山下智久が主演を務める「劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」がAmazon Prime Videoで見放題配信されている。2008年にドラマの1stシーズンが幕を開け、その後押しも押されぬ人気シリーズとなった「コード・ブルー」。2018年に封切られた初の劇場版は、その年の邦画で最高となる興行収入93億円の大ヒットを記録した。
今回の配信を記念し、映画ナタリーでは特集を展開。10年にわたって作品を追い続けたライターの前田かおりにシリーズの魅力を紐解いてもらった。大ヒットの下地を作り上げた医療ドラマの系譜、そして想像を超える現場に立ち向かってきたフライトドクターたちの成長の記録とは。
文 / 前田かおり(コラム)、奥富敏晴(作品紹介)
テーマソングであるミスチルの「HANABI」を耳にしただけで、救急救命センターの青いメディカルウェアを着た山下智久扮する藍沢らが、颯爽とヘリポートへと駆け出す姿が目に浮かぶ。「HANABI」の歌詞じゃないが、「もう一回もう一回……」と一緒に口ずさむうちに、ついついドラマに引き込まれてしまう「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」。その劇場版がAmazon Prime Videoでいよいよ配信される。 2008年からスタートし、3rdシーズンまでの連続ドラマ、スペシャルドラマが1本作られたのち、ちょうど10年目に当たる2018年に公開された劇場版。その興行収入なんと93億円を突破している。一体、その人気はどこから来ているのだろうか、振り返ってみたい。
医療ドラマの系譜、大きなムーブメントへ
そもそも洋の東西を問わず、警察ドラマと並んで人気ジャンルの医療ドラマ。だが、一口に医療ドラマといってもさまざま。「私、失敗しないので」が決めゼリフの「ドクターX ~外科医・大門未知子~」や、自閉症でサヴァン症候群ながら天才的なスキルを持つ「グッド・ドクター」などヒーロー的な医師の活躍を描くものから、「白い巨塔」のような医師たちの権力闘争を扱ったもの、近年注目された「アンナチュラル」や「監察医 朝顔」などのように犯罪事件の謎を法医学者らが解決するサスペンスタッチのもの。そして、さらに、救命医療現場に特化したものがある。
中でも、救命医療ものの多くは医療ドラマの金字塔と言われる「ER 緊急救命室」(1994年~2009年)の影響を受け、この「ER」以降、治療シーンなど緊迫感あふれる映像で捉え、リアリティにこだわるものが増える傾向に。そして救命医療ドラマも次々と作られた。日本では阪神・淡路大震災など未曽有の災害が起こったことにより、救命医療への関心も高くなっていた中、「救命病棟24時」が作られ、次いでこの「コード・ブルー~」が登場した。
ドクターヘリに乗り込んで、一分一秒を争う重篤な患者の命を救うフライトドクターたちの活躍を描いている本作。しかし、放送が始まった前年の2007年に「救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法」(ドクターヘリ特別措置法)が公布されたばかりで、実は「ドクターヘリ」の認知度も低かったという。それが、1st、2nd、3rdシーズンと回を重ね、ドラマが盛り上がるにつれて当初、全国に14機しかなかったドクターヘリが、2017年には50機に増加。現在はほぼ全国的に配備されるなど、実際の救命医療の現場に大きく貢献している。さらにはかつて「海猿」人気で海上保安官を目指す希望者が大幅に増えたように、本作がきっかけでフライトドクターやフライトナースの道を目指す者たちも現れるなど、単なるドラマにとどまらない、大きなムーブメントを巻き起こしたのだった。
等身大のキャラクターたち、10年分のドラマ
それほど多くの人々が共感や感銘を覚えたのは、トンネル内の多重衝突事故や列車脱線事故、航空機不時着など災害・事故の描写が、もしかしたら自分の身に起きるかもしれないと思うほどリアルだったこと。また、そんな臨場感あふれる医療現場で医師や患者、スタッフたちとの間に生まれるエモーショナルな人間ドラマ。そして何より丁寧に作り込まれたキャラクターたちが誰一人、天才でもなければ、ヒーローでもないということ。等身大の人物が医師として人間として悩み苦しみながら成長していく姿をしっかりと描いていることだろう。
