「悪と仮面のルール」玉木宏×新木優子 / 吉沢亮×中村文則インタビュー|悪になりきれず葛藤する男の“究極の愛”

吉沢亮×中村文則インタビュー

「掏摸[スリ]」を勧められて(吉沢)

──今回は、吉沢亮さんが中村文則さんの大ファンであると伺い、お二人の対談をセッティングさせていただきました。ではまず吉沢さんが中村さんの作品を好きになったきっかけを教えてください。

吉沢亮

吉沢亮 はい。もう、すでに笑顔をこらえられないんですけど(笑)。僕はもともと小説をたくさん読んでいるほうではないんです。でもこういう仕事をするうえで文学にも触れたほうがいいかなと思っていた頃、ちょうど食事に行った役者さんに「何か面白い小説ありますか?」って聞いたら、「中村文則さんの『掏摸[スリ]』っていうのがすごく面白いよ、君も好きだと思う」と教えてもらって。言われるがままに読んでみたら本当に面白かったんです。そこから「王国」も読んで、「何もかも憂鬱な夜に」を読んで、どハマりしたっていう流れですね。

中村文則 それはうれしいなあ。

吉沢 それからは「銃」や「遮光」とかも、いろいろ読み始めて。ほぼ全部読んでいると思います。……なんか、恥ずかしいですね(笑)。

中村文則

中村 いやいや、ありがたいです。でもこれ、言われるほうもどういう顔で聞いていればいいのかわからないよ! うなずくわけにもいかないし。

一同 (笑)

──では吉沢さんが一番好きな中村さんの作品を挙げるとしたら?

吉沢 一番かあ。「銃」か……「遮光」か……「何もかも憂鬱な夜に」ですかね……。選べない、どれだろう!?

中村 すごい、もう昔からの読者さんが選ぶような作品ですよ(笑)。

吉沢 ははは。基本的に全部好きなので、選ぶとなると難しいんですけど、一番は「銃」ですかね。

──拳銃を拾った大学生の主人公が、次第にその存在にのめり込んでいくさまを淡々と描く作品です。

吉沢 はい。あれがデビュー作と伺ったんですが、作品から出てくるエネルギーがすごくて。

中村 あれは僕が23歳から24歳のときに書いた作品ですね。デビューは25歳なんですが、書いてから応募するまでに少し時間が空いたので。

吉沢亮

吉沢 じゃあちょうど今の僕くらいの年齢だったんですね。言葉で説明するのは難しいんですが、理解を超えた衝動的な部分が好きなんです。心が突き動かされるような描写がすごく多くて。それこそ、最後の最後に銃を撃ってしまうところとか。

中村 ああ、あのやっちゃった感じね(笑)。

吉沢 そうなんです。やっちゃってるな!って(笑)。そういう部分がすごく衝撃的で、気付いたら読み終わっていた感覚です。

──中村さんは普段、読者層を意識して執筆することはあるのでしょうか?

中村文則

中村 いや、なんと言うか、自然に書いていますね。でもここ数年、吉沢さんのように演じる側の方々から好きと言ってもらえることが多くて。編集者が評判を教えてくれるんですよ。今回も、そもそもダ・ヴィンチという雑誌で僕の作品を特集してもらったときに、「吉沢亮さんがコメントを書いてくれていますよ」と聞いたんです。そしてこの「悪と仮面のルール」の映画化の話になったとき、キャストに吉沢さんの名前が入っていたので、素晴らしいじゃないかと。僕もうれしかったですね。

吉沢 ありがとうございます。中村さんの作品を好きな役者は、すごく多いですね。僕は「悪と仮面のルール」も出演のお話をいただくずっと前から読んでいたので、めちゃくちゃうれしかったです。ここまで自分が好きだった作品の実写版に参加する経験はなかったので、単純にうれしい気持ちもありつつ、プレッシャーも感じました。やっぱり読者として、ほかの人が演じて失敗していたら、嫌じゃないですか(笑)。

中村 本当に、そうだよね(笑)。

吉沢 はい。だから主演ではないですけど、自分がやるとなったら絶対に面白いものにしなきゃという気持ちがありました。でも僕は、中村さんの作品の中でもこの「悪と仮面」や「掏摸」はすごくエンタテインメント性の強い作品な気がしていたので、そういう意味では実写化向きなのかなと。小説が素晴らしいので当たり前なんですけど、特に面白い作品になるんじゃないかと思って、すごく楽しみでした。

“脚本が小説の核を捉えてくれているか”で判断する(中村)

──中村さんは、ご自身の作品が実写化されることに対して抵抗はありますか?

