「21世紀の女の子」山戸結希×伊藤沙莉×金子由里奈|1/200の賭けが生んだ幸福な関係

山戸結希が企画・プロデュースを担当する「21世紀の女の子」が、2月8日に公開された。本作は、山戸を含む1980年代後半から1990年代生まれの新進監督15名が集結したオムニバス映画。“自分自身のセクシャリティあるいはジェンダーがゆらいだ瞬間が映っていること”という共通のテーマで制作された8分以内の短編がそろっている。

映画ナタリーでは、唯一の公募枠で選ばれた新星・金子由里奈の監督作「projection」をフィーチャー。約200名の応募者から見いだされた金子、彼女に“賭けた”山戸、そして「projection」の主演女優・伊藤沙莉へのインタビューを行った。

取材・文 / 平野彰 撮影 / 入江達也

「どうか私を見つけてください」(金子)

「projection」

──本作には山戸監督を含む15人の監督が参加していますが、そのうちの1人が公募で選ばれた金子監督です。そもそも、なぜ監督の公募を行ったのでしょうか。

山戸結希 映画を撮ろうとしている女の子を、鼓舞する作品でありたいという思想がコアにあったので、公募を行うことを、もはや当然のように考えていましたね。構想段階から、公募に手を挙げてくれる監督と、映画を絶対に一緒に完成させたいと思っていたんです。

──「8分間の脚本」「企画へのマニフェスト」「過去の映像作品」のいずれかの提出が応募条件でしたが、金子監督はこのうちどれを?

山戸 マニフェストと過去の映像作品でした。

──マニフェストはどういうものだったのでしょう。

左から山戸結希、金子由里奈。

金子由里奈 「どうか私を見つけてください」みたいな文章だったと思います。「21世紀の女の子」の企画に、共鳴するものがあり、その上で私だからこそ参加したいんだという思いをつづりました。

──一緒に提出した映像作品は、ご自身がYouTubeにアップロードしている作品ですか?

金子 YouTubeにあるものも、そうでないものも送りました。

山戸 「おいしいコーヒーの作り方」と「食べる虫」ですね。

──金子監督が映画を作りたいと思ったきっかけを教えてもらえますか?

金子 自分の父親が映画監督(「平成ガメラ」シリーズや「1999年の夏休み」などで知られる金子修介)で、小さい頃から映画は身近なものでした。でも、中学に上がったあたりから、映画の話で持ちきりの食卓に違和感を覚え始めました。映画が私を孤独にしたんだと思います。家族とのコミュニケーションのスタートラインに立つために、映画を撮りたいと思いました。

──お父様が映画監督であることから、プレッシャーを感じたりは?

金子 それはないです。父は職業監督ですし、私は自分のために撮っているので強く意識はしないですね。

金子監督に、賭けようと思った(山戸)

──山戸監督が、約200名の応募者の中から金子監督を選んだ理由を教えてもらえますか?

金子由里奈

山戸 今思い出しても鳥肌が立つくらい、ハイレベルで、情熱にあふれた闘いでした。お1人おひとりの1通1通が素晴らしかったのですが、最後の最後、金子監督に、賭けようと思いました。金子監督はご自身のために映画を撮りたいと今おっしゃいましたね。でも、未知の宛先に届くお手紙のような作品を作る方だと感じましたよ。次の誰かの導火線に火を点ける才能をお持ちだと思います。結果的に、伊藤沙莉さんと一緒に、魂が融合されゆくような映像作品を生み出してくださって、応募してくださった方にとっても、金子監督は光のような存在だと思います。

──監督が自分に決まったと知ったときの心境はどうでしたか?

金子 まず、最終面接と伝えられ、山戸監督にお会いしたんです。山戸さんの口から「あなただよ」と教えられました。山戸さんと会ったのは、そのときが2度目でした。高校生のときにポレポレ東中野に「あの娘が海辺で踊ってる」(山戸の処女作)を観に行ったとき、山戸さんと少しお話して握手したんです。それから6年経ち、学生監督だった山戸さんがシネコンでも作品がかかる、映画監督の“山戸結希”になっているのに対し、私はただの大学生である事実に立ちくらみしそうでした。公募枠に決まったことより、このような形で山戸さんと再会したことが奇跡に思えました。

──「projection」は、ご自身が写真家の北田瑞絵さんに撮影されたときの体験をベースにしているそうですね。劇中にもそのときの写真が出てきますが。

金子 はい。18歳のとき、北田さんにヌードを撮ってもらったんです。

──北田さんとはどういうきっかけで知り合ったんですか?

金子 大阪のライブハウスで知り合いました。お互いの写真や映像作品を見せ合ったりして。その日のうちに「あなたのヌードが撮りたい」と言ってくれましたが、撮影を決意するまでは1カ月かかりました。自分の母親だったら「めったにない機会なんだから撮ってもらいなよ」と軽く流してくれるなと思って相談したら案の定そんな感じで、それに背中を押されたふりをして、撮影してもらいました。

──脚本段階でキャストの構想はありましたか?

「projection」

金子 その段階ではまだはっきりと構想していなかったんですけど、伊藤さんには、声が自分と似ているという親近感があったんです。主人公のカナコが「あったかい」って言う場面を、山戸さんが「あまりにも観てみたいシーンです」と褒めてくださって。私もそのシーンを印象深くしたかったので、無表情と笑顔のギャップがある女優さんがいいなと思っていました。伊藤さんに出演してもらえて、本当によかったです。かわいくて、もう最高!という感じでした。

──脚本を読んで山戸監督がディレクションをしたりということはあったのでしょうか。

山戸 金子監督は少しお声をかけただけで、何度も何度も改稿されていましたね。商業映画としては1作目だけれど、彼女はすでに完全な作家なんだということが、伝わってきました。キャスティングのときに伊藤さんと土居志央梨さんのお名前が挙がるのも、劇場で映画を観ているからですよね。「寝ても覚めても」や「リバーズ・エッジ」と、今目の前のスクリーンをしっかり捉えているからこそのキャスティングで、そのお二人でいきましょう!と思いました。