。
えー、4カ月かあ……。勝てるわけない……!
──ベルと野獣の晩餐会のシーンもほとんどCGのシーンなのに、エマ・ワトソンの撮影だけで1週間かかっているみたいです。そういった舞台裏も堪能できます。
うらやましいですねえ。やっぱり芸が細かいですよね。城の襲撃シーンも心配だったんですよ、どれぐらい迫力を出せるんだろうって。人間と物との戦いを描写するから、滑稽にならざるをえない。でもちゃんと迫力のあるものになっていました。
ディズニーランドはトレイ置き場まで隙がない
──城のキャラクターたちはリアルなビジュアルでしたね。“燭台っぽいキャラクター”ではなく、燭台そのものの見た目をしていたり。
役者も豪華でしたね。(ポット夫人役の)エマ・トンプソンも、こんなに歌がうまいんだ!と驚きました。あと(ハープシコードに変えられたカデンツァ役の)スタンリー・トゥッチの、いい意味での無駄遣い(笑)。そしてなんと言っても(ルミエール役の)ユアン・マクレガーの歌唱力に尽きます。ただ歌がうまいんじゃなくて、ミュージカルを知り尽くした歌い方をしている。突然高い声でセリフみたいに歌い出したりするのって、普通の人がやるとしらけるんですよ。ミュージカルが体に染み付いていないと、ああいう歌い方はできない。
──豪華役者陣でしたが、人間の姿になって顔を見せているシーンはわずかでしたね。ぜいたくなキャスティングです。
人気のある人たちが、みんな実力も伴っているというのが素晴らしいですよね。人気者だけ集めたはいいけど大惨事、みたいな作品もたくさん観てきたから……(笑)。
──ディズニーだからこそ、実力のある人が集まってくるという部分もあるかもしれません。松尾さんから見て、これこそディズニー!と感じる魅力とは?
造り込みの美学と言うのでしょうか。雑念を忘れさせてくれますよね。ディズニーランドが好きでよく行くんですけど、演出家の視点で感心してしまうことが多いです。乗り物でもパレードでも、どこかで死角を見つけてやろうと思っているんですけど……うまいことやってんなあって。レストランのトレイ置き場にまで目を光らせていますから(笑)。駐車場も見ますよ。さすがに駐車場は駐車場か!っていう感じでしたけど(笑)。本当にディズニーは隙がないと思います。
ミュージカルアニメーションも作ってみたい
──ディズニーの隙のなさというのは、映画にも通ずることでしょうか?
そう思います。アニメーション版の「美女と野獣」だって、単に映像に音楽を付けたのではなくて、ミュージカルを作ろうという強い気持ちが感じられます。日本にはこんなにたくさんアニメーション作品があるのに、ここまでのミュージカルアニメーションはないと思うので、いつか作ってみたいですけどね。
──それはすごく観たいです!
やってみたいですよ。昔だったら、ディズニー作品の影響を受けていた手塚治虫のアニメ「ジャングル大帝」で突然歌い出すシーンがあったりしましたもんね。相性はいいと思います。
──いつか松尾さんの作ったミュージカルアニメーションが観れる日を楽しみにしています。それでは最後に、これから「美女と野獣」を観るという人に対するオススメポイントを教えてください。
まずは冒頭の「朝の風景」という曲の素晴らしさ。この映画はどんな映画で、どんな人が出てきて、この人はこんなことを、あの人はあんなことを考えていて……と、1曲の中でキャラクターたちの関係性も含めてすべて説明してしまう。演出家としてすごく参考になるし、そこを見逃さないでおけばOKというか。あとは画面の隅々にまでわたる美術面の美しさは2、3回観る価値があります。情報量がすごい。アニメーションや演劇とは違うシーンがあるよ、ということも伝えておきたいですね。何か悪口を言いたいんですけど全然隙がない……まあ、思いついたとしても言えないですけど!(笑)
- 「美女と野獣」(MovieNEX)
- 2017年10月4日(水)発売
ウォルト・ディズニー・ジャパン -
MovieNEX コレクション(期間限定)
[2Blu-ray Disc+2DVD]
8640円
- MovieNEXとは
- Blu-rayとDVD両方のディスクに加え、スマートフォンやパソコンで視聴でき、ディスクに収録されていないコンテンツも楽しめるデジタルコピーのサービスにも対応したパッケージ。
ある城に、若く美しく傲慢な王子が住んでいた。嵐の夜、寒さをしのぐため城へやって来た老婆を冷たくあしらった王子は、老婆に化けていた魔女の呪いで醜い野獣の姿に変えられてしまう。その呪いを解くには、魔法のバラの最後の花びらが落ちる前に王子が誰かを心から愛し、その誰かから愛されなくてはならなかった。長い年月が過ぎ、あるとき町娘のベルが城にたどり着く。村人から変わり者扱いされても自由にたくましく生きてきたベルと触れ合う中で、外見に縛られ心を閉ざしていた野獣は本来の自分を取り戻していく。しかしベルに恋する横暴な男ガストンが、彼女を自分のものにしようと悪巧みを考え……。
- スタッフ
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- 監督:ビル・コンドン
- 作曲:アラン・メンケン
- 作詞:ティム・ライス、ハワード・アシュマン
- キャスト ※()内は吹替版
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- ベル:エマ・ワトソン(昆夏美)
- 野獣:ダン・スティーヴンス(山崎育三郎)
- ポット夫人:エマ・トンプソン(岩崎宏美)
- モーリス:ケヴィン・クライン(村井國夫)
- ガストン:ルーク・エヴァンス(吉原光夫)
- ル・フウ:ジョシュ・ギャッド(藤井隆)
- ルミエール:ユアン・マクレガー(成河)
- コグスワース:イアン・マッケラン(小倉久寛)
- マダム・ド・ガルドローブ:オードラ・マクドナルド(濱田めぐみ)
- プリュメット:ググ・バサ=ロー(島田歌穂)
- チップ:ネイサン・マック(池田優斗)
- カデンツァ:スタンリー・トゥッチ(松澤重雄)
© 2017 Disney
- 特集「美女と野獣」を語る
- コミックナタリー 「いつかティファニーで朝食を」マキヒロチ
- 映画ナタリー 小野賢章
- ステージナタリー 藤田俊太郎
- 音楽ナタリー NONA REEVES 西寺郷太
- 作品解説・キャラクター紹介
- 松尾スズキ(マツオスズキ)
- 1962年12月15日生まれ。福岡県出身。1988年に大人計画を旗揚げし、1997年「ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~」で第41回岸田國士戯曲賞を受賞。2004年に「恋の門」で長編監督デビュー後、2008年には「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞し、2015年には「ジヌよさらば~かむろば村へ~」が公開された。小説「クワイエットルームにようこそ」「老人賭博」で芥川賞にノミネートされるなど作家としても活躍。木曜時代劇「ちかえもん」ほか俳優としての出演作も多く、公開中の「奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール」にも出演している。2007年に自身が演出したミュージカル「キャバレー」を、2017年に長澤まさみを主演に迎えて再演した。作・演出を手がけ、2002年に初演された舞台の再演「日本総合悲劇協会Vol.6『業音』」が各地で巡演中。10月にはフランス・パリでも上演される。
2017年10月26日更新