「ドライブ・マイ・カー」で米アカデミー賞の国際長編映画賞に輝いた
「悪は存在しない」は東京にほど近い村で自然の秩序に従ってつつましく暮らす父娘を軸にした物語。ある日、村の住人たちは、都会に住む人々に快適な「自然への逃避」を提供するグランピングサイトの建設計画を知る。東京からやって来た企業担当者が会議を開くと、このプロジェクトが地元の水の供給に悪影響を及ぼすことが明らかになり、村は騒然。父娘の人生にも大きな影響を与えていく。
各国のジャーナリストで埋まったプレスカンファレンス。キャストからは大美賀のほか、
「本作は環境問題を意識したものか?」という質問に対して、濱口は「語る立場にはないが」と断ったうえで「自分はすべては視覚的に考えるところからはじめ、それに今回の石橋さんとの調和を意識し、その間に自然がある。その自然に人間をおくと必然的に環境問題という言葉が出てくるが、それは大きな問題というより日常的な問題で、その解決には対話が必要だが、しかし今の社会は対話を尊重しておらず、それを映画にした」と答えた。
ワールドプレミアとなる公式上映は満席。上映前に濱口らスタッフとキャストが2階の客席に登場すると大きな声援が贈られ、映画が終わると約8分間のスタンディングオベーションで会場が湧いた。
上映後の囲み取材で濱口は「イタリアという土地柄か非常に温かく情熱的に迎えてもらいありがたく思います」と心境を吐露。企画にも名を連ねる石橋は「企画時にはヴェネツィアにみんなで来るなんて思いもよらなく、感慨深いです。濱口監督との共同作業の中で自分が作るつもりのなかったものが生まれたりするのは、自分の中で宝物であり本当にありがたい体験をさせていただいたと思っている」と語った。
さらに大美賀は「上映後の皆さんの反応は、死ぬときに思い出しそうなくらいうれしかったです」と喜び、小坂は「『ドライブ・マイ・カー』のときはスタッフとして関わっていて、いいなと思っていたんですが、まさか自分がこのように濱口監督の作品に出てヴェネツィアまで来るとは思ってもみませんでした」と感慨深げに述べ、渋谷も「観客の皆さんと同じスクリーンを観て、その中に自分がいることがすごくうれしかったです。拍手にも胸がいっぱいになりました」と話す。本作が俳優としての初出演作となった9歳の西川は「観客の『わー!』という歓声がうれしくて緊張しなかった」と笑顔を見せた。
記者から「悪は存在しない」というタイトルに込めた意味を聞かれ、濱口は「そんなに含みはない」と答えつつ「シナハン(シナリオハンティング)をしているときに浮かんだタイトル。それがそのままプロジェクトのタイトルになり、この映画をご覧になった人が実際に“悪が存在するかどうか”をどう感じるのかはお任せします」とコメント。さらに観客が息をのんだというラストシーンの真意を問われ、「そんなに難しいことはないと思ってまして、何が起きたかは明白。それを考えたい人は考えていただきたいと思います」と率直に答えていた。
第80回ヴェネツィア国際映画祭は9月9日に閉幕。「悪は存在しない」は2024年の劇場公開を予定している。
西森路代 @mijiyooon
まあ見るときまでの楽しみとしておこう。
濱口竜介の新作タイトルの意味は?「悪は存在しない」ヴェネツィア映画祭レポート到着 https://t.co/YCHTdBsGt1