「21世紀の女の子」山戸結希×伊藤沙莉×金子由里奈|1/200の賭けが生んだ幸福な関係

「私、こんな顔するんだ」と思った(伊藤)

──伊藤さんはこの「21世紀の女の子」というプロジェクトに対してどのような感想を抱きましたか?

伊藤沙莉

伊藤沙莉 作る人も出る人もほとんど女の子で、もちろん男性にもたくさん協力していただきましたけど、こんな映画があってもいいんじゃないかなと。こういう世界をお届けすることに希望があるし、素敵なことだなと思いました。

──「projection」の脚本を読んだとき、どう思われましたか。

伊藤 私がもともと理解力というか読解力が乏しい人なので(笑)、何回も読みました。ただ、ドラマは葛藤から始まると思っているんですけど、「projection」ではそれが短いお話の中にぎゅっと凝縮されていて、脚本を読んでいるうちにじんわりと入ってくる感じがすごくよかったんですよ。徐々に「あ、こういうこと?」と理解できるようになって。台本と向き合った時間は、もしかするとこれまでに出演したほかの作品より長いかもしれません。

──短編であるにもかかわらず、台本とは長く向き合ったわけですね。

伊藤 台本だけでわからない部分は、金子監督にお会いして探ろうと思いました。どういう人で、どんなことを考えているんだろうということを知りたかったんです。そして会ってみたら一気につながったというか、台本と金子監督がセットで1作品のように見えて。あ、そうかそうか、こういうことかと感じて、「出たい」と思いましたね。それに、カナコが今まで演じたことのないタイプのキャラクターだということもありました。私、あまりしゃべらない役って珍しいんです。

──今、伊藤さんのTwitterアイコンが「projection」の場面写真になってますよね。

伊藤 そうなんですよ(笑)。

金子 うれしい(笑)。

──それはやっぱり、思い入れがある作品だから?

「projection」

伊藤 思い入れもあるし、この作品は「私、こんな顔するんだ」と思ったことが多くて。これまでは、変な顔してることが多かったんですよね(笑)。変な顔か笑顔か、みたいな。言葉と笑顔を封じられることが、あまりなくて。そういう、自分ではちょっとした武器と思っていたものを「projection」では全部取られたので、1人の人間としてそこにいることしかできなかった。でもそういった在り方がこの作品には合っていたし、いろいろと勉強になりました。

──金子監督は、イメージした女優さんが自分の書いた脚本を読んでいるところを見たとき、どんな気持ちになりましたか?

金子 もう、大大大女優さんだから……。

伊藤 そんなわけない!(笑)

金子 伊藤さんがイヤフォンで音楽を聴いてる姿を見たとき「あ、そうだよな。個人の時間ってあるよな」と思っていました。テレビとか映画の中の伊藤さんしか知らなかったから、私と同じ人間なんだなって(笑)。

伊藤 あはははは!(笑)

──山戸監督は、できあがった「projection」を観たときはどう思いましたか?

山戸 まず編集段階から観ていたのですが、すべてがつながった完成版にも、シビれましたね。「これを観た映画監督は全員、『伊藤沙莉さんを超撮りたい!』と改めて思うはず」と、金子監督にもお伝えしたぐらいです(笑)。でも、こんなふうに捧げながら撮ることは、ほかの誰にも決してできない。それでいて、ある種仕事としてもパーフェクトなものをお二人は作られた。私小説的な文脈を超えて、お二人の職人的な面が掛け算された作品なのだと感じています。

どうでもよくなっていく時間が気持ちよかった(伊藤)

──撮影時の印象的なエピソードがあれば、教えてください。

金子 お風呂場のスチール写真は北田瑞絵さんにお願いしました。北田さんだったら絶対大丈夫だと確信していたので、お風呂場に2人きりになってもらいました。スクリーンで写真を見たときに2人だけの時間が確かにあったと思えました。たまに笑い声が聞こえたりしていたんですけど。

伊藤沙莉

伊藤 ふふ。すごく貴重な経験でした。私、もともとスチールが本当に苦手なんです。止まっているところを見られるのが怖いんですよね。普段はカメラを見ちゃいけないから、スチールのときにカメラを見ることができなくて。笑ったりチラ見したりしなければいけないし、「視線をそらして」と言われると「どっちに!?」とか思っちゃうんですよ(笑)。でも北田さんはたぶん写真を撮ることが本当に好きで、失礼な言い方になってしまいますけど、勝手に興奮してるんです(笑)。

金子山戸 (笑)

伊藤 勝手に興奮してるから、こっちの緊張なんかどうでもよくなっちゃうというか。(興奮した状態の北田のまねをしながら)「えー! もうー!」みたいな感じでずっと撮ってるから(笑)、緊張してる自分がバカバカしくなる。カメラを持って自分の好きな世界をのぞいてる北田さんが撮られている私より輝いて見えて、「恥ずいとか思ってる自分、キモ!」みたいな(笑)。いつもだったら「あ、前髪が……」とか気になってたけど、それもお風呂に入ってるからぐちゃぐちゃだし、どうでもよくなりました。どうでもよくなっていく時間がすごく気持ちよかったなという印象があります。

──8分という短編ならではの難しさを感じることはありましたか?

伊藤 正直、あまり変わらなくて。短い分、役の心情の変化はちゃんとわかりやすく出さないと「ん? 変わったの? どうなの?」と思われてしまいますけど、作品の中で流れる時間は長編も短編も変わらないですよね。中だるみする間もなく終わるじゃないですか、8分って。だからこそストレートに響くものがあるし、その中でお芝居をして何かを伝えることについて「8分だからきつい」と思うことはなかったですね。全部乗っけちゃえって感じで演技をしてました。どんなにやってもくどくないと思うんですよ。だからやっちゃったもん勝ちという感じでした。

──山戸監督にとって、短編の強みと思う部分は?

山戸 短編は、始まった瞬間にラストシーンが近いので、逆算がしやすいということは確実にありますね。でも、本質的には伊藤さんがおっしゃったみたいに、短編も長編も創る負荷としては変わらないと思います。時間の区切りに対するアプローチとしての方法論に、差異が問われるということだと考えています。