みんなが思い描くハッピーエンドではありません(新木)
──本作が恋愛映画であることの象徴として、文宏と香織が車の中で会話をするクライマックスシーンがありますね。ネタバレになってしまうので結末は言えませんが、監督は文宏の最後の決断について「観ている人からすると“アンハッピーエンド”かもしれない」とおっしゃっていました。
玉木 あのシーンは、25分間カメラを回したままだったんです。
新木 クランクイン前にリハーサルをしたのもあのシーンだったんです。そのときに車の中のシーンについて監督とよく話し合ったし、玉木さんの意見も聞けた。それを咀嚼してから現場に入ったので、あとはその場で起こる化学反応に任せる感じでした。あの25分は、あっという間でしたね。むしろ「あ、25分も回ってたんだ!」という気持ちでした。
玉木 そうだね。
新木 長いというか、自然にスッと時が流れたイメージ。涙を流すタイミングも決まっていなかったんです。
玉木 僕も今回の現場を通して、あのシーンに照準を合わせていました。自然と気持ちが乗りやすいシーンになるだろうと思っていましたし、小説を読んだ印象のままに演じられたらいいな、そのために感情をコントロールしてうまく芝居に乗せられたらいいなと思っていましたね。
新木 そうですね。山場だという意識がありました。
──新谷弘一として生きるようになってからの文宏と香織は恋人同士でもなければ、文宏が自分から正体を明かすこともありません。それぞれどのような気持ちで2人の関係を演じていたのでしょうか。
玉木 文宏の中のルールとして、自分本位ではなく彼女に幸せになってほしいということを一番に考えているんです。なので、自分の正体を明かしてはいけないという考えを貫き通したのだと思います。客観的に考えたらそれは幸せではないかもしれないけど、彼の中では幸せだったと思います。
新木 文宏から香織に対しても、香織から文宏に対しても、お互いに持っているのは無償の愛ですよね。お母さんが子供に与えるような、見返りを求めない愛情の形が、この2人にはあると思いながら演じていました。普通は人を好きになると、自分が相手を思うのと同じくらい、もしくはそれ以上の気持ちを返してほしいと、どうしても思ってしまう。でもこの2人は「ただ相手がそこで生きてくれていれば、それだけで幸せ」「とにかく香織が幸せになってくれれば、それだけでいい」という、お互いに何も求め合わない愛を捧げているんです。それって究極の愛ですよね。
玉木 そうだね。
新木 最後の展開は、ほかの恋愛映画にあるような、みんなが思い描くわかりやすいハッピーエンドではありません。でもお互いがそれぞれを思う、この2人なりのハッピーエンドだと思うんです。このあと2人がどうなるのかはわからなくてすごく切ないけど、彼らにとってはここからがスタートなんだと思いました。
座長という意識はゼロ(玉木)
──そのほかにも、現場で思い出深いエピソードがあれば教えてください。
玉木 基本的にこの作品は2人ずつでの撮影が多かったので、ほかのキャストさんにはなかなか会わなかったでしょう?
新木 はい、会わなかったですね。最後の打ち上げで皆さんと一気にお会いしたので、そのときに「あっ、そっか。この方たちと一緒の作品に出ていたんだ」と思って、すごく不思議でした。今までこういう経験はなかったですね。ご一緒したのはほとんど玉木さんだけです。
玉木 ラストシーン以外に一緒だったのは、香織が働いているクラブでのシーンでした。ラストシーンよりも先の撮影でしたね。
新木 そうですね。私に関してはわりと順撮りのような形で進めていただきました。クラブでのシーンはけっこう序盤だったので、よく覚えていますね。ホステス役なので、所作にも気を付けなければいけなくて、緊張していました。あと普段そういうお店に入る機会がないので、すごく印象的でした。「お店の中に、こんなソファが並ぶものなんだ!」っていう(笑)。純粋に勉強になりましたね。
──「2人ずつでの撮影が多かった」ということですが、玉木さんは、新木さん以外に印象深かったキャストの方はいらっしゃいますか?
玉木 皆さんと濃いシーンを撮らせてもらっていたので、どなたも印象的でしたが、さすがだなと思ったのは会田役の柄本明さんですね。何度も共演させてもらっていますが、圧倒的な存在感というか。口ではいろいろ話しているけれど、目の奥は何を考えているかわからない。「こういう刑事、いるんだろうな」という怖さがありましたね。それとテロリストの伊藤役の吉沢亮くんは、年齢を聞いてびっくりしました。まだ20代前半なんですね?
