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2019年2月に上演されたAIによる同名討論劇を原案・原作とする本作では、「先生」と呼ばれる人間によって作り出されたAI同士の“ディベートバトルロワイヤル”が描かれる。spiが全編英語で15体のAIキャラクターを演じ分けた。「SINGULA」は9月4日より開催のスペイン・マドリード国際映画祭2023で、外国語映画最優秀男優賞と最優秀サウンドデザイン賞の2部門にノミネートされている。
「変な映画ですみません。でも、思いがとてもこもっています」と挨拶した堤は、「一ノ瀬さんが上演した舞台を観て、あまりにも志の高い舞台だと思ってびっくりしたんです。いったい誰が作っているんだ?と興味が湧き、お会いして『絶対に映画にしたほうがいいですよ』って言いました」と映画化のきっかけを語る。舞台で脚本・演出・振り付けを担当した一ノ瀬は「もともとAIに興味があって、いろんな本を読んでいたんです。脚本家だったら絶対にどこかで向き合わないといけないときが来ると思って書きました」と振り返った。
舞台では15体それぞれ別の役者が演じていたAIの役を、合成技術を用いてspi1人で表現した本作。その演出方法に至った経緯について堤は「英語劇にしたのは、世界で勝負できるものを考えたいという私のわがままなんですけど、15人外国の方を選ぶかと悩んでいました。ある日このことを考えながら10分間寝たら、アイデアが降って来たんです。アンドロイドだ、全員同じでいいじゃないかと」と話す。一ノ瀬は「エンドロールで吹いたの初めてです!」とspiの名前が15行並ぶキャストクレジットについて言及し、spiは「オファーをいただいて、二つ返事で『やりたい!』と答えましたね。ほかの役者が観たときにうらやましがる作品にできたらと思って撮影していました」と回想した。
15役を演じたspiは「日本語だったらできると思ったんですけど、英語だと方言のようなものがすごく多いんですよ。演じ分けと、覚えるのがすごく大変でした」と苦労を明かす。キャラクターそれぞれの身体的なくせや、色のイメージを決めていたという彼は「1役を一気に演じたのではなく(脚本の順番に沿って)1行ずつ撮影していったので、役を行き来できるようにルールを作っていました」と述懐し、「お客さんにキャラクターごとの背景も楽しんでもらえたらいいなと思って演じていました」と伝える。撮影について堤は「注意したのは影ですね。影が重なると(合成するうえで)非常に都合が悪い。だから照明は真ん中に1個だけ仕込んで、影が放射状に伸びて重ならないようにしました」と説明した。
日本での劇場公開は未定で、メタバースやNFTなどWEB3.0の分野への展開を準備しながら、海外の映画祭にも挑戦しているという本作。マドリード国際映画祭でのノミネートについて堤は「(これまでの監督作で)国際的な映画賞をほとんど獲ったことがなくて、インディーズで始めたこの映画が評価されたのは、自分のやって来たことを根底から疑わざるを得ないし、まだがんばれって言われているように感じました」と感慨深げに話す。spiは「(堤と)初めてお会いしたときに『海外で賞獲りたいね』って話してて、それが実現しようとしているのが夢のようです」と口にした。
最後に堤は「いろんな議論が巻き起こることを期待しています。世界の方々がどう思うかも楽しみな作品です」、spiは「今までのキャリアの中で出会った俳優さんたちから得たヒントが今回の芝居に凝縮されているので、感謝の気持ちでいっぱいです」と述べ、舞台挨拶の幕を引いた。
ぴろぴろ @piropiro4
【舞台挨拶レポート】新作「SINGULA」で堤幸彦がこだわったのは影、spiは15役を色で演じ分ける https://t.co/NQLAiNTf3O