映画「
第80回ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)を受賞した本作は、長野県の町でつつましく暮らす親子・巧と花を軸にした物語。ある日、彼らの家の近くで芸能事務所によるグランピング場の建設計画が浮上する。しかし、このプロジェクトは町の水源に悪影響を及ぼす、ずさんなものだった。大美賀が巧、西川が花を演じ、小坂と渋谷が芸能事務所の社員で町の人々と関わる高橋と黛に扮している。
大美賀は初期段階にロケハンのドライバーとして制作に参加し、そこから主演に抜擢された。濱口はつい先日まで滞在していたフランスで映画を改めて鑑賞したときのことを思い返し、「図太い。結局、この人は図太いんだよなと観ながら思いました。今日も戦隊モノでいったらレッドの位置(笑)。そういうのも、ちゃんとできてしまう人。頼む前は知りませんでしたが」と、抜擢の理由を打ち明ける。
濱口から電話で「驚かないで聞いてください。出る側に興味がありますか?」と主演の打診をされた大美賀。濱口としては即決という印象だったそうで「一度電話を切って考えるかな?と思ったら、もうその電話の中で『やります』と決まった。けっこう肝の据わった人だなと驚きました」と振り返った。大美賀は「濱口さんがかなり説得してくれて、本気かもしれないと思ったんです」と話す。
小坂は濱口の「ドライブ・マイ・カー」に車両部として参加していた縁から出演が決まった。同作の題材になった劇作家・小説家のアントン・チェーホフの話をしたそうで、濱口は「それまで何度か挨拶はしていたんですが、トラックを運転していた人から、急に『僕もチェーホフ好きなんです』と言われて、ギャップ萌えするところもあって(笑)」と、印象に残っていたことを明かす。
小坂演じる高橋は、後半になるに連れて存在感を増していく重要人物。司会からラストの出来事をどう解釈したか問われると、小坂は「シナリオを読んだときに一番驚きました。深く考えていないわけではないんですが、もう本当に突然の出来事で。“突然”を受け入れる感じでいこうかなと思いました」と答える。さらに、濱口の現場の空気を「お芝居をする環境にすごくこだわっていたので、そういう場所で演技ができて本当に幸せでした」と伝えた。
オーディションで花役に起用された西川は「短い台本に少しアドリブを入れたり。そんなに難しいことは言われなくて、その台本を何回も演じるという感じでした」と述懐。濱口は、西川に決めた理由を「大美賀さんと親子役なのに、いい感じで距離がある。ほかの子供たちには、大美賀さんと本当の親子のように話せる子もいたんです。でも(西川は)大人として話している感じがあって、そこがよかった気がします。大美賀さんとのある種の相性で選ばれてます」と語った。
渋谷は、濱口が2015年に発表した「ハッピーアワー」に出演したことをきっかけに、俳優としての活動を開始。MCから濱口組の現場の変化を聞かれると、「そんなに大きくは変わっていないと思います。実際に撮影に入っていくと、『ハッピーアワー』のときにやっていたことが、さらにブラッシュアップされている感じがしました」と振り返る。濱口は「『ハッピーアワー』のときに思ったよさをまったく失わないまま、どんどん俳優として成長されていた。いつかまた仕事をしたいと思っていたんですが、今回この役は“しぶちん”でいけるかもとインスピレーションがありました」と述べた。
黛は柔和な印象ながら、はっきりと意見を言葉にする人物であり、渋谷は「客観的に見ると、そんなにしゃべる人じゃないのに、そんなことを言うんだと驚くような瞬間があって。そういう部分を尊重しました。人としてすごい、好きだなと思って演じてました」と役作りにも触れた。
濱口は、日本より早く劇場公開されたフランスに先日まで滞在していたという。すでに7万人も動員するほどの好評で、現地の反応については「笑いもたくさん起こるし、集中して観てもいる。その波があって、ちゃんと受け入れてもらえている印象です。笑いを狙った場面は1つもないんですが、高橋と黛の車内の会話ぐらいから薪割りのところで、パリでもどんっとウケたりしてました。高橋というキャラクターが愛でられている感じですね」と明かした。
「悪は存在しない」は、「ドライブ・マイ・カー」の音楽を手がけた
最後に、濱口は「この映画を支えているのは、映っている人たちだなと思っています。本当にすごい、と思いながら観ていました。それは撮影現場でもそうだったんですが、本当に1人ひとりが存在として輝いている。そういう印象を持っています。自分でも感動したので、ぜひ多くの観客に1人ひとりのありようとか、仕事を見ていただきたいと思っております」と呼びかけ、イベントを締めくくった。
「悪は存在しない」はBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、シモキタ - エキマエ - シネマ「K2」で公開中。5月3日からは全国のミニシアターを中心に順次封切られる。
石橋英子による手紙 書き起こし全文
「悪は存在しない」初日の上映にご来場くださり、誠にありがとうございます。ちょうど昨年の今ごろ、この映画版のために音楽を作り始めました。それが昨日のことのような、まるで遠い過去のことのような。時間の感覚がわからなくなるくらい、この作品は私の人生にとって大切な作品となりました。
私がライブのための映像作品を濱口さんに依頼したのが発端ではありますが、心の大きな濱口さんやプロデューサー、参加してくださったスタッフの皆様やキャストの皆様お一人お一人のそれまでの人生、素晴らしいお仕事によって、このような素晴らしい作品になったと思いますし、そのことを本当に心からうれしく思います。感謝の気持ちでいっぱいです。
そのような大事な映画の大事な初日に伺えないことは、本当に残念で悲しくて悔しいです。本当はこの舞台挨拶のあとに夜中の便でイタリアの映画祭での「GIFT」の公演に向かうつもりでしたが、飛行機代が25日と26日ではあり得ないぐらいの差があり、ゴールデンウィークを本当に恨む次第でございます。いいことばかりでもつまらないと自分を言い聞かせながら、今はイタリアに到着したばかりのぼんやりとした頭でぼさっと迎えの車を待っているのでしょう。
ただただゆったりと映像と椅子に身を委ねて楽しんでいただけたらと思います。自分が関わっていても本当に何回観ても飽きない作品だと思います。末永くよろしくお願いいたします。
石橋英子
映画「悪は存在しない」予告編
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