「アンネ・フランクと旅する日記」熊倉献が感想ルポマンガを描き下ろし、想像力で閉ざされた日常を乗り越える物語

「アンネの日記」を原案とした長編アニメーション「アンネ・フランクと旅する日記」が3月11日より東京・TOHOシネマズ シャンテほか全国で公開される。「戦場でワルツを」のアリ・フォルマンが監督を務め、アンネが生み出した“空想の友達”キティーの目線から、現代のアムステルダムを舞台にした新たなパートを創出。第2次世界大戦下のアンネの日常を紡ぎながら、彼女の豊かな想像力に負けず劣らず、アニメーションでしか表現できない独創的なアプローチで「アンネの日記」の“その先”の物語が描かれる。

映画ナタリーでは「ブランクスペース」で注目を集めるマンガ家の熊倉献に感想マンガをオファー。熊倉は未来を“改変”するコロナ禍の中学生を描いた短編「未来人たち」で、アンネやキティーと同世代の少年少女を題材にしたばかり。隠れ家生活を余儀なくされた1人の少女のユニークな想像力、日々の不満、恋、そしてキティーの新しい冒険をどう観たのか。自身初というルポマンガをお見逃しなく。

文 / 奥富敏晴

熊倉献描き下ろしルポマンガ

熊倉献描き下ろし感想ルポマンガ1ページ
熊倉献描き下ろし感想ルポマンガ2ページ
熊倉献描き下ろし感想ルポマンガ3ページ

※今回は特別にオンライン試写にてご覧いただきました。

プロフィール

熊倉献(クマクラコン)

マンガ家。2014年に読み切り「盤上兄弟」でデビュー。これまでの連載作品に「春と盆暗」「生花甘いかしょっぱいか」など。現在はWebマンガサイト・コミプレのふらっとヒーローズにて、想像したものを目には見えない“空白”として生み出すことができる不思議な力をめぐる物語「ブランクスペース」を連載。「THE BEST MANGA 2022 このマンガを読め!」では第6位、「このマンガがすごい!2022」オンナ編でも第6位にランクインした。単行本は2巻まで販売中。

見どころコラム

アンネが「彼女」と読んだ日記

わずか15歳という若さで命を落とし、ホロコーストの犠牲の象徴となったアンネ・フランク。彼女が残した「アンネの日記」は出版から75年を経た今でも世界中で読み継がれている。実は彼女はただ漠然と隠れ家生活の日々や自分の内なる気持ちを書き記していたわけではない。「日記は女の子で“親友”と思いたい」。日記はほぼ毎回「親愛なるキティーへ」という呼びかけで始まる。アンネはこの世には存在しない空想上の友達キティーに向けて日記をしたためた。映画の舞台は現代のアムステルダム。嵐の夜、博物館となった「アンネ・フランクの家」に眠る日記のインクが浮かび上がり、キティーを形作る場面から幕を開ける。しかし連行される直前で終わっている日記からは、キティーがアンネの死を知る由もなかった。「アンネはどこへ?」。キティーは時折日記をめくって過去を漂いながら、アンネの消えた街で親友の姿を探し求めていく。

「アンネ・フランクと旅する日記」

「アンネ・フランクと旅する日記」

「アンネ・フランクと旅する日記」

「アンネ・フランクと旅する日記」

アンネとキティー、重なる青春

日記を開き、時空を越えて過去のアンネと再会するキティー。本作では日記から立ち上がったちょっぴり自信家でユーモアとエネルギーにあふれるアンネの生き生きとした等身大の姿も紡がれていく。誕生日にプレゼントされたオーデコロンに喜び、スター俳優クラーク・ゲーブルとの結婚を夢見る映画ファン。隣人への愚痴を止めどなく話し、両親の結婚を“哀れ”と非難する。同級生の男の子にモテモテなことを自慢する茶目っ気たっぷりの一面も。そしてペーターとのささやかなキス。2年間に及ぶ潜伏生活という極限状況下、彼女はそんな毎日の出来事を“親愛なるキティー”と語り合う。一方、現代でアンネを探すキティーは日記を盗んだとして警察から追われる身に。窮地の彼女に手を貸すのは、アンネが恋したペーターと同じ名前の少年だった──。自由に外出することができなかったアンネに代わるように、キティーは部屋の外へ飛び出し街を駆ける。

「アンネ・フランクと旅する日記」

「アンネ・フランクと旅する日記」

「アンネ・フランクと旅する日記」

「アンネ・フランクと旅する日記」

「アンネの日記」と“その先”の物語

「お前の空想や美しい想像力は、どんな薬よりも効くはずだ」と、アンネを励ます父オットー。アンネは音の立てられない隠れ家をアルプスの“静かな”ホテルに例え、栄養のない質素な夕飯を“カロリーが低い”料理と表現する。見つかったら最後という逃れられない現実に、彼女は前向きな想像力で立ち向かう。極め付きは、アンネが実在の映画スターや空想のキャラクターをナチスの軍勢と戦わせる場面だ。騎士になったクラーク・ゲーブルや空を飛ぶ神話上の動物たち、彼らは死と隣り合わせにいるアンネの不安や恐怖を蹴散らしていく。監督のアリ・フォルマンは「アンネの目を通して見た過去は生き生きとカラフルなトーンで描いた」と語っており、彼女のパワフルなイマジネーションに圧倒される。そして映画が想像した「アンネの日記」の“その先”の物語とは? 私たちはアンネがたどった運命と、キティーの旅の行く末をいつまでも心に刻むべきだろう。

「アンネ・フランクと旅する日記」

「アンネ・フランクと旅する日記」

「アンネ・フランクと旅する日記」

「アンネ・フランクと旅する日記」