中村 実写化されることは純粋にうれしいですね。基本的には脚本をいただいたとき、それが自分の小説の核をきちんと捉えてくれていればOKします。脚本を読めば、その人が作品を理解してくれているかどうかがすぐにわかるので、そこで判断するんです。今回の脚本はそういう核の部分をきちんと捉えてくれていたし、僕が重要だと思うセリフをきちんと入れてくれていました。さらにキャストの方々が決まったときには、「こんなに素晴らしい方々がやってくれるのなら、もうお任せします」という気持ちでしたね。

──では、完成作品をご覧になったときの率直なお気持ちは?

中村 素晴らしかったです。吉沢さんの役(伊藤亮祐)は、ものすごく重要で、小説においても強いアクセントになっているんです。吉沢さんのこれまでの写真や映像は観ていたんですが、この映画を観ても一瞬誰だかわからないんですよ。それくらい役に入りきっている。やっぱりすごい役者さんだなと思いました。

吉沢亮

吉沢 いやいやいや。

中村 関係者試写会で初めてお会いしたんですけど、映画の中の表情と、上映後にお話ししたときの顔がまったく違うんです。ファンの人もみんな「あれ、これ吉沢さん?」って感じるくらいだと思う。今日ひさしぶりにお会いしたら、また印象が全然違いましたし(笑)。

吉沢 (他作品の役作りで)金髪になったので(笑)。

中村 そうそう。僕はこれまでいろいろな方に会ってきましたけど、吉沢さんは可能性の塊のような感じがしますね。……塊って言い方は変かな? でも本当に、今もすでにすごいですけど、これからさらにすごいことになっていくと感じています。そういうオーラを感じるんですよ。あ、僕、別にオーラが見えるタイプの人間ではないですよ。雰囲気として。

一同 (笑)

吉沢 ははは(笑)。すごくうれしいです。この伊藤という役は、僕としてもかなりチャレンジングな役でした。

中村 確かに、テロリストなんだけど、悪とも言い切れない微妙な役どころだもんね。玉木宏さん演じる主人公の文宏にもガンガンタメ口で話すし、上からものを言うからすごく大変だろうなと思いながら観ていました。

現場で生まれた、助けを求める気持ち(吉沢)

──吉沢さんはテログループ“JL”のメンバー・伊藤を演じるにあたり、初めて役のためにひげを伸ばしたそうですね。役作りは外見の作り込みから始めたのでしょうか?

「悪と仮面のルール」より。左から伊藤亮祐、久喜文宏。

吉沢 原作が大好きだったので、内面的な流れに関しては、クランクイン前から伊藤という人間の輪郭が見えていたというか。だから、どんな形のニット帽をかぶっているのか、ひげはどれくらい伸ばしているのか、服装はどんな感じなのか、といった外見的なことを中村哲平監督と話し合いながら考えていきました。テロリストだけど一応服装にもちょっとは気を使っている感じを出したくて。悪になりきれない、彼の中に生まれている矛盾を表現したかったんです。原作の中にも伊藤が水を飲む描写が出てくるんですけど、映画の中で伊藤が出てくるシーンにはどこかしらに水が映っていたり、川が流れていたりするんです。そういった監督のアイデアから、インスピレーションをもらいました。

中村 ああー、確かに。すごいな……。

吉沢 水って、生命の根源のようなイメージがあるじゃないですか。テロリストとして世界に絶望を与えようとしている人間の周りに、そういった生命の象徴があふれている。水を飲んで、一番体に害のないものを取り入れている。そんな矛盾と、彼の意識と無意識の矛盾が重なったら面白いなと思って。だからJLのアジトで玉木さん演じる新谷弘一(久喜文宏が整形し、別人となったときの名前)と言い合いになって、伊藤が泣くシーンでは、悪になりきれず葛藤している彼の根本の部分が表現できればいいなと思っていました。テロリストとして世界を滅ぼすという目的を淡々と語っている人間が、具体的な手段としては「女に手を出したくない」と発言してしまうのも一種の矛盾ですし。

