第36回東京国際映画祭のイベント「TIFFスペシャルトークセッション ケリング『ウーマン・イン・モーション』」が本日10月27日に東京・TOHOシネマズ 日比谷で行われ、俳優の
映画界の表舞台と裏側で活躍する女性たちに光を当てることを目的とし、グローバル・ラグジュアリー・グループのケリングが2015年にカンヌ国際映画祭で発足させたプログラム「ウーマン・イン・モーション」。東京国際映画祭では3回目の開催となる。
イベントは、ペ・ドゥナと「空気人形」「ベイビー・ブローカー」でタッグを組んだ
ファシリテーターを務めた映画評論家の立田敦子から、韓国映画の躍進について問われたペ・ドゥナは「西洋にいる友人たちは私以上に韓国の映画が好きで、理由を聞くと、アクションやユーモア、ラブストーリーなど、さまざまな要素が1つの作品から感じられるからだと言っていました。私自身は、作品に関わっている人たちが注ぎ込んでいる情熱が映画からも伝わってくるから、世界中の皆さんに愛されているのではないかなと思っています」と分析する。WOWOWで国際共同制作などを手がける鷲尾は「2008年か2009年に韓国で仕事をさせてもらったとき、韓国のテレビドラマの撮影現場は日本より過酷だった印象がある。でも最近はそこがすごく改善されていると聞くので、15年で何が起こったのかと」と質問。それに対しペ・ドゥナは「当時は2、3時間しか寝られなかったですし、今週放映分を今週撮るといった生放送のような撮影をしていました。本番の5分前に台本をメールで受け取ったことも。でも韓国にはいろんなことを柔軟に取り入れる姿勢があって、アメリカのいい環境を吸収していったからかと思います」と述べた。
映画業界における女性を取り巻く環境に話題が及ぶと、水川は「女性スタッフが増えてきたし、監督や部門のチーフを務める女性を目にする機会も増えた印象です。でもまだまだ。女性が年齢を重ねて結婚・出産し、家庭を持つことと仕事をすることのバランスがうまく取れないことのほうが多いなと感じます」と述べる。鷲尾は、日本の映画やドラマでは20代のキャラクターが主人公の作品が多いことに言及し「20代は日本で経験を積んで、30代になってからハリウッドに行くほうがいい、と聞くことがあり悲しくなります」と吐露。一方、ペ・ドゥナは韓国の制作現場について「25年前と比べると本当によくなりました。昔は、現場で女性スタッフが“末っ子”だとかわいがられるのに、監督になると摩擦が生じていて、それが不当だと思っていました。男性監督には生じなかったものがなぜ?と。今は皆の意識が改善されてそんなことはなくなりました」と語った。
#MeToo運動について質問が飛ぶと、鷲尾は「ムーブメントが始まったときはアメリカにいました。それまで白人の男性がメインに雇われていたポジションを意図的に、そして一気に、必ずマイノリティか女性にしようという声が上がったんです」と当時を述懐。続けて「私自身は、実力がある人を雇って、それがたまたま全員白人の男性でも黒人の女性でもいいと思っていたんですが、現地の方との議論の中で『今まで白人の男性がずっと雇われてきた。そこで彼らが経験を積んで身に付けた実力と、スタートラインにも立てていなかったマイノリティの人や女性の実力を比べるのは不公平。機会を与えるために今は積極的に彼女たちを雇って、そのあとに平等に実力で比べられる時代が来る』と言われてはっとしました。ドラスティックに業界が変わって、変化を恐れないアメリカの底力を知りましたし、日本もやり方を真似するところからでいいのでやっていくべきだと思います」と熱を込めた。
ペ・ドゥナも「声を上げて正していくべき。権力が、人の生命やキャリアに影響を与えるのはよくない」と訴える。水川は、自身が短編映画「おとこのことを」で初めて監督を務めたことを振り返り「私がやりたいと思い付きで言ったことに対して、スタッフが一生懸命動いてくれたのは、私が初めてだったからこそ成立したこと。これが長編の映画になったとき(も変わらないスタンスだと)、スタッフを振り回してしまうかもしれないなと考えるきっかけになりました」と権力を持つ立場の危うさについて口にする。そして「作品の大きさにかかわらず、どんな意図を持っているのか互いに会話をすることが大切だと、原点に立ち帰りました」と真摯に言葉を紡いだ。
制作環境だけでなく、映画の内容についても疑問を投げかけたペ・ドゥナ。彼女は「男性が多く登場する映画に対して、女性だけで撮られる作品は本当に少ない。これは興行成績が関係しているのかなと」と自身の見解を示す。彼女は映画「あしたの少女」で監督経験の少なかったチョン・ジュリと組んだことにも触れながら「魅力的な女性の主人公がいればお客さんは観に来るだろうし、確率的に女性監督のほうが生き生きとした女性像を描けると思う。女性監督たちがデビューできる機会を心の底から応援していますし、いいキャラクターが描かれることを願っています」とコメントした。
最後に、映画業界を目指す女性たちへのアドバイスとして、鷲尾は「チャンスは1回、または数回しかやって来ないと思うんです。そこでつかみ取るための準備を常日頃からずっとしておくこと」、水川は「プロダクションから独立して、業界から煙たがられる時期もあったんですが『映画に関わりたい』という純粋な気持ちで私なりに一歩ずつやってきました。何が起きても変わらない確固たるポリシーを持ち続けることが大事な気がします」とメッセージを送る。ペ・ドゥナは「2人の素晴らしい話に心から同意します。私も先輩として勇気と希望をお伝えしたいです」とほほえんだ。
水川が出演する映画「唄う六人の女」は、本日より全国で公開中。
じゅんこ @junkon66
水川あさみが監督経験で映画の原点に立ち帰る、ペ・ドゥナは「女性監督を心から応援」 #SmartNews https://t.co/uru8RySjji