玉木宏が主演を務める「悪と仮面のルール」が、1月13日に公開される。芥川賞作家・中村文則の同名小説を中村哲平が映画化した本作は、思いを寄せる女性を守るため実父を殺害後、整形手術をして別人として生きていく男・久喜文宏を主人公としたサスペンスだ。
映画ナタリーでは本作の公開を記念し、2つの対談をセッティング。まず前半では、主人公・文宏役の玉木と、ヒロイン・香織役の新木優子が、「本作はサスペンスでありながら恋愛映画である」という考えを話してくれた。また後半には、テログループ“JL”のメンバー・伊藤役で出演した吉沢亮と、彼が大ファンであるという原作者・中村文則が登場。作品に対する吉沢の熱い思いや、小説を実写化することで起こる化学反応について語ってもらった。
取材・文 / 浅見みなほ 撮影 / 入江達也
玉木宏×新木優子インタビュー
玉木さんの第一印象は……大人!(新木)
──お二人とも中村文則さんによる原作小説はご存知だったそうですが、映画化のお話を受けて同作を読んだときの感想を教えてください。
玉木宏 非常に文学的要素が強い作品だと思いました。この作品をどう集約して1本の映画にするのかなと考えながら読んだのですが、言葉が多いなというのが第一印象でした。
──原作には、久喜文宏の父・捷三や兄・幹彦が、一族の過去や“悪”について語る長ゼリフが多く登場しますからね。
玉木 はい。ですが、どんどんその世界に引き込まれていって、読み終わったときには自然と「これは恋愛小説なんだな」という印象が残る不思議な作品でした。中村さんのあとがきにも書いてありましたが、タイトルの意味も、最後になって「そういうことか!」とわかりました。
新木優子 香織の存在がすごく大きいと感じました。ナチュラルでピュア、一番けがれのない存在だったので、それを自分の中でしっかり咀嚼しないといけないな、と。あと全体を通してすごく重い作品なんですが、その重さが最終的に心地よかったので、自分が演じることによってそういう部分も出したいと考えながら読んでいました。
──お二人は今回が初共演ですが、初めてお会いしたのはどのタイミングでしたか?
新木 クランクインの前に、一度読み合わせをしましたよね。
玉木 そうですね、そのときに初めてお会いしました。
新木 セリフ合わせというか、軽いリハーサルのときが初対面で。そのときの玉木さんの印象は……大人!
一同 (笑)
玉木 年齢的にはもう大人ですからね(笑)。
新木 私は玉木さんのいろいろな作品を拝見していたので、どれが本当の玉木さんなのかな?って思っていたんです。でもすごく気さくで、大人の男性だなって。これまで私は同世代の男性とご一緒することが多かったので、新鮮でした。
玉木 新木さんは、作品に対してすごく真摯に取り組む人なんだなと思いました。現場では明るいんですが、根はすごく真面目なんだろうなと。僕が若い頃はもう少しフワフワしていて、「現場ではこういなければいけないんだ」っていうこともあまりわかっていなかったんです。でも新木さんは、それをしっかりわかっている人だと感じましたね。
新木 意識は……特にしていないですね(笑)。現場でのあり方は、作品によっても違います。同世代の方が多い現場に比べて、今回は大人の方が多かったので、作品のことを普段より一層しっかりと考えて、自分の明るい部分はそんなに出さなくてもいいかなと思っていました。
──それでも明るい性格であることが、玉木さんには伝わっていたようですね。
新木 そうですね(笑)。
玉木 バイト時代の話を聞いたんです。「アルバイト経験あるの?」と聞いたら、僕がよく知っているお店で働いていたらしくて。その店舗に行ったことはなかったんですけど。
新木 はい。普通にカフェでアルバイトしていたことがあるんです。
玉木 共演シーンの撮影は3日くらいしかなかったんですが、1度、中華料理屋にランチにも行きましたね。
新木 そうなんですよ。
──そのときは、どんなお話をされたのでしょうか?