新木 私と同い年なので、24歳ですね。
玉木 そうか、24歳かあ。でも新木さんも吉沢くんも、しっかりしているなと。僕とはひとまわり以上歳が離れているのに、お二人ともちゃんと地に足が着いていて、役に対してしっかりと考えを持って現場に入っているなと思いました。だからすごく刺激的な出会いでしたね。
──主演である玉木さんの存在があったからこそ、そういった現場の空気ができあがったという面もあると思います。
玉木 いやいや、僕は何もしてないですよ。
新木 いやいやいや! すごく自然体でいてくださったことがありがたかったです。ラブストーリーでもありますから、私は文宏に対して恋心を抱かないといけなかったので、最初は不安な部分もありました。でもリハーサルのときから自然に接していただいたおかげで、そういった緊張感がなくなったので、本当に素敵な方だなと。
玉木 普段から、座長という意識はゼロです。どの現場でもわりとほかの人に任せるところは任せて、意外とフワッとしていることが多いかな。もちろんこういった取材のように、作品ができあがったときには責任が付いて回るんですが。現場はやっぱり、みんなで作るものだと思っています。
──「俺に付いて来い!」というタイプではないのですね。
玉木 違いますね。もともと、そういう性格ではないので(笑)。
“究極の愛の形”として参考にしてほしい(新木)
──ありがとうございます。では最後に、この特集を読んでいる方へメッセージをお願いします。
新木 もちろんいろいろな方に観ていただきたいのですが、特に私は20代前半の同世代、若い人たちにぜひ観てもらいたいと思っています。なぜかと言うと、ちょうど私の年齢って、大学を卒業して、社会人2年目くらい。周りでは結婚する人も増えていますし、恋人との将来も考え始めるだろうし、人に対する愛情に深く関わる頃なんですよね。愛情にはそれぞれの形があって、正解はないと思うんですけど、そんなときにこの作品を観て“究極の愛の形”として参考にしてほしい。例えば恋人がいる方は相手に対してより思いやりを持てるようになったり、いい変化や心に残るものがあるはずです。
玉木 いろいろな捉え方がある作品だと思いますし、日本の映画でありながら、どの国で公開しても成立する物語ですよね。ドストエフスキーの「罪と罰」で描かれるような善悪の問題は、今も昔もたくさんの作品で撮られてきたくらい、あいまいで答えのないものだと思っています。だからこの作品を通して、そういうテーマを感じ取って、自分なりに考えていただきたい。結果的に文宏がどこにたどり着くのか、意外性もある作品だと思うので、それを楽しみながら映画館でゆっくり観ていただきたいです。
次のページ »
吉沢亮×中村文則インタビュー
- 「悪と仮面のルール」
- 2018年1月13日(土)より全国公開
- ストーリー
-
日本有数の財閥・久喜家に生まれた11歳の文宏は、父親から、自分がこの世界に災いをもたらす存在“邪”になるべく生まれ、育てられたことを告げられる。やがて文宏は、父が自分を完全な“邪”にすべく、初恋の女性・香織へ危害を加えようと企てていることに気付き、父を殺害。それによって自身が悪にのみ込まれてしまったと感じ、香織との決別を決意する。大人になった文宏は、整形手術によって顔を変え、“新谷弘一”という別人として生きていた。探偵を使い再び香織に近付き、彼女を守るために殺人を繰り返す文宏だったが、彼の過去を知る異母兄の幹彦や、日本転覆を狙うテロ組織が香織を狙い始めたと知り……。
- スタッフ / キャスト
-
原作:中村文則「悪と仮面のルール」(講談社文庫)
監督・編集:中村哲平
脚本:黒岩勉
主題歌:Uru「追憶のふたり」(ソニー・ミュージック アソシエイテッドレコーズ)
出演:玉木宏、新木優子、吉沢亮、中村達也、光石研、村井國夫、柄本明ほか
©中村文則/講談社 ©2017「悪と仮面のルール」製作委員会
- 玉木宏(タマキヒロシ)
- 1980年1月14日生まれ、愛知県出身。1998年に俳優デビュー。2001年の映画「ウォーターボーイズ」で注目を集め、2006年のドラマ「のだめカンタービレ」で千秋真一役を務めて人気を博す。主な出演作に「真夏のオリオン」「MW-ムウ-」「すべては君に逢えたから」「幕末高校生」「探偵ミタライの事件簿 星籠(せいろ)の海」、NHK連続テレビ小説「あさが来た」など。2018年には参加作「ラブ×ドック」「ラプラスの魔女」の公開を控えている。
- 新木優子(アラキユウコ)
- 1993年12月15日生まれ、東京都出身。スカウトをきっかけにデビューし、2015年にゼクシィの8代目CMガールに抜擢された。主な出演作に「風のたより」「僕らのごはんは明日で待ってる」、ドラマ「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」「コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~THE THIRD SEASON」などがある。2018年には、吉沢亮と共演した「あのコの、トリコ。」が封切られるほか、1月スタートのドラマ「トドメの接吻」に出演する。また、non-no専属モデルとしても活躍中。