──伊藤が涙を流すという描写は原作にはなく、映画オリジナルの表現ですよね。

吉沢亮

吉沢 この小説を実写化するうえで描かなければならないものは脚本に詰まっていた気がするので、感情の流れは脚本に沿って演じていたつもりです。ただ同時に、現場で生まれるものも大事にしていて。それこそ伊藤が涙を流すシーンでは、あの瞬間に新谷にすがりたくなったんです。なぜそう思ったか答えるのは難しいんですが、助けを求めていたんです。そのつもりで芝居する意識はそこまで強くなかったんですけど。

中村 あのシーンは僕も印象的でしたね。役者さんの生の感情が役とリンクして、原作の文章の背後にあるものが出てきて、そこで改めてお客さんが気付くというのは、原作者にとっても読者さんにとっても面白い現象だと思います。そこで原作と演技の2つの表現が矛盾しないのは、監督の演出と役者さんの力によるところが非常に大きい。僕は当時、「伊藤は新谷にすがりたいと思っている」ということを意識して書いていたわけではないんですが、無意識にはその考えがあったんだと思う。文章にはしていなくても、伊藤はあのとき、まるで助けを求めるように言っていたんだと。今、吉沢さんの話を聞いていて、すごく面白いです。

吉沢 うれしいです。

中村 普段は自分の作品について、文芸評論家や作家から論じられることが多いのですが、役者さんとお話しすると全然違う視点から興味深いことを言ってもらえるんです。他ジャンルのお仕事をしている方から言われて気付くことはすごく多いので、今の話も感心しながら聞いてしまいました。

「悪と仮面のルール」
2018年1月13日(土)より全国公開
「悪と仮面のルール」
ストーリー

日本有数の財閥・久喜家に生まれた11歳の文宏は、父親から、自分がこの世界に災いをもたらす存在“邪”になるべく生まれ、育てられたことを告げられる。やがて文宏は、父が自分を完全な“邪”にすべく、初恋の女性・香織へ危害を加えようと企てていることに気付き、父を殺害。それによって自身が悪にのみ込まれてしまったと感じ、香織との決別を決意する。大人になった文宏は、整形手術によって顔を変え、“新谷弘一”という別人として生きていた。探偵を使い再び香織に近付き、彼女を守るために殺人を繰り返す文宏だったが、彼の過去を知る異母兄の幹彦や、日本転覆を狙うテロ組織が香織を狙い始めたと知り……。

スタッフ / キャスト

原作:中村文則「悪と仮面のルール」(講談社文庫)
監督・編集:中村哲平
脚本:黒岩勉
主題歌:Uru「追憶のふたり」(ソニー・ミュージック アソシエイテッドレコーズ)
出演:玉木宏、新木優子、吉沢亮、中村達也、光石研、村井國夫、柄本明ほか

吉沢亮(ヨシザワリョウ)
1994年2月1日生まれ、東京都出身。2011年に特撮ドラマ「仮面ライダーフォーゼ」の仮面ライダーメテオ / 朔田流星役で注目を浴びる。2013年に「ぶっせん」でドラマと舞台に初主演。主な出演映画に「アオハライド」「オオカミ少女と黒王子」「さらばあぶない刑事」などがある。2017年にはドラマと2本の映画からなる「トモダチゲーム」シリーズや「銀魂」「斉木楠雄のΨ難」に出演。2018年には主演映画「あのコの、トリコ。」「ママレード・ボーイ」(桜井日奈子とのダブル主演)や、出演作「リバーズ・エッジ」「レオン」の公開も控えている。
中村文則(ナカムラフミノリ)
1977年生まれ、愛知県出身。福島大学行政社会学部応用社会学科卒業。2002年に「銃」で新潮新人賞を受賞しデビュー。2004年に「遮光」で野間文芸新人賞、2005年に「土の中の子供」で芥川賞、2010年に「掏摸[スリ]」で大江健三郎賞に輝いた。「掏摸[スリ]」の英訳版は米Wall Street Journalの2012年ベスト10小説に、「悪と仮面のルール」の英訳版は同誌の2013年ベストミステリー10小説に選出。ほか主な著作は「R帝国」「教団X」など。「去年の冬、きみと別れ」は岩田剛典主演で映画化され、2018年3月10日に公開される。