是枝裕和、坂元裕二との共通項を常に意識「同時代に同じテーマが引っ掛かかっていた」

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怪物」のティーチインイベントが6月10日に東京・早稲田大学で行われ、監督を務めた是枝裕和、脚本を手がけた坂元裕二が参加した。

左から坂元裕二、是枝裕和。

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「怪物」本ポスタービジュアル

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第76回カンヌ国際映画祭でクィアパルム賞とコンペティション部門の脚本賞を受賞した「怪物」。本イベントは、映像制作者たちが制作にまつわるさまざまな事柄を語る早稲田大学の講義「マスターズ・オブ・シネマ」として行われ、約350名の生徒たちを前に制作の経緯やエピソードが語られた。

主にテレビドラマの台本を手がける坂元は、撮影と並行して反響を耳にしながら書きあげていく作業を続けてきた。「“書く”というのは、問題について考えること。連続ドラマだと数カ月間、登場人物と一緒に生きながら、同じ時間を過ごしながら、その問題について考えることが私自身にとっての“書く”ということ」だと説明。そのうえで「映画の場合、答えをある程度想定しないと書きづらいイメージがありました。(是枝)監督の場合は撮りながら台本も作られていたり、そういう方法もあるかとは思うんですが、今回はラストを見据えないといけなかった。そこが大きな課題でした」と振り返る。

「怪物」場面写真

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是枝は坂元の手がけてきた脚本について「ネグレクトや加害者家族の問題など、なんとなく同じものがテーマとして引っ掛かかっているなと。特に2000年以降は、同時代で同じものが引っ掛かっている作り手がいることを常に意識しながら、坂元さんを見てきました」と印象に言及。これまでも坂元とのタッグを望んでいただけに、まだ開発中だった「怪物」のプロットを読んだ段階で即決だったという。「とにかく面白かったんですよ。これを映画でやるってかなり挑戦的だなと思ったのでワクワクしました」としたうえで、「子供たちの視点になったところで『ああ、なるほど。僕の名前が出たのはたぶんここだろう』と。そこから自分がどうやってこの複数の構成を作ればいいか読みながら考えました」と発言。「非常に批評性の高いものだなと思いました」と評した。

「怪物」より、柊木陽太演じる依里(左)と黒川想矢演じる湊(右)。

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劇中では、黒川想矢演じる麦野湊、柊木陽太演じる星川依里という少年2人に焦点が当てられる。少年同士の感情の描き方について、是枝はプロットを読んだ段階で「勉強するべきだ」と考えたそう。これまではオーディションで会った子供に無理がないよう、台本を事前に渡さず現場で口渡しでセリフを伝えてきた。しかし「今回はそれをやめて、きちんと相談できる専門の方たちに入っていただき、坂元さんの本を渡して相談しました。役者本人のキャラクターに乗っかるというより、湊なら湊という役を一緒に作った」と言い、大人の役者と同じアプローチを採用したという。また是枝は、子供たちが役柄を理解するため、身体の変化に関する保健体育の授業を受けてもらい、LGBTQの子供たちを支援している団体のスタッフからさまざまな性自認があることを教えてもらったことも紹介。インティマシーコーディネーターにも台本を読んでもらったようで「役を演じるだけではなくて、演じていない時間も含めて、子供たちがどんな感情的なストレスを抱えているか、なるべく観察しながらの撮影を心がけたつもりです」と解説する。

また是枝は「今回は2018年に僕が参加してから(脚本の)決定稿に至るまで、かなり試行錯誤しながら『これしかない』という形にたどり着いたので納得度が高かった」としたうえで、それだけの脚本があっても「このお芝居が正しかったかというのは、常に問いかけながら」の撮影だったそう。是枝がセリフを足す提案をすることもあったようだが、坂元は「どのセリフも素晴らしかった」と絶賛。さらに「是枝さんを語るときに『ドキュメンタリータッチ』とか『即興』とよく言われますけど、こんなに日本一脚本がうまい映画監督はほかにいないと思います。是枝さんの台本を何冊も読んだことがありますが、めちゃくちゃ脚本がうまいんですよ」と手放しで褒めたたえる。

「(脚本を書くうえでの)教科書的なものがすべて網羅されていて、こんなにしっかりとした脚本はないんですよ」「それをね、何もかも現場でアドリブで作っている、ドキュメンタリータッチだって言うのは……ご本人が誘導しているのか、もしくは世間の誤解なのかわかりませんが、ちょっと僕が思っている実態とは違うなって思っているんです」と熱く語る坂元。是枝は「そろそろ終わりますかね」と照れ笑いし、「裏で不自然なことをいろいろやらないと、自然さが映らないんですよね。もちろん役者もそうですけど、子供たちが自然に見えるのはしっかり演じているから。好きに撮れば自然に見えるかと言うと、絶対そんなことはないので。そこは注意しながらやっています」と自身のスタンスを口にした。

「怪物」は全国で上映中。

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(c)2023「怪物」製作委員会

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