そもそも救急救命センターにやって来たフライトドクター候補生の藍沢(山下智久)は利己的で外科医として腕を磨くことしか頭にない。白石(新垣結衣)は優等生だが自分に自信がなく、緋山(戸田恵梨香)は傲慢だが世話焼き体質で情に流されやすい、藤川(浅利陽介)はお調子者で落ちこぼれ、そしてフライトナースの冴島(比嘉愛未)はその卓越したスキルから周囲の医者を見下す看護師。全員が問題だらけの若者だった。そんな彼らが失敗や挫折を繰り返しながら、自分の道を切り開いていく。劇場版ではシリーズ10年を経て、一人前のフライトドクターとなった彼らの集大成が描かれるのだ。
10年にわたる歳月の中には恋愛や大切な人間との悲しい別れもあり、それをともに乗り越えた5人の固い絆、さらにはカップルも誕生するなど長く続いたドラマだからこその展開もあり、見どころ満点。また1stシーズン当初はまだブレイクしたばかりで初々しかった5人のキャストが、役さながら俳優、女優として経験を積んだ成果が些細な表情やしぐさからも感じられるのだ。例えば、繊細でナイーブなキャラクターが多かった山下智久が本作では一転、野心家で悪役にも思える藍沢に挑戦し、最後には精悍な顔つきに。演じた山下自身も「自分のためにスキルを上げようとがんばっていて、それしかモチベーションのなかった男が、誰かのためにがんばろうと思える男になった。それが10年間の藍沢の医師として、人間としての成長だと思う」とコメントしている。
ドラマ版をまったく未見でも劇場版には付いていけるが、できればぜひ順を追って劇場版を。5人の10年間のドラマを知れば、「もう一回もう一回」と何度でもドラマを見直したくなるはずだ。
「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」1st Season
フライトドクターになるため、フェローシップ(=専門研修制度)を利用し翔陽大学附属北部病院の救命救急センターに赴任した4人の若き医師と、あるコンプレックスを持つ1人のフライトナース。等身大の悩みを抱えた彼ら5人の成長と絆を描く。山下智久、新垣結衣、戸田恵梨香、比嘉愛未、浅利陽介が共演。2008年7月期にフジテレビ系列で放送され、平均視聴率、最高視聴率ともに同クールの連続ドラマでトップに輝いた。
[Blu-ray] 税込24624円
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「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」Special Drama
1stシーズンの好評を受け、翌2009年に放送されたスペシャルドラマ。前作のラストで1週間の謹慎処分を受けていたフェローたちは、複雑な思いを抱えながら「新千葉鉄道脱線事故」という惨事に直面する。混乱する現場、避けられない命の選別。彼らは救命医としての過酷な現実に打ちのめされていく。
[Blu-ray] 税込5184円
[DVD] 税込5184円
「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」2nd Season
研修制度も残すところ3カ月となり、フェロー卒業を目前に控えた4人の若き医師。そして難病を抱えた恋人との別れが近いことを悟る1人の看護師。それぞれが人生の岐路に立つ中、彼らの前にフェローの修了認定を一任されたベテランドクターが現れる。過酷な医療現場を乗り越え成長してきた5人。あらためて命に向き合い、自立する覚悟が問われる。
[Blu-ray] 税込24624円
[DVD] 税込24624円
「コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」3rd Season
医師として10年以上のキャリアを積み、かつてのフェローたちも今やそれぞれの道を歩みだしていた。そんな救命センターに新たにフライトドクターを目指すフェロー3人と若きフライトナースがやってくる。有岡大貴、成田凌、新木優子、馬場ふみかが新キャストに。その変わらぬ人気の高さ、映画化を求める根強い声も多く、翌年公開の劇場版への橋渡しとなった。
[Blu-ray] 税込25380円
[DVD] 税込20520円
「劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」
3rdシーズンの最後に発生した「地下鉄駅トンネル内崩落事故」から3カ月後を舞台にした初の劇場版。過去最大規模の災害が成田空港と海ほたるで連続発生。誰よりも長く一緒に過ごしてきた5人、そして新たな若きフェローとフライトナースが未曾有の危機に立ち向かう。10年に及ぶシリーズの集大成にして、新たな旅立ちを描く。西浦正記が監督を務めた。
©2018「劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-」製作委員会