中編映画「
本作は、吉岡演じる料理教室の講師・松岡卓司を主人公とするサイコスリラー。ある日、チャイムのような音が聞こえるという生徒が教室で驚くべき行動に出てから、松岡の周囲で次々と異変が起こっていく。同作は映像流通の新しい仕組みを提供するメディア配信プラットフォーム・Roadstead(ロードステッド)のオリジナル映画第1弾として誕生し、第74回ベルリン国際映画祭ではベルリナーレ・スペシャル部門に出品された。
Roadsteadでの全世界999個限定のオーナーライセンス販売を経て、劇場公開を迎えた本作。黒沢はこの新たな取り組みについて「僕のような年季の入った者が新しいことに参加できたのが大変うれしい。僕としても、これまで手を出さなかった分野・表現に思いきって挑戦しました」と述懐する。続けて「もっと若くて斬新な感覚を持った監督のほうがよかったんじゃないかという一抹の不安はありました」と吐露しつつ、「いろんな意味で相当変な映画にはなっているので、そこだけは自信があります」とアピールした。
吉岡は、本作を鑑賞した人の反応を問われ「知り合いの女性がRoadsteadで観てくださったんですけど、『すごく怖かった。今あなたと面と向かってしゃべれない。無理です』ってその方が……まあ僕の妻なんですけど」と話し、会場の笑いを誘う。制作にあたって「映画の中の3大怖いものを詰め込んだ」と明かしていた黒沢は「これまではいろんな怖い表現を1本の映画に入れ込む気がなかった。無謀だとは思っていたんですけど、今回の企画を聞いて“幽霊の怖さ”“自分が人を殺してしまうのではないかという怖さ”“警察に捕まってしまう怖さ”という3つの怖さを1本にまとめてやろう、と思い付きました」と語った。
出演オファーを受けた際のことを振り返り、吉岡は「マネージャーさんから『黒沢清監督の映画の主演が決まりました』と電話があって、お互いにすごく喜んだんです。そのあとすぐにLINEで企画書が送られてきたんですけど、(LINEの文面の)最後に『主役だよ。清』って書かれてて。おそらくマネージャーさんも興奮しておかしくなって送ったんだと思う」と奇妙なエピソードを披露し、黒沢を笑わせる。黒沢は「東京藝大で教えていたとき、学生たちが撮る映画の何本かに吉岡さんが印象的な役で出演されていて魅力を知った」と起用理由に言及し、「吉岡さんの持ち味だと思うんですけど『この人、この先に行ったら危ない、狂ってしまう』という“ギリギリの人”感を本当にうまく出される方だなと思う。僕にしては珍しいんですけど、今回は物語を作っているときから『絶対吉岡さんでいきたい』と強く思っていました」と吉岡への信頼をうかがわせた。
本作の本編尺は45分。中編作品を制作するポイントに話題が及ぶと、黒沢は「1つは“意外に長い”。だから長編映画1本分のドラマは必要なんですけど、そのあとに普通は入れてしまう(登場人物の行動の背景などの)“本当は不必要かもしれない要素”を抜いていくような作業をしました。いわば100分ぐらいの映画の“おいしいとこ取り”です」と説明した。
最後に黒沢は「本来は映画館で上映することが目的ではなかった作品ですが、いつかは映画館でかかるのが1つの夢でした。それがこんなに早く実現すると思わなくてびっくりしていますし、うれしいです」と感謝を伝える。吉岡は「Roadsteadでは本編より長い60分のメイキング『料理人たち』も観ることができます。ぜひそちらもチェックしていただけたら、いろんなことが紐解けるかもしれません」と呼びかけ、イベントは終了した。
「Chime」は全国で順次公開中。メイキングドキュメンタリー「料理人たち」の監督は金允洙が手がけた。
映画「Chime」予告編2
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【初日舞台挨拶レポート】黒沢清「Chime」は相当変な映画、吉岡睦雄の起用理由は“ギリギリの人”感(写真12枚) https://t.co/QluEF4OMSZ
黒沢清監督「いつかは映画館でかかるのが1つの夢でした。それがこんなに早く実現すると思わなくてびっくりしていますし、うれしいです」