玉木 そんなに真面目なことは、何も(笑)。普通にお腹が減ったので、現場の近くにある中華料理屋でご飯を食べたんです。
新木 そうですね、普通のランチタイムでした(笑)。
タイトルにある「仮面」は、整形した顔のこと(玉木)
──お二人が初対面したリハーサルの場では、すでにそれぞれ役を作り上げていたのでしょうか。
玉木 読み合わせの段階では、中村哲平監督がどういうふうに役を捉えているのかわからなかったので、みんな探り探りでしたね。キャラクターをどういうふうに形にするのか、そのリハーサルで考えていきました。
新木 そうですね。クランクインしてからよりも、その前の読み合わせのときのほうが監督と深くお話しした記憶があります。「こういうふうに僕は考えているから、ここはこんなシーンだと思っている」という監督の考えを聞かせていただいて、しっかりと受け取りましたね。
──では、そのリハーサルを経て役を固めていったと。玉木さん演じる文宏は、この世界に不幸をもたらす“邪”となるべく育てられ、大切な女性を守るために実父をも殺害してしまいます。さらに整形し、新谷弘一という別人として生きていくという、普通とは違う考え方を持った人間ですよね。
玉木 基本的に、僕が演じた文宏を難しく捉えてしまうと、作品としても難しくなってしまうと思うんです。でも僕が小説を読んで感じたように、観終わったときにこれは恋愛映画だと思ってもらいたい。文宏の根底にあるのは香織に対しての純粋な気持ちであり、香織を守るために彼は父親を殺してしまい、顔を整形し、悪事に手を染めてしまったということ。すべて香織への愛ゆえに取った行動なんです。整形して顔は変わっても、目や心、今まで持っていた癖は変わらない。だからそういうパーツを大事に演じれば、このキャラクターも成立するのかなと思っていました。
──整形後の文宏を演じるために顔に鍼を施術し、表情筋を動かしにくい状態で現場に臨まれたと伺いました。
玉木 やはり他人の顔を手に入れたというある意味特殊な設定だったので。あくまで想像でしかないんですが、別人になるくらいの整形をしたら、きっと顔の筋肉は思うように動かせないのではないかと思ったんです。僕は、タイトルにある「仮面」とは整形をした顔のことだと考えています。心に弱さはあるけど、外に見えている部分ではポーカーフェイスで強くいようと思っているのが、文宏という人間。弱いんだけど、強く見せているんだと思います。
──新木さんは、そんな文宏にとって絶対的な存在である、香織を演じられましたね。役作りで意識されたのはどんな点でしょうか。
新木 香織はすごく純粋な女性なので、作るというよりは、自然とその場に存在できればいいな、と。監督とお話ししながら、自分の中に純粋な部分を見つけ出せればいいなと思っていました。自分と香織の同じ部分、香織にはあって自分にはない部分を、1つずつ間違い探しをするように見つけていく作業をひたすらやっていましたね。
──クランクインしてからは小説を読み返しながら相談したこともあったと、中村監督がおっしゃっていました。
玉木 台本の助けになるようなときには小説を読み返すこともありました。僕らの役は作品の中でも地に足が着いたキャラクターで、セリフも口語に近かったんです。でも中村達也さんをはじめほかの方たちは文語調のセリフが多かったので、そういう意味では苦労されたと思います。
“悪”なのか“愛”なのか、答えはなくていい(玉木)
──先ほど玉木さんから、本作は恋愛映画であるというお話がありました。もちろん殺人を犯すことは罪であるという大前提はありますが、大好きな女性を守るためなら手段は選ばない文宏の行動は、“悪”と言い切れるのでしょうか。
玉木 もちろん法に触れてしまえばそれは犯罪であり、悪事だと思うんですが、善悪はすごくあいまいなものですよね。文宏の心の中にあるものは、誰もが持っていると思います。「あいつムカつくなあ」という小さいレベルのことを含めて、それを口に出したり、実際に行動に起こすかは、その人の理性で抑えられるかどうか。自分がそういう状況に置かれたとき、どこまで行動を起こすか、どこまで抑えられるかを考えさせる作品だと思います。だから文宏が取った行動が“悪”なのか“愛”なのか、答えはなくていい。考えてもらうことに、この作品の意味があると考えています。
新木 玉木さんがおっしゃったことがすべてだと思います。はっきりと答えがあるものではないかな。
──観る側に問いかける作品であると。
玉木 はい。恋人や家族、大切な誰かに危害を加えられてしまったら、恨みを持つのはある意味当然の気持ちです。もし自分がそうなったとき、「やっぱりここまではやってはいけない」というボーダーラインを、それぞれが考えられる作品だと思います。
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みんなが思い描くハッピーエンドではありません(新木)
- 「悪と仮面のルール」
- 2018年1月13日(土)より全国公開
- ストーリー
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日本有数の財閥・久喜家に生まれた11歳の文宏は、父親から、自分がこの世界に災いをもたらす存在“邪”になるべく生まれ、育てられたことを告げられる。やがて文宏は、父が自分を完全な“邪”にすべく、初恋の女性・香織へ危害を加えようと企てていることに気付き、父を殺害。それによって自身が悪にのみ込まれてしまったと感じ、香織との決別を決意する。大人になった文宏は、整形手術によって顔を変え、“新谷弘一”という別人として生きていた。探偵を使い再び香織に近付き、彼女を守るために殺人を繰り返す文宏だったが、彼の過去を知る異母兄の幹彦や、日本転覆を狙うテロ組織が香織を狙い始めたと知り……。
- スタッフ / キャスト
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原作:中村文則「悪と仮面のルール」(講談社文庫)
監督・編集:中村哲平
脚本:黒岩勉
主題歌:Uru「追憶のふたり」(ソニー・ミュージック アソシエイテッドレコーズ)
出演:玉木宏、新木優子、吉沢亮、中村達也、光石研、村井國夫、柄本明ほか
©中村文則/講談社 ©2017「悪と仮面のルール」製作委員会
- 玉木宏(タマキヒロシ)
- 1980年1月14日生まれ、愛知県出身。1998年に俳優デビュー。2001年の映画「ウォーターボーイズ」で注目を集め、2006年のドラマ「のだめカンタービレ」で千秋真一役を務めて人気を博す。主な出演作に「真夏のオリオン」「MW-ムウ-」「すべては君に逢えたから」「幕末高校生」「探偵ミタライの事件簿 星籠(せいろ)の海」、NHK連続テレビ小説「あさが来た」など。2018年には参加作「ラブ×ドック」「ラプラスの魔女」の公開を控えている。
- 新木優子(アラキユウコ)
- 1993年12月15日生まれ、東京都出身。スカウトをきっかけにデビューし、2015年にゼクシィの8代目CMガールに抜擢された。主な出演作に「風のたより」「僕らのごはんは明日で待ってる」、ドラマ「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」「コード・ブルー~ドクターヘリ緊急救命~THE THIRD SEASON」などがある。2018年には、吉沢亮と共演した「あのコの、トリコ。」が封切られるほか、1月スタートのドラマ「トドメの接吻」に出演する。また、non-no専属モデルとしても活躍中。