「Arcane アーケイン」「ULTRAMAN」「攻殻機動隊 SAC_2045」の荒牧伸志が徹底解説|遊びの作り込みが“いいアニメ”につながる

遊びの作り込みが“いいアニメ”につながる

──姉のヴァイは拳で危機を乗り越えていきますが、妹のパウダー(ジンクス)は武器を駆使するキャラクターです。そのほかにも探求をやめられない若き科学者ジェイス、300歳を超えている変わり者の科学者ハイマーディンガー、自らが持つ特権に複雑な思いを抱くケイトリン、下層世界のリーダー・ヴァンダーなどが登場しますが、お気に入りのキャラクターはいますか?

どのキャラクターも癖があって戦い方も面白いので選ぶのは難しいですが……1人挙げるならヴァイですかね。体が大きいわけではないですが、パンチがものすごく重そうに見えるんです。強いキャラクターであることの説得力があると感じました。

──それはアニメーション表現が優れているからでしょうか?

華奢なキャラクターの攻撃が屈強な人物に効くことには理由がないといけなくて、例えばスピードが全然違うなら、それをアクションの中で見せる必要があります。海外ではそこを気にする方が多い気がしていて、アニメーション的に逃げた表現をしたら見抜かれてしまうんだろうなと。そういう意味でヴァイは、周りがなぜ付いて行くのかがしっかり伝わる人物になっていました。

──ピルトーヴァーで開かれる評議会のメンバーも印象的です。物語における個性的な強者が集まっている雰囲気があって。

「Arcane アーケイン」より、メル。

あの世界を支配している人たちですもんね。ああいうデザインセンスのキャラクターは、日本のアニメではなかなか見られないかもしれません。上流階級と下層階級の人々と同様に、建築物もピルトーヴァーとゾウンで描き分けられていて、材質感が異なっています。ストーリーに直接関係はないんですが、「この人たちはとんでもない力を持っている」ということが伝わる仕掛けとして機能している。そういう部分に手間を掛けるのはアニメーション制作において大事なんですよね。

──1話でヴァイとパウダーがジェイスの部屋に忍び込みますが、そこにある小物も作り込まれていました。箱を開けるだけのシーンにもギミックが盛り込まれていたり。

「Arcane アーケイン」より、ジェイス。

あのシーンではまだジェイスは登場していませんが、部屋を見ただけで彼がどんな人物なのか想像できる。本筋に直接関係のない部分を作り込むことで、観客が無意識的に楽しめる要素が増えて、それが“いいアニメ”につながると思います。スタッフ的には「なんでこんなことやらないといけないの?」となりかねないので、モチベーションを考えると凝れば凝るほどいいというわけではないですが、遊びの部分も重要だと考えています。

描かれているのは人間の普遍的な感情

──「少しジェラシーを感じた」という発言もありましたが、今後「Arcane」のようなアニメを作ってみたい気持ちはありますか?

時間、予算、人材などあらゆる意味でハードルは高いと思いますが、やってみたいですね。「Arcane」には原作の「リーグ・オブ・レジェンド」があるとはいえ、世界を新たに作り上げるのは本当に大変なこと。例えば今僕が手がけている「ULTRAMAN」は東京の街をベースにしていますが、「Arcane」では現実に存在するものは使えない。そうなるとプリプロダクション(撮影前に行う作業)が膨大なんです。一方で、それがアニメを作るうえで一番面白い部分だったりもするので、新しい世界を緻密に構築してみたいというSF好きとしての気持ちはあります。

──荒牧さんが手がけている「ULTRAMAN」や「攻殻機動隊 SAC_2045」との違いとしては、1話あたりの分数も挙げられます。両作は1話20分強ですが、「Arcane」は40分以上ありますね。

テレビ放送を前提としていない違いがありますよね。僕らはその可能性を考えて、物語の尺をきっちり決めています。でも「もう気にしなくていいんじゃないの?」と、1エピソード40分くらいにしたほうがドラマっぽくていいかなと感じることもある。「Arcane」は3話ごとに3週に分けて配信されますが、一気に全話が出る作品もあって、そうなるとテレビ放送でよくある「前回のおさらい」みたいなパートは必要ないですよね。場合によってはオープニングやエンドロールをスキップされてしまうこともありますし。

──視聴形態に合わせてストーリーの運び方を考える必要があるということですね。「Arcane」も3話の終わりに怒涛の展開があって、4話以降への期待が膨らむ作りになっています。

「Arcane アーケイン」より、ジンクス。

僕が観たのが3話までなので、まさに今続きが気になっています(笑)。

──全9話なので未知な部分も多いと思いますが、今のところ作品のテーマをどのように捉えていますか?

最後まで観ないと断言しづらいですが、自分とは遠い世界の出来事であるのに、主人公の気持ちはひしひしと伝わってきます。仲間が大事とか、自分を押さえ付けている人々に対する怒りとか、描かれているのは人間の普遍的な感情なので。ここからさらに現代とリンクするテーマ性が備わってくると思うので、続きを楽しみにしています。

荒牧伸志(アラマキシンジ)
荒牧伸志
1960年10月2日生まれ、福岡県出身。岡山大学在学中に手がけた自主制作アニメがきっかけとなり、メカニックデザイナーとして活動を開始する。テレビアニメ「機甲創世記モスピーダ」「ガサラキ」「アストロボーイ・鉄腕アトム」などのメカデザインを担当。「アップルシード」「EX MACHINA-エクスマキナ-」「キャプテンハーロック」「アップルシード アルファ」といった映画では監督を務めた。Netflixでは神山健治と共同で監督したアニメ「ULTRAMAN」「攻殻機動隊 SAC_2045」が配信中。「ULTRAMAN」シーズン2は2022年春、「攻殻機動隊 SAC_2045」シーズン2は2022年に配信される。